美しい源氏と暮らしていることを無上の幸福に思って、 四、五人はいつも離れずに付き添っていた。 庭の秋草の花のいろいろに咲き乱れた夕方に、 海の見える廊のほうへ出てながめている源氏の美しさは、 あたりの物が皆 素描《あらがき》の画《え》のような寂しい物であるだけ いっそう目に立って、 この世界のものとは思えないのである。 柔らかい白の綾《あや》に薄紫を重ねて、 藍《あい》がかった直衣《のうし》を、 帯もゆるくおおように締めた姿で立ち 「釈迦牟尼仏弟子《しゃかむにぶつでし》」と名のって 経文を暗誦《そらよ》みしている声も きわめて優雅に聞こえた。 幾つかの船が唄声《うたごえ》を立てながら 沖のほう…