シベリア少女鉄道vol.17『永遠かもしれない』@池袋シアターグリーン(5/27と6/1に観た)

毎回、楽しみにしている好きな劇団。前作『残酷な神が支配する』からは10ヶ月ぶり。久しぶりの本公演。(間にあったお台場の小公演も観ているけど)。2日目ということもあってか、今作の評判、上演時間(重要)、ネタに関しては全く知らない状態で劇場に着くことができた。
シアターグリーンは初めての劇場。勾配が急で前の客の頭が気にならないのはいいけど、幅が少し狭い。それでも客席中央の少し前の座席なので、とても見やすい。自分が好きな席が取れてよかったと思う。
誰か知らないアイドルの歌が流れる。舞台は狭く安っぽい感じの漫才ステージのセット。「Entertiner's HIGH」の文字。後ろの壁がスクリーンになっているようなので、きっと後半に使うのだろうと想像する。それにしてもこの簡易なセットはなんだろう?今回のネタはあまり大仕掛けではないのか。もしかするとつまらない感じなのかなと少し期待が萎えてしまった。
YUKIの曲が流れて開演。
 
プロローグ。
ナレーション「あの夜は酷い雨やった・・・」。
漫才師の藤井孝治(前畑陽平)は自分の運転する車の事故で恋人:大木沙也加(吉原朱美)、姉:藤井康子(浜口綾子)、相方:小林博史(加藤雅人)の3人を同時に失くしてしまった。
今日は初の大きなステージ、漫才コンクール。その本番前。コンビ名『イマジン』。通りがかりの清掃員、田村(石松太一)は「応援してるよ、頑張って」と声をかける。博史の妹、雅美(森口美香)は夜の飛行機でイギリスへ旅立つことを告げる。今日の出番が終わったら少し話がしたいと。
孝治は死んだ3人のことが忘れられない。3人はまだ頭の中にいて、時折、声が聴こえる。集中するべき場面ではなおさら。「できる限りのことはするから」「困ったらすぐに飛んでくる」「今日だけは終わるまでずっといるよ」今日はまたいつにも増して語りかける。
新しい相方の坂野小梅(篠塚茜)はそんなことは知らない。「永遠かもしれない」と思える菓子パン工場のバイトの毎日に嫌気が差し、なんとか現状の生活を脱しようと今日のコンクールで上位を狙う。孝治はステージに立って漫才をしている時が楽しい。その瞬間がずっと終わらなければいいと願う。「永遠やったら、ええのにな」と。
今回の役名は実在する芸人さんの名前を組み合わせたのかな?この導入部は違和感なくすんなりと入れた。割とわかりやすく、状況説明としては充分。
 
漫才スタート。
小梅のボケに孝治がノリツッコミするというオーソドックスなタイプ。前畑陽平氏は上手く何でもこなせるというのはこれまでの作品で知っていたけど、篠塚茜さんはまだこんな引き出しを持っていたのかと驚かされる。きっとこの漫才部分だけでもかなりの練習をしたのだろうな。
雅美が客として袖の出口扉の前で見守る。
大きな笑いは無いけど、少しずつ客席からも笑いが起こる。小ネタが楽しい。ボケで話が横道にそれて何の話をしていたのかわからなくなってしまう。(後で聞いた話だと一緒に観た友人はこの時「漫才ネタだけで笑わせるのは難しいだろう」と思ったそうだ)
段々と孝治の様子がおかしくなっていく。テンションがあがると同時にスクリーンにカットインが挿入されたり効果音が鳴ったり。テンションはさらにヒートアップし、小梅の困ったような表情。どうやら孝治のアドリブについていけないようだ。「呪われた村の村長」のくだりで孝治のテンションはついに最高潮に達し、雷鳴。スクリーンにシベリア少女鉄道Vol.17永遠かもしれない」の文字。
 
