1701. 先行感想 - バクマン。 1ページ『夢と現実』

今週号の「バクマン。」について、大きくネタバレを含んだ感想記事です。2008年37・38号を未読の方は、閲覧を控えて下さい。


作品の方向性
本作は、絵の才能溢れる「真城最高」と、文章の才能溢れる「赤木秋人」の成功物語(サクセスストーリー)だそうです。彼ら二人のマンガ道と、そしてヒロイン・亜豆美保の声優道。彼ら三人を主人公に据え、三者の成長を並行展開しつつ、三様の内部事情が複雑に絡み合って上手くいったりいかなかったりするドロドロで複雑な物語! …だと嬉しいなあ。

そんな物語の内部仕様はともかくとして。

作品の方向性が『業界の裏事情を隅々まで暴露しまくる意欲作』だとはビシビシと伝わりました。裏側を語らずして、「漫画家」「声優」という曖昧な職業を正確に伝えることは適わないというスタンスなんでしょう。生やさしくなんてない現実を見せ、少年少女に将来を見つめ直させる本作。360度ぐるり回って少年誌らしい題材に思えてきます。


今週の要点

  • 作中背景は中学三年生の受験期、夏休み前の期末テストごろ
  • 最高はアナリストかつリアリスト、石橋をたたき壊して渡らないタイプ
  • 秋人は優等生の自信家、思い立ったら即行動のポジティブ思考タイプ
  • 美保は美少女で、大人しい顔して夢見がちな危なっかしいタイプ
  • 最高の伯父・川口たろうは漫画家だった
    • 伯父が3年前に過労死(自殺?)し、最高は漫画家の夢を閉ざす
    • 川口たろうの原典はガモウひろし先生
    • 曰く、漫画家のほとんど全員は『博打打ち』
  • 最高は美保に恋をしているが、恋愛に自信がなく冷めている
  • 最高と秋人は漫画家に、亜豆美保は声優になる夢を叶えると約束する
  • 最高は夢が叶ったら美保と結婚する約束を取り付ける
    • 『伯父さんよりも賭けの条件がいい博打打ちだ!』
    • 最高は秋人と組むとは限らないと明言


ポイント考察 - 等身大の14歳
14歳としてはあまりにも達観しすぎた人生観を抱く最高。冒頭5ページの一人語り(プロローグ)は、普通の人生を選択した『大勢の社会人(大人)たち』にこそズキリとくる内容です。あるいは、『大人が一生懸命考えたリアル14歳の心情』って印象を痛烈に感覚しました。

よりよい高校 大学 会社へと進むのがふつう
そう ふつうに生きていくだけ
親に迷惑をかけたくない
引き籠もりといわれたくない
(中略)

この内容は、27歳の自分が当時14歳前後に抱えていた意識とはかけ離れていました。一方で『今現在の14歳ならこんな風に考えてそう』とも実感します。オレらの世代だと不登校児は物珍しいレベルでしたが、昨今の不登校問題は深刻味を増すばかりです。

携帯ゲーム機やパソコンの娯楽文化が蔓延する今の世は、世間体を守るために遊びたいのを我慢して勉強する(ポーズを取る)中学生ってのが過半数ではないかなあと感じます。この辺りは、『オタク文化に染まりたいけど周囲にそう思われたくなくて流行のアーティストのCDを買ってアンチオタクのポーズを取る隠れオタク(長!)』の心情を重ねてみると、とてもリアルに感じ取れそうです。

将来 フリーターと呼ばれたくない
だから目指してもいないサラリーマンになり
社会でもトップに躍り出るのは
今から高い成績を取ってる人間
もうランク付けはされているわけで
社会に出ても今の延長でしかない

進学塾の塾講師がしれっと言いそうなセリフですよねー。(我が振りを省みない発言@元塾講バイト)この論説は決して間違いではないけど、これだけが正解って訳でもない。『特別な人間(成功者)』は一握りしかおらず、だからこの言葉は『大勢にとっての正解』です。進学塾は『特別でない大勢の人間』に向けた場所だから、これが正論で罷り通ります。

これは進学塾に限らず、学校だって例外ではないと思います。そんな学校生活を9年間も送った子なら、上のような冷めた意見でリアリストに傾きすぎる人間が生まれるのも納得できるかなあ…とか思いました。

そして、このやけに生々しい冒頭5ページのおかげで、一般人の道から外れた『漫画家』という職業への危機感や戸惑い、そうしたネガティブなイメージ・心情が途端に光ります。リアルな心情をコントラストにして、職業『漫画家』というアンリアルを際立てて表現できているのです。


ポイント考察 - 川口たろう=ガモウひろし先生
明日以降、Web上では盛んに『川口たろうの被写体はガモウひろし』との意見が繰り返し発言されるでしょうね。

ガモウひろし先生の経歴を事細かに知る方々が先頭に立ち、「川口たろう」と「ガモウひろし」の共通点を検証されるブログや掲示板スレッドも乱出するでしょう。オレはガモウひろし先生にそこまで詳しくありませんし。近日中に識者の方がまとめるハズなので、その点については省略します。

ですが、オレもこの6〜7月は『週刊少年打ち切りジャンプ』製本に携わり、この過程で『バカバカしいの!』『僕は少年探偵ダン♪♪』を精読しました。両作のネームと作風は、『DEATH NOTE』『BLUE DRAGON ラルΩグラド』の原作者がいずれもガモウひろし(ガモウひろ椎野)先生だと強く確信できる内容です。

