「新・都市論TOKYO」―東京再開発を批評する (評価:B)

新・都市論TOKYO (集英社新書 426B)

新・都市論TOKYO (集英社新書 426B)

お勧め度:★★★☆☆
 
 トーキョーはクレイジー、とある外国人は言う。
 
 例えば、週末の新宿駅の中央線最終電車。山手線から目にした光景は、とても悲惨なものだった。ナチスでもユダヤ人をあのように収容しないのではないかと思ったぐらい、人々がびっしり押し込められていた。
 
 「東京」とは、いろんな街が隙間なく密集した地帯である。一つの都市として語ることすらおこがましい気がする。
 
 そんな「東京地帯」では、景気が回復していないというのに、大規模な開発が各地で始まった。例えば、六本木ヒルズ、汐留、丸の内……。それらのコンセプトには「職・住・遊」の三つの機能の有機的複合がある。なぜ、その三つの要素が一つの場所に必要なのかは、次の理由による。
 

  1. 脱工業化時代は第二次産業都市から第三次産業都市への移行を要請している。
  2. 第三次産業は騒音などの公害問題がなく、女性の進出を可能にした。生活のできるオフィス街こそが、新時代の都市像である。

 
 東京は醜い、景観が悪い、とよく聞く。そんな評価を上げるためにも、国際都市TOKYOにふさわしい街づくりが望まれたのだ。
 
 しかし、景観が美しいと有名なパリやロンドンに、東京はなれそうもない。例えば、パリのディズニーランドは失敗に終わった。逆に景観の悪い東京のディズニーランドは大盛況だ。人々はみずからの居住区域にテーマパークを求めていないのだ。バーチャルとリアルの区別があったほうが、日本人は楽しめるのだ。
 
 日本人の景観とは、自分の家の日当たりが良いかどうかの問題にすぎない。街の景観のために、不便な生活で満足する日本人は少数だ。それを美意識がないと罵るのは、日本人を理解するうえで、どれだけ意味があるのだろう。
 
 本書では、そんなテーマパークだか居住区域だかよくわからない、再開発の街を建築学的に語っている。これを読むと「東京ってバカだな」と心底思う。著者の一人、隈研吾は慶応大教授の建築家であり、彼の東京批判はかなり説得力がある。
 
 そのため、本書はインテリっぽく東京を批判したい人が読むべきである。ついつい感情論で東京を批判して敗れ去る関西人の皆様は、ぜひ本書を読んで、東京本社の連中と渡り合ってもらいたい。「あんたら本社の人間がやったところで、汐留程度のくだらん街を作るのがオチや」と言えるぐらいにはなる。
 
 なお、隈氏が「面白い」と語る街は「秋葉原」と「町田」である。確かに、東京地帯で外国人を楽しませる生きた街は、秋葉原しかないだろうな、と思う。
 
本書の目次は以下の通り。
 
第一回 汐留
悲しい「白鳥の歌」が響き渡る21世紀の大再開発
 
第二回 丸の内
東京の超一等地に三菱の「余裕」がどこまで肉薄するか
 
第三回 六本木ヒルズ
森稔の執念が結実した東京の蜃気楼
 
第四回・代官山
凶暴な熊に荒らされる運命のユートピア
 
第五回・町田
「郊外」かと思ってたら「都市」だったという逆説
 
 下手なガイドブックよりも役立つ「東京の歩き方」であると思う。でも、本の紹介だけでは芸がないので、僕なりに本書のテーマを踏まえつつ、それぞれの街をナニワっ子と一緒に歩いてみることにした。以下、連載である。
 
【ナニワ娘と歩く新東京 目次】
 

  1. 汐留 ―巨大なビルにはさまれて/なぜイタリア?
  2. 丸の内 ―分断された街/「癒し空間」という名の巨大モニュメント
  3. 六本木ヒルズ ―白人のいない観光地/東京タワーと丸い砦
  4. 代官山 ―渋谷の特殊事情/Are You Hungry?
  5. 町田 ―どこまでが東京/リアルとバーチャルの交差点