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2016-09-27

再び医療費急増も、厚労省は危機感なし? 約42兆円、3.8%増加の「緊急事態」

| 10:17

2015年度の医療費、またしても過去最高を更新

 2015年度の医療費(概算)がまたしても過去最高を更新した。厚生労働省が9月13日に発表した概算医療費の年度集計によると、2015年度は前の年度に比べて約1.5兆円増えて41.5兆円となった。労災や全額自己負担で支払われた医療費は含まれておらず、これらを含んだ総額である「国民医療費」(来年10月頃発表)は42兆円を超える見通しだ。概算医療費が過去最高を更新したのは13年連続である。

厚生労働省Web内  「平成27年度 医療費の動向」リリース ダウンロードページ

 2015年度の特徴は医療費の伸び率が3.8%と2014年度の1.8%から大きく高まったこと。医療費の伸びに歯止めがかかるどころか、逆に伸びが大きくなった。伸び率の推移を見ると2011年度3.1%→2012年度1.7%→2013年度2.2%→2014年度1.8%と推移してきており、2015年度の3.8%増は過去3年の趨勢に比べて明らかに増加ピッチが高まった。

 伸び率が高くなった最大の要因は75歳以上の高齢者の医療費が4.6%という高い伸びになったため。前年度は2.3%の伸びだったが、4年ぶりに4%台に乗せた。

高齢者の人数も増加、1人あたりの医療費も増加

 もちろん高齢者の割合が増えていることも背景にはあるが、高齢者1人あたりの医療費が伸び続けていることも大きい。75歳以上の1人当たり医療費は94万8000円と前年度に比べて1万7000円、率にして1.8%増えた。75歳未満の1人当たり医療費は22万円だから高齢者は4.3倍の医療費を使っており、しかも毎年その額が増えていることになる。高齢者医療費の増加をどう抑制していくかは、医療費全体の伸びを抑えるうえで、極めて重要になっているわけだ。

 もうひとつ医療費の増加抑制を考えるうえで大きなポイントがある。医薬品調剤費である。実は、2015年の医療費の中でも伸び率が際立って大きかったのが調剤費で、9.4%も増えた。厚労省によると、高額の薬剤を使用するケースが増えたことが調剤費の大幅な増加につながったという。

 調剤費は2011年度に7.9%増えた後、2012年度1.3%増→2013年度5.9%増→2014年度2.3%増→2015年度9.4%増と隔年ごとに大きく増えている。高齢者の医療費と調剤費の伸びをどう抑えるかが増え続ける医療費の伸びを止めるためには必須ということになる。

「医療費適正化計画」では、平均入院日数短縮に注力

 もちろん厚労省も増え続ける医療費を問題視していないわけではない。2008年度を初年度とする5年間の「医療費適正化計画」を設定、2013年度からは第2期が始まっている。

 第1期で力を入れたのは平均入院日数の短縮だった。高齢者が長期入院することが高齢者医療費の増加につながっていると考えたわけだ。平均在院日数のデータのとり方にはいくつかあるが、計画当初の平均在院日数を32.2日とし、これを1期が終わる2012年度に29.8日にするとした。ここ数年、入院した経験のある人ならば、医師が1日でも早く退院させようとしていたことを感じた人もいるだろう。実績は29.7日と目標を達成したとしている。第2期は平均在院日数の目標を28.6日としている。

 入院日数は短くなっているのだが、入院でかかった医療費は減っていない。概算医療費のデータでも入院日数はマイナスになっているのだが、入院医療費自体は増え続けている。2015年度は1.9%増加した。入院日数を減らしたことで医療費が抑制されていると考えることもできる。実際2015年度の入院医療費は1.9%増だったが、入院外は3.3%増えていた。一方で、入院日数をいくら減らしても医療費はマイナスにならないと言うことも可能だ。

