カビたものは捨てましょう

昨日、餅について書き込ませていただきましたが、そのうち、最後のほうに餅に生えたカビについて書き込んだところ「そもそもカビって何?」という質問をいただきました(というか、あるサイトの掲示板にそういったことが書かれていたのですが)。今日はカビについて書いてみたいと思います。

そもそもカビ(漢字で書くと「黴」)とは、肉眼的に観察される微生物の集落(コロニー)の俗称で、特に菌類の菌糸体の錯綜したものを指します。従って、日常的にきのこと俗称される大型の子実体をもつ菌類でも、その栄養体である菌糸体が視認された場合、カビと認識されるんです。また、菌糸体を生じない菌類である酵母であっても、密で表面が粉状の集落を形成する場合、これもカビと認識されることがあります。また、菌類以外にも、タマホコリカビやミズカビ類など一部の原生生物には、カビという名称が付けられている場合もあります。

このように、カビを生物学的に定義することは難しいのですが、ここでは応用微生物学的見地から、菌類のうち、きのこと認識される子実体を形成するものと酵母を除いたものについて、以下に詳述したいと思います。

カビは、菌糸と呼ばれる糸状の細胞からなり、胞子によって増殖します。 私たちの生活空間では、梅雨や台風の季節など湿気の多い時期・場所に、たとえば食物、衣類、浴槽の壁などの表面に発生します。多くの場合、独特の臭気を嫌われ、また、食中毒やアレルギーの原因となることもあります。その一方で、食物や薬品(ペニシリン)を作るのに重要な役割を果たすものもあります。

カビは、複数の分類項目にまたがる菌類の俗称で、様々な生活様式をもったカビが存在しています。たとえば、カビとして一般的なクモノスカビ(Rhizopus stolonifer)は、菌類の一つである接合菌門(Zygomycota)に属します。 空中を漂っている胞子が、腐敗した植物など湿った有機物の表面に触れると発芽し、菌糸のネットワークを形成します。また、植物の根に相当する仮根と呼ばれる菌糸のかたまりを形成し、仮根の先端から酵素を分泌することで、有機物を分解し、栄養を吸収しているのです。接合菌門の特徴は、2種類の繁殖様式をもっていることです。無数の胞子を持ったコブ状の胞子嚢を菌糸の先端に形成し、そこから胞子を放出するという単性生殖と共に、両親となる2つの菌糸が融合し接合胞子を形成するという有性生殖も行います。

カビは、自然界のあらゆるところに生息しています。動植物の遺体、老廃物上でそれらを分解する分解者として働きます。そのような場では、出現するカビの種(しゅ)が、分解が進むにつれて、次第に変化することが知られており、遷移と呼ばれています。土壌中には広く分布し、あるものは分解者として、またあるものは菌根の形で植物と共生関係を持っています。 植物上に生息するもの、植物に寄生し、その病原体として働くものも多いんです。動物に寄生するものも少数ながら存在します。

カビが分泌する酵素による作用は、様々な食品に用いられています。主な作用としては「タンパク質をアミノ酸に分解する」「デンプンを糖化する」が挙げられます。チーズでは、アオカビを用いた「ロックフォール」や「ゴルゴンゾーラ」などのブルーチーズが有名です。また、白カビを用いたものでは「ブリー」や「カマンベール」などがあります。日本古来の発酵食品では、日本酒、焼酎、醤油、味噌などがコウジカビを穀物で培養し、繁殖させた麹(こうじ)を用いて醸造を行います。

なお、社長・柏龍の好物でもある納豆は、発酵に納豆菌を用いられますが、納豆菌は細菌の一種であり、カビではありません。くれぐれも誤解されませんように。

抗生物質として知られるペニシリンは、1940年代にアオカビの分泌物より抽出され、梅毒、淋病、破傷風、しょう紅熱などの感染症の特効薬として、医療分野に画期的な成果をもたらしました。アカパンカビ(Neurospora crassa)は、時計遺伝子の分子機構を解明するためのモデル生物として知られています。

また、一部のカビは毒素を作ります。カビの生産する毒を総称してマイコトキシン(Mycotoxin)と呼びます。ヒトや家畜などに対して 急性もしくは慢性の生理的あるいは病理的障害を与えます。現在、100種類以上のマイコトキシンが報告されており、アスペルギルス、ペニシリウム、フザリウムの3属によるものがほとんどです。ちなみにMycotoxinという単語は「菌の」という意味の接頭語である「myco-」と、「毒」の意味で「toxin」からなる言葉です。アスペルギルス・フラバスやアスペルギルス・パラジチカスの生産するアフラトキシンは発ガン性物質で肝炎などを引き起こします。フザリウムの一部(所謂アカカビ)が生産するニパレノールなどのトリコテセン毒素は嘔吐、下痢、腹痛などを引き起こします。

まあ早い話が「カビてきてるものがあれば早めに捨てましょう」ということです。カビの菌糸は内部に深く入っているので、カビの見えるところだけそぎ落とせば大丈夫というものでもなく、カビの毒は熱に強いものもあるので、焼いたりゆでたりしても安心とは言えないのです。カビを削るのではなく、カビてきた物を削りましょう。そして今度は二度とカビが生えてこないよう、早めに対処されることが一番だと思いますよ。