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2016-09-11 たまにはさかさまに世界を見てみる 貸切り図書館36冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の36回目を、ゲストカーネーション直枝政広さんをお迎えしてお送りしました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。直枝さんが本についてじっくり語る機会もあまりないと思われるので、貴重な一夜になったのではないかと思います。

前日も江ノ島ライブだったという直枝さんですが、打ち上げの後に朝まで大谷能生さんとカラオケをしていたそうで、それでも「いやー、さっき円覚寺に行って来てね」ときちんと鎌倉を散策してから会場入りされたとのことで、タフだなあと感心してしまいましたね。リハーサルでも全然疲れも見せず張りのある声で歌われて、この声カラオケボックスで独占していた大谷さんが羨ましいなと思ってしまった私です。リハ中、直枝さんから「なぜに貸切り図書館というタイトルで本を紹介するイベントなの?」と尋ねられたので「通常のライブに何かもう1個違う要素を乗せたいと思った時に、店主が元図書館司書本が好きというのもあって、本を紹介してもらう内容になったんです」と応えると「おお、なるほど!」と合点がいったようで、実際本番ではこのイベント趣旨に沿ったステージを展開してくれました。

そんな本番は「やるせなく果てしなく」からスタートしまして。個人的に聴きたいと思っていた曲なので冒頭からグッと来てしまいましたね。直枝さんはアコギを繊細に爪弾き、時には激しくかき鳴らし、それぞれの曲の表情をギター1本で巧みに表現していて、改めて素晴らしいギタリストだなと感心してしまいました。ストロークの際にギターのボディにピックがカチカチ当たる音が生々しく響き、これぞ小さな会場で間近で聴く醍醐味だなと思いましたね。そのギターに乗る直枝さんの艶のある渋い歌声がまた切なくかっこよく果てしなく。特に「ANGEL」の熱唱には泣かされました。「いつかここで会いましょう」や「アダムスキー」など新譜からの曲もたくさん聴けて良かったです。(「アダムスキー」はすでにライブでは大人気曲なんですね。)ニール・ヤングカバーにも痺れました。後で聞いたらDJのようにその場で選曲しながら歌っていたそうで、「本のトークと選曲もしなきゃいけないし大変だった」とのことでした。

ちなみに私がカーネーションを聴くきっかけになったのは、20年くらい前、当時各駅停車というバンドをやっていた時にドラマー横山さんから「五十嵐くん、これ良いから聴いてみて」と彼が編集したカーネーション私的ベストカセットを貰ったところからなんですが、この日はその横山さんも会場に見に来ていて、そのカセットに入っていた「1/2のミッドサマー」「市民プール」を一緒に生で聴けて何だか感慨深かったですね。実は15年くらい前に各駅停車カーネーションは一度対バンもしたことがあるんですが、楽屋カーネーションの面々を目前にして緊張してひと言も喋れなかった我々なので、当然直枝さんは「え、ライブで共演したことあるんだっけ?」と覚えてませんでしたけどね。当時カーネーションギタリストだった鳥羽修さんに1曲プロデュースしていただいた縁での共演だったんですが、あれほど緊張したライブはなかったように思います。そんな過去の思い出も加味されてついしみじみ聴き入ってしまいました。素晴らしい歌と演奏でした。

そして本の紹介のくだりですが、直枝さんのセレクトは以下のラインナップでした。

芥川龍之介著「トロッコ

アンドレイ・タルコフスキー著「ストーカー

上林暁著「花の精」(上林暁傑作小説集「星を撒いた街」所収)

平野威馬雄著「お化けの本」

岡本かの子著「渾沌未分」(「岡本かの子全集」所収)

深沢七郎

「言わなければよかったのに日記

「秘儀」(「みちのく人形たち」所収)

青柳瑞穂著「ささやかな日本発掘」

小林秀雄 講演「信ずることと考えること」(カセットテープ

水木しげる著「悪魔くん千年王国

ゲオルゲ詩集

サム・シェパード著「ローリングサンダー航海日誌 ディランが街にやってきた」

高見順著「敗戦日記

小津安二郎著「小津安二郎全日記」

さらに持参して来たものの、紹介し切れなかったものがこちらです。

三島由紀夫著「美しい星」(この日molnの隣の古本屋で購入したもの)

海猫沢めろん著「全滅脳フューチャー!」

宮脇俊三著「終着駅へ行ってきます」

オムニバスアルバム「陽気な若き博物館員たち」収録の「トロッコ」という直枝さんソロ名義の楽曲は、元々はアンドレイ・タルコフスキー監督の「ストーカー」という映画を見た時に「トロッコ」というキーワードが浮かんで作り始めたそうなんですが、結局出来たのは子供の頃に読んで好きになった芥川龍之介版の「トロッコ」に近いものになったそうで、その芥川の「トロッコ」の一節を朗読してくれました。(直枝さんの朗読はどこか無骨ながら味があって素敵でした。)その後「トロッコ」も歌ってくれたのですが、この曲は「EDO RIVER」とコード進行が全く一緒だそうで(笑)、すべてはトロッコから始まったと笑いながら語ってくれました。

