東京瓦斯電気工業 1919, TGE-A


三河自動車の軍門に成り下がり、トラックとバスのみを造る日野自動車であるが、嘗てはルノー4CVのノックダウン生産に始まり、乗用車も製造していたメーカーだ。戦前は航空機のエンジンも製造していた。

八王子にある日野オートプラザは貴重な日野自動車の車両などを展示、一般に無料公開している。
http://www.hino.co.jp/j/brand/autoplaza/
基本的に土日が休館日なので、一般の人はなかなか見る機会が無いかもしれん。

日野自動車の母体は1910年に設立された東京瓦斯電気工業(略称瓦斯電:ガスデン)である。現在の東京ガスの前身である東京瓦斯会社の機械部門が1910年に独立したもの。もともとはガス器具などを製造していたが、砂型鋳物の技術からエンジン製造に進出した。
ガスデンは1921年、イギリスからロールスロイス2台を輸入、天皇御料車として納入、自動車販売の足がかりとしている。
第1次大戦で兵員輸送に活躍した自動車に目をつけた日本陸軍は研究を進めたが、戦時に用いる自動車を平時から用意しておくには第1次大戦後の世界的な軍縮の中、日本でも予算が減らされ経費の点で許されなかった。そこで平時は民間用として保有し戦時に徴用する、建前は民間自動車産業を育成する軍用自動車補助法(1918年)という抜け道を考えたのである。戦前の陸軍による主導により、日本の自動車産業は政府保護に甘え、技術鎖国で海外との競争はなかった。これが技術力の発展を阻害し、戦後日本が自動車技術で大きく遅れをとる原因となってしまった。余談だが、現在の自衛隊装備も武器輸出三原則によって非常に高価で能力の低いものとなってしまった。歴史は繰り返すのである。

話を戻そう、陸軍からの試作費補助にガスデンは飛びつき、ライバルの快進社、東京石川島造船所(現在のIHI)と軍用トラックの製造にしのぎを削ることになる。


1917, 陸軍制式四屯自動貨車
水冷直列4気筒 SV 4400cc 30ps/1000rpm 最高速度24㎞/h
ガスデンは他社に先駆けフランスはシュナイダー社の軍用4トン自動貨車(自重2トン、積載量2トン)の制作依頼を陸軍から受ける。これがガスデン初の製造トラックとなった。


そしてガスデンにより出来上がった軍用自動車補助法適用の国産トラック第1号。

1919, TGE-A
水冷直列4気筒 SV 4398cc 30ps/1000rpm
展示車両はレプリカ。


アメリ Republic Motor Truck Company 製トラックを参考にしたらしい。


エンジンは2気筒づつ対になったものを2基組み合わせるという独自設計。30ps/1000rpmと驚くほどの低回転だ。


恐ろしく簡素な運転席。



改良型の TGE型 。ちょうどロシア革命が起き、シベリア出兵で軍からの生産要請がありガスデンは発展していく。

これも余談だが、現在も適用されている住居不法侵入罪。これはシベリア出兵の際に、日本に残してきた妻の浮気を心配する兵士の士気低下を恐れた軍が政府に要請して立法したものだ。元々は浮気封じの法律だったのである(苦笑)。