第13回:政治男子の勝負服に萌える――『野望への階段』(執筆者・♪akira)

 
 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! 梅雨真っ只中、うっとうしい日々が続きますが、そんな時こそ思いっきり萌えて気分転換しましょう!
 
 というわけで、今回は「腐」というより「萌え」に焦点を当ててみようと思います。星の数ほどある「◯◯萌え」のバリエーションの一つ、「背広(スーツ)萌え」(あるんです!!!)。これはもう読んで字のごとく、背広を着ているメンズにうっとりするという大変わかりやすいもの。しかも殿方にもハードルの低いコスプレといえましょう。タイムリーなところで例を挙げますと、W杯各国代表選手のスーツ姿! チームジャージの5倍増しぐらいにステキ度アップ(当社比)。ドルチェ&ガッバーナ(イタリア)、ヒューゴ・ボス(ドイツ)など世界に冠たるデザイナーズスーツが見られるのが毎回の楽しみです。一方今年のイングランドはまさかのマークス&スペンサー(コリン・デクスターのモース主任警部シリーズでおなじみ、イギリスのイトーヨーカドー)だったのが話題にw
 
 前置きはそのくらいにして、背広といえば一般的にはサラリーマンの通勤服ですが、そのイメージが戦略の一つであり、運命をも左右しかねない、まさに男の勝負服なのが政治の世界。そこで今回はリチャード・ノース・パタースン『野望への階段』(PHP研究所)をご紹介します。

野望への階段

野望への階段

 主人公コーリー・グレイスは、イラク戦争で相棒を失い捕虜となった後、英雄として母国に帰還します。その後故郷のオハイオ州から共和党員として上院選に出馬し、順調に政治家としてのキャリアを進めますが、私生活ではバツイチの独身。労働者の家に育ち、保守的な方針の党に属していても、みずから納得のいかないことには断固として反対の立場を取るなど、歯に衣着せぬ異端児として反感を持つ党員も少なくありません。
 
 そんな主人公が運命的な出会いをしたのが、オスカー女優で黒人のレキシー。ある案件の後押しに来た彼女は、コーリーの共和党員らしからぬ政治姿勢に興味を持ち、その後2人は恋仲になるものの、当然のごとく彼らの交際はスキャンダルとして問題視されていきます。
 と同時に、コーリーには大統領選出馬の話が。対立候補は実質的に党の一押しである、ゴリゴリの保守派上院議員マロッタと、カリスマキリスト教伝道師クリスティ。前者は保守層にアピールする古き良きアメリカのイメージ――暖かい家庭と敬虔なカトリック教徒――であることを前面に出し、中絶や同性婚に賛成するコーリーには真っ向から対立。かたや原理主義的な倫理観を説いて絶大な人気を誇る後者は、自らを神の使いとして忠実な有権者を囲い込みます。
 
 43歳という若さ、そしてその型破りな政策のため、コーリーと選挙参謀たちは苦戦を強いられます(このチームワークのくだりが腐的にポイント高し!)。実は彼には両親にも言えない辛い過去があり、それに向き合い乗り越えるために、私生活も含めて苦難の道を歩むことになります。老練な手管、卑劣な戦略、さまざまな駆け引き、地域ごとの特徴、そして驚きの事実がどのページにもふんだんに散りばめられており、純粋なミステリーではないものの、大変スリリングで最後の最後まで楽しめる、文字通りページターナーな一冊です。それも、先ごろお亡くなりになった東江一紀さんのリズム感のある読みやすい訳が大きな要因であることは間違いありません。残念ながら現在は絶版の本書ですが、まるで連続ドラマを観ているような、手に汗握る怒濤の展開を満喫できることうけあいですので、ぜひご一読を!
 
 そこで同時にお勧めしたいのが、エミー賞ゴールデングローブ賞の多部門で受賞、ノミネートを果たした話題のドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』背広萌えクラスタには超が付くほど必見です!
 邦題は似ていますがこちらはオリジナル脚本。英国で90年に『野望の階段』として先にドラマ化されています。
 
 物語は、民主党下院議員フランシス・アンダーウッド(ケヴィン・スペイシー)が、大統領選協力の見返りとして自分のホワイトハウス入りを約束した党内候補を見事当選させたにも関わらず、その希望があっさりと退けられたことから始まります。裏切られたフランシスはホワイトハウスに復讐を誓い、食うか食われるかの壮絶なパワーゲームを仕掛けます。陰謀渦巻くホワイトハウスに隠された怪しい人間模様と、全く先が読めない二転三転するストーリーは、これぞ極上のミステリー。ドラゴン・タトゥーの女デヴィッド・フィンチャー製作総指揮(1、2話は監督も)による重厚な映像も見所です。両作品においてペンシルヴェニア州サウスカロライナ州が重要な場所として使われていますので、党の戦略の違いとともに比べてみると面白いのでは。現在シーズン2が放映中ですが、特にこのコーナー愛読者の方はシーズン1後半をお楽しみに!
 それにしてもフランシス役スペイシーがフェロモン爆発でウルトラセクシー!!! 男だらけで徹夜した翌日のくたびれ具合もたまりません。かように、こと背広萌えに関しては、”ただしイケメンに限る” は適用されないことも多いと思って下さい(笑)。
  
●『ハウス・オブ・カード 野望の階段』オフィシャルサイト
http://house-of-cards.jp/
 
●日本版トレーラー

 
akira


  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。
 Twitterアカウントは @suttokobucho
 

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