「おはよう」と声をかけられて、なんと返すのが正しいのか。ザガンという魔術師は、その一点で動きを止める。悪の魔術師として名の通った男で、魔術の腕を疑う者はいない。それなのに、朝の挨拶を打ち返す手順だけが手元にない。 そもそも彼には長いあいだ、挨拶を交わす相手がいなかった。人付き合いを避け、魔術の研究に沈み込み、それで足りていた。その生活が狂ったのは、唯一の悪友バルバロスに連れられて闇のオークションへ行った日だ。 競りに出されていたのは、白い髪のエルフの少女だった。名前はネフィ。ザガンは一目で恋に落ち、手持ちの財産をほとんど注ぎ込んで彼女を落札し、そのまま自分の住まいへ連れ帰る。 ここから始まりそ…