小林秀雄(1902 - 1983) 戦時下にあっての、大半の日本人の生活感情を回顧した小林秀雄に、「庶民は黙って時局に身を処した」という意味の言葉があった。含意は軽くないと観ていた私は、とある席で若者たちにこの言葉をお伝えした。ところが、である。 「それって、ヤバくないですか? だってだれも戦争に反対しなかったってことでしょう?」 「処する」と「服する」とを読み分けられない、たんなる国語力の問題ではあった。しかしそのときは、もう少し深刻な感想を抱いた。きっと私の言葉に貫目が足りなかったんだろう。私自身への信頼も、そうとう薄かったにちがいない。とにかく含意への言及は断念せざるをえなかった。 若者…