2-1.電撃的石狩

時刻は22時を回りました。フジとあんまり大差ないじゃんなんて書いたけど二日いるとそうでもないなと思う。テントをしげしげ見たら外壁に虫のフンが無数に付着していて虫のヒットポイントの高さがそうでもないなと思う。

エロ編に「『ユリイカ』だな」と言われて素朴にそう言ったのだろうけれど揶揄されたような気がして「ちがわい、後追いじゃい」と分かるような分からないような反駁をしたのだけれど、サブカル好きな参加者を最高に困らせたのは、二日目17時台のムーンライダーズと、UA×菊地成孔のバッティングだろう。おれもさんざ悩んだが、メインステージ(SUNSTAGE)で米米クラブ9年ぶりの復活ライブを見てから戻ってくる途中にまずライダーズのRED STAR FIELDがありそのつぎにUAのmoon circusがあるという配置になっていて、後者だろもう観られないし、と決意してレッドを通過しようとしたらこの季節そしてこの場所にぴったりな「9月の海はクラゲの海」をやっていて翻意してステージの前へ前へ。

つぎの「Sweet Bitter Candy」も実にこのフェスの夕方の空気にぴったりで盛り上がった。MCで鈴木慶一が「つぎも良明の曲、聞きたいか〜?」「ムーンライダーズ好きか〜?」って何度かコールアンドレスポンスしてすかさず白井良明が「おれは好きじゃない・・・うそ!」みたいなキワキワな発言をしていた。その後の曲はたぶん最近のやつでおれ分からないが後半で各パートを順にフィーチャーするセッションになって、あれライブではツインドラムなんだったっけ?とか、こんなにびしっと演奏するバンドだっけ?とか失礼なことばかり浮かんだ。

なんて感じで時間食ってしまった。どんつきのムーンサーカスは大混雑だ。遠巻きに見ていたが、菊地さんとUAが交互にボーカルをとる曲があるんですね。スパンクハッピーで氏の歌声は聞いていたけれど、あれよかもっと端正かつセクシーなボーカルでクラクラした。スキャット対決もなかなか見物だった。

2-2.電撃的石狩2

それからはしばらくムーンサーカス。高橋幸宏はステージ前端にながーいテーブルを渡して、横一列に四人が座る。左から、高田蓮(よく分からない)、高橋氏(つまみ、パッド)、権藤知彦ユーフォニウム、ピアニカ?、コンピュータ)、そして高野寛(いろいろな音が出てきてシンセのようなギター)。曲は新譜からあまさずあの曲もこの曲も。2曲目には「CUE」。たぶん増上寺やフアナ・モリーナと出たリキッドルームと寸分たがわぬセット(ブログ見回す限り)。MCでは、今日の演奏は気持ちがいい、先日野外フェス(増上寺のスローミュージック?)に出たら1曲目で蜂に刺されて、ロマンティックな顔をしてむりやり唄い続けたというような話。そのたたずまいと端正な音に興奮したが終わってみるとその動きの少なさに、CDで聴けばいいかもと結論づけてしまうおれは青いか。

そのまま30分いちばん前に居座ってrei harakami feat. 矢野顕子を見た。矢野さんによるとユニット名は「やのかみ」。まず4曲、「(会場を)あたためるため」にハラカミが一人で出てきて、せわしなくつまみをいじりながら猫背でソロ。『わすれもの』から1曲、あと3つはすげえ有名な曲です、CD、人の家でしか聴いていないから曲名が分からないが。レッドカーブとかラストとかだきっと。それでじゃああっこちゃーんと呼ぼうというハラカミの呼びかけがあり、みんなで呼ぶのだが、直前に「おまかせの方じゃないよ」というのは一言余計だ。いらん言葉で身を危うくする彼の人柄に共感した。矢野さんの流暢な英語の発音も茶化す気はないのだろうが突っ込み入れていたし。

声に応えるように矢野さんが出てきたら、「かわいい〜」って声があちこちに。しかし気持ちは分かる。失礼だけど、年を重ねるごとにきれいになっていく女性だ。左手に鎮座するピアノには向かわず、ステージ中央でスタンドマイクに向かう。めずらしいな、立って唄う矢野さん。「おわりの季節」。細野版の明るさには負けるが、ハラカミ版の不穏な感じはない。可憐な明るさをもって、ハラカミのトラックに合わせて唄う。ももをパーカッションのようにリズミカルに叩いたり、かるくのけぞったり、動きのあるボーカル。次いでピアノに向かって、「David」、二年前にハラカミと作ったという「TRAIN HOME」というような曲、そしてハラカミの才能を知ったきっかけ(大意)という「ばらの花」を。この三曲はもちろん、ハラカミのトラックと矢野さんのピアノによる演奏。ハラカミの虹色のトラックがあるからピアノは若干口数少ない。痺れた。泣けた。コラボってこういうものだというような演奏。曲作りのために矢野さんがハラカミに電話をするとき、かならず最初に「いま起きてた?」というんだそうだ。それでハラカミは「あ、あ、あ、あ、起きてます」と答えるんだとか。矢野さんに萎縮しているというよりは、単に挙動不審なハラカミと矢野さんのやりとりは親子みたいでもある。

