174 スーツケースの男 2

座頭市も真っ青の居合抜きで戦闘行為の片鱗を見せつけると、とたんに側にいた側近2名が俺に向かって発砲する…が、それを見きって銃弾を全て弾き飛ばして、片方の銃をズタズタに斬って、もう片方は服を斬って素っ裸にして、最終的にはその真ん中に水戸黄門のように居座っていたスカーレットこと蓮宝議員の首根っこ5センチの位置までブレードを持って行き、そこで寸止した。
もしドロイドバスターに変身しようものならその場で殺す勢い…である、が、スカーレットは変身はせず、
「物騒なものはしまいなさいな」
と疲れた顔で言う。
「いったいどうしたと言うのだ?」
幼女が言う。
「貴様…失礼にも程が有るぞ。いくら議員が普段から時間にルーズだと言っても、入っていきなり刃を向けるとは」
冷や汗を掻いているジライヤ。
「サムライ!!いいですね」
ニヤニヤしている外人様の男。
「Yeah…」
相変わらず薄い本を読んでいるコーネリア。
俺はセオリー通りに一言言った。もうこの状況で他にこのセリフを言える奴は居ないのだ…っていうかコーネリアはスカーレットを知ってるはずなんだが、なんでコイツが薄い本に集中してんのかな、肝心な時に。
「スカーレットだよ!スカーレット!!!」
「どこにいるのだ?」
スットボケているジライヤ。
「ほら、ここ、こいつ、コレ!!」
まるでモノの様に俺はスカーレットをブレードの剣先で指し示して教えてあげる、が、全く持って反応なし。コイツ等やる気あるんか?
「人をコイツとかコレ呼ばわりするな!」
スカーレットが言う。
「つまり、蓮宝議員の正体がスカーレットだと言うのか?」
またしてもすっとぼけてジライヤが言うので俺は声には出さずに顔の表情だけで『は?何言ってんのオマエ』的なメッセージを伝える。
「確かに議員は左翼の重鎮ではあるが、だからといってスカーレットの中の人というのは少し無理があるぞ」
幼女が言う。
もうコーネリア以外は全員、俺の言うことを信じていない状態。狼少年…いや、狼美少女状態である。もう「本当なんだってばー!」と言うぐらいしかできない、小学生が幽霊を見た後の言い訳みたいな感じだ。
「小学生が幽霊を見た後の言い訳みたいな事しないでよ」
とスカーレットが言う。
…こォんノやろゥ…。
「少々無理があるな…貴様が論じているのは犯罪者のうち80パーセントは朝食にパンを食べているから80パーセントの人間は犯人である、というぐらいに荒唐無稽な話だ」
「あたしはスカーレットと戦ってるし超間近で顔を見てるからおんなじだってわかるんだよ!っていうかテレビで映ってる映像を見れば一目瞭然じゃんか!!今からYoutubeにアップされてる映像を見せてあげるよ!それで比較してみて、そっくりだから!!」
俺は刀を引っ込めて素早くaiPadを出すとジライヤやら幼女にスカーレットが映っているシーンをドヤ顔で見せた。そして、ストップボタンをタップして画像を拡大、同じ角度で蓮宝議員の隣に並べて、ドヤッ!同じやろ?!とドヤ顔になった。
「どこが同じなのだ?」
安倍議員が言う…俺はもう素早く安倍議員…幼女の頭を両手で抱えて、頭以下プラーンプラーン状態で俺のグラビティコントロールにより浮かせた状態のaiPadの前に持っていったのだ。
「や、やめろォ…」
苦しそうに安倍議員が言う。
「貴様…失礼にも程があるぞ」
ため息混じりにジライヤが言う。
「いやいやいや、すっごい似てるよ、どこが似てないのか教えてほしいよ、どういう節穴の目になればコレとコレが似てないって思えるの?おかしいでしょ?まったく同じじゃんか!!!」
「似てないものは似てない。茶番だ。貴様が言うのは『目があり口があり、鼻がある。どう考えても同じ顔』というぐらいに曖昧だ。3点ほど点があれば顔に見える現象で暗闇に映ったゴミが人の顔に見えるレベルの曖昧さだ。そんなくだらないことで時間を浪費するな」
おいいいいいいいいいいいい!!!
