days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

a history of violence


大期待だったデビッド・クローネンバーグの新作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』を観て来ました。
タイトルは「暴力の歴史」ではなく、「暴力の過去」という意味だとか。
アメリカ英語では「He has a history of violence.」(彼には暴力沙汰の過去がある)といった言い回しもあるそうです。
勉強になりますね。


さて都心では、東銀座にある古い劇場の東劇でしか上映が無かったので、やむを得ません。
ここは『スポーン』を観て以来だから、相当に久々。
8〜9年振りですねぇ。
相変らず古い場内とトイレですが、上映設備なぞは思っていたよりも良かったです。


劇場ロビーで、いきなりビゴ様ことヴィゴ・モーテンセン等身大(にしてはちょっと小柄だったが)写真と記念撮影するおばさま集団に出くわし、仰天。
場内も年齢が多岐に渡る女性が大勢。
クローネンバーグ映画の観客に女性が多いとは・・・。
アラゴルンことモーテンセン人気なのでしょうけどね。
凄いものです。


上映間近に改めて観客席を見渡すと、9割方埋まっています。
クローネンバーグ映画でほぼ満席とは、時代も変わったものです。
って、ビゴ様人気だと思いますが・・・ (^-^;


さて映画はというと、田舎町でダイナーを営む家庭人である主人公が、強盗2人を返り討ちにしたことからヒーローに祭り上げられますが、それ以来いかにもギャングスターという男たちに付きまとわれる、というもの。ギャングスターは過去の清算を求めますが、主人公は人違いだと否定します。果たして真相は・・・。


クローネンバーグらしく、主演男女優の趣味が良いです。
平凡だけどどこか陰のある男に似つかわしいモーテンセンも良かったですが、愛する夫に対して疑心にかられる妻役マリア・ベロが特に素晴らしい。彼女がこの映画に出ている俳優の中で1番良かった。北米では数々の賞を受賞していますが、日本でももっと注目されても良いです。
未公開の『The Cooler』(ウィリアム・H・メイシーさん主役!)も、この際公開してもらいたいもの。


黒服で主人公一家に付きまとうエド・ハリスも、モーテンセンと並んでガイコツ顔で不気味です。最後に登場するウィリアム・ハートは芝居がかっていて楽しい。結構笑えます。


平凡な(筈の)男が、家族を守るために襲い掛かるワルを倒すという、古典的西部劇の構造を持つ映画ですが、正義だろうが悪行だろうが、暴力は暴力であるというテーマが明確です。
解剖学的正確さで人体の破壊・損傷を見せる映像は、クローネンバーグならでは。
一瞬しか映らないとはいえ、観客へのインパクトは充分です。


1時間半強と短い上映時間の小品なのに、人間と暴力という普遍的なテーマを描き、ひいては現代アメリカの縮図にまで解釈出来る奥深さ。テーマが深く思索に富んでいながら、「普通の」映画しか観ない観客にもアピール出来るという、20年前の好調時に戻ったかのような演出が頼もしい。
これは秀作です。


惜しむらくは、セックスシーンやマリア・ベロの正面ヌードに修正がかけられている点。
映画の責任ではなく、表現の自由を規制している日本国憲法及び映倫の問題なのですが・・・。
DVD版では、作者の意図する完全なる形でのリリースを望みたいものです。


パンフレットは千円もしましたが、B4サイズのハードカバーで、つまりは絵本のような製本。
オールカラー且つ文章も多く、資料価値は大いにあります。
町山智浩によるクローネンバーグへのロング・インタヴューや主演2人へのインタヴュー、滝本誠越智道雄らの評論に、クローネンバーグ全作品紹介と内容盛りだくさん。


そのフィルモグラフィと読むと、クローネンバーグ作品って粗筋だけ読むと余りにぶっとび過ぎて笑ってしまいます。怒りが体外に子宮を作り出したり、怪電波で洗脳したり、肛門でしゃべるゴキブリ型タイプライターが登場したり、両生類の内臓を使ったゲームマシンが登場したり。


それらに比べると、本作はとっつき易い映画に仕上がっていると言えましょう。
と言っても、下手すると痛い目に合う映画でもありますので、ご用心。
ポスターのデザインも構図とかが変わっていて、中々良いですね。