一旦ハラカミが退いて、「スーパーフォークソング」(隣の女の子が泣いちゃった)、「ローズガーデン(か分からないがたぶんこれ)」、「ごはんができたよ」をピアノソロで。途中ぼんぼんと花火が上がって、その音が演奏のちょっとしたスパイスになっていてよろしかった(すげえどうでもいいが花火にまじって向井秀徳の歌声が流れてきてソロいまやってんのか?と焦ったが今日ばかりは勤勉な向井ファンのおれもまんじりともしねえよ)。最後に「気球に乗って」ってのを二人で。幸宏さんと矢野さんの時間の間、石狩のはじっこで、今いちばん新しい音が鳴っていた。矢野さんは二人の共作について、リリースの可能性も仄めかしていた。

そろそろ佳境。ネットカフェの向こうからモーサムトーンベンダーの威勢のいいロックが聴こえてくる。

1-1.初めて来たが

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZOに来ている。フジよりも規模はやや小さく、外国人や年長の人があまりいないのが第一印象だったが、会場内にATMがあったり、ゴミがリサイクルのため、全13種に分別しての回収だったり、このようにインターネットに触れるカフェ(ネットカフェだがお茶は出さない)も気軽に入れるようになっていたり、トイレも数自体が多いのか、行列を作って並んだりせずに入れたり、しっかりしているなあと思うところが多い。雨が降らなければTシャツ一枚で平気だから、逆にあまりついにライジングサンまで来たという感興が湧いてこなくてそれはさびしいが。

1-2.甲子園と真心ブラザーズ

二日目の今日はホーン4人にスカパラのkbの人(沖井さん? 前日のスカパラのステージ、自分は見なかったが、万が一、今日出演する高橋幸宏がゲスト出演して「WATERMELON」をやったら死んでも死にきれないくらい後悔すると気が気じゃなかった。ゲストVOはヒロトだったそう)、コーラスのうつみようこらを迎え、10人編成の真心ブラザーズにまず感心した。拝啓ジョン・レノン、空に舞い上がれ、あとぼくらはナントカで歩く〜って曲など、ヒットパレードの様相だが、中盤、YO-KINGのMCで、現在進行中の甲子園準決勝で地元駒沢大苫小牧が優位に立っているという報告のあと、「行きのタクシーのなかでSTVラジオが流れていて、そこで甲子園でよくかかる応援歌という特集をやっていた(のでこの曲をやろうとそこで決めた)」という話をして、そうしたら桜井がすかさず「山本リンダ狙いうち?」と合いの手を入れてきて、そうしたら「『狙いうち』のあとにこの曲がかかっていた」と話して「ドカンと一発やってみようよ〜」というあの有名な曲が始まってその辺りの呼吸は見事だった。10人によるエンドレスサマーヌードはキラキラしていてたいへん豪華。余談だが桜井さんがもったりとしたオーバーオールを着ていて、YO-KINGが楽屋に来たとき、それがかかっているのを見て嫌な予感がしたという。バンドメンバーにも不評で、「みんなに迷惑をかけながら自分の夏を貫いている」というようなMCがくだらなくて笑えた。

ちなみに木曜日、自分が新千歳空港に着いたら人だかりができていて、それは甲子園の中継を取り囲み一喜一憂している人の群れだったのだが、翌々日の今日は札幌の駅前のショッピングセンターもVTRに注目している人たちがいて大変なものだった。RSRの会場にもだれかが設置した苫小牧の試合速報が記入された黒板が置いてあった。大変なもんです。

1-3.つらつらと感想

ついでメインステージに流れていってちょこっとケツメイシを見たが3MCの声がよく、かつ歌とラップがうまく驚嘆した。日本のグループで3MCだと、たいがいデス声というか、不良声を出す低音担当がいると決まっている気がするのだが、この三人はもちろん中高低と音域に差があるのだが、どれも実に歯切れよく、きれいな声でラップをする。あと昨日見た湘◯乃風とくらべると、よりヒップホップなりレゲエなりのジャンルにきちんと問いかけを行った上で上手に換骨奪胎しているという印象を持った。言葉が音にうまく乗っていて気持ちがいい。

初日のオープニングをかざる湘南乃風はある種誠実でない態度で見たことは認めよう。しかし予想を超えるアクトだった。MCで平気で「つぎの曲は、東京で薬物をやってダメになって、いま北海道の北から二番目にある離島でベッドメイキングをやって出直している友達に捧げます(追記。大意です)」とか、ポンポンと出てくる。詞のメッセージもまっすぐ過ぎて思わず目を閉じたら億千の星が飛んでいちばんそばにお前がほしくなった。なぜか亀田三兄弟がシャドウボクシングしている様が浮かんだ。

