『一人称単数』/村上春樹/文春文庫/2023年刊 一人称単数の短編小説を、村上春樹さんは過去にいくつも書いている。この短編集に収録された八編には「”僕”もしくは”私”が語る物語」という以外にも、それが小説家・村上春樹である(と思わせる)という共通点があるけど、それだって過去にいくつか例がある。だから最初に読んだときは、どうしてこの短編集に限ってわざわざ『一人称単数』というタイトルにしたのかがわからなかった。今も、わかりはしないけど。 「クリーム」は、同じピアノ教室に通っていた女の子から手の込んだすっぽかしを喰らう話で、表題作「一人称単数」は、バーでたまたま隣あった女性から身に覚えのない吊し上げ…