大日本絵画「日本海軍空母VS米海軍空母 太平洋 1942」

オスプレイ“対決”シリーズから海ものの一冊です。世界最先端のレベルで質的・量的に拮抗した同レベルの海軍がお互いの戦略ドクトリンに沿った形で真っ向から激突した事例というのは近代以降それほどあるものではなく、現代に至っては全く想起出来ない事例となっています。1942年の太平洋はそんな戦争が実際に行われていた稀有な例で、日米のパワー・バランスが大きく傾いた1943年以降は二度とこのような関係にはなりませんでした。

その中核となっていた「空母機動部隊」にスポットをあて、珊瑚海海戦ミッドウェー海戦・第二次ソロモン海戦と南太平洋海戦の四つの海戦を題材に日米両国の艦艇と搭載機、戦略と人物、戦闘の推移などが平易に解説されています。


航空母艦瑞鶴エンタープライズ。この時期は日米両国ともに本来望むべき姿であった艦隊型空母が編制に組み込まれ、お互い存分に威力を奮った時期でした。スペックを比べれば同じような数値になりながら、しかし細部をクローズアップしていけば随分と異なる性格が浮かんでくるもの。ダメージコントロールに差異があったことはこの本でも記されていますが、意外なことに日本側の視点では常に取り上げられる飛行甲板エレベーターの配置についてはまったく触れられていません。アメリカ視点で見れば常識の範疇なのか?その一方でワシントン条約の割り当て残量に合致するよう無理に建造された「ワスプ」が脆弱な空母であったことなど、アメリカ側の問題点もはっきり記述されている。日本人なら日本海軍の問題点を注視するように、アメリカ人ならばアメリカ海軍の問題点に詳しいのだと、そういう著述でもあるか。日本海軍とかミッドウェー海戦ってしばしばビジネス書などでも取り上げられるテーマですが、相手側の立場になって考えるのもまた面白いことではあります。「ニミッツの太平洋海戦史」なんて名著もありましたけれど、流石にアメリカのビジネス書(あるのか?あるんだろうなー)でアメリカ海軍を取り上げたものが実在するのかどうかは地平線の彼方でなにもわからない(苦笑)


個人的に最も面白かったのがこのコラム。「ボフォース40ミリ砲にあたる中高度での対空火器が日本海軍には無かった」とよく言われます。しかし装備の違いは単にハードウェアのだけの問題ではなく、それを運用するためのソフトウェア・人員教育にも当然及ぶこととなって、その上で「対空砲火の濃密な弾幕」が形作られる…わけではなくてそもそも単純な弾幕射撃じゃないんだ!ということですいや不勉強なもので本当にためになります(苦笑)本書の内容が1942年に限定されていてよかった。大戦末期に日本艦艇が装備していた「噴進砲」ってアメリカ軍からみたら噴飯いや噴笑ものの兵器なのかも知れないなァとかなんとか。


艦艇の構造、航空機の設計、人員教育に於いても、日米を比較すれば常にアメリカ側はより多くの損耗に耐えうるシステムを構築していることがよくわかります。そして損耗に耐えうる空母機動部隊を構築するためには随伴艦艇による強固な護衛が不可欠で、濃密且つ正確に管制される対空砲火コンプレックスとしての戦艦の役割は非常に高いものである。


読んでいてだんだんそんな気分になってきました。日本海軍は時代遅れで大艦巨砲主義にしがみついたんじゃなくて、むしろ戦艦に見切りつけるのが早すぎたんじゃないかと、そんなの出来やしないんだけどな…

直接模型作りに役立つわけじゃないんですけど、運用面からの知識も模型作りを楽しむ要素のひとつだとは思います。



あと「ぼくが考えた超かっこいい無敵連合艦隊」なんかを考察するには有用かと(w;

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