Winny製作者逮捕について

 意気揚々と打ちに出掛けたものの、尻の毛まで抜かれてそぼ降る雨の中、頭を垂れて家に帰ると、ちょうどTVでこんなニュースが流れていた。
Winny製作者、逮捕」
詳しいニュースは>>こちら。


 ネットに触れた事のあるものなら大方の人は既にご存じかとは思うが、それでも知らないと言う人も居るだろう故に、簡単に説明する。
Winnyと言うのは、ピア・トゥー・ピア(P2P、PtoP)と呼ばれる、中央にあるサーバーを経由しないで、末端の利用者だけで情報をやりとりするシステムを利用したソフト。
匿名性に特化されていて、掲示板機能の他、デジタル化されたものであれば誰かが持っている限り何でも共有出来る。
このポイントこそが、メリットでもあり、またデメリットでもあるという諸刃の剣ではあるのだ。


 で、そのソフトを開発した人を京都府警が摘発した。
罪状は「著作権違反幇助(ほうじょ)」。
つまり、以前にこのソフトを使って頒布(はんぷ)した人−これが実質的な著作権法違反の正犯−を、このソフトを制作したことで幇助した、つうことで逮捕された。
更に、ニュースによればソフトウエアの合法、違法は抜きにして、製作者の著作権法への挑発的態度が逮捕の理由であるらしい。


 この展開は余りにも乱暴。乱暴に過ぎる。
まず、「挑発的態度」が理由て。
要するに、「余計な考えを起こさず、お上の決めた事には口を噤んで従ってろ」って事でしょ?
で、疑問挟んだり、それで何か実行すれば逮捕、と。或いはアカとか左翼とか非国民扱い、と。
いやあ何とも殊勝な心がけ。拍手。立派過ぎて反吐が出るわ。
俺が反吐を吐いてる裏では、今頃ACCSとかJASRACから感謝状貰ったりしてるんだろうがな。


 下らない喩えで申し訳ないが、この論理からすればダイナマイトを発明したノーベルもまた、犯罪者である。*1
どんなものであろうと、良くも悪くも使えてしまい、そして、その物を開発した事で捕まるとすれば、正直何も出来なくなってしまうし、また、開発、制作する最中に、どんな事に悪用されるかを常に配慮して行かなければならない。
そうなると、足枷しか無くなってしまいかねない。
逮捕するのはあくまでも、法を逸脱した事に利用していた者に絞るべきであった。


 恐らく、この裁判は今後の判例となる代物、また全世界から注目される代物になるだろう。
アメリカでは既に、製作者には罪を問えないと言う判決が出ているが、日本でもそうなるのか。
また、幇助という概念をどこまで適用出来るものであるのか。
刑法で幇助とは、特定の行為が行われる事を知りつ、手助けする事(例えば凶器を手渡したりするだけでも幇助)だが、この件の場合、その著作権法違反が行われる事を確信していたか、また、数十万人に上る利用者総てに対しそう思ったか、が鍵となる。
と、言うのは、幇助の構成要件は、幇助の正犯と具体的に犯意の疎通があること、または悪用される事を確信している事*2だからだ。これを満たさなければ当然、扱う事は出来ない。
一部利用者の中には悪意があるだろうな、程度の認識で幇助とされたのであれば、やはりそれは拡大解釈に過ぎ、それこそ例えば携帯電話であろうが、銀行口座であろうが、台所の包丁だろうが、遍く総ての物を開発、制作したものが罪に問われる可能性が出てくるのだ。
そうなると最早、幇助での逮捕ではなく、どちらかと言えば思想統制とか弾圧に近いと言っても過言ではないと思うのは俺だけだろうか。


 このソフトは、匿名掲示板上で開発されてきたものだ。
故に、開発動機なども本人のものとは特定し難い。だから、自白が最重要視される事となるだろう。
だが、警察の中で発された自白も怪しい。
何故かというと、有りもしない司法取引を提示されたり、また、誘導されたりする事も多いからだ。


 例えば、何も悪い事をしたと思ってないのに誤認などで逮捕されたとする。
取調室や留置所と言う閉塞的な空間に囚われ、やがて疲労が溜まる。
そう言った状態でやたらと高圧的に、「お前は犯罪者なのだ」と決めつけ罪状を認めるようにねちねちと、取り調べが行われる。
認めなければまた、疲労を蓄積させるだけ。
そんな中で「認めちゃえよ、略式裁判にしとくから」「数万円程度で済むんだから」などと甘い事を言われる。
大方の人間は、そこで誘惑に負け、警察の言うように調書を書く事になるだろう。
裁判所のような、衆人環視の中で行われる供述とは訳が違う。
だから状況証拠、物的証拠に頼れず、自白のみに頼る事は、そしてそれを鵜呑みにする事は危険極まりないのだ。


 これらの事を踏まえた上で、法律的な観点から見た場合どう転がって行くのか。
新しい法律が整備されP2P自体の所持、開発が禁止とかされたり、或いは警察などが監視出来るようになるのか。
プロバイダの利用料金に、著作料の上乗せがされ、その上で認められるようになるのか。
また、京都府警の旗色がどう悪くなって行くのか。
個人的には非常に見所である。


 長くなるからもう仕舞うけれど、この問題の他に。
・ネット通信のインフラ整備の足を引っ張る可能性がある。
・開発が萎縮することによってネットワーク技術そのものの向上の足を引っ張る可能性がある。
京都府警の職員がWinnyユーザーで、過失によって捜査書類をネットに流出させてしまったが、その同管轄内の「正犯」は逮捕されるのか。
・この事が罷り通って仕舞った場合、憲法上の学問や思想、心情、表現の自由はどうなるのか。
・つうか何よりも、こういう公権力のやり方そのものが腹が立つ。


追記 書き足りない。甘さも残るし、ひょっとしたらまた書くかも。

*1:尤も、ノーベル自身も自分の発明したダイナマイトが大量殺人の為の兵器として使われる事を罪に思い、それが発端でノーベル賞を作った経緯がある。

*2:刑法62条