 医療費適正化計画では全国の都道府県に対して医療費の見通しを示すように求めている。将来どれぐらい医療費がかかるのかを見極めたうえで対策を取ろうというわけだ。

 第1期では2008年度を34.5兆円としたうえで、適正化で対策を取る前の2012年度の見通しを39.5兆円と置き、適正化対策後の目標として38.6兆円という見通しを立てた。適正化によって0.9兆円の効果があるという計画だったが、これ自体は役人の机上の計算と言うこともできる。見通しを高くしておけば、実績を達成させるのは容易になる。

 実際は2008年度の実績が34.1兆円、2012年度の実績は38.4兆円だった。表面上の数字は目標を達成したことになる。

 ちなみに第2期は厚労省としての数値を出していないが、都道府県の見通しを機械的に足し上げたものとして2017年度の適正化後の数値は45.6兆円になるとしている。かなり甘い数字を見通しとして置いており、これでは医療費抑制のターゲットにはならないだろう。

安倍内閣は医療費圧縮に本腰を入れていないようにみえる

 調剤費については、後発医薬品ジェネリック)の使用率の引き上げや、重複投与の抑制、7剤以上の大量投与の抑制などを掲げている。もっとも、調剤費を将来いくらにまで圧縮するかという目標は設定されていない。

 医療費の伸び率が再び高まっているのは「緊急事態」のはずだが、厚労省の動きをみていても危機感が乏しい。もちろん、診療報酬や薬価基準の改定では厳しい見直しが行われている。2014年度の改訂では診療報酬は0.1%引き上げられたものの、薬価基準は1.36%のマイナスとなった。また2016年度の改定でも医療費ベースで薬価基準は1.22%のマイナスとなった。ところが、調剤費の伸びをみると、薬価改定年度は伸びがいったん小さくなるものの、翌年度は再び大きく伸びる傾向が鮮明になっている。イタチごっこになっているのだ。

 安倍晋三内閣も医療費の圧縮には本腰を入れていないようにみえる。第1次安倍内閣の時のトラウマがあるためだと思われる。医療費を含む社会保障費の抑制方針は小泉純一郎政権後半から最大の課題になっていたが、この方針は第1次安倍内閣にも引き継がれた。2007年夏の2008年度予算編成では7500億円の自然増が見込まれた社会保障費を5300億円増に抑える予算が組まれた。2200億円の抑制である。翌2008年夏の予算編成(2009年度予算)でも激論の末、8700億円の自然増を6500億円増に抑える予算が組まれた。

野党の「医療崩壊」キャンペーンが、自民政権を倒した?

 これに対して当時の民主党など野党は「医療崩壊」キャンペーンを展開した。自民党政権が2200億円を「削減」したために、救急医療や小児科などが立ち行かなくなったとしたのである。

 ことの真偽はともかく、自民党内にはこの時の2200億円圧縮が自民党の政権陥落の一因になったとみる意見が今も根強く残る。つまり、医療費の伸びを本気で抑えようとすると、高齢者医療費の抑制などを掲げた場合、再び「弱者切り捨て」「高齢者医療崩壊」といった批判を受けることになると心配しているのだ。

 だが、一方で、このまま医療費が増え続ければ、国家財政ばかりでなく、企業などの健康保険組合の財政も破綻しかねない。医療費が増え続ける中で、健保組合が財政を立て直そうとすれば、健康保険料を引き上げざるをえなくなり、結局は働く人たちの懐を直撃することになる。

 そうでなくても厚生年金の保険料は毎年引き上げが続いており、働く世代可処分所得は減り続けている。圧倒的におカネがかかっている75歳以上の高齢者の医療費を減らせとは言わないまでも、1人当たり医療費の増加を止めることは不可欠だろう。

 75歳以上の医療費が増えている要因を細かく分析し、その伸びをどうやって止めるかを真剣に考える必要がある。早く出血を止めないと医療保険の制度自体が崩壊してしまう。

2016-09-26

「働き方改革」本気度を探る 結局は企業のための成長戦略? 「36協定」見直しに踏み込めるか

11:55

毎日新聞(9月20日夕刊)に磯山のコメントが掲載されました。

オリジナルWebページ → http://mainichi.jp/articles/20160920/dde/012/010/004000c


 安倍晋三政権が「働き方改革」に向けて本格的に動き始めた。今月初めに内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置。長時間労働の規制や、「同一労働同一賃金」といった、本来なら労働組合が主張するような政策の実現を目指す。これまで法人税減税など「大企業寄り」と見られてきた政権の本気度を探ると、安倍首相の本音がチラリとのぞく−−。【井田純】

