四 仮説 1 『虱』 芥川龍之介全集第一巻を元にすると、初期芥川作品は、翻訳もの、江戸趣味もの、古典もの、現代ものに分類される。『羅生門』は古典ものに属するものであるが、続く『鼻』と『芋粥』の間に発表された、『虱』に注目したい。注目する理由の一つ目は『虱』が『鼻』を漱石に絶賛された後、芥川が初めて雑誌社から注文を受け、原稿料をもらってプロとして書いた作品だということである。なんらかの意図や自負があったはずである。『羅生門の後に』では、「『新思潮』以外の雑誌に寄稿したのは、寧ろ『希望』に掲げられた、『虱』を以て始めとするのである」と『芋粥』より早かったと自ら指摘している。二つ目は文体が『羅生門』…