黒っぽいものを歩哨が見つけた。 明治三十七年九月中旬、当節遼陽大鉄橋と通称された構造体の下である。歩哨の所属は、むろん日本陸軍だ。遼陽会戦が決着してから二週間ほど経っている。一帯の勢力図はまず以って、皇軍の色になっている。 (Wikipediaより、太子河の鉄橋) 歩哨は思った、 (前回ここを巡廻(まわ)った際には、あんなのは落ちていなかった) と。 記憶力には自信があった。 神かけて誓えることである。 如何にも日本人らしい生真面目さを発揮して、銃を持つ手に警戒を籠め、物体の正体を確かめるべく歩みゆく。 が、いざ近づけば益体もない。 (なんだ、露兵の上着かよ) 前夜来の雨により、増水した太子河…