ハンニバル戦記
ローマ人の物語、3〜5巻.
本書では、イタリア半島を統一したローマが、北アフリカにあるカルタゴとの一世紀以上に渡るポエニ戦役を通してカルタゴを滅ぼし、シチリア島、スペイン、北アフリカを手中に収め、地中海の覇権を手にするまで描かれている.
本書の冒頭でも述べられているように、高校のカリキュラムとしてのローマ史としては
イタリア半島を統一した後、さらに海外進出をくわだてたローマは、地中海の制海権と商権を握っていたフェニキア人の植民都市カルタゴと死活の闘争を演じた. これをポエニ戦役という. カルタゴを滅ぼして西地中海の覇権を握ったローマは、当方では、マケドニアやギリシア諸都市を次々に征服し、さらにシリア王国を破って小アジアを支配下に納めた. こうして、地中海はローマの内海になった.
の一節を把握しておけば十分とされている.
だが、その一節の中に、とても熱いドラマが流れているのだ.
そもそも海軍を持たなかった、ローマが無謀にも海軍を結成し、短期間の間に園力を蓄えていく.
もともと強力な海軍を持っていたカルタゴは、ローマの統率の取れていない海軍を見て嘲笑する.
だが、海軍を持たず、変なプライドを持っていなかったローマ人だからこそ出来た戦略を用いて、海軍国カルタゴの軍船をばたばたとなぎ倒し、連勝を繰り返していく.
その戦略は、なんてことはない、「カラス」と呼ばれる大きなハシゴを船首に取り付けて、敵の船に横付けするとそのハシゴを敵の船に渡し、海戦を陸戦に変化させてしまう.
しかも、船の操縦が下手だったからこそ、どんな方向にも「カラス」を動かせるように可動式にしていたというのは、驚くべき自己評価能力.
このあたりの下りはかなりアツイ.
そして、第一次ポエニ戦役で煮え湯を飲まされたカルタゴは、第二次ポエニ戦役で最強の刺客ハンニバルをローマへ送り込む.
(ローマ史にかかわらず)歴史上の偉大な戦略家をあげたとしたら、このハンニバルってのは間違いなく五本の指に入ると言われているほどの戦略家で、やることなすことが規格外.
アフリカとイタリアをつなぐ、シチリア島の政権をローマに握られている中、自国からの援助がまともに期待できない状態で、スペイン・ガリア(現フランス)を通り、象を引き連れた軍隊を率いてピレネー山脈を越えて北部からローマを攻めていく.
ハンニバルは、それまで重要視されていなかった騎兵の力を駆使し、新しい戦略でローマの軍隊をなぎ倒していく.
歩兵をガチンコでぶつけ合う数量に戦略をゆだねた戦い方から、騎兵を使った相手の主戦力を押さえ込む戦術へのパラダイムシフト.
これぞまさに天才の所行.
たった一人の天才戦略家ハンニバルに良いようにやり込められ壊滅状態に追い込まれていくローマ.
そして歴史が進み、自国内にハンニバルという頭痛の種を抱えたローマは、もう一人の天才スキピオをシチリア・そしてアフリカへと送り込む.
スキピオは、敵側としてのハンニバルの行動・戦略を見て育った、いわばハンニバルチルドレン.
それまでのローマになかった戦い方をハンニバルから学び、ハンニバル流のやり方でカルタゴを追い詰めていく.
そして、二人の天才の手による、ローマ史上(恐らく)最高潮の盛り上がりとなる、ザマの会戦が始まる...
...いや〜、これは激烈に面白い.
まさにこれを読まずに死ねるかって感じですわ.
ローマ史には興味が無いか、歴史に興味が無いとかいって食わず嫌いをしていると、とんでもなく損しますぜ.
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