そのホームレスは、ある夜、「世界を混乱させてやろう」と思いついた。ホームレスはさっそく交番で油性ペンを借りてきた。ホームレスは昆虫に詳しかったので、根城にしている公園に飛んできたチョウを捕まえて、その翅に『ガ』と書き込み、ガを捕まえて、その翅に『チョウ』と書き込んだ。ホームレスはほくそ笑んだ。しかし、世界は混乱しなかった。誰もチョウとガの違いを気にする者などいなかったし、ホームレスの手でいじくられた虫たちはみんなその後すぐに弱って死んでしまったからだ。ホームレスはがっかりして交番に油性ペンを返した。そして寝床で月を見ながら眠りに就き、月にペンキで『太陽』と書き込む夢を見て、ほくそ笑んだ。このホ…