『虚構機関』

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

 これは楽しかった〜。日本SFの年鑑的なアンソロジーがそれほど長い間編まれていなかったなんて、意外でした。この企画、ずっと続いてほしいなぁ。
 中原昌也さんのと岸本佐知子さんのだけが既読で、あとは全部未読だったので、ベテランから新人まで、今の日本のSFってこういう感じになってるのか、というのが分かって、ほんと、楽しめました。
 個人的に好きだったのは、
『七パーセントのテンムー』/山本弘『羊山羊』/田中哲弥、『開封』/堀晃、『うつろなテレポーター』八杉将司、『大使の孤独』/林譲治、『The Indifference Engine』/伊藤計劃あたり。
 以下覚え書きーー
「グラスハートが割れないように」小川一水
 この年になると若モンのラブストーリーがきつい。人の体温で育つっていう、物語の肝のガジェットも、さほど面白く思えなかった。
「七パーセントのテンムー」山本弘
 恋愛モノなんだけど、こっちは俄然面白かった。数パーセントだけ、生まれつき「I因子」が欠けている「ゾンビ」と呼ばれる人がいて、自分の恋人がそうだったらどうするか、という話。女性の一人称で、一回りも年下の男に対しての感情に苦悩する設定がよかった。結局愛とは最新の脳科学でも解明されない物だということか。
「羊山羊」田中哲弥
 昔の筒井康隆のドタバタものを思い出して面白かったな。欲望と理性のせめぎ合いって、本当に、決して笑い事では済まない切実な問題なんですよね〜。
「靄の中」北國浩二
 初めて読む作家さん。『盗まれた街』をサスペンスタッチにしたような作品で、結構面白かった。
パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語円城塔
 紐虫の話とか、部分部分は面白いんだけれど、全体としてはさっぱり分からない。
「声に出して読みたい名前」中原昌也
 筒井さんも誉めていたという「怪力の文芸編集者」の方が数倍面白いので、2006年の作だから落とされたっていうのは残念でした。現在は小説を書くのをやめているのか〜、これも残念。
「ダース考 着ぐるみフォビア」岸本佐知子
 もっと面白くてSFぽいエッセイが他にいっぱいあったような気がするんだけどな〜。ちょんまげの話とか、ケーブルカーが温泉になってて異界に行ってしまう話とか、国際きのこ会館とか・・。
「忠告」恩田陸
 分かりやすすぎてちょっと・・って感じだった。
開封」堀晃
 シュレディンガーの猫ドッペルゲンガーと。宇宙空間で、一人のはずの男が味わう恐怖。堀さんの長篇をまったく読んでいないのに気付いて、いつか読んでみたいと思った。
「それは確かです」かんべむさし
 懐かしい名前。いやー、でも最後は寂しくなってしまって笑えなかった。・・死なないでほしいです。
「バースディ・ケーキ」萩尾望都
 最近の作品は全く読んでいないので、旧友に再会できたような気がした(「11人いる!」とか「スターレッド」世代なので)。〇〇〇が生殖するっていう変な話で面白かった。
「いくさ 公転 星座から見た地球」福永信
 この人も初めて読んだ。内容がさっぱり頭に入ってこなかったのだけど、何か分からない面白さがある感じで、他の作品も読んでみたいと思った。
「うつろなテレポーター」八杉将司
 以前『夢見る猫は宇宙に眠る』が面白かったので、期待して読んだらやっぱり面白かった。壮大なラストに感動。
「自己相似荘」平谷美樹
 Jコレの『ノルンの永い夢』を読んだことがあるだけで、霊モノ(?)は初めてだったので、こういうのも書くのか〜という感じ。幽霊を科学的に説明するっていう話で、興味のある人には面白いんだろうけど、ちょっと趣味じゃなかったです。
「大使の孤独」林譲治
 この人も読んだことがなくて、(『ウロボロスの波動』と『記憶汚染』を積読中)異星人との意志の疎通を扱った話だったので、とても興味深く読みました。
The Indifference Engine伊藤計劃
 タイトルからSREみたいな訳分からない話なのかとびくびくしながら読んだら、全然違ったのでほっと・・(汗)頭の中を機械でいじったら、戦争の元となる人種とかいろいろな問題が解消して平和な世の中が来るのかっていうと、そんな単純にはいかなくて、人間の憎しみは根が深くて・・みたいな話だった。
 このラストは辛かった、でも現実はこうなんだろう。SFは夢物語じゃないんだから、と改めて思った。