上林暁の「花の精」は昔国語教科書に載っていたものを読んで感動し、その後古本屋で再会した作品なんだそうですが、そのあまりに美しい文章ゆえに一度全文を自ら書き取りし、身体に取り入れたことがあるという話には驚きましたね。曲を完コピするのと同じような感覚なのでしょうか。さらには好きが高じてこの小説サントラまで勝手に作ってしまったそうで、直枝さんにそこまでさせる文章とあれば読まねばなるまいと思った次第です。本当はこの日そのサントラCDも持参して来てくれたのですが、再生する機材がなくて流せなかったのが残念でした。(これは次回のお楽しみに取っておくということでぜひ。)ちなみに山本精一さんも教科書でこの「花の精」を読んで好きになったそうで、後に直枝さんとその話で盛り上がったそうです。この世代の国語教科書グッジョブだなと思った次第です。私もセンター試験の問題に出て来た三好達治文章に惹かれてその後全文を読んだ経験がありますが、教科書試験もたまには役に立つものです。この「花の精」の一節も朗読してくれたのですが、駅の描写に合わせて外から電車の音が聞こえ、臨場感がありましたね。

平野威馬雄さんは平野レミさんのお父さんだそうで(ということはトライセラ和田氏のおじいさん)、直枝さんと同じ松戸在住ということで親近感を持ってよくテレビで見ていたそうです。直枝さんもお化けとかUFOとかに興味があるそうで、本番前にもmoln近くでとても星とは思えない不思議な光が見えたと大騒ぎしていたのですが、その後星座表で確認したらそこにあるべき星を確認して「なーんだ」と思ったというオチを後で語ってくれました(笑)

岡本かの子さんは岡本太郎のお母さんだそうで、この「渾沌未分」という小説の文体は今読んでも全然古くなく、当時の東京の懐かしい光景も伺え、とても良い作品だと絶賛されていました。荒川放水路舞台にした水泳監視員の話だそうですが、無心になって人が泳ぐ姿というのは絵になるし、作品になりやすいというようなことを語っておりましたね。ネットで少し本文を読みましたが、確かに水中の描写がとても上品かつ官能的で、直枝さんが「完璧」と評するのもわかるなと思いましたね。直枝さん曰く岡本かの子作品はブックオフなどで全集が108円で買えたりするのでお勧めとのことでした。

深沢七郎の本はその語り口が好きでよく読んでいるそうで、「言わなければよかったのに日記」内の正宗白鳥と七郎の会話のくだり(壷井栄銀座で見かけたが知らなかったという話)を紹介してくれました。小説「秘儀」に関しては直枝さんのストーリーの紹介の仕方が巧く、思わず続きを読んでみたくなりましたね。「人形の裏側を見てみるとそこには…」というような語り口で。日常なかにふと紛れている非日常物語が生まれるという話が興味深かったです。後で直枝さんに「深沢七郎ギターアルバムも良いですよね」という話をしたら、「あれのアナログ盤をずっと探しているんだよね」とのことでした。どこかで見かけた方はぜひ直枝さんに知らせてあげて下さい(笑)

青柳瑞穂さんは仏文学者で、この「ささやかな日本発掘」は日本全国各地で出会った骨董民藝についての随筆だそうで、杉並の古道具屋で尾形光琳肖像画発見したという驚愕のエピソードも書かれているそうです。私もよく何かお宝がないかと地方骨董のお店やリサイクルショップ古本屋などを眺めるのが好きなので、ちょっと読んでみたくなりましたね。

小林秀雄の「信ずることと考えること」は彼の講演を収めたカセットテープとのことでしたが、現在はその音源もCD化されているそうです。この講演で語られている「民俗学者柳田國男が真昼に星を見た話」というエピソードを紹介してくれました。柳田國男少年だった頃に近所のおばあさんのほこらに侵入し、そこにあったご神体とされる蝋石を手に取った瞬間に突然興奮状態になり、空を見上げたら昼間なのに無数の星が見え、そこから心神喪失になりしばし記憶が途切れたという、有名な逸話があるのだそうで。こういう科学で説明出来ない話がたくさんあるということを小林秀雄は講演で熱弁しているのだそうです。先ほどのお化けやUFOの話ともリンクしますが、直枝さんはそういう不思議なことも現実に起こり得るし、ものの見方はひとつではないという意識を常に持っているのだそうです。そういう視線が「EDO RIVER」の歌詞の「たまにはさかさまに世界をみてみよう」の一節にも現れているのかなと思いました。深沢七郎の「秘儀」の人形の裏側を見てみるなんてのもまさにそうですしね。

直枝さんは漫画では「悪魔くん」が好きだそうで、この日持って来ていた譜面を入れるファイル悪魔くん仕様でしたね。「みなさん漫画だと何を読むんですか?」と直枝さんは突然お客さんにアンケートを取り始め、「こち亀」とか「ガラスの仮面」とか具体的に挙がると「ああ、面白いですよね」と同意していて、直枝さんも意外に有名漫画も読んでいるんだなと思いました。

ゲオルゲ詩集レコーディング作詞の時期になると常に近くに置いている本だそうで、作業に煮詰まったりするとぱっと見開いたりして言葉を引き出すヒントにしているのだそうです。偶然古本屋で手に取り、字面が気に入って買ったのだそうですが、直枝さんの作詞のヒント本となれば気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

