2014年鑑賞映画 感想リスト/71-80

『カットスロート・アイランド』……レニー・ハーリン監督。亡き父から海賊団を引き継いだ娘モーガンは、宝の島“カットスロート・アイランド”を目指すが、彼女たちを同じく宝を狙う凶悪な伯父ローグ率いる海賊と卑劣な英国海軍が追っていた──ギネスに「最も興行赤字が大きい映画」と記載された海賊アクション映画。それも納得で、アクションに次ぐアクション、爆発に次ぐ爆発で画面が派手なのは確かだけど、いかんせんテンポがあまりに悪い。話運びもそうだし、アクション・シーンにしてもスケール感を出そうとしたのかスローモーションの多用が目立ち、かえって抑揚のないのっぺりとしたものになってしまっている。豪気な海賊娘を演じたジーナ・デイヴィスははまり役。


『300〈スリーハンドレッド〉〜帝国の進撃〜』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140621/1403322551


『断層紀』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140623/1403529108


『海にしずめる』……記事参照>>同上


野性の証明』……佐藤純彌監督。東北の寒村で発生した大量虐殺事件に巻き込まれた少女・頼子はショックから記憶喪失となり、当時山中でサバイバル訓練を行っていた自衛隊員・味沢に引き取とられるが、ふたりは巨大な陰謀に巻き込まれることになる──高倉健薬師丸ひろ子主演のアクション・サスペンス。八つ墓村もかくやの前半、地方ゼネコンと暴力団との癒着を巡る中盤、そして国が存亡をかけて隠そうとする陰謀……そのどれもに高倉健薬師丸ひろ子の親子が巻き込まれるという、ともすれば空中分解しそうなシナリオを1本にまとめ上げた豪快な作品だった。かようにミステリィとしての焦点が次々にズラされていくので、観ていて「あれれ」と思わなくもないが、要所要所で挟まれる血みどろアクションの力強さにグイグイ持っていかれてしまった。いやはや豪快。


マンイーター』……グレッグ・ナクリーン監督。カカドゥ国立公園でのリバー・クルーズの取材に訪れたピートは他の観光客らと現地ガイドのケイトが操る小型船に乗り込むが、禁忌地帯とされる上流のほうで上った救難信号を目撃し、そちらに向かうのだが──オーストラリア産アニマル・パニック映画。なにが襲ってくるかといえばワニ。それも超巨大なワニが、グワッとパックンチョしてきます、怖い! ……ということに一極集中した作品で、その他大勢がわりとすんなり助かったりするなど人間側のシナリオは潔さを感じるくらいにあっさり風味なのはご愛嬌。それでも、なかなかワニが姿を見せずに最後でココゾと全身を現すといった見せかたは巧いし、できれば絶対に経験したくない巨大ワニとの超近接戦闘を描くクライマックスの迫力も凄まじい。耳元でパカンと閉じられる顎の音には冷や汗をかいた。


大誘拐 RAINBOW KIDS』……岡本喜八監督。チンピラ3人組は、その地方最大の富豪の家長・柳川とし子刀自を誘拐するが、事件は思わぬ方向へ転がりはじめる──天藤真の原作小説を映画化したコメディ。全篇抱腹絶倒した。チンピラ3人組のズッコケ具合が楽しい前半から、誘拐事件の主導権が彼らから被害者であるはずの柳川とし子刀自へ持っていかれて、あれよあれよとスイングしていく展開と、その間の軽妙なやりとりが、劇伴──製作当時(1991年)主流だったであろう、いま聴くと能天気にスコーンと抜け切ったシンセ・サウンドの音色とメロディ──とも相まって、とっても愉快。カメラと編集も活き活きと跳ね回って気持ちがいい。序盤のショットに、観ながらでは思いもよらなかった意味を叙述トリック的に盛り込みつつ大団円を迎えるラストもニクい。ほんとうに面白かった。


『ディアトロフ・インシデント』……レニー・ハーリン監督。1959年の旧ソ連時代、ウラル山脈で学生登山グループ9人が謎の死を遂げた「ディアトロフ峠事件」のドキュメントを撮影するため、現地に飛んだアメリカ人大学生5人組が襲われる恐怖を描くファウンド・フッテージ──いわゆる“ブレア・ウィッチ型”映画。大作映画専門かと思われたハーリンがPOVを監督するという意外な組み合わせだが、この布陣が功を奏したのか、きちんと面白いホラー映画となっていた。映像も迫力があるし、僕自身そんなに沢山のファウンド・フッテージものを観ているわけではないけれど、オチで納得したのは今回がはじめてじゃないかしら。そのオチ方も、映画を思い返すとさらに嫌な気分になる余韻を残してくれ、逆説的にこのジャンルの後味を味合わせてくれる。ただし、冒頭「カメラ担当はこいつです」と紹介したヤツがカメラを回してない──回してはいるが、映画に使われているのは何故かヒロインの撮影するもう1台のカメラ──のは、整合性に欠け過ぎやしないか?


ビザンチウム』……ニール・ジョーダン監督。不老不死の生命を持つヴァンパイアゆえに放浪生活を続ける少女エレノアと姉クララは新たな町に流れ着くが、エレノアは自身の正体を隠し続けることに疑問を抱き、苦しんでいた。彼女たちの生活を表すかのような、薄闇に呑まれたような撮影が美しい。ヴァンパイアとしての暮らしと悩みを多感な思春期の情景と重ね合わせたエレノアの辿る物語や、男性中心社会に真っ向から対立しつつ利用して生きようとするクララの姿──ふたりの名前はどちらも「光」を意味するのが興味深い──、ヴァンパイア界を女人禁制の保守的な秘密結社として描くなど、様々なベクトルで読み替えの可能なシナリオも面白い。画面を彩る血も、生々しくていい感じ。


アラバマ物語』……バート・マリガン監督。1930年代、人種的偏見が根強く残るアメリカ南部で、白人女性への暴行容疑で逮捕された黒人青年を担当する弁護士アティカス・フィンチの姿を描いた、ハーパー・リーの自伝的小説の映画化。人種差別問題などの社会問題を描くドラマかと思いきや、法廷サスペンスとしての面白さや、ゴシック・ホラーなど、いろんなジャンルの面白さを含みこみながらも、きちんとジュブナイルとして一貫した語り口が巧み。映画はグレゴリー・ペック演じるアティカスのふたりの子どもたち──とくにやんちゃ盛りの妹スカウト──の目をとおして描かれるが、だからこそ社会に渦巻く様々な問題に対して率直に疑問を投げかける構成がとても素晴らしいし、最後にはスカウトの成長を描いてみせる展開も感動的だ。オープニング・タイトルのデザインも見事。必見の1作。

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