メイドさん
【定義】
広義のメイドは雇用契約に基づいて家事労働全般に従事する女性の総称であるが、狭義には日本家政婦協会によって派遣されているものだけを指す。そのほとんどが協会の運営する学校(長崎県明度島)の卒業生である。現在の派遣数は5021名(2001年)。この場合のメイドは雇用主との相対(あいたい)契約ではなく、協会との契約に基づいて派遣されている。基本的に養成校の学費はローン返済の形であり、協会の派遣契約(協会指定先への派遣期間中は学費の金利は停止される)とセットになっている。
この契約によって拘束されている点が、一般の家政婦紹介所から派遣される場合との最大の相違点であり、現在でも富裕層を主体にメイドの需要が存在する理由である(詳しくは後述)。
【歴史】
イギリスにおけるメイドの発展が男性使用人に対する課税とヴィクトリア朝の社会制度とによってもたらされたものであるのと同様に、日本における発展も、社会制度と不可分の関係にある。
戦前の華族制度や大正期の好況による家事労働の市場化、当時の社会的な流動性などが相まって、専門的な知識を持つ家事労働者の需要が発生した。
1895年に日本家政婦協会によって高等女学校として家政婦養成学校が設立されたのは、高度な能力を有する家政婦を供給するためであった。設立当初から協会と派遣先との契約や学費の貸付などは制度化されていた。自己負担なしで女子が中等以上の教育を受けられる唯一の機会であったことから、協会は派遣先の信頼を獲得できるだけの質の人材を得ることができた。
その後、雇用主の犯罪について、猪熊事件の大審院刑事部判決(1907年)で守秘義務に基づく免責が認められた(「雇用者ノ犯シタル不法行為ヲ通報セザル使用人ノ罪ヲ問ハズ」)ことによって、家政婦協会契約の正統性が証明された。大正期のメイド(協会派遣家政婦)の急速な増加はこれを契機の一つとしている。
世間体を何よりも重んずる日本において、家庭内の秘密が使用人の口から漏れることがないというのは重視されるべき事柄であった。従ってメイドを多く雇用したのは成金や中流上層などの上昇志向の強い人々であった。