『名前のアナグラム』説や『ガモウ先生の息子リーク』説などではなく、原始的かつ、直感的かつ、スピリチュアル的な意味で。そう考えて本作に立ち返ると、見開きカラーにある『大場つぐみ×小畑健 待望の復活!!』はずいぶんと白々しい煽りだなあ…と冷ややかな目線を送ってしまいました。

途中から論点が大きくズレましたが、川口たろうの造形は『ガモウ先生(+小畑先生?)の経験談を元にしたフィクション』であろうと確信できる内容であり、この部分は読んでいてやたらドキドキしました。


ポイント考察 - ネガティブ最高&ポジティブ秋人の凸凹コンビ
物語至上主義者の当方としては、最高と秋人の凸凹コンビっぷりに燃えました。なんて今後の展開予想を膨らませる二人組なんでしょう。言うなれば『ブレーキの最高とアクセルの秋人』です。

主には、退け腰の最高をイケイケの秋人が後押しする展開が目立つと思います。一方で、暴走しすぎた秋人を、アナリストな最高がブレーキングして収めるなんて逆の展開も必ず登場するはずで、そんな「秋人と最高の支え合う展開」を今から予想しては身悶えています。

互いの足りないところを補足して、支え合いながら、成功に繋がる物語展開って大好物なんですよ。特に、普段はパートナーに助けられてばかりの主人公が、ここぞという時に真価を発揮する演出がたまんないです。『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』もこの典型でした。これぞ少年マンガの王道演出って感じがするんです。

うわーい、わくわくしてきたぞー。


ポイント見所 - 大人しいを顔してその実大胆
『普段は大人しい顔をして実は大胆』ってそのシチュエーション、健康男子が思い描く『燃えシチュ10選』の上位に君臨し続ける、萌エロクィーンじゃないですか。この個性一つだけで十分なメインディッシュかつデザートになる。それなのに、ああそれなのに。

思い込みが激しく、人見知りして、夢見がちで、恋愛に奥手で、ってこのパーソナリティ業界で真っ先に食われますよ。「好きな人と結婚の約束」ってところも強姦フラグな気がしてなりません。ああ、気になるッ! 亜豆美保は声優デビューなんて話より、ただただ貞操の危機が気になって仕方ねぇーっ!!

「声優」ネタとしてありがち&話題になったトピックを、作中にも盛り込んでいくと楽しいそうだなあ。番外編や扉絵連載とかでいいから、美保サイドの進行を描いていただきたいです。

  • 下積み時代にエロゲ声優デビュー
  • エンドロールで名前を間違えられる(´;ω;`) ブワッ
  • 声優ユニット結成
  • みほたん語の確立
  • ブログが炎上する
  • 「何か一つ願いがかなうとしたら?」→「仕返ししたい」(´;ω;`) ブワッ
  • 歌手デビュー
  • 自腹でファン交流会(´;ω;`) ブワッ
  • ファンが「渋谷の領域に踏み入る事は不可能だと思います」とゴネる
  • 居酒屋のバイトを解雇され、うまい棒で食いつなぐ(´;ω;`) ブワッ
  • 健康診断で栄養失調気味の診断を受ける(´;ω;`) ブワッ
  • 誕生日イベントに用意されたケーキに『Merry X'mas』(´;ω;`) ブワッ
  • 声優ユニットイベントに呼ばれず「スケジュール都合により欠席」と書かれる (´;ω;`) ブワッ
  • グラビア撮影中、幽霊に遭遇してそろそろ連れて行かれそう (´;ω;`) ブワッ
  • 12か月連続してCDリリース決定 (´;ω;`) ブワッ

あれ、ここのネタはそんなつもりじゃなかったのに… (´;ω;`) ブワッ


ポイント見所

  • 題字「バ」の字のGペンに映り込んだ景色は秋葉原でしょうか
  • サブタイトルは『○○と××』で固定のようです*1
  • 本作の両作者、ジャンプマンガの事情は気兼ねなく暴露する方針の様子(=ジャンプにとって爆弾)
    • 『ジャンプにとっての爆弾』って意味で『次号爆発する!』的な煽りだった?
    • この調子で他のジャンプ作家もイジってください。ぜひ冨樫先生をッ!
    • 集英社を中心とした他誌(少女漫画誌など)もスポットをあててほしいなあ


今後の予想
週刊少年ジャンプで漫画描きを題材とした作品は、過去に『ノルマンディーひみつ倶楽部』がありました。ノルマンディーは学園コメディ・エンタメ志向の作品として漫画描き(マングース)を表現しましたが、本作『バクマン。』は社会派寄りの作風で進むと予想します。

大場先生からも「地味な話になる」とコメントがある通り、キャラ萌えや現物のパロディにはさほど傾倒しないのではないでしょうか。しかしながら、真面目な路線として、『川口たろう』のような爆発力のある暴露は多発すると思いますし、業界に興味がある読者にはたまらない展開が続くことでしょう。(自分含む)

漫画描きそのものの苦労話や、担当編集との人付き合いという個人レベルの内容は読んでみたいです。ですが一方で、大場つぐみ先生は『個人レベルの人間描写』が不得手(なのか意図的に描かないのか)です。どちらかというと『大局にある事件をどう解決するか』という、個人の立ち回りや思考描写に得手な作家なんですよね。

ですから、出版社界隈、あるいは声優界を絡めた『日本のオタク業界』全体を包括した、巨大なテーマで描いてくださった方が、むしろ大場先生らしい作品となり、得意分野で勝負できるのではと思います。本作の行き着く先は、そのあたり(オタク業界全体の風刺と暴露)を着地点に見極めているのではないか、と予想しておきます。

*1:DEATH NOTE』では漢字1〜2文字のスタンスだった