自治体法制執務雑感

2017-11-17

[]選挙管理委員会の啓発等 21:27

選管職員、過労運転死亡事故か 衆院選前の1カ月間休日ゼロ 川西市役所を捜索 兵庫県警
衆院選の投開票日前日の21日に兵庫県川西市選挙管理委員会に所属する職員の男(51)が勤務中に起こした死亡事故に絡み、兵庫県警川西署が自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで、勤務先の川西市役所を家宅捜索したことが26日、県警への取材で分かった。
男は1カ月以上も休まず勤務しており、県警は過労運転の可能性も視野に捜査を進めている。
事故は21日午後4時45分ごろ発生。市選管事務局主幹の男が公用車で片側2車線の直線道路を走行中、軽乗用車と正面衝突。軽乗用車を運転していた大阪市東淀川区の女性(66)が死亡し、同乗の女性(59)が大けがをした。県警は同法違反容疑で男を現行犯逮捕した。
市選管によると、男は9月19日以降、1日も休みがなく、残業時間は100時間を超えていた。事故原因を特定するため、県警は市役所を25日に捜索。男の勤務状況に関する資料を押収し、当時の男の健康状態などを調べている。
産経新聞 2017年10月26日配信

あるセミナーのパネルディスカッションでは、地方公務員は疲弊しているということが共通認識のような形で語られていたが、上記記事の事例は、それを証明する最たるものであるように思われる。

選挙事務は、投票率向上策などといって事務が増える一方で、見直すという風潮はない。投票率向上策については、特に国政選挙においては、通常の生活をしている人であれば、その報道等に鑑みると投票日がいつか知らないということはほとんど考えられない。したがって、投票率候補者特性に左右されると思うのだが、選挙管理委員会においても投票日の周知を目的とした啓発活動を盛んに行っているところもあり、大きな負担になっているのではないかと思う。

では、こうした啓発活動が選挙管理委員会の行わなければいけない事務なのかどうかであるが、選挙に関する啓発については、公職選挙法第6条第1項が次のように規定している。

総務大臣中央選挙管理会参議院合同選挙区選挙管理委員会都道府県選挙管理委員会及び市町村選挙管理委員会は、選挙公明かつ適正に行われるように、常にあらゆる機会を通じて選挙人の政治常識の向上に努めるとともに、特に選挙に際しては投票の方法、選挙違反その他選挙に関し必要と認める事項を選挙人に周知させなければならない。

投票日の周知は、「その他選挙に関し必要と認める事項」には含まれるだろうが、条文からすると、選挙管理委員会による啓発は、いわゆる「明るい選挙」の推進に係るものを主に念頭に置いているのであり、現在の選挙に関する啓発のウエイトのかけ方は、法制度とはかなりずれているものとなっている。

いずれにしろ、選挙管理委員会の本来の事務は、選挙事務の管理であるから(公職選挙法第5条)、主たる業務以外の業務により本来行うべき業務がおろそかになるようでは本末転倒だろう。

ちなみに1998年(平成10年)6月から投票時間が2時間延長され、午後8時までとなり、それから開票事務を行うことになるため、特に国政選挙では選挙制度が複雑になっていることもあり深夜に及ぶため、その負担もばかにならないと思う。2003年(平成15年)12月から期日前投票が行われるようになったのであるから、投票日の投票時間を午後8時までにすることによる効果はあまり考えられない。

事務改善ということを考えるのであれば、開票を投票日の翌日にするという選択肢もある。次の規定は、公職選挙法第6条第2項の規定である。

中央選挙管理会参議院合同選挙区選挙管理委員会都道府県選挙管理委員会及び市町村選挙管理委員会は、選挙の結果を選挙人に対して速やかに知らせるように努めなければならない。

