ねこまくら

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2016-09-29 (木)

[]蝸牛くも?ゴブリンスレイヤー

ゴブリンスレイヤー3 (GA文庫)

ゴブリンスレイヤー3 (GA文庫)

勇者が復活した魔神を倒したりしてる、典型的な中世ヨーロッパ風ファンタジー世界で、そんなこととは関係なく、遺跡だの地下水道だのでゴブリン退治をする話です。「大きな物語」に関心を示さない割り切り方と、世界の理不尽さをストレートに描く容赦のなさとが並列してるあたりが、今風な感じなんだと思う。小鬼退治に徹するプロフェッショナルな主人公と、タメを作らない淡々とした文章で、ハードボイルドな雰囲気を出してます。周りの女性キャラがみんな女の子キャラなのは、今風ですね。最近の流行りモノとかはよくわからないのだけれど、ファンタジーでも今のオンラインゲームとかよりも、ゲームブックとかテーブルトークとか、80年代頃の文化の直系の子孫という感じはします。

ゴブリンスレイヤー (GA文庫)

ゴブリンスレイヤー2 (GA文庫)

早々にコミカライズされてます。小説の方は、テーブルトークRPGをプレイしてる記録なんだ、とも読める構成になってますが、コミック版ではそうした仕掛けはバッサリとカットされ、ゴブリンの巣を攻略するパーティのガチンコバトルがメインとなってます。

2016-09-28 (水)

[]川村邦光「オトメの祈り」

オトメの祈り―近代女性イメージの誕生

オトメの祈り―近代女性イメージの誕生

明治大正期に形成された近代日本の少女のイメージを検証する。事例の並列にとどまって、アルケオロジーというほどのことはないけれど、当時ブームとなって刊行された少女雑誌や婦人雑誌の読者投稿欄からの引用が多数採録されているのが面白い。ヨーロッパ自然主義文学などの翻訳小説と、王朝和歌から連綿と続く花鳥風月的な日本の伝統的センスが混交して、読者の投稿文からいわゆる少女趣味のポエムの文体が成立していくのがわかります。語彙や修辞、「懐かしさ」「淋しさ」などのイメージを孕んだ、いわば「オトメ体」とでも言うべき独特の文体が成立することで、読者投稿欄にオトメによるコミュニティが成立することになるのです。オトメ体の文章が「オトメ」としてのアイデンティティをもたらすというわけです。オトメとしてのアイデンティティは年齢を超越し、六十代となっても、十代の頃そのままのオトメ体で手紙を書いている女性の例が紹介されています。それは一過性の感傷に終わらず、オトメとしての家庭観、夫婦観を形作っていったのです。オトメ体という「文体とイメージによってこの世界の”経験”は保持され伝承されるのだ」と著者は書いています。

2016-09-27 (火)

[]小川洋子・クラフトエヴィング商会

小川洋子とクラフトエヴィング商会の共著、というかコラボ?小川洋子は「妊娠カレンダー」で芥川賞をとった小説家です。クラフトエヴィング商会は、説明するのがちょっと難しい。著者紹介では、「テキストとイメージを組み合わせた独創的な作品を発表する一方、装丁デザインを多数手がける」制作ユニット、となっています。存在しない商品のカタログ、とか作ってます。本書も、川端康成とかボリス・ヴィアンとかの小説に出てくる、実際には存在しない物に関する連作短編集です。小川洋子が「バナナフィッシュの耳石がほしい」といった注文書を書き、クラフトエヴィング商会が納品書でそれを探し出した経緯を説明する、それを受けて小川洋子が受領書を書く、といった構成になってます。幻想的で、少し懐かしいような不思議な本です。

2016-09-26 (月)

[]ペネロープ・バジュー?「エロイーズ」

フランスのコミックはBDと言って、美術書に近いようなものだけれど、これはもっとポップな感じ。まあ値段はそれなりにしますけれども。

読み味はむしろ日本のマンガに近いけれど、表情のコケットリーとか、やはり日本のとは違う、ヨーロッパのテイストが面白い。

主人公が記憶喪失で、「ここはどこ、私は誰」の状態でいきなり始まります。手元のバッグに入ってた手帳で、自宅の住所はすぐわかったけれど、帰ってみたら電子錠の暗証番号がわからない。と、何もわからないところから、小出しに出てくる手がかりの出し方が巧くて、読み出すと止まらない感じで引き込まれます。主人公が、かなり困った状況にも関わらず、結構のんきというか、図太いところがよい味になってるし、展開も早くて飽きさせません。

同作者の、前作。ほぼ1ページで1本だから「あたしンち」とかより短い。読んでくリズムは萌え4コマに近いかな。サクサク読んでいく感じ。

(アラサーフレンチガールのさえない毎日)というサブタイ通りの内容です。

2016-09-25 (日)