サム・シェパードの本はボブ・ディランが70年代半ばにローリングサンダーレビューとしてトラックで全米をツアーして回る様子が書かれている旅の記録ですが、直枝さんはこの頃のディランが大好きなのだそうで。「激しい雨」やブートレッグシリーズでこの頃の音源が聴けますが、これを読みながら聴くとより当時の空気がわかり楽しめるのではないでしょうか。この様子を記録した映画現在も未ソフト化の「レナルド&クララ」もいつかは見てみたいものです。

あと直枝さんは日記文学が大好きだそうで、他人がどんな生活を送っているか垣間見るだけでも何かしらのヒントや出会いが得られるのではないかとつい読んでしまうそうです。筒井康隆日記なども面白いのだそうですが、今回は文士が戦争中に何を考えていたのか興味があって読んだという高見順の「敗戦日記」を勧めてくれました。(高見順はそれこそ鎌倉の人なのだそうです。)あとライブ前に円覚寺へ立ち寄った際に小津安二郎のお墓も参って来たそうで、「小津安二郎全日記」という小津監督日記本をずっと探しているという話をしておりました。前に見付けた時は書き込みが酷くて断念したのだそうです。どこかで見かけた方はぜひ直枝さんに知らせてあげて下さい(笑)。直枝さん自身もどこかのタイミングで日記を再開したいと語っておりましたが、ぜひこれを機会にまた書いて欲しいなと思いましたね。直枝さんの日記が誰かのヒントや出会いに繋がることも間違いなくあるでしょうし。

今回は本の紹介の他にも岩井俊二監督の「花とアリス殺人事件」の何も起こらない日常光景表現の素晴らしさについてや、自身の創作への姿勢なども語ったりしてくれて、色々興味深い話をたくさん聴けましたね。昔は自作に対しての他人の批評レビューなどが気になったけど今は自信があるから気にしないし見ないし、自分表現をこれからどう広げて行こうか夢がある、などという熱い話にはグッと来ました。キャリア30数年のベテランの話す「夢がある」のかっこよさよ。直枝さん曰く「本は積んでおくだけでも意味がある」そうで、今回気になった本がある方はぜひ入手してみては如何でしょうか。そして直枝さんの欲しいブツを見かけた方はぜひ知らせてあげて下さい(笑)

この日はご近所カフェ、ディモンシュさんでたまたまヒックスヴィルライブもあり、終演後は両者合同で打ち上げを行いまして。鎌倉に豪華な面子が集う特別な一夜となりました。ゴメス山田稔明氏だけが唯一両方の会場を行き来して見てましたが(笑)、どちらも見たいというお客さんも多かったのではないでしょうか。私がフィッシュマンズ、妻が小沢健二さんのライブでついこの間ギターの木暮さんの勇姿を見たばかりで、「見ましたよ!」と木暮さんに別々なライブ感想を報告し合うという光景が繰り広げられました(笑)。直枝さんとヒックスヴィルのメンバーが揃うレアな様子に密かに興奮してしまった私です。

貸切り図書館、次回は10月10日に優河さんをお迎えしてお送りします。そちらもぜひお楽しみにということで。

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2016-09-03 夏の出口、海辺の音 高橋徹也ライブ

先日はmolnにて催された高橋徹也さんのワンマンライブ「海へ行こうよ」にたくさんのご来場をどうもありがとうございました。今回も私は数曲ゲストという形でギターで参加させていただきました。タカテツさんもmolnではすでに何回もライブをやっているので、リハの段階からホームのようなリラックスした雰囲気で進み。本番もまるで彼の部屋で聞いているかのような親密な空間になっていたと思います。とても良いライブでした。

前回ゲストで参加した時はライブ直前に譜面メールで受け取り、しかもそれが譜面写真で撮ったとおぼしきもので、光の反射でコード名がよく見えないという状況の中何とか曲をさらい、いざ本番前のリハで確かめようと思ったら「まあ本番で何とかなるんじゃないすか」とほとんどリハをしないという謎のプレイ(?)によりほぼぶっつけだったんですが、今回は事前に譜面いただきリハも出来たので個人的には良かったですね。(しかし曲順などは知らされないまま本番始まっちゃいましたが。)今回「夏の出口」という曲を一緒に演奏したのですが、ちょうど時期的にも夏の終わりが感じられる頃でマッチしていたのではないかと思います。この曲、コードを弾いているだけで「わ、タカテツワールドだな」という独特の妖しさと美しさで、一緒に音を添えられて嬉しかったです。途中E-BOWなど使ったり色々試してしまいました。この歌詞に出て来る「きょうだい」は兄と妹の兄妹ではないか?という話をしたら「いやーそこまで考えてなかったですね」とのことでしたが、歌詞カード表記が何であれ私の中では兄妹というイメージになっているので、それはそれで良いのではないかと思ったりした次第です。この夏よく材木座の夕暮れの海を見に行っていたのですが、海辺を走る幼い子供たちを見る度にこの曲を思い出しておりました。他にも「My Favorite Girl」「夜のとばりで会いましょう」「いつだってさよなら」の全4曲をセッションしました。「いつだってさよなら」の奇妙で切ない歌詞について本番で詳しく聞こうと思っていたのですが、この奇妙で切ない曲がラストアンコール曲で、トークする間がなかったのが少々残念でしたね。しかし「五十嵐さんのギター良かったですねえ!」とタカテツさんご本人に喜んでいただけたのが何よりでした。楽しいセッションでした。

