「切口にコールタールを使おう」 コールタールは石炭を精製するときに分離して生成される油状の物質です。当時は鉄道の枕木や、電柱(木製)の防腐剤に使われていました。 当時、材木の防腐剤としては最強のものでしたが、生きた樹木にそれを塗布することなど考えられなかった時代です。劇薬を傷口に塗ることになりはしないか、動揺する弟子たちに親方は言い放ちます。 「今回の移植は前代未聞の仕事だ。常識外の仕事をするのに、常識は意味がない」 一缶分、18リットルのコールタールを調達すると、自ら切口にコールタールを塗っていきました。弟子たちも親方に続きます。塗った上から丁寧にむしろを巻き付けました。 移植直後の2本の桜…