5月の読書メモ(その他)

人体冷凍  不死販売財団の恐怖

人体冷凍 不死販売財団の恐怖

 死体冷凍保存カルトの内部告発。戦慄した。元救急救命士の著者が,アルコー延命財団に就職。そこで行われている行為のいい加減さを目の当たりにし,ついに告発に至る。著者は救急救命士時代,かのブランチダヴィディアンの包囲にも関わったみたいで,何かカルト憑いてる…。とにかく,フィクションだとしても面白い本だった。内部告発の準備や告発後の受難などスリリングで,映画にでもなったりしそうな感じ。
 冷凍の目的は,医学の進歩に期待して,将来蘇生するために死後特に脳をそのままの状態で長期間保存しておくことだ。アルコーの会員になると,死の直後に冷凍処置がなされ,デュワーの中に安置される。全身冷凍の場合もあるが,多くは頭部だけの冷凍保存になる。彼らは,脳さえ残っていれば復活できると考えている。冷凍保存は長期間可能であり,そこまで医学が進歩してから解凍してもらえばいいから。多少劣化があったとしても,医学の進歩がそれを克服してくれる。いやはや何とも楽観的な話だ…。
 人体冷凍保存の信奉者は,通常の一生を「第一のライフサイクル」と呼ぶそうだ。解凍されて復活すると第二のライフサイクルがはじまる。未来へのタイムマシンのようで,そんな冒険を夢見る会員も少なくない。彼らにとって火葬や土葬はありえない。復活が絶望的になるから。まさにカルト。アルコーの職員も軒並み会員で,冷凍保存信奉者。著者は就職当初は入会しなかったが,なぜ会員にならないかと訝しがられて結局入会手続をする。不本意だったがそれは内部告発のための証拠集めにとても役立った。
 著者はまず気違いじみた同僚たちに不信感を抱き,実際の冷凍処置においてあまりのずさんさに衝撃を受ける。遺体はぞんざいに扱われ,将来の蘇生など到底おぼつかないほど稚拙でいい加減な処置だった。さらに,本人の同意なき冷凍保存や,殺人の疑いまで発覚する。
 同意なき冷凍の犠牲者は,テッド・ウィリアムズ。伝説の大リーガーで,空前絶後の4割打者,しかも二次大戦と朝鮮戦争の英雄であったテッドは,火葬を望んでいたのに,息子の意向によって冷凍保存されてしまう。遺体に対する冒瀆。
 殺人というのは,解凍→蘇生がうまくいくように,自然に死ぬのを待たずに冷凍保存してしまうという恐るべきフライングだ。2件ほどこの疑いが濃厚な事例があったそうだ。なるほど「第一のライフサイクル」より「第二のライフサイクル」が大事なんだから,行きつくとこまでいけばそうなる。
 著者のラリーはこういった事件の証拠集めをして,告発に漕ぎつける。しかし,その後はアルコーに命を狙われることになってしまう。人体冷凍カルト,怖い,怖いよ…。日本に進出してきませんように。

 新書にしてはぶ厚い本だけど,するする読めた。マスメディアが情報の流れを支配していた時代が終って,もっとミクロな人と人との繋がりを介して情報がやりとりされるようになった。ネットというツールがそういう革命を起こした,こんなにいろいろな事例があるよーというのを紹介。個人間の情報のやりとりって当然昔からあったけど,確かに格段に効率化したよね。
 昔はやはりリアルで顔を突き合わせて情報交換するのが基本だった。でもそれでは地理的とか階層的な越えられない壁があった。今はネットで同じような興味を持つ人たちと直接やりとりできる。ネット以前も手紙のやり取りで情報交換することもできたけど,やはり非効率。
 ただ今も,言語の壁ってあるよね。英語,読めないわけではないし,英語の情報で有益なものもいっぱいあるはずなのだけど,日本語で手に入る情報でお腹いっぱいだし,英語やっぱりとっつきにくいので,積極的に英語の情報を求めていこうとはしていない。
 あと,なんていうかバカの壁?もある。人間誰しも信じたいことを信じたいので,信じたくない情報は遮断して,信じたい情報だけにアクセスしてしまう。ネット上の情報は厖大で様々なので,そういう取捨選択が効率的にできるということは,どっぷりつかっちゃうってこと。危険。
 ネット上では,ニセ科学とか,陰謀論にどっぷりつかっている人がいるのをよく見かける。twitterも,どんな人をフォローするかは自由なので,かなり偏った情報を目にしていることになる。そのことは,自覚的でなければならないと思う。自戒をこめてね。
 この本で言っている「キュレーター」とは,文字通り博物館の学芸員というわけではなく,この情報の海の中から,光るものを見つけて流通させる,情報のハブになるような人のことを指すようです。誰でもそうなれると言ってたような気がするけど,著者を始め多分少数精鋭が活躍するのでしょう。

ウソを見破る統計学―退屈させない統計入門 (ブルーバックス)

ウソを見破る統計学―退屈させない統計入門 (ブルーバックス)

 統計の基礎がよくわかる。大学の教養で松原統計をとったはずだが,よく覚えてない…。その後もあまり使うことなく今に至るが,データを沢山扱う研究者には常識なんだろうな。理系文系問わず。
 各章が,軽〜い会話形式の導入部と解説部からなっていて,大変とっつきやすい。平均・メジアン正規分布標準偏差・分散・相関・二項分布・検定・帰無仮説ポアソン分布・対数正規分布べき分布などもりだくさん。数式は出てこない。統計分析ソフトがあるのでそれほど要らないらしい。
 最近の地震の話題で,ポアソン分布についての議論をTLで見かけたが,その性質がよくわかった。将来地震が起こる確率について,竹中平蔵氏が出した計算結果を批判すべく,ポアソン分布を仮定して論じていた論客がいたようだが,これは間違いだそうだ。ポアソン分布とは,互いに独立した複数の事象が起こる場合に,一定の期間内に起きる回数が従う分布。大地震は,一度起きるとエネルギーが解放されてまた蓄積されていくので,独立事象にならないようです。

『行列のできる…』は見てたことあるけど,もう府知事になって三年なのかあ。財政立て直しのためにいろいろと改革をしているけど,強引という批判も多い。関東にいるとあまり聞かないけど,元同僚がこないだ橋本チルドレンとして府議に当選したこともあって読んでみた。批判一辺倒でも称賛一辺倒でもない,一応はバランスのとれた本かな。
 橋本府知事の政治手法は石原都知事のそれに似てるってのに納得。でも「大阪都」には石原さん難色。「都」は元首(天皇)の居る所を指すから名前が良くないらしい。なるほど,そうかも。
 橋本知事が火を付けて以来,ひのきみ問題でTLが一部にぎやか。小倉弁護士tweetが壮絶…。立て続けに最高裁判決も出たことだしね。