白澤社ブログ

人文社会系の書籍を刊行する小さな出版社です。

中島光孝『私的判決論』刊行

 このたび白澤社は中島光孝著『私的判決論――人々の権利の実現をめざして』を刊行しました。

「訴訟は、生きる力を回復するための権力や権威にあらがう実践である」。代理人として携わった訴訟から13の判決について考察。ベテラン弁護士による判決論。

 非正規労働者格差是正への判例法理を形成したハマキョウレックス事件と日本郵便(西日本)事件の最高裁判決、政教分離訴訟において新たな判例法理を示した空知太神社事件最高裁判決、労基法上の労働時間を定義づける判決として先例的価値が高い三菱長崎造船所事件最高裁判決などを取り上げる。

https://hakutakusha.co.jp/book/9784768480069/

 

大田南畝の怪談――『吉原の怪談』より

大河ドラマ『べらぼう』に、いよいよ江戸文壇のリーダー、大田南畝が登場しました。

高木元ほか著『吉原の怪談』には、大田南畝の随筆集『半日閑話』に書き留められた吉原怪談「中万字屋の幽霊」が収録されています。

こんなお話です(『吉原の怪談』より抜粋)。

▼中万字屋の幽霊

文化七年、中万字屋妓を葬る。十月末の事なり。この妓が病気にて引込居たりしを、遣り手仮初なりとて、折檻を加へしに、ある日小鍋に食を入て煮て喰んとせしを見咎め、其鍋を首にかけさせ、柱に縛り付て置しかば終に死しけり。其幽霊首に小鍋をかけて廊下に出るよし沙汰あり。

〈大意〉 文化七年(一八一〇)、中万字屋の遊女を葬った。十月末のことだった。この遊女が病気で寝込んでいたのを、遣り手婆は怠け者だと折檻していた。ある日、遊女が小鍋にご飯を入れて煮て食べようとしていたのを遣り手婆は見とがめ、その鍋を遊女の首にかけて柱に縛り付けておいたところ、とうとう死んでしまった。その幽霊が首に小鍋をかけて廊下に出るとうわさになった。

大田南畝の書き留めた怪談のほか、駿河屋の親父さまが書き、蔦重が出板したべらぼうな遊廓綺譚集『烟花清談』を中心に、江戸吉原を舞台にした怪談・奇談をご紹介する『吉原の怪談』は好評発売中です。

https://hakutakusha.co.jp/book/9784768480052/

 

吉原で『吉原の怪談』が買えるのはカストリ書房さんだけ!

 東京・吉原(台東区千束)の遊郭関連書専門書店カストリ書房さんで開催中(5/6まで)の写真集『色街探訪記2』出版記念写真展に行ってきました。

カストリ書房: 紅子 本格写真集『色街探訪記2』出版記念写真展

https://kastoribookstore.blogspot.com/2025/04/2.html

 ノスタルジックで儚げな写真の中に、凄みのある風景もある紅子さんの写真に奥深さを感じました。

 お土産に、カストリ書房さんで復刻された安永八年版の『吉原細見』(本体500円、安い!)を買いました。

 カストリ書房さんでは小社新刊『吉原の怪談』も好評発売中です。

 吉原で『吉原の怪談』が買えるのはカストリ書房さんだけ! 

写真はカストリ書房さんの許可を得て撮影・掲載しています。

 

『吉原の怪談』非関連イベント『色街探訪記2』出版記念写真展のご案内

 刊行以来、「あの蔦重が板元の怪談が」、「あの駿河屋の親父様の怪談が」とご評判をいただいております『吉原の怪談』。

 このたびは『吉原の怪談』とは関係ないようで少しだけ関連しているイベントをご紹介。

 風俗業界の内情を熟知した写真家・虹子さんの写真集『色街探訪記2』の出版を記念した写真展です。

 会場は東京・吉原にある吉原にある遊郭専門書店カストリ書房さん。詳しくは、下記サイトをご覧ください。

カストリ書房: 紅子 本格写真集『色街探訪記2』出版記念写真展

https://kastoribookstore.blogspot.com/2025/04/2.html

 実は、写真集の刊行に小社は全くかかわっていないのですが、カストリ書房さんは、『吉原の怪談』に鋭いコラムを寄稿してくださった渡辺豪さんの経営する遊郭専門書店です。

 ちなみに、好評発売中の『吉原の怪談』が吉原で買えるのはここカストリ書房さんだけです。

 写真展の東京・吉原での開催は5/6までです。

 ぜひ連休中に足をお運びください。

 

『吉原の怪談』前口上

江戸吉原の引手茶屋の亭主、駿河屋市右衛門(大河ドラマ「べらぼう」で高橋克実さん演じる駿河屋のおやじさま)が、蔦重の耕書堂から出板した吉原遊廓の綺譚集『烟花清談』を中心に、吉原を舞台とする江戸怪談をご紹介する新刊『吉原の怪談』。

書影と目次はこちら。↓

https://hakutakusha.co.jp/book/9784768480052/

 

いよいよ来月中旬の発売に向けて、以下に本書の前書きにあたる「前口上」を公開いたします。

〈前口上〉怪談の吉原へようこそ

 東京大学に「新吉原の怪談(仮)」と呼ばれるかわら版があるそうです(東京大学大学院情報学環図書室/附属社会情報研究資料センター蔵)。それによると安政四年五月なかごろ、吉原****(たぶん店の名)に夜な夜な不思議な出来事があるとのうわさが立ち、それを聞いた三人の男が真相を確かめようとその店に乗り込んだところ店側は大喜びで三人をもてなし、床入りすると女が来てむやみに袖を引くので、客がこれは……、というところで話は途切れ顛末がわからないのは至極残念。

