元禄14年11月1日。具足屋彦十郎には美人の娘がいた。少し前、京へ行くとますます美人となった。ところがこの夏あたりから長患いとなった。何かに心を奪われたようで治す術がなかった。彦十郎にとってはたったひとりの子で溺愛しており、おろおろと騒ぐこと甚だしかった。以前手習いに行っていた師匠を呼び、娘の病気は恋わずらいではないか上手く聞き出してほしいと頼んだ。師はうなずき、百計を案じその気持ちを聞き出した。17,8になる角前髪(元服前の髪型)代官斎藤庄兵衛の2男を養子にすれば病気は治るとのことであった。彦十郎はすぐに庄兵衛のところへと出かけ、見知らぬ人であったが会って概略を話した。庄兵衛は一目見た上でこ…