『ヴェニスの商人』

 強欲な金貸しのユダヤシャイロックと善良なヴェニスの商人アントーニオ。キリスト教徒とユダヤ教徒の姿を思いっきりデフォルメした、キリスト教徒目線からの勧善懲悪のお話。観客の大半がキリスト教徒だったのだろうから、この話から宗教対立やキリスト教徒の独善などを論じるのは野暮としよう。何といってもこの戯曲のクライマックスは法廷のシーン。まさに作中の「白眉」。手に汗にぎるスリリングな展開、攻守逆転の妙。そしてスリリングな展開の中に、男女の機微のスパイスをふりかけるあたりは、さすが天才シェイクスピアだ。

 この作品、一度最後まで読んだ後、もう一度読み返しても面白く、結末がわかっていてもドキドキするのがすごい。いや、二回目の方がドキドキ感が増した気がする。きっと舞台で演じられるのを一度観た人も、別のキャストでの公演があれば「このキャストだったらどう演じるのだろう?」「どんな演出をしてくれるのだろう?」と楽しみを膨らませ、リピーターとなるのだろう。永遠のワンパターン、水戸黄門や遠山の金さんに通じるものが有るのかも。

 引き合いに出したついでに言えば、水戸黄門や遠山の金さんが「印籠」や「桜吹雪」という、絶対的な権威もしくは証拠を突きつけることによって、硬直した局面を打開し、形成逆転とするのと比べ、シェイクスピアはあくまで論理の上で逆転する。おなじ勧善懲悪のお話でも民族性が垣間見えて面白い。

ヴェニスの商人 (白水Uブックス (14))
作者: ウィリアム・シェイクスピア
メーカー/出版社: 白水社
ジャンル: 和書