この日のタカテツさんは曲が終わるごとにMCを挟み、いつもよりトークゾーンが多いなという印象でしたが、客席の受けも良く全体冴えていましたね。私が散髪ネタを喋ったら「いやー、女性に髪を洗ってもらうのは興奮しますね」という謎の喜びポイントを語ったり、某広告代理店への謎の偏見を主張したり、独特のタカテツトークにみなさんニヤリとされておりました。この日は普段やらない曲を演奏したり、新曲即興披露したり、いつもとはまた違ったステージになっていて面白かったですね。バンドセットのタカテツさんも勿論かっこよくて最高なんですが、こういう狭い空間での弾き語りで滲み出る魅力というのも確実にあるよなあと再確認した次第です。タカテツさんの曲は海をモチーフにしたものが多く、今回特にものが印象に残ったのですが、彼の歌とギターを聞いていると海をゆらゆらと漂っているかのような感覚を覚えるのですよね。海辺の街でこのようなライブを味わえてお客さんも喜んでくれたのではないでしょうか。

終演後、近くのお店で軽く食事したのですが、「打ち上げホットコーヒーを飲む」でお馴染みのタカテツさんは安定のブラックコーヒー片手にしょっぱい酒のつまみを食べておりました。「そういえばこの近所にゴジラ上陸していましたね」などとシン・ゴジラの話などしつつ。終始楽しい雰囲気で終えられて良かったです。

次回のmolnでのライブイベントは9月4日、貸切り図書館36冊目、カーネーション直枝政広さんをお迎えしてお送りします。そちらもぜひよろしくお願いしますということで。


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2016-07-29 図鑑と絵本 貸切り図書館35冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の記念すべき35回目を、ゲスト久住昌之さんをお迎えしてお送りしました。ドラマ化されたり海外でも翻訳されたりと大人気の「孤独のグルメ」の原作者であり、ドラマテーマソング劇伴自身で手がけるミュージシャンでもある久住さんの登場ということで、遠方からたくさんのお客さんにご来場いただきました。本当にありがとうございました

当日会場入りされた久住さんは前の日もライブだったそうで、リハもほんのセッティングする程度で、あとは我々と今回サックスで参加のフクムラサトシさんと談笑しているうちに開場時間になりまして。入場して来るお客さんは楽屋にいるでもなく普通に会場にいる久住さんを見て驚いた様子で、中でも岐阜から来たという2人組の女性は「わ、本物の久住さんだっ!」とテンション上がりまくっていて面白かったですね。あとみなさん各々久住さんの著書を持参して来ており。「サインして下さいー」と開演前からすでにプチサイン会が開催されておりました。「花のズボラ飯」など「孤独のグルメ」以外の本を持って来ている方もいて、久住作品は愛されているなと思いましたね。

そんな中いよいよライブが始まりまして。1曲目から孤独のグルメ」のテーマ曲披露してくれたのですが、お馴染みのイントロが流れて来た時点で客席から「きゃあ〜」という悲鳴にも似た歓声が上がり。思わずリコーダーを吹いていたフクムラさんも「え、このイントロだけで?」と笑いながら戸惑っておりました。私も聞いていて「うわ、ドラマで流れてるのと同じだ!」とテンション上がりつつ、腹が減るという謎の現象が起こりましたね。(視聴者はあれを聞くだけで美味しそうなご飯をイメージしてしまうのです。)お馴染みの「ゴロ〜!」「イノガシラッ!」というフレーズも客席のみなさんで合唱し、いきなりの大盛り上がりでした。あのテーマ曲久住さんがコード進行を考えてフクムラさんに伝え、それを元にメロディを何種類かフクムラさんが事前に作ったそうなのですが、レコーディング当日にシャワーを浴びながら急に思いついたフレーズが結局採用になったそうです。シーズンから5まで全部微妙バージョンが違うということで、その場で全種類演奏してくれました。フクムラさんの巧みな演奏が素晴らしかったですね。

