マーガリンをバターと偽り売り捌く。 馬鹿みたいな話だが、しかしこいつは実際に、明治・大正の日本で、しかも極めて大々的に行われた偽装であった。 マーガリンの価格は当時、バターの半分程度が相場。良心の疼きに目をつむりさえしたならば、双方の類似性を利用しておもしろいほど簡単に利ざやを稼げる仕組みであった。非常に多くの商人が、その遣り口で現に儲けた。 「なあに、どうせ馬鹿舌さげた客どもだ」「連中に味の区別などつくものか。言われなきゃ一生気付くまい。ならば知らぬが花ってもんよ」 庶民という生き物を、彼らは完全に舐めていた。 この一件を見てみても、滾る金銭欲に比し、所詮お仕着せの公徳心だの善意だのというも…