P2Pインフラ研第2部 倫理編

で、何が分からなかったというとですね…。


何で皆さんが準備万端で47氏にサインをねだってるのかとか
「日ごろ女の子扱いされていない(と思っている)女子高生」というキャラ設定の重要度*1とかも分からなかったのですが・・・。
まあ全体としてパネラーの皆さんが断言・明言を避けていらっしゃってですね・・・それぞれの立場もあるのでしょうし、目の前にご本人もいらっしゃるし、しかもご本人は諸事情で質問等には答えられないということで不均衡だし・・・司会者の東先生が「YESかNOか、白黒はっきりつけろやゴラァ!」(注:こんなことなんて全然言ってません(笑)私が感じた雰囲気を文字化しただけです)と迫っていたのは、なかなかえげつないところはあったかもしれません。八田さんの表現を借りれば「空中戦」ということになります。


さてさて
それぞれのパネラーさんが提示した意見を私なりにまとめますと。



◆高木氏
Winnyは「うそをつくシステム」「良心に蓋をさせ、邪悪な心を解き放つ―ファイル放流システム」。
どういうことかというと・・・キャッシュというシステムは、利用者にとってはダウンロードだけしているように見えても、実は送信への前段階*2でもある。「このファイルをダウンするのは、不法行為に加担しているかもしれない」という認識/コミットメントができず、その点で一般/既存の流通と大きく異なっている。
つまり製造者は、利用者にそのへんの不法可能性を知らせるべきだった、と。そうすれば利用者は「もしかしたらこれって誰かを傷つけることになるかも?」と思って抑止になってたはず、というような感じ。
良心的で、清く正しく美しい技術者の意見だと思います。


◆濱野氏
これからはWinnyの時代だ!!(注:意訳です)
Winnyのどこが素晴らしいって、フリーライダとか「くれくれ厨」みたいな脱社会的*3な人*4も許容され、むしろ「コミットメントなき貢献」というかたちで、システムとして組み込まれてるとこだ、と。具体的にはですね、まず「そのファイルくれ」「あいよ」みたいな申込と許諾というコミュニケーションなしで良くて、社会性なくてもOK。次に「自分は侵害行為に加担したくないという倫理観(あるいは安全意識)を持ちながら、自分の欲望は達成しておきたい」という2ちゃんねる的精神を受けれるというコミットメントの排除*5などなどの点が挙げられてました。
どうしてこれからはWinnyの時代かって言うと、そういう脱社会的な人/方向が増えてくると予測されるから。「フリーライダでいたい、けど皆がそうなっちゃうと大変、ってわかってるけど私はやりたくない、社会全体はまわっていて・・・」と思う人を許容して組み入れる社会システム―コミットメントをさせない/いらないコントロール、すなわち環境管理型のシステムが必要となってくるから。だから、こういう脱社会的な方向で社会最適化*6がされてるWinnyに可能性があるのだ、というような感じかと。
Winnyからちょっとぶっ飛んでましたが、なかなか現実主義的というか社会学的なご意見だと思います。


◆山根氏
今後重要なのはハッカー倫理なのだぁぁ!!ストールマン万歳!(注:わかってると思いますが、これもまた意訳ですよ(笑)山根さんは大変もの静かな方です。シャツは除いて。)
山根氏はどちらかというと、Winny界隈の一連出来事が開発者に与えた/与えるであろうインパクトについての考察でした。Winny開発者が訴えられたことで、開発者が萎縮してしまうおそれあり、というか現に学生とかは悩んでいる、と。
そこで「技術は悪くない、悪用する利用者が悪い」とか四の五の言ってないで、アメリカのように開発者たちが自己防衛のための論理武装をしなきゃいけない。専門家じゃない開発者も相談できるような窓口つくったりもしてね。ISOCみたいなやつだそうです。
で、そこで筋を通すためには、何らかの価値観/判断基準がないといけない。*7今の日本にはそういう発想は希薄だし、アメリカのまねして「憲法に即してる」とかだと・・・ちょっと胡散臭い。というわけで、日本バージョンを何かかんがえなくてはならないのだ、ということでした。
米国系ハッカー的価値観満載なご意見だと思います。


◆大谷氏
私は倫理学とか道徳とかってどうも苦手なんで*8まあ、そのへんさっぴいて読んでください。
大谷氏は情報の所有権とか価値観の埋め込みとか匿名性とかソフトウェアについてを倫理学的そして科学技術史的観点から包括的にまとめてくださいました。
んで、まあ、このへんがよく分からなかったわけですよ・・・。
たぶん、Winnyと倫理のとこだけまとめると、ひとはいつでも倫理的/道徳的に正しいことを求められるけど、「足を一歩踏み出す」とかそういう日常的行為についてはいちいち「これは正しいか否か」なんて考えない。*9Winnyはそういう点で、非道徳的行為への敷居を低くして、日常のなかに組み込んだ、というようなことを言ってたのではないかと思います、はい。
しかも匿名性*10があるときに、つまり誰も見てないのに、どうして道徳的に振舞わなくてはいけないか、という問題提起もなさってました。議論の流れ上、あまり注目されてませんでしたが。
それから倫理的に正しいプロセス、例えばある集団内での総合的合意があったとしても、結論/結果として倫理的に正しくない場合があると指摘されてました。
つまりユーザが「効率性も匿名性も高いしDOMもOKだし、サイコ〜!!」という意見で一致していたとしても、正しくないことは正しくないのだということだと思います。
違ってたらすみません・・・。


というわけで、全体的にプログラマ/開発者側の責任に落とす方向で議論が進んでました。
濱野氏は違いますけどね。

*1:発表者:高木浩光先生。研究会後に、一学生でしかない私に名刺をくださった優しい方です。ありがとうございました。

*2:もっとちゃんと言えば、「ファイルを送信可能状態にする」ということ。これで効率性も上がってるのですが。

*3:「反社会的」とは違うんだな。これは宮台真司氏の提示した概念で、「リアル社会のコミュニケーションから<承認>を得るという動機付けから『降りてしまっている』」ことを指してる。まあ、すごーく矮小化して言えば、「世間なんて知らない」「私のこと、わかってくれる人だけわかってくれればいい」という態度と言える、かな?

*4:Winnyneetで「ウィニート」と呼ばれてました。東氏の発案だそうです。

*5:高木氏はここに問題を感じてる。

*6:純粋な性能の向上ではなく、社会的な価値観や欲望や文化といったものを取り込んで「構築」すること。高木氏にとっての「ダメアーキテクチャ」化。

*7:濱野氏が言うところの「ソーシャルソフトウエアの社会最適化」かと思います。ただし埋め込む価値観が、山根氏と濱野氏では全然違ってるとこに注意。

*8:どうして他人の構築した硬直的な価値観を学ばなきゃいけないのかって気になってしまうんですよね・・・。

*9:高木氏や濱野氏の言い方だと、コミットするか否かの判断とかにあたると思います。

*10:そういえば、今回匿名性とかについてはあまり触れられてなかったな。匿名性の必要について大谷氏は「だって何か気分悪くない?」的な理由を述べてらっっしゃいましたが。あ、社会とかもちゃんと定義というか概念の共有すれば良かったとも思います。