漫才のセットの間から現れたのは呪われた村のセット。村長として孫娘を探す孝治。これは孝治の妄想の世界ということなのか?呆然とする観客と同じようにステージ上の小梅にもいったい何が起きているのかわからない。「おじいちゃんっ!!」そして現れたのは孫娘の格好をした吉原朱美さん。いや、これは死んだはずの恋人の沙也加か。「何か変なものが見える」と小梅。続いてシスターオリビアとして姉の康子、通りがかりの勇者として元相方の博史。そして魔王役の清掃員田村。生贄とか真の姿を現す鏡とか石化とか、これは誰が見てもわかりやすいファンタジーゲームによくある設定。
なるほど。(ノリツッコミの)ノリの部分をとことん大袈裟にするというのが今回のネタらしい。孝治だけでは限界があるので、死んだ3人(ともう1人)がそれぞれの役割を演じてそれを助ける。バカバカしいけど、なんだかこの状況に少し感動してしまう。それにしても今回はネタへの突入が早い。いつもは前振りがもっと長く、むしろ大部分が前振りでネタ部分に入ったら一気に終演までいくのに。
「っておい!!誰が呪われた村の村長やねん!!」村のセットは消えて(4人が持って帰る)漫才は続いている。小梅は状況が信じられない様子だが、仕方なく漫才ネタを続ける。
 
「やっぱ甲子園へ行きたいよな!!さあ練習練習!!」とグラウンド脇のセット。高校野球の世界に突入。これまたあるあるネタというか、野球漫画によくある展開。主催の土屋亮一氏は本当に野球ネタが好きだと思う。いつのまにか小梅まで直子ちゃんとして世界に巻き込まれる(そして死んだことにされる)。よけいなキャラクター設定やダイジェスト場面や決勝前夜のくどいシーンに対して小梅がつっこみ、漫才ではボケ役だった小梅がこの世界ではつっこみ役。それは観客の気持ちを代弁しているようで、総がかりの大袈裟なボケを引き立てる。
くだらないけど、面白い。グラウンド金網の後ろにもう1つセットが隠れてそうなので、この高校野球から漫才に戻ったとして、もうひとつぐらい世界が変わって終わりかなと勝手に予想する。後になって実際はそんなもんじゃなかったと思い知らされるのだけど。 
再び漫才に戻り、小梅はここで漫才を終わらせようとするが孝治は終わらせない。もう鬼気迫る雰囲気。今度の漫才からの展開は忠臣蔵。くどい言い回しで話がなかなか進まない。小梅は仕方なく大石倉之助の息子として役割を演じ、早くこの世界を終わらせ漫才に戻そうとする。ところがここでさらに新しい展開が。漫才には戻らずにさらに別の世界へと移行する。そしてそこからまた別の世界に。わざと話を進ませないようなややこしい展開や長い台詞の繰り返しの演出が続く。世界が変わる時、孝治は恍惚とした表情に。まさにエンターティナーズハイ。
 
楽しい。役者さんの大袈裟な演技、いろんな役割、くどい遠回り、それぞれの小ネタがまた効いていて、ここで面白かったシーンを書き出していこうとすると、結局全シーンを書いてしまいそう。予想外の新しい世界が始まる度に観客から大きな笑いが起こる。しばらくそんな状況が続き、そのうち楽しさとはまた大きく違った別の感情が芽生え始める。
長い・・・ひたすら長い。いつまで続くのだろう?これはいつ終わるのか?このボケからボケへの発展をどうやって止めるのか?どこで区切りをつけるのか?線を引くのか?結末を語るのか?ピリオドを打つのか?オチをつけるのか?いったい。
そしてこの作品のタイトルが『永遠かもしれない』ということを思い出す。いやいやそんなことはない。これは演劇なんだし。いやでもまさかこんなことが。代わり映えしない、いつまでも永遠に続くことに対してふと起きる感情。それは恐怖。「なんかもう・・・ちょっと恐くなってくる」とチラシコピー。この作品の本質はむしろそこにあるのでは?舞台上では何も恐がらせようとはしていない。むしろ延々と笑わせようとしている。しかしこの実際に観客に起こる感情とのギャップ。作品が頭の中で語りかけてくる。「今頃気付いたの?もうみんなこの劇場から2度と出られないんだよ」と。きっとネタ部分への突入が早かったのも、観客により長さを感じさせるためだったのだろう。
出口扉前で時計を何度もみたり携帯で路線を検索したりうとうとしたりしていた雅美もついに扉から出て行く。
もちろん、これが永遠に続くということはなく、「って、おーい!!!」というエコー付きのつっこみと同時に終演。その長い流れは以下の通り。
 