「速やかに」であるから、開票結果の周知を翌日としても、行政サービスの観点からはともかく、違法ということはないだろう。

2017-11-10

[]債務負担行為と会計年度 21:39

kei-zuさん掲載の記事から

Q 複数年度にわたる契約に係る増額変更に際し、当初に設定の債務負担行為の上限額の範囲内であれば、新たな債務負担行為の設定は不要ではないか?
※当初契約時に「8%消費税」で複数年度の契約を行い、税率改定時に「10%消費税」の変更契約を行うことを想定とのこと。
A 増額分に係る債務負担行為に設定が新たに必要
債務負担行為は、「契約の根拠」であるため

問いだけ見たときに、直感では新たな債務負担行為の設定は不要ではないかと思ったので、「地方財務実務提要1」を見たところ、同書(P1770〜)には、債務負担行為設定年度に締結できなかった契約を後年度で締結できるかといった問いに対してだが、それを否定しており、その理由として次の4点を挙げている。

  1. 予算は単年度ごとに定められるべきものと考えられており、執行部の毎会計年度の財務運営は会計年度ごとに事前に議会のチェックを経るのが予算の精神(自治法211条)。自治法211条*1債務負担行為の規定は、後年度の支出の原因となる行為をすることが可能であることは定めていても、これ以上に例外性を認める必然性に欠けている。
  2. 自治規則14条別記様式第4表で定めることとなっている債務負担行為の期間を、同表備考1では「期間及び限度額の欄には、年度ごとに当該年度の限度額を記載すること。ただし、その性質上年度ごとの限度額の明らかでないものは、その総額を記載することができる」としていることから、財政法第26条*2の「行為をなす年度」ではなく、「支出をなすべき年度、年限」を示すものと考えることが妥当である。
  3. 継続費についてはその性質上当然に年割額を定める必要があるが、債務負担行為については年割額が明示される必要はないのであって、その意味で、継続費のように、予算単年度主義の例外として数会計年度の予算を一括して定めるものではなく、単に当該設定年度における行為の基準を定めるものにすぎないと考えられる。
  4. 年度経過後において補正は不可能と考えられることとの整合性

以上の理由から、前掲書では、「債務負担行為に基づく執行力は、当該債務負担行為設定年度に限られ、当該債務負担行為の設定の年度経過後は、これに基づいて債務を負担することはできないと解されます」と結論付けている。

この結論の意味は、私は完全には理解できないところがあるのだが、結局のところ、国の制度との対比でみた場合、立法論としてできないことはないけれど、現行の制度ではできるようになっていないということはできると思う。設問の事例は、「地方財務実務提要」の事例とは異なるのだが、実務としては、否定的に考えておいた方が無難ではあるだろう。

しかし、私は、上記の理由を見ると、後年度に新たな契約という行為を行うことは否定していても、必ずしも契約を変更することまで否定しているわけではないということもできるように感じる。債務負担行為設定年度に締結した契約を後年度に減額変更することは当然認めるのだろうから尚更である。実際のところ、自治体の実務は、一般的に否定説で運用されているのか気になるところである。

*1:214条ではないか。

*2:「国庫債務負担行為は、事項ごとに、その必要の理由を明らかにし、且つ、行為をなす年度及び債務負担の限度額を明らかにし、又、必要に応じて行為に基いて支出をなすべき年度、年限又は年割額を示さなければならない」という規定である。

2017-11-02

[]東京都子ども受動喫煙から守る条例 21:57

東京都において、議員提出の条例案として10月5日に可決された「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」は、執行部が検討している受動喫煙措置の理念条例的な意味合いものなのだろう*1

以下、この条例を見て感じたことを記すこととする。

(目的)
第1条 この条例は、子どもの生命及び健康を受動喫煙の悪影響から保護するための措置を講ずることにより、子どもの心身の健やかな成長に寄与するとともに、現在及び将来の都民の健康で快適な生活の維持を図ることを目的とする。

