右大将が高官の典型のようなまじめな風采《ふうさい》をしながら、 恋の山には孔子も倒れるという諺《ことわざ》を ほんとうにして見せようとするふうな熱意のある手紙を書いているのも 源氏にはおもしろく思われた。 そうした幾通かの中に、 薄青色の唐紙の薫物《たきもの》の香を深く染《し》ませたのを、 細く小さく結んだのがあった。あけて見るときれいな字で、 思ふとも君は知らじな湧《わ》き返り岩|洩《も》る水に色し見えねば と書いてある。書き方に近代的なはかなさが見せてあるのである。 「これはどんな人のですか」 と源氏は聞くのであるが、はかばかしい返辞を玉鬘はしない。 源氏は右近を呼び出した。 「こんな手紙…