 「結局、生産性を上げるには、戦後の日本企業で常識とされてきた働き方を変えるしかない。そこに安倍首相も気づいた」。政権が「働き方改革」を重視する背景をこう分析するのは、経済ジャーナリストの磯山友幸さんだ。

 元々、アベノミクスの成長戦略は、企業の収益向上を図るのが眼目。「働き方改革」も当初から戦略の中に位置付けられてきた、と磯山さんは言う。「企業収益の向上を目的とした『働き方改革』には、大きく二つの方向性が考えられる。一つは労働コストの切り下げ。もう一つは生産性を高める、という方向です。そして政権はここにきて生産性を高めなければこの国に先はないという認識になった。そのためにまずは労働者の待遇改善に手を付けるしかないと判断したのでしょう」

 非正規労働が増えているとはいえ、総務省によると、7月の完全失業率(季節調整値)は3・0%と21年ぶりの低水準。この状況が続き、人口減少も進めば、人材の確保はさらに難しくなる。「これから企業が人を採用するには待遇を良くして働きやすくするしかない。経営者も、人材の確保が難しくなってきていると感じている。その証拠に、財界からは『働き方改革』に対する強い反発が聞こえてこないでしょう」

 現行で非正規労働者の賃金水準が正規の約6割にとどまっている格差を縮小する「同一労働同一賃金」について、磯山さんは「言い出した当初は参院選対策で、民進党との争点をつぶす狙いがあったと思う。だが、首相周辺の話を総合すると『生産性向上を目指すにあたっての弊害』と気づいて見直しに向けて本腰を入れてきたのでは」と見る。

 「働きすぎの時代」などの著作があり、安倍政権の雇用・労働政策に厳しい批判を加えてきた森岡孝二・関西大名誉教授も「政策の部分的な軌道修正ではないか」と見ている。「従来の成長戦略が行き詰まったことで、規制緩和一辺倒だった政策を転換せざるを得なくなった」と言うのだ。

 安倍首相らがことあるごとに成果を強調する「アベノミクス」。だが、脱デフレは達成できず、報道各社の世論調査からも、多くの国民がその成果を実感できずにいることは明らかだ。「デフレ脱却のためには個人消費の拡大が必要ですが、賃金は1998年以降下がっている。消費の底上げのためには、最低賃金引き上げも含めて労働政策の修正を考えざるを得ないということでしょう」

 どうやら「労働者のために」という考えが出発点ではない政策と言えそうだ。

 それでも今回の改革で、サービス残業や長時間労働など日本の労働慣行が転換するのかが注目される。日本の労働時間は年間1729時間で、フランス(1473時間)やドイツ(1371時間)よりも長く、改善が迫られている。

 だが、森岡さんは「打ち上げ花火としては派手だが、長時間労働体制に抜本的なメスは入らない」と否定的だ。その理由を「これまで厚生労働省が進めてきた労働時間改革はどれも法的規制を回避して、労使自治を前提とした行政指導にとどまっている」と説明する。

 同省の検討会では、事実上無制限の残業を認めている、労働基準法36条に基づく労使協定「36(さぶろく)協定」の見直し議論が進んでいるが、具体性のある規定に至るかどうかについては懐疑的だ。残業時間の上限規制にどこまで踏み込むかが焦点だが、「過労死リスクが高まるとされる『月80〜100時間』に落ち着くのではないか」と森岡さんは予測している。

 終業から始業の間に休息のために一定の時間を置くことを義務づける「インターバル規制」も、連合などが必要性を訴えている。しかし、経営側の反発は強く、政権の本気度が問われる。やはり森岡さんは期待していない。「日本では、欧州連合(EU)のような最低連続11時間の休息を定めた国の制度ではなく、企業が一定の幅で自発的に導入するものと考えられています。政府が関わるとしても、導入した企業に補助金などのインセンティブ(動機づけ)を設けるという形で済ませ、義務づけは見送るでしょう」