そして本の紹介のくだりでは久住さんのルーツとなった2冊についてトークをじっくり聴かせてくれまして。

まず紹介してくれたのは平凡社出版の「絵本百科」という本で。これは久住さんが幼少の頃お母さんが買ってくれたもので、値段が5巻セットで4000円という、当時としてはかなり高価なものだったそうですが、お母さんはわざわざローンを組んで買ったのだそうです。これを久住少年は気に入って熟読し、今でも読み返しているというのだから4000円以上の価値があったということでしょう。ちなみに5冊のうち3冊は久住さん、2冊は弟さんで作家久住卓也さんが所有しているそうで、1冊多いのは兄の威厳によるものだそうです(笑)。ただ久住さんが持っていない方の2冊を見たい時はわざわざ卓也さんの家を訪ねるのだそうで、兄弟仲の良さが伝わるエピソードだなと思いました。この本は図鑑なので世の中の森羅万象のことが載っているのですが、いきなり「アイヌから始まるというトリッキーな内容で、「アリ」だけで見開き使ったと思ったら魚全般を「ウオ」でまとめちゃうという大胆な編集で、久住さんはそのページを見せながら「何でウオなんだ、普通サカナだろう!さっきアリだけで見開き贅沢に使ったのに何で魚はぎゅっとまとめちゃうんだ!」などとツッコミを入れて笑いを取っておりました。このトークの妙味はいとうせいこうさんとみうらじゅんさんのスライドショー彷彿とさせ、ガロイズムを感じましたね。その後も絶妙図鑑イジりで会場を沸かせておりました。久住さん曰く、この図鑑の絵がまたかなりリアルで、およそ子供向きに作られていないのが良いとのことで。久住さんは子供用とか、どこか特定の層に合わせた感じで作られたものが好きじゃないそうで、子供子供なりに難解なものリアルものも受け取るものだし、自分もそうして来たのだそうです。確かに久住さんの作品受け手感性を信用するというか、特別誰に向けてというわけでなく自分面白いと思った独自世界プレゼンし続けている印象を受けますよね。漫画家、文筆家、イラストレーター音楽家など様々な肩書きを持つ久住さんですが、どれも全部自分仕事だと思っていて、自分面白いと思ったことは全部やりたいのだそうで、その根本にあるのはこの森羅万象を詰め込んだ何でもありの図鑑にあるのではないかと、ご自身創作活動ルーツについて語ってくれました。図鑑だけでここまで広がるのかとその話術にもすっかり引き込まれてしまいましたね。

途中「孤独のグルメ」についても話してくれたのですが、20年前に最初単行本が出た時は三刷りくらいで絶版になり、それほど売れなかったそうなのですが、文庫本になってからじわりじわりと売れ出したそうで。その後ネットで「五郎ちゃんごっこ」をする人が出現したり(原作に出てくる店に実際足を運んで同じものを頼んで同じ台詞を言う遊び)、幅広い人にも浸透して行ったのだそうです。ドラマ化の話は実は10年前からあったそうで、毎回会議にかけては落ちていたものがこちらも時間をかけて実現したのだそうで。ドラマ化されて久住さんが気にかけていたのは、モデルになったお店に視聴者殺到迷惑をかけるのではないかとのことでしたが、お店の人曰く確かに放送後お客さんは殺到したけれど、みんな一様に静かで行儀が良かったのだそうです。それはドラマ内で五郎さんが静かで行儀が良かったからでしょう。久住さんはそこに一番ほっとしたそうです。(お客さんはみな各々五郎ちゃんごっこに興じていたのでしょう。)ちなみに五郎さんが一度にたくさん食べるのは、久住さん自身が少食であるところからの憧れの表れだと後で話してくれました。あの細い体で3人前くらい食べますもんね。

そしてもう1冊は、バージニアリー・バートン著、石井桃子訳「せいめいのれきし」という絵本を紹介してくれまして。この本も久住さんが幼少の頃お母さんが新聞書評を見て買ってくれたそうで、当時の実物は弟の卓也さんが所有しているそうです。(久住さんは後で買い直したそう。)この本はタイトル通り、地球が生まれから、今この瞬間までの長い長い命のリレーを、劇場仕立てで壮大に物語ったもので、構成から装丁、絵の1枚1枚にまで細かい仕掛けが施されており、作者はこれを仕上げるのに10年かかったそうです。久住さんは最初自分の興味ある恐竜のページばかり見たり、文章を読み飛ばしたりしていたそうですが、何度も読んでいるうちに細部の面白さに気付き、最終的にこれがもの凄い作品だと理解するのにそれこそ10年かかったそうです。それだけ時間をかけて理解をする読書体験というものも有りだし、それを可能にする本作品は素晴らしいと絶賛されておりました。確かに久住さんの解説を聞いているとかなりの作り込まれ方なのがわかり、これは読んでみたいなと思いましたね。子供にはぱっと見理解出来ないものでも興味を惹かれたり、何度か読んでいるうちにわかってきたりするものだという、これも先ほどの「絵本百科」に通ずるものがあり、久住さんの表現方法に多大なる影響を与えたのだなとわかりました。

それこそ久住さんもご自身の息子さんに少々難しいかもと思いつつ「ロード・オブ・ザ・リング」の原作を読ませたことがあるそうなんですが、それなりに興味を持って読んだのだそうです。後で久住さんもその本を読んでみたところ、翻訳がとてもユニーク言葉使いで面白く、誰かと調べたら瀬田貞二さんという児童文学作家の方だったそうで。その後、先ほどの「絵本百科」について原稿を書く機会があり、詳細をよくよく調べてみたらこ図鑑の監修を手掛けたのがその瀬田貞二さんご本人だったそうで、驚くと同時に自分面白いと思う基準が変わってないことを確認したそうです。ちなみにその瀬田貞二さんは「せいめいのれきし」の翻訳をした石井桃子さんとも合流があったそうで、久住さんのルーツ瀬田さんありというのがよくわかりました。後々自分の好きなものが繋がる喜びというのはあるよなあと思いましたね。

