維新外人部隊の大量投入は却って大阪市民の反発を買う、橋下氏は堺市長選の失敗をまたもや繰り返すのか、大阪府議選・市議選から都構想住民投票へ(10)、橋下維新の策略と手法を考える(その28)

 大阪都構想住民投票を1週間後に控えた各紙の5月11日世論調査は、維新内部においても相当深刻に受け止められているらしい。なにしろ数億円もの巨額の宣伝費を投じてプロパガンダを展開してきたにもかかわらず、それがまったく「宣伝効果」を挙げていないというのだから、橋下氏ならずといえども頭に来るはずだ。電通博報堂など大手の広告会社が付いていると言うのに、「このざまは何だ!」と当り散らしているらしい。

 それにしても「貧すれば鈍する」というか、このところ維新の都構想キャンペーンは地に堕ちている。5月9日から10日にかけてかかって来た録音電話など「無礼千万」としか言いようのないものだった(と複数の友人から聞いた)。受話器を取り上げるといきなり橋下氏の録音テープが流され、呆気にとられている間に一方的に切れてしまうのだから、友人たちなどはもう「カンカン」というところだ。それに電話の内容も「都構想は大阪を変えるラストチャンス」、「5月17日は投票所に行って賛成票を投じてください」と言うだけのもので、これで宣伝効果があると思ったら大間違いだ。大阪市民を馬鹿にするにも程があると言わなければならない。それでも100万回も無差別に録音電話を流したと言うから、おそらくはその半分ぐらいは敵に回したに違いない。

 そこで次なる手は、維新外人部隊を1000人動員し、ビラ100万枚を撒くときた。維新の党は急きょ「大阪都構想実現対策本部」を立ち上げ、投開票日を含む14〜17日の4日間、国・地方の所属議員や秘書などのスタッフを含め1000人を目標に大阪市内に動員し、賛成を呼びかけるビラ100万枚を配布する計画だと言う(読売新聞、2015年5月13日)。しかしこれが「最後の切り札」だとしたら、お粗末極まりないと言う他はない。なぜなら、堺市長選のときの失敗を繰り返すことが目に見えているからだ。

 いまでも記憶に新しいが、堺市長選のときの維新外人部隊の動員は凄かった。なにしろ市内のホテルを100室近くも借り切り、地方から議員や議員秘書などを泊まり込みで総動員して街頭演説やビラ配りをさせたのだ(戸別訪問もやらせたと聞いた)。ところが悲しいことに初めて堺市に来たメンバーも多いことから、どこでどう演説したらよいかさっぱり分からない。勢い演説は紋切り調になって誰も聞いてくれない。仕方なくビラ配りを始めたものの、今度はその前を素通りされて意気消沈する。こんなことが折り重なって、最後は多くのスタッフが街頭で突っ立っているだけになった。

 今回の都構想住民投票でも、維新は最初から外人部隊の投入を考えなかったわけではないらしい。しかし堺市長選のときの失敗もあり、また大阪は橋下市長のお膝元であることから「二の足」を踏んでいたのだが、ここにきて形振り(なりふり)を構っていられなくなったのだろう、最後の土壇場に来て大量動員に踏み切ったのだ。だが、この(大)作戦は失敗に終わるだろう。風向きが逆さまになっているときの外人部隊の大量投入は却って大阪市民の神経を逆なでして反発を買う。こんなことは無礼な録音電話と同じで「逆効果」でしかないのだが、それを分かっていてやるのだからよほど追い詰められているに違いない。

街頭の雰囲気というものは恐ろしい。調子のよいときは運動員も威勢がいいものだが、一旦劣勢に陥ると運動員の存在そのものが「逆宣伝」になりかねない。弱みを見せまいとして強がれば反発を食うし、しょぼくれた姿を通行人の眼にさらすとそれだけで「私たちは負けています」と街頭宣伝していることになる。今回はどうなるのか分からないが、どっちに転んでも堺市長選の「二の舞」に終わる公算が大きいと思う。

 されば、橋下氏に残された最後の手段はなにか。囁かれているのは一世一代の「泣き落とし演説」で橋下フアンの同情を買うか、創価学会との密約で「賛成票」を動員するかといったあたりのことらしい。前者はもう何回も使った手法なので大阪市民は「またか」と冷めた反応を示すだろうし(多少は反応しても逆転には至らないだろう)、後者は公明党の政治生命にかかわることなのでおいそれとは実現しない。理由を説明しよう。

 創価学会の都構想に関する公式態度は「自由投票」というものだ。学会は公明党の党籍のある学会員を除いては反対運動に参加することを禁じているので、学会員はこれまで表立った動きをしてこなかった。つまり創価学会公明党が安倍政権の与党としての利益供与を受ける見返りに、菅官房長官の指示にしたがって維新に協力するという方針を忠実に守ってきたのである。だから一旦否決された都構想協定書の府議会・市議会決定を覆すと言う「クーデター」まがいの謀略にまで手を染めたのだ。

 ところが、各紙の世論調査では大阪の公明支持層(学会員など)のほとんどが都構想に「反対」を表明しており、しかもその態度は変わらないので学会幹部は学会員に対して無理やりに「賛成」を強要できなくなった。本音は「賛成」を指示したいところだが、そうなると反発されるので「自由投票」と言う名目で阿吽(あうん)の「賛成投票」を促したのである。

 しかし、この「阿吽の指示」も功を奏しなかった。統一地方選で都構想反対を明言しない公明党候補が軒並み苦境に陥り、公明党は反対態度を明確にすることで漸く議席を確保するという薄氷を踏む経験に直面したのである。おそらくこの時点から、公明党幹部は学会の指示に反して「自由投票」から「反対投票」に方向転換したのではないか(ただし表向きの反対運動をしないと言う条件付きで)。府本部のホームページに「都構想に反対する理由」を箇条書きで掲載したのもこの頃である。

そして決定的だったのは、5月11日の各社世論調査で「都構想反対」が軒並み「賛成」を上回り、このまま洞ケ峠を決め込んでいたのでは公明党の政治生命が危うくなる状況が生まれたことだ。15万票の学会票を取引材料にして維新と密約を結んで安倍政権に協力することのメリットと、都構想に対する態度を曖昧にして公明党への支持を失うディメリットを勘案した結果、結局最後の土壇場で「勝ち馬」に乗る方針を決めたのである。

こうなると、橋下氏→首相官邸創価学会本部→公明党本部→大阪府本部のパイプラインが作動しなくなる。せいぜい菅長官が維新への応援メッセージとして5月11日の記者会見で都構想反対の立場から共産党との共闘を打ち出した自民党大阪府連に対し、「個人的には全く理解できない」と厳しく批判した程度だ。政権のスポークスマンである官房長官が党の地方組織の方針を正面から批判するのは異例だが、これに対しては自民党谷垣幹事長が「(自民大阪府連に)大きなシンパシーを持っている」と述べたことで帳消しになった。

私は、橋下氏が都構想の住民投票に負ければ政界から引退すると述べた言葉を2万パーセント信じている。「終わりよければ全てよし」という格言にもあるように、橋下氏には文字通り「有終の美」を飾ってほしい。(つづく)