「……保護するための措置」とあるが、この条例は、たばこを吸う者に一定の努力義務を課すことが中心であり、「措置」というほどの内容はないように思う。

また、条例の内容が子ども受動喫煙を防止することなのだから、「現在及び将来の都民の健康で快適な生活の維持を図る」ことを目的とするのは、広げすぎである。

(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)〜(3) (略)
(4) 子ども 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)第2条に規定する児童をいう。
(5) 保護者 児童虐待防止法第2条に規定する保護者をいう。
(6) 家庭等 子どもが住所又は居所として継続的に居住する場所をいう。
(7)〜(9) (略)

第4号の「子ども」及び第5号の「保護者」の定義について「児童虐待の防止等に関する法律」のそれを引用している。同法の引用は、やや違和感があるところだが、この2つの用語を定義している法律がたまたま同法だったからといったところだろうか。しかし、同法児童の定義は「18歳に満たない者」であり、「保護者」の定義は「親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するもの」としているので、単純にそのように記載すれば足りるだろう*2

さらに、子ども受動喫煙防止という観点からすると、「子ども」の定義を18歳未満とするのが適切なのだろうか。親族の喫煙を防ぐということから考えると、高校を卒業するまで、すなわち「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者」とした方が適切ではないかという感じもする。

また、「家庭等」との定義を「子どもが住所又は居所として継続的に居住する場所」としているが、「子どもが居住する場所」と書けば「住所又は居所として」は書く必要がないと思う。「家庭」というニュアンスを出すのであれば、「子どもが生活の本拠としている住居」*3といった表記でもいいと思う。

(家庭等における受動喫煙防止等)
第6条 保護者は、家庭等において、子ども受動喫煙防止に努めなければならない。
2 喫煙をしようとする者は、家庭等において、子どもと同室の空間で喫煙をしないよう努めなければならない。
(家庭等の外における受動喫煙防止)
第7条 保護者は、家庭等の外においても、受動喫煙を防止する措置が講じられていない施設又は喫煙専用室その他の喫煙の用に供する場所に、子どもを立ち入らせないよう努めなければならない。
自動車内における喫煙制限)
第8条 喫煙をしようとする者は、子どもが同乗している自動車道路交通法昭和35年法律第105号)第2条第1項第9号に規定する自動車をいう。)内において、喫煙をしないよう努めなければならない。
(公園等における受動喫煙防止)
第9条 喫煙をしようとする者は、公園(都市公園法昭和31年法律第79号)第2条第1項第1号及び自然公園法昭和32年法律第161号)第2条第1号から第4号までに規定するものをいう。)、児童遊園(児童福祉法第40条に規定するものをいう。)又は広場等において、子ども受動喫煙防止に努めなければならない。
(学校等周辺の受動喫煙防止)
第10条 喫煙をしようとする者は、学校、児童福祉施設その他これらに準ずるものの周辺の路上において、子ども受動喫煙防止に努めなければならない。
(小児医療施設周辺の受動喫煙防止)
第11条 喫煙をしようとする者は、小児科又は小児歯科の病院又は診療所その他これらに準ずるものの敷地の外周から7メートル以内の路上において、子ども受動喫煙防止に努めなければならない。

上記の規定が受動喫煙防止に関する一連の規定となっている。その中で「喫煙をしないように努めること」と「(子どもの)受動喫煙防止」という用語が使い分けされているが、「(子どもの)受動喫煙防止」という用語が定義されていないので、違いがよく分からない。特に、第9条以下では、子どもの近くで喫煙しないといったようなことを求めているように感じるので、特にその違いがよく分からないし、第6条第1項は、例えば分煙措置等を求めているように感じるが、そうすると同一の用語を条によって違う意味で用いているという面での不適切さもあることになる。

個別の条文ごとでは、第6条について、まず第1項と第2項の関係であるが、第2項の「喫煙をしようとする者」には、保護者も含まれるのだろうが、特定の者に一定の行為を求めるのだから、保護者とそれ以外の者という形で分けて記載した方が適当だろう。そして、第1項は、単に「子ども」とするのでなく、「その監護する子ども」とすべきである。また、第2項の「喫煙をしようとする者は、……喫煙をしないよう努めなければならない」という表現は、以降の規定にも見られるが、稚拙な表現である。

