『地団太は島根で踏め』

 日本語は現場で起きている。滋賀には「急がば回れ」のT字路がある。石川で「ごり押し」するとうまい魚が食える。三重では「あこぎ」な息子が実の母を・・・。帯に書かれた魅力的なフレーズに目が釘付けになり、読まずにはいられない。語源を解説してくれる本は他にもあるが、その言葉を生んだ土地まで実際に行ってみるという試みは面白い。

 本書では全部で23の語源を巡る旅が紹介されている。冒頭に書いた「急がば回れ」の語源を求めての滋賀県草津市への旅が第一番目だ。語源の鍵は歌川広重の『東海道五十三次』に描かれた道しるべ。著者は街道を歩き、見逃したのでは・・・と心細くなりながらも、現存する道しるべを探し当てる。著者が「急がば回れ」の意味を肌で感じ噛みしめているのが伝わってくる。結論は決まっているにせよ、実際に現場を訪れることで生まれるリアリティだ。著者のわぐりたかしはテレビマンで放送作家、ナルホド。


 「結論はきまっている」と書いたが、実はそうとは限らない。本書で著者は、いくつかの語源の「通説」に疑問を投げかけている。例えば「関の山」。現場である三重県の関宿を訪れた著者は『語源大辞典』の説明にどうも納得がいかない。釈然とせぬまま、土地の祭りの激しく華やかな光景を見た著者の脳裏に新説がひらめく。「思いつき」と謙遜しているが、これが何とも納得がいく新説で、そうなんじゃないかな、と思わせる。学者の先生のご判断を仰ぎたい。

 こんな調子で「ごたごた」「あとの祭り」「どろぼう」「うやむや」「チンタラ」そしてタイトルになっている「地団太を踏む」など、普段何気なく使っている言葉の語源の地が紹介される。著者は語源ポイントへ一目散に行って帰ってくるだけではない。地元の資料館や語源にまつわるアレコレを訪れ地元の人と出会い語らう。旅行記ならではの楽しさだ。そしてそれぞれの回の最後に、土地の銘菓の紹介が添えてあるのも楽しい。語源を知る楽しさプラス旅行記の楽しさが味わえる一冊。

地団駄は島根で踏め (光文社新書)
作者: わぐりたかし
メーカー/出版社: 光文社
ジャンル: 和書