[]川上弘美「大きな鳥にさらわれないよう」

大きな鳥にさらわれないよう

大きな鳥にさらわれないよう

はるかな遠い未来、滅びゆく人類は小さな集団に分かれ、静かに暮らしていた。ほとんど説明のないまま、詩情に溢れた短編が夜の雪のように静かに積もっていく。そんな川上弘美のSF小説です。断片的な物語を積み重ねていって、最後に壮大な未来史を浮かび上がらせる、という手法はよくありますが、日本の文芸作家が書くと、なんと話し懐かしいイメージが、しっくりきます。ふと手塚治虫の「火の鳥」とかも思い出したり。

2016-09-24 (土)

[]朝井まかて「眩」

眩

葛飾北斎の三女お栄の物語。父の画才を受け継いだだけでなく、作画にのみ打ち込み他に頓着しない辺りも似た者父娘だったらしい。応為と号し、浮世絵に陰影の表現を持ち込んだ。真作とされる作品は極端に少ないけれど、北斎作とされる作品には彼女の手の入っているものが多く含まれているとされている。そんな彼女の二十代から六十代までの一代記。束縛を嫌う北斎というキャラクタ、残されている資料の少なさから、作家が造形できる余地が大きいこと、絵師という職業柄江戸風俗がふんだんに取り込めることから、歴史小説と時代劇の味わいを損なわずに相乗させた極上の読み物。同じく北斎父娘を描いた杉浦日向子百日紅」と合わせ読むのも佳。

2016-09-23 (金)

[]川端裕人「青い海の宇宙港」?

青い海の宇宙港 春夏篇

青い海の宇宙港 春夏篇

青い海の宇宙港 秋冬篇

青い海の宇宙港 秋冬篇

川端裕人「夏のロケット」に触発されてあさりよしとおが「なつのロケット」を書き、更にそれに触発されて書いたのが本書。小学生がロケットを打ち上げる話である。その系譜は、前史として野尻抱介ロケットガール」や、映画化もされた「ロケットボーイズ」へと辿ることができる。設定上の制約と、成し得ることのバランスで、それぞれ性質が異なるが、いずれも「自分の手でロケットを打ち上げたい!」という衝動をストレートに描く作品群である。たかだか地球の周回軌道までの話がしっかりSFになるというのは、シンプルな物理法則が宇宙を動かしているというのを実感できるからではないか。「なつのロケット」の印象的なラストシーンを本作でもリスペクトしてるけれど、いずれも宇宙を動かす物理法則に則ることで、自分もまた世界とつながっていることをストレートに示している象徴的なシーンとなっている。ただ、本作では「小学生がロケットを打ち上げる」ための設定の整合性にこだわって、著者が「川の名前」で見せたような科学少年の冒険譚としての躍動感は抑えられているように感じた。

夏のロケット (文春文庫)

なつのロケット

進め!なつのロケット団 1

進め!なつのロケット団 1

これは、その、あさりよしとおが、ひょんな事から本当にロケットを作ってしまうという、ほぼ実話に基づいたマンガである。日本初の完全民間主導による液体燃料ロケット開発の記録となっている。川端裕人の「青い海の宇宙港」に登場する、北海道のロケット会社というのも、これをモデルにしているのではないか。

ロケット開発の歴史と、基本的な解説については、同氏の「まんがサイエンス」が面白い。

まんがサイエンス (2) (ノーラコミックスDELUXE)

文庫 ロケットボーイズ 上 (草思社文庫)

文庫 ロケットボーイズ 下 (草思社文庫)

女子高生、リフトオフ! (ロケットガール1)

「青い海の宇宙港」にしろ野尻抱介「ロケットガール」にしろ、ロケットビジネスにおけるロケットの巨大化に対抗して、小型ロケットの利用することがコンセプトとなっていたが、現実にも小型ロケットの運用がニュースになっている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が超小型衛星を宇宙に届けるミニロケットの1号機を12月にも打ち上げる。超小型衛星は開発期間や製造コストが手ごろで、大学や民間に需要があるが、これまでは大型衛星に「相乗り」して打ち上げてもらうしかなく、普及の足かせとなってきた。専用ロケットの登場で、利用にはずみがつきそうだ。(2016/9/23 日本経済新聞

「超小型衛星」利用にはずみ

また「青い海の宇宙港」では、超小型サイズの観測機を太陽系外に向けて飛ばすが、こちらも現実化しつつある。

英国の著名な宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士は12日、ニューヨークで記者会見し、光速の5分の1という極めて速い速度で飛ぶ小型探査機「ナノクラフト」を開発し、太陽系外の惑星や生命体を探す計画を発表した。(2016/4/13 日本経済新聞)

ホーキング博士が探査機計画

この「ナノクラフト」による小型探査機というアイデアは野尻抱介「沈黙のフライバイ」でもキイになっている。

沈黙のフライバイ

沈黙のフライバイ

27ページの短編だが、極めて壮大なイメージの広がりをもたらすファーストコンタクトテーマのSFの傑作である。観測結果から導き出される結論から想像を逞しくすることに禁欲的に振る舞い、ドラマティックな感動を盛り上げるのではなく、人間の灯した科学という小さな光を描くことで廻りに広がる闇の深さを示すかのような詩情あふれる余韻を残している。