 そして続ける。「働き方の改革は、本来なら社会政策の一環。働く人の過労死や貧困失業といったゆがみを是正するために社会保障などと一体で議論されるべきものです。だが、安倍政権では、こうした社会政策をずっと棚上げしてきた。今回の働き方改革も、社会政策としてではなく、経済政策の柱として議論しているに過ぎない」

 この人も厳しい視点で働き方改革の行方を見詰める。「安倍首相が、働く人を守ることを真剣に考えているとは思えません」。厳しい口調で批判するのは「全国過労死を考える家族の会」の東京代表、中原のり子さん(60)。99年、東京都内の病院に勤務していた夫が長時間労働がもとで自殺労災認定を求めて裁判で争い、「二度と同じ思いをする人がいないように」と過労死を防ぐ法律の制定に向けた運動に取り組んだ。

 中原さんらの取り組みが実を結び、過労死等防止対策推進法は2014年6月20日に可決、成立した。しかし、である。そのわずか4日後、安倍政権は「残業代ゼロ法案」と批判を浴びた雇用改革案を閣議決定している。労組などからの反発が強く、成立には至らなかったが、昨年も一定の職種を対象に労働時間規制から除外する新制度の制定を目指した。政権は依然、成立させる意欲を持っていると見られている。「この『残業代ゼロ法』が示す働き方は、まさに夫の働き方そのもの。その仕組みによって、悲劇がもたらされたという結果が既に出ているんです。絶対に認めるわけにはいきません」

 過労死問題に取り組んでいる玉木一成弁護士は、「36協定を本当に見直して労働時間を規制するのなら、ある意味で本当に画期的なこと」と話した上で続ける。「その代わりに『残業代ゼロ法案』だけではなく、他にも何か狙っているのではないか、と感じる。そこがまだ見えてこない。これからも監視していくことが必要です」と警戒する。

 結局、「働き方改革」とは何か−−。前出の森岡さんはこう見る。「安倍首相は、政権を維持して憲法改正をするためにも、見かけだけの改革で労働者の支持を取り付けようとしています。だが、日本を元気にするために必要なのは残業に歯止めをかける長時間労働の解消です」

 「働き方改革」が、本当に労働環境の改善につながるのか。その引き換えに、私たちが犠牲を強いられることはないのだろうか。

2016-09-23

大手都市ガス「電力参入」が絶好調!の理由

| 09:43

現代ビジネスに9月11日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49601

スマートエネルギー情報局→http://smartenergy.ismedia.jp/

大手都市ガス、絶好調

今年4月に電力小売りが全面自由化され、一斉に「新電力」が家庭向け電力小売り事業に新規参入したが、そうした中で大手都市ガス会社が順調なスタートを切っている。首都圏で家庭向け電力小売りに参入した東京ガスは当初、初年度の目標としてきた40万件の顧客獲得を4カ月で達成、目標を53万件に引き上げたと報じられていた。

関西エリアで電力事業を展開する大阪ガスも、20万件という初年度目標を掲げているが、すでに17万件の契約を獲得した。名古屋を拠点とする東邦ガスも当初1カ月で1万件の契約を取るなど順調に滑り出した。都市ガス大手が大手電力会社にとっての最大のライバルになってきた。

都市ガス大手が順調に電力小売りの契約を獲得している背景には、同じエネルギー会社として各家庭にネットワークを持っていることが大きい。通信系なども家庭とのつながりがあるが、カバー率はガスの場合、ほぼ100%で、圧倒的に高い。きめ細かい顧客サービスを展開する素地があるわけだ。

東京電力の広瀬道明社長は毎日新聞のインタビューの中で、「新電力ナンバーワンを目標に、達成までやり抜く」と意気込みを語っていた。競争は激しいものの、環境は都市ガス大手にとって優位性があり、他の新電力を凌駕できる余地は十分にある。