今回はトークに重きを置いた貸切り図書館になりましたが、こういうのも面白いなと思いましたね。久住さんと言えばのラーメン屋江ぐちの話も聞けましたし。(江ぐちソングも歌ってくれました。)終演後は今度はCDへのサイン会写真撮影会となり、お客さんも喜んでおられました。残っていた方々と軽くビールなど飲みつつ談笑したりして最後まで盛り上がりましたね。ぜひまた楽しいトークをしに来ていただきたいなと思った次第です。

そんな貸切り図書館、次回はカーネーション直枝政広さんをゲストに迎えてお送りします。そちらもぜひよろしくお願いしますということで。f:id:fishingwithjohn:20160718173705j:image

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2016-07-23 パンと猫と言葉 貸切り図書館34冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の34回目を、ゲスト友部正人さんを迎えてお送りしました。去年に続いて2回目の出演となった友部さんですが、今回も素晴らしい歌を聴かせてくれました。

去年、ミディ時代ベスト盤、その名も「ミディの時代」をリリースされたばかりの友部さんですが、改めてその豊かなキャリアに圧倒されましたね。ライブでは40年前の曲からつい最近作った曲まで、3時間に渡ってたくさんの曲を歌ってくれました。新曲の瑞々しさもさることながら、40年前の曲が未だ古びずに心に響くというのが本当に驚きでしたね。40年もの時を経ているのに「つい昨日出来ました」みたいな新鮮な佇まいなのは世界の、人間本質を突いているからでしょうか。言葉ひとつひとつが鋭く、耳に心に刺さって来るのです。改めて本物の詩人の紡ぎ出す言葉群に感動してしまいました。以前も友部さんのライブ体験した時にギター1本の弾き語りなのに背後に壮大なオーケストラが立ち上がって来るような感覚を抱きましたが、それだけのイメージ喚起させる言葉の力があるのですね。今回は「誰も僕の絵を描けないだろう」や「夕暮れ」や「水門」などの名曲が生で聞けて嬉しかったです。また鎌倉で「鎌倉に向かう靴」も聞けたし、「くじゃくのジャック」という新しい歌キャッチーで良かったですね。「遠来」のスケール感にもぐっと引き込まれました。ランナーである友部さんは長時間歌っていても全然疲れを見せないのですね。最後まで大満足のライブでした。

そして本の紹介のくだりですが、今回は以下のラインナップでした。

小出 美樹、 井上 有紀著「かまくらパン

佐野洋子著「100万回生きたねこ」

JacobLawrence著「TheMigration Series」

金井雄二著「朝起きてぼくは」

永田和宏河野裕子著「京都うた紀行ー近現代の歌枕を訪ねて」

かまくらパン」は友部さんが持って来たものではなく、たまたまmolnに置いてあった本なのですが、偶然にもこの本の冒頭に友部さんの書いた「パン悲劇」という詩が掲載されており、折角だからとこちらも紹介してくれました。この本は鎌倉の美味しいパン屋さんを紹介するガイドブックなのですが、写真も良いし、読み物としても面白いのです。友部さんは今回その「パン悲劇」を全文朗読してくれたのですが、これがまた心に染みましたね。聞いてすぐにでもパンを買いに走りたくなりました。とても良い詩なのでぜひ読んでいただきたいです。これを読んだらご飯派のあなたパン派に転向するかもしれません。

「100万回生きたねこ」は森山未來さん主演でミュージカル化された際に作詞友部さんが担当されたそうで、稽古場に行って毎日歌詞を書いていたという思い出話を語ってくれました。その舞台用に作った曲を1曲歌ってくれたのですが、とても良い曲でしたね。その舞台、機会あれば見てみたいなあと思いました。また再演されるでしょうか。

「The Migration Series」は友部さんがニューヨーク美術館たまたま展示を見たそうで、ジェイコブ・ローレンスという画家が1900年代に起こった黒人によるアメリカ南部から北部への大移動の様子を描いた作品集なのだそうです。友部さんが紙芝居形式で内容を紹介してくれようとしたのですが少々難しかったらしく(笑)普通にぺらぺらとページをめくって絵を見せてくれました。独自タッチ面白い絵でしたね。あとで実物の本を見せてもらったのですが、表紙に何やら英語落書きがしてあり、まさか作者のサイン?と思ったら「これは俺の本だぜ」みたいなことが書いてありました。おそらくこの本の前の持ち主が書いたのでしょう。それだけ愛着があったのになぜ手元を離れて日本に流れて来たのでしょうか。おそらく黒人の大移動並みの移動がそこにあったのでしょう。古本ロマンを感じましたね。

友部さんは本屋に行くとまず詩集のコーナーから見るそうで、自分でもよく詩集を買うのだそうですが、最近買った詩集ということで、金井雄二さんの「朝起きてぼくは」という詩集を次に紹介してくれました。表題の詩を朗読してくれたのですが、これがなかなか良い詩でしたね。朗読し終えたあとに「実は今日金井さんが来て下さっています」と友部さんが言うと、最前列に座っていたお客さんが立って一礼されまして。何とご本人が見に来られていたんですね。詩人同士の交流を間近に目撃してしまいました。

