724二宮厚美著『新自由主義からの脱出――グローバル化のなかの新自由主義VS.新福祉国家――』

書誌情報:新日本出版社,342頁,本体価格2,300円,2012年4月10日発行

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なでしこジャパン」は女子サッカー日本代表の愛称である。清少納言はたしか「草の花はなでしこ 唐(から)のはさらなり 大和のもいとめでたし」と書いた。これにひっかけていえば,新自由主義は「唐」のも「大和」のも願い下げだ。本書は「新自由主義ジャパン」を批判するだけでなくそれに代わる新福祉国家の可能性を論じた意欲的な書である。
著者はすでに新自由主義と新福祉国家について数冊上梓している。とくに新自由主義については,古典的新自由主義との対比から新自由主義と日本的新自由主義を特徴づけた『現代資本主義と新自由主義の暴走』(新日本出版社,1999年12月,[isbn:9784406026970]),格差社会を克服する立場を明確にして新自由主義および新自由主義に与する議論を徹底批判した『格差社会の克服――さらば新自由主義――』(関連エントリー参照),新自由主義の社会的・経済的・財政的・イデオロギー的・政治的破綻を論じた『新自由主義破局と決着――格差社会から21世紀恐慌へ――』(新日本出版社,2009年2月,[isbn:9784406052276])があり,著者の新自由主義への最後通牒と代替案の提示が本書になる。
本書のひとつの特徴は「社会保障・税一体改革」の意味を追究していることだ。「社会保障機能強化」と「財政健全化」を一体的に追求するという改革は,表向きは「消費税増税の一石によって「社会保障機能強化」と「財政健全化」との二鳥を捕る作戦」だが,本当の狙いは「社会保障機能強化をエビ餌にして消費税増税の大鯛を釣り上げようという」「一体改革」(153ページ)である。「新自由主義新自由主義を呼ぶ」という「一体改革論」の分析は著者の面目躍如たるものがある。
ふたつめの特徴は,財政や社会サービスの歴史と理論をふまえた新自由主義への代案の提示である。新自由主義が税収の空洞化(消費税を基幹税にする),保険主義強化(受益・負担関係を強化する),分権化(ナショナル・ミニマム保障を弱体化する)を推し進めたがゆえに,国民国家の役割の再強化,公費投入の再強化,垂直的再分配の再構築が必要になるとする。3・11は,①優先的課題としての医療保険,②個別的・共同的ライフラインの確保,③社会サービス労働の保障が「決定的意義」を持つことを教えた。「3・11の被災者にとって,市場原理,保険原理,規制緩和,受益・負担関係の明確化,現物給付の現金給付化,消費税の基幹税化,ナショナル・ミニマム軽視の分権化等はなんの役にもたたないガラクタ同然のものにすぎない」(232-3ページ)。
みっつめは,「橋下主義」の評価である。「野蛮な新自由主義プラス独裁体質」との形容の背景に,「大都市大阪の貧困都市化の進行,貧困なる精神の芽生え,他人の不幸は鴨の味風のさもしい根性の蔓延,大阪に固有な吉本流イジメ笑い(これは当たっている:評者注)」(327ページ)が橋下に依存と期待を持たせているとみる。ハシズムを彼のキャラだけで見ていないところがミソである。