大阪ガスはガス契約をしている家庭を対象に新たに「住ミカタ・サービス」という新サービスを展開。ガス機器のメンテナンスだけでなく、エアコンの修理のほか、風呂や台所などのクリーニングなどにサービスを拡大している。住宅のリフォームの相談などにも乗っている。顧客との関係の「密度」を上げることで、ガス契約から電力小売りなどに契約を広げていく戦略だ。

リフォームや建て替えのタイミングを早期に知ることで、家庭内の設備インフラを総合的に提案できるようにするのも狙い。特にガスを使った温水床暖房などは家の建設設計と同時に組み込まれるケースが多いことから、そのタイミングで電力や通信の契約も合わせて一括受注する体制を狙う。

ガス会社から「総合エネルギー会社」へ

経済産業省資源エネルギー庁によると、「小売電気事業者」として登録しているのは8月9日時点で334事業者にのぼる。そのうちすでに一般家庭への電力供給を始めた会社は100社あまり。今後、事業開始を予定している事業者もあるが、ほぼ出そろって来た感じだ。

参入したのは、大手都市ガス会社のほか、静岡ガス&パワーや中央セントラルガスといった「ガス系」、昭和シェル石油東燃ゼネラル石油、JXエネルギーといった「石油元売り系」、伊藤忠エネクスホームライフ関東やミツウロコグリーンエネルギーといった「商社系」のほか、KDDIなどの「通信系」や、東急パワーサプライなどの「電鉄系」など多岐にわたる。

各社とも、大手電力会社に比べて価格が安いことを売り物にしているが、各社のもともとの事業サービスと組み合わせた料金体系を取り入れるなど、工夫をこらしている。

変わったところでは、生活協同組合が事業者として事業を開始したところもある。大阪いずみ市民生活協同組合では「コープでんき」と銘打って事業を開始。価格が安いことも売りのひとつだが、「『コープでんき』の2016年電源構成は、FIT(再生可能エネルギー)を38.5%(全国平均の3倍以上)で計画しています」として、環境配慮を前面に打ち出している。エコ意識の高い生協組合員を意識した特長ある取り組みと言える。

もっとも、新電力はまだまだ「乱立状態」で、価格体系などが見えにくいことから、切り替えを躊躇している消費者も多い。インターネットには価格の比較サイトなども登場しているが、競争が収斂していく様子を見ている人たちは少なくない。緒戦で一定のシェアを獲得した新電力に、今後、様子見をしている消費者が契約に動くことになるとみられる。

そうなった場合、価格だけでなく、サービスをどう周知するかがポイントになる。このため自社のもともとのサービスで既存ネットワークを持っている事業者がより優位に立つことになりそうだ。そうした面でも、ガス大手が従来の顧客サービスの拡充に動いているのは正しい戦略だろう。

電力VSガスの行方

今後、IoTインターネット・オブ・シングス)と呼ばれる動きが加速し、家庭内の電気機器やガス機器、通信などがインターネットで結ばれて管理される態勢になっていく中で、「家庭内インフラ」の窓口一元化が進むことになりそう。電力・ガスなどエネルギーに加え、インターネット通信や電話、CATV、防犯システムといった家庭に関わるサービスを一企業が一括受注して一括管理する方向へ進んでいくに違いない。

それだけに、通信事業者やCATV会社など自社の既存事業を守るためにも電力小売りに参入しているという面が強い。今後、合従連衡を経て集約されていく中で、「総合家庭サービス会社」が誕生してくるのだろう。その場合も、エネルギーを基幹とするガス会社が優位に立つ可能性はある。

もちろん、ガス大手が安閑としていられるわけではない。都市ガスの小売り自由化が迫っており、電力会社が家庭向けのガス事業に参入してくるのだ。

今は守勢に立っている電力大手は、資本力ではガス大手を圧倒するだけに、ガス事業参入では強力な競合相手になる見込み。いずれは大手ガス会社と大手電力会社の統合なども起き、早晩、総合エネルギー会社が誕生してくるに違いない。