京都うた紀行」は歌人河野裕子さんが旦那さんである永田さんと共に京都の歌枕を訪ねて現代和歌を紹介するという京都新聞の連載をまとめたものだそうですが、この本が出版される前に河野さんは乳がんで亡くなられたそうです。薄々パートナー病気で亡くなることがわかっていながらの紀行は深く染み入るものがあったことでしょう。友部さん曰く「面白くて一気に読んでしまった」とのことで、強くお勧めされていました。やはり友部さんは詩や短歌など言葉にまつわる書物がお好きなのだなと思いましたね。

先ほどニューヨークの家を引き払って今度は仙台に部屋を借りたという友部さんですが、同じ建物内に図書館があって嬉しいという話をされていました。それこそ貸切りじゃないですが、マイ図書館みたいな感じでいつでも本の世界アプローチ出来るのは羨ましい環境だなと思いましたね。普段神奈川在住という友部さんですが、家を2つ持つというのは基地が2つあるみたいな感覚なのでしょうか。まあ全国各地旅をしている友部さんからしたらどこに住んでいても同じ地球の上という感じなのかもしれませんが。

終演後には会場でワインなど飲みながら友部さんと奥さんのユミさんとお話をさせていただいたのですが、友部さんの家でも長年猫を飼っていたとのことで、猫話でかなり盛り上がってしまいました。うちの猫写真を見せたらユミさん曰く「似た写真、うちにもあるよ!うちの子も同じような顔してたよ!」とのことで。ユミさんに後日友部家の愛猫りくちゃんの写真を送っていただいたのですが、本当にうちの子と同じアングル写真で可愛かったですね。その写真を見てこの子友部家に愛されていたんだなとしみじみ思いました。またユミさんと猫の話をしたいなと思った次第です。

貸切り図書館、次回はゲスト久住昌之さんが登場します。こちらのレポも近々アップしますのでぜひご一読下さい。ということで。f:id:fishingwithjohn:20160724024830j:image

2016-07-20 紫雨を鳴らす 貸切り図書館33冊目

もう先月の話になってしまいますが、molnにて恒例のイベント「貸切り図書館」の33回目を、ゲストテニスコーツさん、NRQさんをお迎えしてお送りしました。本当にたくさんのご来場をどうもありがとうございました。

今回NRQさんは初登場だったんですが、二胡吉田さんとベース服部さんは以前yojikとwandaのメンバーとしてすでに出演していただいてるので、セッティングからリハーサルまでスムーズに進みまして。ギター牧野さんの息子さん(小学生低学年くらいですかね)もリハから来ていたのですが、とても明るくて人懐こく、リハ中のお父さんに近寄ったり会場をうろうろしたり我々に話し掛けて来たりととても可愛かったですね。メンバーさんも良きおじさんたちといった風情で。かなり激しめのギターを弾く牧野氏に「ねーねー、お父さーん」と無邪気に話し掛ける様子に和んでしまいました。去年に続いての出演となるテニスコーツの2人はリハーサルからかなり綿密な打ち合わせをしており。2人はいつもずっと練習しているというイメージがあるのですが、今回新しい曲を試してみるらしくいつもにも増してがっつり練習している様子でしたね。リハ中にさやさんが「あ、この曲、五十嵐くんたちにもコーラスして貰おう」と急に言い出し、何故か我々も参加することになったんですが、会場にいる人やある物や空気感自分音楽に取り込んでいくのが上手だなと改めて思いました。NRQとのセッションリハも初めてだというのに自然に溶け込んでおりましたね。

そんなそれぞれのリハも終わりいざ本番が始まりまして。最初に登場のNRQ演奏は、不穏な夢の中で彷徨いながら聞く異国の歓楽街BGMといった風情で、とても素晴らしかったですね。どこの国のいつの時代音楽かわからない、美しいけどどこか恐ろしげな、懐かしいけれど未知のものであるという、何とも言えぬ魅力的なサウンドで。ライブ中も牧野氏の息子さんが「お父さーん」とステージまで行ったりお喋りしたりしていて、バンドの音の合間に子供の声が混じり、どこぞの遊園地に迷い込んだかのような不思議感覚になりましたね。

本の紹介のくだりでは各メンバー以下の本を挙げてくれました。

ギター牧野セレクト 柴田 哲孝著「下山事件完全版―最後証言 」「下山事件 暗殺者たちの夏」

NRQの「パシナ式」という曲名満州鉄道特急列車名前から取られたそうなんですが、この下山事件を追ったノンフィクションを読んでいくと犯人として満州鉄道関連の人物が浮上するそうで、そこから着想を得たのだそうです。下山事件が由来と知ってから聞くとまた違う印象を受けるものですね。ちなみに牧野氏が持って来たのは事件ベースにしたフィクション作品である下山事件 暗殺者たちの夏」でしたが、お勧めなのはドキュメント作品の「最後証言」の方なのだそうです。牧野氏の解説を聞いていたら両方とも読んでみたくなりましたね。

ベース 服部セレクト 諸星大二郎著「栞と紙魚子の生首事件

服部氏が「紹介する本は漫画なんですけど」と言うと牧野氏の息子さんが「漫画かーい!」とツッコミを入れて会場の笑いを取っておりました(笑)諸星大二郎とは実にらしいセレクトだなと思いましたね。この本を背後に飾ってその後演奏したのですが、諸星大二郎の独特なタッチバンドのサウンドに妙にマッチしていて良かったですね。

