逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成〈F〉

「ぼくの、マシン」に比べるとSF成分は少なめ。ストーリー重視の短編集ということらしいです。個人的には、あっさりした短編が多くて物足りなかった。
以下、ネタバレなしで解説。


恩田陸「夕飯は七時」 4点

知らない単語を聞くと、その語感のイメージを具現化できる能力者たちの熱き戦い(うそです)。

三崎亜記「彼女の痕跡展」 3点

この人あんまり好きじゃないんだよなあ。すげえどうでもいいことを、どうでもよさそうに語る感じ。この短編も「恋人が消えたはずなのに、その恋人が誰かわからない」とかいう話で、ええい、もう勝手にしろって感じですよ。独特の雰囲気はあると思うんですけどね。

乙一「陽だまりの詩」 6点

最後に生き残った人類が自分の墓を作ってもらうためにロボットを作る話。なんかロボットが人間らしさに気づくあたりの描写がいかにもって感じで鼻につきましたが、オチがよかったので許せる。

古橋秀之ある日、爆弾がおちてきて」 5点

爆弾が落ちてきたと思ったら女の子の姿をしていた。親方、空から女の子が! 的ボーイミーツガール。普通かな。

森岡浩之「光の王」 6点

普通のサラリーマンに襲いかかる非日常。すごくSFらしい作品。

山本弘「闇が落ちる前に、もう一度」 5点

五分前創造仮説もの。この人の作品からは小説の匂いがあんまりしない。なんかブログの日記のような近さがある。

冲方丁マルドゥック・スクランブル“-200”」 5点

重いテーマをいろいろ詰め込みすぎて、場面場面が少し唐突になっている。「マルドゥック・スクランブル」のスピンオフとしては楽しめるけど、これ単体だとあんまり。

石黒達昌冬至草」 7点

幻の植物「冬至草」を追う話で、NHKの良質のドキュメンタリーみたいな味わいがある作品。面白いです。

津原泰水「延長コード」 5点

「五色の船」を読んで天才だと思ったけど、この作品はそんなでもなかった。娘の死を知った男が娘の遺品を探そうとして、なぜか出てきたのが大量の延長コードで、それをとりあえずつなげてみるという話なんですが、あらすじだけ聞くとすごいつまんなそうです。

北野勇作「第二箱庭荘の悲劇」 6点

牧歌的なユーモアがあふれる作品。荘転移には笑った。

小林泰三「予め決定されている明日」 9点

コンピュータが仮想世界を演算するように、算盤だけで世界を計算してみせる話。いやあ面白いです。

牧野修「逃げゆく物語の話」 8点

有害図書が規制によって駆逐されていく話。この世界では有害図書は人形の形をしていて自らの足で逃げることができるので、文字通り駆除の対象になっています。まるで害虫のように容赦なく弾圧される図書たちに明日はあるのか。

余談

表紙を並べるとカッコいいです。