2016-09-21

小池都知事と安倍首相が意外なところで「タッグ結成」!? 全面衝突すると思われていたのに…

| 11:39

現代ビジネスに9月21日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49767


安倍首相に微笑みながら…

安倍晋三首相が規制改革の突破口と位置づけてきた「国家戦略特別区域(国家戦略特区)」。全国10ヵ所の指定地域で、既存の法令にしばられない「特例」が認められる制度だ。

すでに企業による農地保有や国際医療拠点での外国人医師の診療、医学部の新設や民泊など、改革の成果が出始めている。もっとも実現した改革が「小ぶり」なこともあって、アベノミクス改革は息切れした、といった評価が目立つ。

そんな中で、国家戦略特区に意外な援軍が現れた。東京都小池百合子知事だ。

9月9日、国家戦略特区の司令塔である「特区諮問会議」が首相官邸で開かれた。2014年1月の第1回から数えて23回目。秋の臨時国会や来年1月の通常国会をにらんだ新しい年度のキックオフ会議である。

諮問会議のメンバーは10人。安倍首相自身が議長を務め、ほかに閣僚4人と民間有識者5人で構成する。閣僚は麻生太郎副総理と、8月の内閣改造地方創生・規制改革担当相に就いた山本幸三大臣、経済財政政策担当の石原伸晃大臣、菅義偉官房長官だ。内閣改造地方創生担当と規制改革担当が一本化されたことから、官僚議員が1人減った。

民間有識者議員竹中平蔵・東洋大学教授、八田達夫・大阪大学招聘教授、坂根正弘・コマツ相談役、秋池玲子・ボストンコンサルティンググループ・シニアパートナー、坂村健東京大学大学院教授の5人である。

この日の会議には麻生副総理坂根氏、秋池氏が欠席したが、臨時議員として3氏が加わった。麻生氏の代理の木原稔財務副大臣と、塩崎恭久厚生労働大臣、そして小池都知事だった。

小池知事は冒頭、自己紹介と共に会議に参加を許された礼を述べると、「安倍総理、特によろしくお願いいたします」と安倍首相に微笑みかけた。そのうえでこう語った。

東京の課題解決とさらなる成長を前に進めていくためには、この国家戦略特区というのは、大変重要なツール、武器になってくるものと思います。今まで以上にこの特区制度を活用させていただきたいと考えております」

東京都特区に指定されてきたものの、特区の活用には慎重だとみられてきた。特に舛添要一知事は『現代ビジネス』の自身のコラムで、「『国家戦略特区』推進のために、都知事が存在しているわけではない」という記事を掲載、安倍首相の規制改革路線に一線を画す姿勢を見せていた。

中でも舛添氏自身が大臣を務めた経験のある厚生労働省関連の分野の改革には冷淡だとされた。例えば、ホームヘルパーなどに外国人の就業を認める「家事支援」については、神奈川県が実施に踏み切ったにもかかわらず、舛添氏の反対で東京都は拒否し続けてきたとされる。


180度の大転換

多摩川を渡っただけでサービスが認められないとなれば、事業者にとってだけでなく、消費者にとっても不便。安倍首相が舛添氏に直接電話して依頼したにもかかわらず、舛添氏は拒否姿勢を変えなかったと言われる。

小池知事はこの東京都の姿勢を180度転換させた。

「待機児童対策についての規制改革の要望、特に保育所の設置、運営基準について、地方自治体裁量権の拡大を要望させていただきます」

特区諮問会議では次々と厚労省マターに斬り込んだ。臨時議員として塩崎厚労相が呼ばれたのは、これを「受ける」ためである。小池氏は女性活躍推進こそが成長戦略の一丁目一番地だと指摘、育児休業期間を2歳まで延長することや、小規模保育の対象年齢の制限撤廃などを要望した。また、特区諮問会議が進めてきた都市公園内の保育所設置の特例についても、代々木公園への設置などをぶち上げた。

さらに、外国人材による家事支援についても方針を転換した。

「外国人材による家事支援の特例でありますけれども、東京都は、全国最大の規模の市場になり得るわけでございまして、年度内には事業者選定を行って、来年度は全国トップの実績を上げてまいりたい」