「コーネリア!!コーネリアさんンン!!!前に一緒に戦ったじゃん?ほら、九州やら山口で銀行強盗と戦ったじゃん?覚えてる?」
「Ahhh…Yeah…」
ボケ老女みたいな反応のコーネリア。
「覚えてないんかい!!」
そこまでして始めてスカーレットの野郎が反応した。
ニヤっと笑ってから俺に近づいて、耳元で言う。
「どうやらあなた以外人間は私の正体に気づいていないようね」
「な、なにィィイィィィィ!!!!」
しかし、俺がそれほどマヌケだと思ったのか?そのようなセリフをいつかは吐くであろうと待機していないとでも?マヌケはお前だ!!スカーレット!!何故なら俺は既に今の声をaiPhoneに録音していたからだ。
再生のスイッチを押して、この場にいる全員に今しがたスカーレットが発したセリフを皆に知らせる…。
『どうやらあなた以外人間は私の正体に気づいていないようね』
ふふふ…終わりだよ、終わりだ貴様は!!
「スカーレット…観念しなさい!!」と、再び俺はブレードを引っこ抜いてスカーレットに居合い斬り&寸止めをする。
チラりと背後をうかがって、ジライヤや幼女の反応を見る…。
あれ?
「おいいいいいいいいいいいい!!!!!なんか反応してよ?!今、スカーレットが発した声を聞いたでしょォォ?!」
「突然アニメソングを流したと思ったら蓮宝議員に斬りかかったというところまでは覚えているぞ…いったい何を発狂しておるのだ、キミカ。黄色い救急車を呼んでから鼻の穴の中に白い液体を流して電気ショック療法をしてもらったほうがいいかもしれんぞ」
ン…だとゥゥゥゥゥウゥゥ!?
「アニメソング…なわけないじゃん!!ほら、スカーレットの声だよ!生ボイスだよ!!今、ほら、『どうやらあなた以外人間は私の正体に気づいていないようね』って言ってる、ほらほら!」
俺は繰り返し繰り返し再生した。
もうプレイリストのトップに入れて評価に3つ星を入れてiTunesに『クソババアの声』で商品として登録した。
それでも幼女は言う。
「アニメソングなのだ…たしか深夜アニメ『ちっぱいちっぱい』のEDの『教えてお兄ちゃん』なのだ…キミカのアニメの趣味は卑猥だぞ」
「え、ちょっ…えぇぇぇえぇぇ?!」
「Hey…キミカ。最近先生ノ趣味ガ感染ッタヨウデスネ…」
「ち、ちがっ…どうなってんだよォォォォ!!!」
スカーレットこと蓮宝議員はホログラム装置の前まで歩いていくと、俺に向きなおして、
「インフォメーション・コントロール
と一言言った。
「は?」
「ドロイドバスターの秘技の一つ…『インフォメーション・コントロール』情報を自在に操ることができるわ。あなたにどうして効かないのかはわからないけれど、私の正体をどんなに根拠を示して理論づけて彼らに説明しても、理解されないわ。理解する部分を私がコントロールしているから。こうやってあなたに向かって話をしていても、その内容は理解する時に別のものに書き換わっているのよ。わかる?」
な、な、なんじゃそりゃァァァァァアァァ!!!
「え、じゃあ、例えばあたしがこうやって、」
と、aiPadのペイント機能を起動して下手くそな字で『インフォメーション・コントロールの能力で捏造している』と書いてコーネリアや外人様、それからジライヤに議員と、見せたけれども…。
「別の物に見えてるってことォ?」
「そういうこと」
すると幼女はaiPadを手にとって、
「なかなか可愛らしい絵ではないか。えーっと、これは深夜アニメ『ちっぱいちっぱい』に出てくる幼女…『たてまつり・まつり』ではないか…キミカ…どんだけ幼女が好きなのだ…できれば成長するまで近づかないで欲しいのだ…」
おいいいいいいいいいいいい!!!