白雪姫と鏡の女王



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

父王が暗い森にて消えてから十年余。邪悪な継母(ジュリア・ロバーツ)に半ば幽閉、虐げられてきた白雪姫(リリー・コリンズ)は18歳になった日に、忠実な召使によって十余年振りに外の世界を観る。そこで彼女が観たのは王国の荒廃ぶりだった。継母による放漫財政によって、国は荒れ果ててしまったのだ。そして白雪姫はハンサムな王子(アーミー・ハマー)と出会う。


本国アメリカでは不評でコケただけに期待を低くして観たからか、意外に面白かったです。監督はターセム・シン。前作『インモータルズ-神々の戦い-』とはまるで毛色の違う題材なのが面白い。正直に言って映像以外は期待していなかったのですが、これが軽妙なお伽噺調で楽しめたのでした。但しターセムはコメディ演出は余り得意でなさそうで、もっと笑いが弾けても良いのにと思う箇所が目立ちます。笑える箇所は大体が役者に助けられた感じでした。


嬉しいのは注目のイケメン、アーミー・ハマーの芸達者振りです。『ソーシャル・ネットワーク』で双子のウィンクルボス兄弟、『J・エドガー』で公私に渡るフーヴァーのパートナーを演じた注目株は、コメディもイケる人だったのでした。特に後半の薬盛られてからの演技には大笑いしました。これからも楽しみな俳優です。でも裸の場面なぞ監督にもっと笑いのセンスがあれば…と勿体無く思いました。久々に観たネイサン・レインも笑いました。絵に描いたような小心振りが可笑しい。ジュリア・ロバーツは残念ながら笑えず。これは監督の力量なのか、演技力なのか。ヒロインのリリー・コリンズは、いまどきにしては真っ黒ぶっとい眉も含めて、映画が始まると可愛いく見えて来ます。フィル・コリンズの娘と言うのにはびっくりです。そして最後に登場するあの人、まるで知らなかったので驚いたし嬉しかったです。


石岡瑛子の相変わらずアクが強く奇っ怪な衣装の数々は、特に衛兵なんぞかなり浮いていて、映るとすぐ目が行ってしまう。でも最近クセになったのか嫌いではありません。舞踏会での白雪姫の白鳥姿、あれはビョークのパロディなんでしょうか。


美女と野獣』『アラジン』等のディズニーアニメ映画で一時代を築いたアラン・メンケンの音楽は楽しい。往年のパワーこそ薄れたものの、「これはお伽噺ですよ」と言っているかのような曲の数々。そしてエンドクレジットは見もの聴きもの。ターセム初のボリウッドミュージカル映画です。インド人監督としてはやりたかったのでしょう。


スノーホワイト』と『白雪姫と鏡の女王』、どっちが良かったかというと、こちらの方が素直に楽しめました。ダークに、リアリスティックにやれば何でも面白くなるというものではないのでしょう。シリアスに作ったらその分きちんと作らないと、粗雑さも見えて来るもの。本作は最初からお伽噺のパロディと分かる作りなので、白雪姫の造形がもっと強くても良いのではないか、等の多少の欠点には目を瞑りたくなりました。


白雪姫と鏡の女王
Mirror Mirror

  • 2012年 / アメリカ / カラー / 106分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA):Rated PG for some fantasy action and mild rude humor.
  • 劇場公開日:2012.9.14.
  • 鑑賞日時:2012.9.21.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜11/金曜深夜23時25分からの回は私を含めて6人の入り。先週末から始まったというのに寂しいものだが、家族向けの題材からして日中は人が入っているのかも知れなかったが。
  • 公式サイト:http://mirrormirror.gaga.ne.jp/ 予告編、映画情報、女王語録等。

エージェント・マロリー



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

政府御用達の民間工作会社の凄腕エージェント、マロリー(ジーナ・カラーノ)は、田舎町のダイナーでいきなり同僚アーロン(チャニング・テイタム)に襲われる。危機一髪逃れた彼女は、ダイナーに客として居合わせたスコット(マイケル・アンガラーノ)を強引に引きずり込み、彼の車を奪って逃走。道中、マロリーはスコットに事の経緯を話すが、元恋人で会社社長ケネス(ユアン・マクレガー)が差し向ける工作員達は、執拗に追って来る。


工作員が組織に裏切られて逃走、逆襲に転じて行く…というのは手に垢の付いたプロットもいい所です。近年のそれの代表はジェイソン・ボーン・シリーズでしょう。そのスピン・オフ『ボーン・レガシー』だって同じです。ですから本作も元々話には期待していませんでした。監督は曲者スティーヴン・ソダーバーグ。その彼がアクションをどう撮るか興味津々でしたが、こう来ましたか。1970年代の映画のようにじっくりこってりで、人を殺すのは一瞬ではなく、時間が掛かります。観ていて痛そうなリアリズム路線。ボーン・シリーズのような神経症的編集は一切無く、役者の身体の動きを見せます。何度か足を使った追跡場面があって、これも延々撮っていました。トラックバック撮影の多用だけ観ると、『アウトランド』等での往年のピーター・ハイアムズみたいでしたが、もっと重みがある感じです。ヒロインの息遣いもリアルな音響でしたから、格闘・殺人場面も生々しい。これが結構な迫力で重厚でした。


話は大した事ないし、上映時間も90分強と小ぢんまりした作り。これはソダーバーグの語り口、ジーナ・カラーノの身体能力の高さ、倒される男優陣の顔ぶれを観る映画です。これが楽しかったのですよ。時制の交錯といった編集技もソダーバーグらしいし、ミヒャエル・ファスベンダーマイケル・ダグラスアントニオ・バンデラスといった顔ぶれも面白い。カーチェイス場面のまさかのアクシデントも、劇場で声を出して笑いました。まぁしかしです、やはり動けるアクション女優の誕生は嬉しい。ジーナ・カラーノの動きだけで映画の印象が決まるとは思いもしませんでした。ソダーバーグは彼女に寄り添って撮っています。細かくない編集も彼女の重みのあるアクションを生かす為。文字通り主役を生かす為のスタイルを採用した映画は、近年では珍しいのではないでしょうか。


ソダーバーグとは傑作『アウト・オブ・サイト』でも組んでいたデヴィッド・ホームズの音楽もあって、益々70年代調。ラストもバッサリあっさりで良かったです。ふらり劇場に入って短い時間楽しめる、そんな映画でした。


エージェント・マロリー
Haywire