1-4.初日はROVOで締めた

RSRは奥のムーンステージというところがフジのフィールドオブヘブンにあたる、ちょっとトライバルな雰囲気のバンドが出たり、あと卓球のLOOPAナイトもここで行われたりするのだが、石野卓球川辺ヒロシのInkはけっこう興奮した。井上陽水「氷の世界」のカバー、ボーダフォンのCFソング「ベースライン」と畳み掛ける。CDではよく分からなかったが、たぶんこのユニットのコンセプトには、ジャケットが巨大なカセットテープであるように「アナログ」なり、「DJの身体の解放」なりがあるんだと思う。ブースで体を動かして、うまい下手に拘泥せずに放縦に歌い上げる卓球の勇姿を見ると分かる。あとリアルタイムに、けっこう自由に曲をいじったりしているように見えた。よく分からないけど。

初日はおなじくムーンステージのROVOで締めた。ゆらゆら帝国を1曲だけ見て急いで移動したのはフェスならではの贅沢というか勿体なさがあったが。ROVOは22時30分から23時30分までで、それ以降も怒髪天、レックと中村達也によるFRICTION、2006年のDJ界を回顧したときに、おそらく卓球と並んで「我慢しきれなくなって歌い始めたDJたち」というテーマで語られるであろう山本mooogのバッファロードーターなど面白そうなラインナップだったが、これら深夜はテントを持ち込んでいるキャンパーのみが見られる。宿を外にとっている人間は、終バスの関係でここですごすご打ち止めなければいけないのだ。なのでROVOが最後。

きっと『MON』に入っている「LOQUIX」や「iNax!」をやってはては「KNM!」に突入していくような、分かりやすい、フェス仕様のセットでくるものだと予想していた。そしてそれを期待していた。そうしたら冒頭のMCで勝井さんが、「今日はRSRに呼んでもらうのも三年目になるが、今度出る新曲『コンドル』を初演奏する。この曲は1時間に亘り、3つのパートに分かれている」と説明してまさかの「コンドル」へ。

3部構成だが基軸となる原田さんのベースラインが重たく単調で、ドカーン、ウギャーというような曲ではない。なかなか分かりやすいブレイクが訪れず、最奥のステージにも関わらず、諦めた顔で去っていく人、入ってくる人でPAそばは潮目みたいになっていた。

この曲に関してはまだよく分からないが3部は、勝井さんが上品な高揚感を持ったフレーズを延々と、執拗に、呆れるくらいに繰り返す。それが徐々に勝井さん自身と楽団のダイナミズムを生み出してまさにコンドルが際限なく飛翔していくのだが、ここは言ったようにドガーンではなく、あくまで上品だったけれど、非常に心地よかった。とにかくしつこい程繰り返す、その運動の軌跡が気持ちよかった。

ギトギトのコッテリを期待していたら野菜中心のヘルシーディッシュが出てきたみたいな感じで消化不良は否めなかったが、それはおれが悪いんであって、前作までのリゾート志向、ポップ志向を一旦中座して、大きく出てきたROVOの挑戦に拍手したい。

1-5.ZAZEN BOYS ごく簡単に

ザゼンボーイズは初日のメインのSUN STAGEで19時30分から。言い忘れたが雨が降ったりやんだりの気候だった。そんな中ほとんど3列目くらいで必死の形相で食らいついて見た。水滴と湯気で眼鏡は単なる視界を遮蔽するグッズと化していたので見たというのは不適かもしらんけど。二三抜けていると思うが、SUGAR MAN/ HIMITSU GIRL'S/ RIFF MAN/ セカラシカ/ COLD BEAT(ここの三連発は殺す気かと思った)/ FRIDAY NIGHT/ CRAZY DAYS/ KIMOCHI/ 半透明少女 という順序。クレイジーデイズとキモチで椎名林檎がゲストボーカルとして登場。すこし胸のあいた黒いドレスでもじもじというか、あの向井と唄う時に見せる、愛くるしいはにかみを全身に浮かべながら、上品だが猥褻な美声を披露していた。CXの「ぼくたちの音楽」を除いてステージでの共演は3度目か4度目? おれは興奮しつつも身体の危機を感じていた。松下ドラムスは一打一打がイマジネーションでいっぱい。

6.初日のおまけ

ROVO見て延々歩いて、シャトルバスのほとんど終バスにちかいやつに乗り込んで、まあ落ち着いたと思ったら、横からエンジン吹かす爆音が挑発的にならされて、二台のバイクが現れた。ともに二ケツしていて、片方はハンドルのところに日の丸国旗を掲げていて、ボディカラーも白と赤。最初はおもしろがって見ていたが、二台がするするとバスの先にたって走り始めると剣呑な雰囲気に。バスを挑発するようにノロノロと蛇行運転・ときおり後ろの男がバスにちらちらと視線を送る。疲労困憊、残ったエネルギーはすべて最後のステージに置いてきた、というようなバスの乗客は徐々にいらだちを隠せずに、「死ね」「死ねばいいのに」「轢かれるよあれ」など毒づくも現実には無力。このノロノロと無力な罵りの対峙は15分は余裕で続いたはずだ。幕切れは飽きた二ケツがどこかの角を曲がって去っていったところ。背中に「死ね」「死ね」の大合唱を浴びていたって連中は知っていかどうか。どっと疲れておれはすすきののカプセルホテルに帰還したのだった。