ドラム 中尾セレクト 大野裕之著 「チャップリンヒトラー

中尾氏曰く、ヒトラー演説シーンを頭に思い浮かべるとチャップリン映画独裁者」でのでたらめな演説シーンも同時に思い出されるとのことで、イメージ戦略としてチャップリンは笑いでヒトラー侵食することに成功したのではないかとこの本を読んで思ったのだそうです。チャップリンは「独裁者」を撮る上で当時ナチスナチス共鳴する国からかなりの妨害を受けたそうですが、それに屈することなく作品を作り上げたそうで。わずか4日違いで生まれた同世代で、お互いちょび髭がトレードマークとなったチャップリンヒトラーという歴史に残る2人を巡る物語ということで、これは読んでみたいなと思いましたね。

二胡 吉田セレクト 藤子・F・不二雄著「藤子・F・不二雄のまんが技法

藤子先生による漫画の描き方の指南書だそうで、吉田氏はこれを読んでその方法論を作曲にも活かしているのだそうです。それを聞いて即座に牧野から「本当に!?」とツッコミが入りましたが、吉田氏曰く最近買ったばかりなのでこれから活かそうと思ってるとのことでした。諸星先生藤子F先生という漫画家セレクトにらしさを感じてちょっとニヤリとしましたね。

そんなナイスな本セレクトをしてくれたNRQさんに続いてはテニスコーツさんの登場で。今回も2人はPAを通さない完全生音での演奏で、冒頭さやさんがお客さんに話しかけているうちにいつの間にか歌が始まり、植野さんのポロンと爪弾くギターが響くとたちまちその場の空気が純度の高い音楽で満ちるのを見て、やっぱりテニスコーツは凄いなあと感心してしまいましたね。外から聞こえる電車の走る音も風の吹く音も子供たちの声も自分音楽に取り込む力があるのです。さやさんの歌と植野さんのギターのみというシンプルな編成なのに、2人がそこで音を鳴らすとどこまでも豊かな音楽がその場に降りて来るのです。改めて素晴らしいなと思いました。途中「molnの2人にも参加してもらいます〜」とさやさんに呼び込まれ、恐縮ながら我々もコーラスで参加させていただきまして。「紫雨」と書いて「しう」というタイトルの曲で、「しうしうしうしうしう〜」と紫陽花の上に降り落ちる雨のしずくのように歌わせていただきました。6月にぴったりの曲でしたね。さやさんがMCで「五十嵐くんは大学の後輩なんだよね」という紹介をしてくれて。植野さんは「後輩がこんなに立派になって(笑)〜!」とイジってくれましたが、図らずもテニスコーツとは初めての共演と相成りました。良い記念になりました。その後も2人は「一緒に演奏して下さーい」とNRQの各メンバーを個々に呼び出し、ぶっつけ本番でのセッションを展開しておりましたが、みなさん手練の音楽家なのでどの曲も初めてとは思えない素晴らしい演奏を聞かせてくれました。

そして本の紹介のくだりでは以下の本を挙げてくれました。

さやさんセレクト 遠藤水城著「陸の果て、自己への配慮

内容は「かつて太宰治袋小路と呼んだ竜飛岬を出発し、まだ震災の爪痕が残る真冬の東北海岸沿いをひたすら徒歩で南へ下った筆者が、風雪に晒され、恐怖と孤独感に苛まれながらもノートに綴った63日間の記録。」とのことで、キュレーターである著者が震災直後に青森から南相馬の線量の高い地域までひたすら歩いたというリアルな記録なのだそうです。私はこの本の存在を知りませんでしたが、内容を知って俄然読んでみたくなりましたね。さやさんはこの本をきっかけにして出来たという曲を歌ってくれました。言葉に影響を受けたのだそうです。

植野さんセレクト 寺内タケシ著「テケテケ伝」

エレキギター草分け的存在寺内タケシ氏の自伝本です。植野さん曰く「今読んでいる途中」とのことでしたが、もの凄く面白いのだそうで。これは私も昔読んだのですが、テラさんの波瀾万丈な人生は確かに面白かったですね。エピソードちょっと盛ってないか?というようなツッコミどころも含めですが(笑)。この本の紹介の後に「ギター」というタイトルの曲を演奏してくれました。思えば植野さんも今や世界的なギタリストですしね。

アンコールではNRQメンバー全員とテニスコーツで完全即興セッション演奏してくれたのですが、これがまた美しかったですね。植野さんのアルペジオとさやさんのコーラスと、二胡旋律エレキフィードバック音とたゆたうようなリズムとが混ざり合っていて。このまま会場を飛び出し線路を越えて夜空へと溶けて行くのではないかと思いながらその調べに耳を傾けてうっとりしてしまいました。素晴らしかったです。

がっつりと共演するのは初めてだという今回の2組でしたが、良い組み合わせだったのではないかと思います。それぞれ違うアプローチ牧野氏の息子さんをあやす植野さんとさやさんの姿も印象的でした(笑)音楽が鳴らされる会場に子供がいる光景は良いものですね。

次回の貸切り図書館友部正人さんがゲストに登場です。こちらのレポも後に上げますのでぜひご一読下さい。ということで。

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