漫才
ファンタジーゲーム
漫才続き
高校野球
漫才続き
忠臣蔵
タイムマシン研究所
エンディング(夕焼け)
タイムマシン研究所前回のあらすじ
タイムマシン研究所続き
スパイ
エンディング(音頭)
馴れ初め家族
白雪姫
エンディング(音頭)
馴れ初め家族
忠臣蔵続き
エンディング(サザエさん
教育番組
海猿
教育番組続き
エンディング(サザエさん)続き
 
(思い出しながら書いたので、内容、セリフが間違っていたらすみません)
 
劇場を出て「今日はたくさん笑ったなぁ」と同時に思うのは、「ふーっ無事に終わってよかった」と。友人もこの新しい展開に満足したそうだ。
 
ボリューム満点のネタの洪水。1人数役を器用にこなす役者さんたち(特に吉原朱美さんはピカイチ)。以前、この劇団の紹介文に「月9ドラマのシリアスなシーンで空から悪魔超人が降りてきたらそりゃ楽しいだろう」というようなことが書いてあったけど、今回の作品はまさにそんな内容。いろんなシーンを面白がって組み立てているのが想像できる。さらにそれだけではなく、他の劇団だったらチラシに「次回公演はコント集やります!!」なんて書くところをそんなことはせずにそれ自体を大きな1つのネタにしてしまうところが、いかにもシベリア少女鉄道らしい。今回のネタも演劇ならでは。上映時間がわかっている映画、放送時間が決められたテレビではいつ終わるかわからない恐怖は作品で表現できないし。2時間15分という上演時間を知らずに見れたのもよかった。
また、一時期、タイトルと内容の関連性がわからないこともあったけど、最近はまたタイトルと内容が合っているので納得させられる。この膨大な台詞量に稽古もさぞや大変だったろうに。
演劇で同じ作品を2回観たのはこれまでに2回目だけど、そのどちらもシベリア少女鉄道作品。自分に「もう一度観たい」と思わせるのは今のところこの劇団だけ。
 
観劇後に友人と話していて、篠塚茜さんの初出演『天までとどけ』からの成長ぶりとかこれまでの作品との比較(同じ部分、違う部分)とか、同じ劇団をずっと観ているがゆえの楽しみもあるのだけど、それとは別に、もはや慣れてしまっていて、もしかしたら他の劇団の作品よりも贔屓目に観てしまっているかもしれないという感じもあるのは確か。
それでもこれからの展開がやっぱり楽しみなずっと応援したい劇団なのだ。
 
(参考)シベリア少女鉄道×MARI『のだぬカンタービレ』の感想
http://d.hatena.ne.jp/hirorize/20070103
(参考)シベリア少女鉄道vol.16『残酷な神が支配する』の感想
http://d.hatena.ne.jp/hirorize/20060723
(参考)シベリア少女鉄道vol.15『ここでキスして。』の感想
http://d.hatena.ne.jp/hirorize/20060305
(参考)シベリア少女鉄道vol.14『スラムダンク』の感想
http://d.hatena.ne.jp/hirorize/20051025
(参考)シベリア少女鉄道vol.13『笑顔の行方』の感想
http://d.hatena.ne.jp/hirorize/20050511
(参考)シベリア少女鉄道vol.12『アパートの窓割ります』の感想
http://d.hatena.ne.jp/hirorize/20050220
(参考)シベリア少女鉄道vol.11『VR』の感想
http://d.hatena.ne.jp/hirorize/20041110