元禄8年3月5日。快晴。夜丑半点(午前2時)、表屋(おもや)の女さつが戸口へやって来て急に文左衛門を呼んだ。文左衛門も驚き、仔細を尋ねると答えて言うには、「先ほどから門の外に人がいて、棒を捧げてたたずんでいる。」文左衛門は由右衛門に提灯を灯させ、門の外を見るが誰もいなかった。由右衛門が言うには、「亥半時(午後10時)頃から人がいた。壁を2、3度叩くので叱るつけると音がしなくなった。先ほど棒で壁を強く突くので外へ出ると人が東へ逃げ去さった。」文左衛門はすぐに裏を見廻るなどしてから寝る。しばらくして表屋で音がするので文左衛門が行くと、由右衛門が風呂敷包みを広間に置いて言い始めた。僕は無罪である。そ…