【要旨】 高校の薄暗い廊下、美しい少女、揺れるスカートの裾、そして「ウィズ・ザ・ビートルズ」のレコード・ジャケットが作り出す時代の幻想。 心と身体に働きかけた『歯車』の一節。底知れない孤独の闇。 サヨコの死を通じて異なる世界の二人の幻想が一瞬だけ重なり合う。 【1960年代の景色】 「ウィズ・ザ・ビートルズ」のLPを抱えていたあの美しい少女とも、あれ以来出会っていない。彼女はまだ、1964年のあの薄暗い高校の廊下を、スカートの裾を翻しながら歩き続けているのだろうか? 1960年代を振り返る時、ある一定の年齢に達した人々は、全共闘運動に象徴される「政治の季節」を思い浮かべるのではないでしょうか。…