日露戦争に勝利したのちにもなお、日本はロシアを恐れた。明治40年に「帝国国防方針」が定められている。山県有朋の初めの試案では、仮想敵国は徹頭徹尾ロシアであった。だが、この試案に海軍側が意義を唱え、アメリカを仮想敵国に加えさせた。アメリカの海軍力が新しい脅威として意識されはじめたのである。 日韓併合、中国大陸侵略、だから日米戦争と事項を列挙するだけでは、相互の脈絡を見出すことはできない。中国侵略イコール日米戦争の惹起、ではない。日米戦争は白船以来、幻想の中で開始されていたのである。日韓併合というハードは記録されるが、白船のような意識の上の、ソフトとしての出来事は歴史叙述から抜け落ちやすい。(猪瀬…