 かわら版にかわり、本書が怪談の吉原へとご案内いたしましょう。

 江戸時代の吉原(新吉原)は周囲にお歯黒どぶと呼ばれた掘割をめぐらし、町への出入り口は北東(鬼門)側の一か所のみに限られていました。見返り柳を目印に衣紋坂(えもんざか)から五十間道を進むと左手に本書第一章に抄録した『烟花清談(えんかせいだん)』の板元・蔦屋重三郎の耕書堂がありました。

 蔦重の店のすぐ先にある大門(おおもん)をくぐると吉原遊廓です。

 大門からまっすぐ伸びる大通りは春には桜を植える仲の町。引手茶屋が軒を連ねています。大門をくぐってすぐ左に入る通りは伏見町。大蛙の出た玉屋はここにあったとされています(第二章)。

 最初の四つ角の右角には『烟花清談』の著者、駿河屋市右衛門の営む駿河屋がありました。

 駿河屋の角を右に入ると江戸町一丁目、ライバルの幽霊をにらみ倒した遊女のいた上総屋があります(第一章)。左側の江戸町二丁目は、狐の客が来た山桐屋(第一章)、狸の客が来た佐野松屋(第二章)、遊女が和尚の生霊に悩まされた和泉屋(第二章)と賑やかです。

 仲の町に戻って、その先の辻を右に入ると揚屋町、その突き当たりの西河岸にあったのが化物桐屋(第一章)。左に入ると角町、名妓玉菊のいた中万字屋、心中するはずが自分だけ殺されてしまった紅のいた橋本屋がありました(第一章)。

 仲の町のつきあたり、水道尻手前を右に入ると京町一丁目、猫に助けられた薄雲の三浦屋は元禄のころはここにありました(第一章)。左に入ると幽霊に化けた遊女のいた角近江屋のあった京町二丁目。二階に禿の少女の秘密の友だちがいた万字屋、女衒の又七が元遊女の幽霊と暮らしたのもこのあたりです(第一章)。『鬼滅の刃遊郭編で妓夫太郎・堕姫兄妹が生まれ育った羅生門河岸の長屋は京町二丁目の突き当り九郎助稲荷の手前です(コラム1)。

 ここで現代に戻りましょう。江戸時代は行き止まりだった水道尻も現代ではお歯黒どぶが埋め立てられて通行可能です。仲之町通りの右手に九郎助稲荷も合祀されている吉原神社、そのまま道なりに歩いて吉原弁財天の向かいにあるのが遊廓専門書店カストリ書房(コラム2)、史跡散策の折には是非立ち寄りたい書店です。

 以上、吉原の見取り図を頭に入れたら大門をお入りください。

 本書は、第一章では忘八(遊廓関係者)の記した江戸吉原の怪談集『烟花清談』の翻刻と解説(髙木元)、コラム1では現代の人気漫画『鬼滅の刃遊郭編から読み取られる吉原怪談(植朗子)、第二章では近世随筆等に見られる吉原の奇談の紹介(広坂朋信)、コラム2では遊廓での聞き取り調査から見た怪談(渡辺豪)、という構成で読者を怪談の吉原にご案内いたします。

 

 狂歌師、大家裏住(おおやのうらずみ)は『烟火清談』の板元蔦屋重三郎の催した百物語狂歌の会で次のように詠みました。

 

  これもちの身でハ猶さらころさるゝ化しやうやしき歟大門の内

  (『狂歌百鬼夜狂』古典文庫六六二より)

 

 はてさて大門の向こうで出会うのは、化粧の者か、化生の物か。ようこそ、怪談の吉原へ。

本書は4月中旬発売予定です。

各ネット書店で予約注文の受付が始まっています。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784768480052

ホワイトデーにお奨めの本

もうすぐホワイトデーですね。プレゼントのお返しはお決まりですか? 

定番のクッキーもいいですが、本もすてきな贈り物になります。

『結婚の自由──「最小結婚」から考える』(植村恒一郎、横田祐美子、深海菊絵、岡野八代、志田哲之、阪井裕一郎、久保田裕之著)は春らしいカラフルな装幀といい、今話題沸騰のテーマといい、プレゼントにぴったり!

もう一歩踏み込みたい方には、『〔改訂新版〕 夫婦別姓事実婚社会学』(阪井裕一郎著)がお奨めです。

今年のホワイトデーはクッキーをつまみながら白澤社の結婚本を読んでお過ごしください!

『〔改訂新版〕 夫婦別姓事実婚社会学

https://hakutakusha.co.jp/book/9784768479902/

 

『結婚の自由 「最小結婚」から考える』

https://hakutakusha.co.jp/book/9784768479919/

 

『ケアするのは誰か?』重版(六刷)出来

ご好評いただいております『ケアするのは誰か?』(ジョアン・C・トロント著、岡野八代訳・著)の重版が出来上がって参りました。

刊行以来、大手マスコミ以外の各紙誌にて取り上げられ、今回の重版でついに六刷となりました。

大新聞で取り上げられなくても、評判を聞いて手に取ってくださった読者の皆様のお陰と存じ篤く御礼申し上げる次第です。

高額療養費制度の負担上限額引き上げが議論されている現在、本書は繰り返し読まれるべき本と確信しております。

『ケアするのは誰か?』の本の詳細とご注文は白澤社ホームページへ。↓

ケアするのは誰か? | 白澤社

https://hakutakusha.co.jp/book/9784768479827/