頭の中将はさがしていた。秋の、やわらかな日差しがそこかしこに落ちている陽明門である。つい二週間ほど前まではあんなに蒸し暑かったのに、今は乾いて透明な風が通り過ぎている。日差しはまだ暑さを残しているが、風はもうほどよく涼しく、頬に当たって気持ちよい。そんな風に吹かれながら、頭の中将はある人物をさがして、陽明門の陰をウロウロしていたのである。中将の名前は藤原斉信(たたのぶ)。太政大臣為光の次男にして、先年蔵人頭になったばかりのピカピカの28才貴公子である。どれくらいピカピカかというと、帝の御用で後宮の渡殿を歩けば、女房たちの出衣が重なり乱れるほど御簾が膨らみ、応対する女房役も毎回殺気立ったじゃんけ…