難波次郎経遠も、 信俊の志に感じて直ぐに成親の所に案内した。 成親は、丁度今しも、都のことなぞ思い出しつつ、 側の者に、いろいろ想い出話をしていたところだったが、 都から信俊が訪ねて参りました、という知らせに、 「夢であろうか」と疑いながら、 急いで部屋の内へ招じ入れた。 信俊が一歩足を踏み入れると、先ず粗末な部屋の作りが目に入った。 同時に、昔に変る墨染姿の成親を見出した時は、 いつか目の先《さき》がぼうっとかすんで、 成親の姿もはっきり目に映らぬほどであった。 漸く涙をおさめると、 信俊は奥方からの心のこもった言伝てをこまごまと伝え、 ふところから、 命にも換えてと大事に持ってきた手紙を差…