次に第7条だが、「家庭等の外においても」の「も」が気になるところである。この文章であれば第6条第1項とセットにした方がいいだろうし、そうでないなら、「保護者は、家庭等の外における受動喫煙…」といったようにした方が適当だろう。

ざっと見てみた感想は以上のとおりだが、この条例は、保護者等が行う子ども受動喫煙を防止するための行為について全て努力義務としており、家庭内における私的事項に行政がどこまで踏み込めるかという問題はとりあえず回避できたが、反面、条例としてはいかがという感じになっていることは否めない。

*1条例の附則第2項は、「都は、この条例の施行の日から起算して1年後に、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」としている。

*2:ただし、条例では「子ども」としているので、「保護者」の定義は「親権を行う者、未成年後見人その他の者で、子どもを現に監護するもの」となるだろうし、そうすると、そもそも児童虐待防止法第2条を引用することは適切でないことになる。

*3:例えば、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」第10条第1項第1号参照

2017-10-26

[]名詞の後の句点 21:58

私が住む市では、29日に市長選挙が行われるが、あわせて市議会議員補欠選挙が行われる。補欠選挙には4名が立候補しているが、その選挙公報における各候補者の記載が次のようになっている。

法制執務的には候補者Bを選ぶところだが、実際の投票は、さて誰にしようか……。

2017-10-20

[]路上喫煙規制と屋内喫煙規制との調和とは 20:27

ちぐはぐ禁煙、軌道修正 「路上」より「屋内」厳しく
2020年東京五輪パラリンピック開催を控え、飲食店での対応などで注目される受動喫煙防止対策。対策の強化を軸とした関連法案の提出は17年6月に閉会した通常国会では見送られたものの、罰則付きの条例制定を目指す東京都の対応など今後の議論の行方に目が離せない。防止対策の考え方や海外と比べた日本の現状などを厚生労働省健康局健康課の正林督章課長に聞いた。
  (略)
――路上喫煙に関しては、東京都内では千代田区新宿区豊島区などが禁止しています。
「日本では全国の1割強の自治体が路上喫煙を規制する条例を持つ。国としては受動喫煙を防ぎたいわけなので、条例のある自治体に対して、屋内禁煙との調和が取れるよう働き掛けを始めているところだ」
  (略)
日経産業新聞2017年10月6日

国が防ぎたいことがあるから自治体に働きかけるという主張を堂々と行っていることには、とにかくあきれてしまうのだが、それはさておき、路上喫煙の規制を一義的に受動喫煙の防止という目的のために行っている条例が存在するという認識を私は持っていない。例えば、千代田区における路上喫煙の規制は、「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」により行われているが、その目的規定は、次のようになっている。

この条例は、区民等がより一層安全で快適に暮らせるまちづくりに関し必要な事項を定め、区民等の主体的かつ具体的な行動を支援するとともに、生活環境を整備することにより、安全で快適な都市千代田区の実現を図ることを目的とする。

路上喫煙の規制は、千代田区条例では生活環境の保全のために行っているのであって、受動喫煙を防ぐことは目的としていない。したがって、屋内禁煙との調和云々などと趣旨目的が違うものを並べていろいろ言うのは、筋違いとしか言いようがない。

さらに、上記記事のなかで、厚生労働省が検討している法案の内容について、同省健康課長が次のように発言している。

対策強化と聞くと、違反した時点で罰則と捉える人もいるかもしれないが、実際にはそうしたものではない。仮に違反した事業者がいた場合、まずは行政による指導や命令などで改善を促し、従わなかった際に過料という形となる。そうした点も含めて周知していく必要がある。

受動喫煙に関する罰則であれば、過料ではなく、罰金とすべきだと思うが、その辺りの考え方はどうなっているのだろうか。

なお、上記記事によると、厚生労働省健康課長は、元々は医者だったようである。