死にゆく男たちは。

 会場の県産業展示館へとブリットを走らせる。
 本当のところ、会場にいるのはせいぜい学生くらいの若者ばかりで我々のような中年が行く場所じゃないだろうと思っていたが口には出さない。天気も悪いし気分は盛り下がる一方だ。ガンダムワールドは入場有料だし、アウェイになだれ込むのにこんな空気で行くのももったいないわと頑張って空気ageに努めてみるが、N氏はこんなオッサンが喜び勇んで行くような場所じゃないだろうと遠慮なく冷や水を浴びせてくる。それを言ったらお仕舞いじゃねーかと文句の言い合いであった。この男、少し前に一度話題に上った際に、日本全国を巡回展示するような内容だから大したもんじゃないとこき下ろしていた。
 会場に着くと、最寄の駐車場へ向かう途中に警備員が立っていた。館内でいくつか平行開催されているイベントごとに入ってくる車をそれぞれの駐車場へ振り分けているようだ。我々の前を走っていた車は何も言われず素通しされた。ところが我々が接近すると警備員は「はいーガンダムワールドの駐車場はこちらですーガンダムはそっちじゃありませんーガンダムこっちでーす」とハンドマイクで叫ぶ。実に適切で分かりやすく、腹立たしい誘導だ。
 展示館へ向かって歩き始めると雪混じりで横殴りの風が吹き始めた。舌打ちしてイライラしながら歩き、たどり着いた受付でチケットを購入する。受付の女性は親子連れのパパにはにこやかな笑みを浮かべて応対するが、我々相手には心なしか声が小さい。再び舌打ちしそうになるが大人なのでぐっとこらえる。
 しかし…。
 
 一歩会場に足を踏み入れると、そこには中年男性の夢一杯の世界が広がっていた。
 というか、中年男性一杯の世界というのが正しいだろう。
 どうみても我々と同年代か下手をするともっと高齢の男性がものすごい勢いですし詰めになっている。
 エントランスをくぐるといきなり現れる人間大のシャア専用ザクガンダム。(ガンダムは、割と最近どこかで見たような記憶があるが…)

 その隣には、同様に大型スケールのジーン搭乗と思われるザクと、MSキャリアに横たわるガンダムジオラマ

 そこからはガンダムの世界観を解説するパネルと、ガンダムの企画から制作までの資料がパネル展示されている。
 ああ、写真撮りたい。なのに、N氏があんまり空気ageをディスるもんだから、やる気をなくして6Dを持ってこなかったのだ。仕方ない、念のため持ってきたDMC-FT2で電池がある限り撮りまくる。
 まだクローバーが製造権を持っていた当時のおもちゃ。同じモデルを用いながら、バンダイ製のプラモデルとどうしてここまで差がついてしまったのか。

 遊んだ記憶が残る電子ゲーム。

 ああ。実物大シャア専用ザクの頭部。意外と大味な出来だけどそれでもいい。何ら問題ない。

 そしてジオング。もちろん人間大でぱっと見はフラットウッズモンスター的な迫力を醸し出す。

 メガビームランチャー装備の百式。そしてサザビー

 おっさん達のハートを撃ち抜いて焼き尽くすほどのノスタルジー
 この迫力を再現できると信じて一体いくつガンプラを買っただろうか。
 人間大スケールのMS群の中でもやはり一番のディティールを誇るNT-Dモードのユニコーン

 歴代ガンダムのポスターと主役ガンダムのプラモの展示。素組みに近かったが、他の客に邪魔にならないよう一枚一枚スマホでさっと撮影していくごま塩頭のヲタの人がいる。
 中央に置かれたジオラマには親子連れが集まって近寄ることができない。

 うらやましかったのはこのNT-Dモードユニコーンの実物大コクピットでの写真撮影だ。

 頼むからこれを戦場の絆の筐体に組み込んでほしい。400円までならインカムが上がっても我慢するから…。

 会場内を埋め尽くす30代から50代の男達。子供達はほとんど40代男性の息子達だろう。家族連れも多く息子と一緒にガンダム談義に花を咲かせる光景が多数見られた。
 意外に女性も少なくない。「あっこれお母さんが好きな奴だ!」とガンダムWやSEEDのポスターを子供が指差したのには笑ったが、ひっつめ髪にケミカルジーンズのガチヲタらしい女性も何人か、独りで静かに展示物を眺めていた。
 展示エリアが終わると、もちろんお約束の物販エリアだ。東京のガンダムカフェの商品が並んでいて中々の混雑。ここでうっかり買い物カゴを持ってしまったのが運のつきだった。MGメッサーラとMk2ティターンズカラーを放り込む。

 N氏が勧めてきたのは変な爪楊枝入れだ。どう見てもUFOキャッチャーのプライズだったに違いないそれは、よく見るとマ・クベ閣下の「良い物」こと南宋の壷のミニチュアだった。手に持って歩いていると他の客が指さして「あれ欲しい!」と囁くのが聞こえる。
 お菓子なども売られていたが以前上京したときに目にしたものばかりだった。
 
 当日券は1000円と安くはなかったがなかなか充実した展示だった。友人同伴でもあり見学時間は全く足りなかったのが惜しまれる。あれ俺一人なら2時間でも足りないわ。
 しかしN氏はあまり興が乗らない風であった。どちらかといえば会場内の人間観察をしているようで、あそこにいる学生風は連れへの解説が熱すぎて痛いだの、そこの男はよく見るとコスプレだのと耳打ちしてくる。
 来ている時点で君も同類なんだよ。