アベノミクスに全面的に協力する姿勢を見せたのだ。

最後に小池知事内閣府の担当者たちの度肝を抜く発言をした。


石原氏も「全面的に支持」

「なお、もう一つお願いがございまして、区域会議の事務局でありますけれども、ぜひ円滑に進めるために東京都にも事務局を担わせていただければと思っておりまして、よろしくお願い申し上げます」

区域会議とは、特区を担当する大臣と、特区に指定された地域の首長、特区で特例を受けて実際に事業を行う民間事業者の三者が集まって具体的なプランを作る場。各省庁の大臣らも参加できるものの、最終的には三者の意見に従うことになっている。つまり、区域会議とは独立国家の司令塔のような存在なのだ。

従来、この区域会議の事務局は内閣府に置かれていたが、これを東京都と共同の事務局にして欲しいと提案したのである。東京都の「本気度」を示す提案だと言っていいだろう。

知事選に立候補するに当たって、小池氏と自民党との間に確執が生じたのは周知のとおり。自民党東京都連が中心となって推した増田寛也・元総務大臣を大差で破ったため、都連会長だった石原氏を会長辞任に追い込んだ。その石原氏も出席していた特区諮問会議で、全面的に安倍首相に「従う」姿勢を見せつけたのである。

アベノミクスの成果を国民に示したい安倍首相からすれば、最大の経済基盤である東京都が本気で改革に乗り出すかどうかは、特区の成否に直結する。小池知事の姿勢がありがたくないはずはない。

小池知事からすれば、冷戦状態が続く自民党東京都連の頭ごしで首相や閣僚と太いパイプを構築してしまえば、都議会の運営にも活路が開ける可能性が出てくる。政治力学を読み込んだうえでの小池流の決断だったのだろう。

東京都国家戦略特区として改革の先端を走るようになれば、飛ばないと言われてきたアベノミクスの三本目の矢、つまり規制改革で目に見える成果が出始める可能性がありそうだ。

2016-09-20

政権の“意思”と人手不足を追い風に 目前に迫る「最低賃金1000円時代

| 11:32

月刊エルネオス9月号(9月1日発売)に掲載された原稿です。http://www.elneos.co.jp/

東京では最低時給九百三十二円

 最低賃金の大幅な引き上げが続いている。厚生労働省中央最低賃金審議会が七月二十八日に最低賃金改定の「目安」を塩崎恭久厚労相に答申。全国加重平均で二十四円引き上げて八百二十二円とした。これを受けて、各地の最低賃金審議会が答申を行い、各都道府県労働局長が地域別最低賃金を決定。十月上旬から適用される。

 今年度の目安の全国加重平均の引き上げ幅(二十四円)は、前年度の引き上げ幅(十八円)を大きく上回った。引き上げ率は三・〇%に達した。目安では全都道府県をABCDの四ランクに分け、「Aランク」(東京大阪など五都府県)の引き上げ幅を二十五円、「Bランク」(埼玉など十一府県)を二十四円、「Cランク」(福岡など十四道県)を二十二円、「Dランク」(沖縄など十七県)を二十一円とした。東京はすでに東京地方最低賃金審議会を開き、二十五円引き上げて九百三十二円とすることを答申している。

 最低賃金の引き上げは安倍晋三内閣が政策の一つの柱として取り組んできた。アベノミクスを開始した二〇一三年以降、円安などによって企業業績は大幅に改善したが、それが給与の増加になかなか結び付いてこなかった。景気回復の恩恵を生活者の実感に結び付けるためには賃金の引き上げが不可欠だとして、安倍首相経済界にベースアップなど賃金引き上げを求めてきた。その一貫として最低賃金の引き上げにも取り組んできた。アベノミクス→企業業績改善→給与増→消費増という「経済の好循環」を目指しているわけだ。

働き手不足が賃金上昇に拍車

 第二次安倍内閣が発足した一二年末以降、最低賃金の引き上げピッチは速い。全国加重平均では政権発足前の一二年度は七百四十九円だったので、引き上げ幅は四年で七十三円にのぼる。率にすると九・七%だ。最も高い東京都の場合、一二年度に八百五十円だったものが、毎年二%以上引き上げられ、四年で八十二円、率にして九・六%引き上げられた。

