マホメット

マホメット (講談社学術文庫)

マホメット (講談社学術文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
イスラームとは何か。マホメットとは誰か?根源的な謎に答えるため著者はマホメット出現以前のアラビアの異教的文化状況から説き起す。沙漠を吹暴する烈風、蒼天に縺れて光る星屑、厳しくも美しい自然に生きる剽悍不覇の男たちの人生像と世界像。魅力つきぬこの前イスラーム的文化パラダイムに解体を迫る激烈な意志としてマホメットは出現する。今なお世界史を揺がし続ける沙漠の宗教の誕生を、詩情豊かに描ききる名著の中の名著。

イスラームができる前の無道時代の記述が本文全体の半分くらいを占めているけど、イスラーム以前のことが書いてあることで、より理解できやすくなっている。
ムハンマド以前のペドウィンは、過去は現在の一部で現在よりももっと尊い現在だと考えていたというのは、現在からすると想像できないので、どういう認識、感覚だったのか興味深い。慣行(スンナ)を重視するペドウィンの考えを革命するイスラームの現在の主流派がスンニー派であることからも、過去の革新は現在の保守ということを思うと面白い。
『形而下的な現実を一歩も踏み出すことができないこんな徹底した感覚主義者が現実そのものに満足できなくなったらどうなるか。そうなったが最後、もう絶体絶命の袋小路ではないか。完全に行きづまって、進むことも退くこともできなくなってしまうのだ。(50P)』イスラーム以前のアラビアがそんな状況だったということははじめて知ったが、それなら急速にイスラーム教が信者を増やした理由も分かる気がする。
『一般にセム人の預言者的宗教においては、元来政治と切りはなして宗教を考えることはできない。強力な政治性の裏づけのない信仰は、少なくともこの世界では骨抜きで物の用の役に立たぬ。(101P)』、宗教団体の母体を大きくするためには、布教者には強力な政治性が必要なのもわかるけど、預言者その人がそういう役割を担うのはな、ほかに適役がいなかったんだろうか。
アッラーが古くからある砂漠の神で、メッカの市民たちが多神教を信仰していた時代でもアッラーは神々のなかの至高の存在で、メッカの市民たちもアッラーの優位、至高性を認めていて、『最初マホメットが企画したところでは既存宗教の改革、浄化であって、決して一の新宗教の設立ではなかったことがわかる。(95P)』というのは知らなかった、そういえばキリスト教も起こりはユダヤ教の改革が目的だったというのを読んだことあるようなないような。