 安倍首相は昨年十一月の経済財政諮問会議で、最低賃金を毎年三%程度引き上げ、将来は一千円程度にするよう、関係閣僚に環境整備を指示していた。七月の目安で全国加重平均の引き上げ率が三・〇%になったのは、この首相の指示が大きく影響している。

 仮に毎年三%引き上げた場合、全国加重平均で一千円を超えるには七年かかる計算だが、東京都に限ってみれば三年後には一千円を超えることになる。最低時給一千円時代が目前に迫ってきたわけだ。

 本来、最低賃金の引き上げには経済界が強く抵抗する。なかなか引き上げが実現できないのはこのためだが、最近は反対の声が小さい。安倍首相がリーダーシップを発揮して引き上げを指示していることだけが要因ではない。急速に進んでいる人手不足が賃上げの背中を押しているのだ。

 東京など都市部での人手不足は深刻で、最低時給が引き上げられなかったとしても、人員を確保するために時給を引き上げざるをえない状態が続いている。特に外食チェーンやコンビニエンスストアの深夜アルバイトなどは、時給を引き上げても人手が確保できない状況に直面している。店舗の店員を確保できなければ営業そのものが継続できなくなってしまうだけに、多少時給を上乗せしてでも人手を確保する動きが加速している。

 もちろん、背景には少子化がある。日本は本格的な人口減少時代に入ったが、若年層の労働人口の減少は著しい。従来はアルバイトの供給源だった学生の数が減り、人員確保を困難にしている。また、中国などからの留学生がその穴を埋めてきたが、中国人留学生も深夜の外食チェーンなどの仕事に就かなくなっている。中国人旅行者の増加を背景に、免税手続きの事務処理など、より給与が高く、肉体的にきつくない仕事へと人員がシフトしている。最近ではベトナムからの留学生が増加しており、アルバイト要員として期待されているが、引く手あまたの状態だ。

個人消費の底入れに期待

 こうした人手不足による賃金上昇はアルバイトやパートだけではない。派遣社員の給与も上昇が続いている。

 求人情報大手のリクルートジョブズのまとめによると、七月の三大都市圏(関東、東海、関西)の派遣社員の募集時平均時給は一千六百四十六円と、一年前の同じ月に比べて二・一%上昇した。時給がプラスになるのは三十八カ月連続で、〇七年の調査開始以来、最高の金額になったという。IT(情報技術)やサービス業での人手不足が深刻化し、派遣会社は時給を上げないと社員を集められなくなっている。

 厚労省が七月末に発表した六月の有効求人倍率(季節調整値)は四カ月連続で上昇し、一・三七倍になった。一九九一年八月の一・四〇倍以来、二十四年十カ月ぶりの高水準という。宿泊・飲食サービス業や建設業などの求人が増えている一方で、求職者は減っており、人手不足が一段と鮮明になっている。都会だけでなく、すべての都道府県有効求人倍率が一倍を上回っており、人手不足は全国に波及している。

 こうした人手不足に伴って賃金の本格的な上昇が始まりそうな気配だ。政権が旗を振る最低賃金の引き上げも、企業経営者の間に賃金引き上げムードを生んでいる。

 足元では消費の低迷が続いているが、給与の増加が続けば、可処分所得も早晩伸び始めるのは確実。年金保険料の引き上げなど、社会保障負担が家計を圧迫しているが、それを上回って賃金が上昇してくるかどうかが、消費動向を大きく左右することになりそうだ。

 アベノミクスによって企業業績が回復しているものの、多くの国民はその効果を実感できないとしている。民進党など野党アベノミクスは失敗だと断じる理由もそこにある。最低賃金の引き上げが呼び水となって給与の増加に結び付いてくれば、個人の間にも景気回復の実感が醸成されてくるに違いない。いましばらく時間はかかりそうだが、給与の増加によって低迷が続く個人消費の底入れにつながってくる可能性は十分にありそうだ。