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2018-04-20

持ち合い株の「縮減」明確化は株価に追い風 ガバナンス・コード改訂で資本効率は高まるか

| 09:17

日経ビジネスオンラインに4月20日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/041900075/

2015年の施行から3年を経て初めての改訂

 上場企業のあるべき姿を示す「コーポレートガバナンス・コード」の改訂案がまとまり、4月29日までを期限に「パブリック・コメント」の募集が行われている。意見を受けて改訂版が確定され、今年6月から施行される予定だ。最高経営責任者(CEO)の選解任プロセスの透明化や持ち合い株式の削減方針の明確化などを従来以上に強く求める内容で、日本企業のガバナンス体制の強化が進む見通しだ。国際的に見て生産性が低く、資本効率が悪い日本企業の経営改革が進むきっかけになるとして、海外の機関投資家なども注目している。

 ガバナンス・コードは2015年6月に施行されており、丸3年を経て初めての改訂となる。昨年来、金融庁に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」で議論されてきた。

 改訂のポイントはいくつかあるが、企業経営者と機関投資家の「対話」の促進に重点が置かれているのが一つの特徴だ。長期にわたる企業の成長を求める機関投資家の声を経営者が聞くことを求めている。今回、コードの改訂にあわせて、「投資家と企業の対話ガイドライン」も公表された。

 改訂で拡充したのは、CEOの選解任について。「原則」自体はこれまでと変えていないものの、「補充原則」を大幅に強化している。「取締役会の役割・責務」の項目に以下の2つの補充原則が付け加えられた。

 「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」

 「取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである」

 これまで多くの日本企業では、現職の社長や会長が後継社長(CEO)の選任権を実質的に握ってきた。次の社長や取締役の人事権を握ることで全社を統括できると考えている経営者は今も少なくない。一方で、こうした慣行が「社長絶対」の風土を生み、時としてトップの暴走を許してきた。また、取締役同士の建設的な経営論議を封じてきたとされている。

株式持ち合い」を巡る原則を見直す

 改訂案では、「CEOの選解任の基準は未だ整備が進んでおらず、後継者計画についても、取締役会による十分な監督が行われている企業は少数にとどまっている状況にある」と指摘している。次のCEOを選ぶためのルールを確立していく必要性を訴えている。

 最近では次のCEOを選ぶために「指名委員会」を設置する例が増えているが、現CEOや取締役会に答申する「任意」の組織が多く、独立社外取締役が過半を占める委員会の設置を求める会社法に則った正式な「指名委員会等設置会社」は圧倒的に少ない。改訂案では任意の指名委員会を否定はしていないものの、「選解任プロセスの独立性・客観性を強化する」ことが必要だとしている。

 付随して、経営者の報酬に関する「補充原則」もより突っ込んだ表現に変えられた。「取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである」という一文が加えられている。

 日本企業の経営者報酬は近年、大幅に上昇しており、年間1億円以上の報酬を得ているケースも増えている。一方で、報酬の決定方式の透明性が乏しい例も少なくない。欧米では高額報酬への批判が高まっていることもあり、経営陣の報酬について株主総会で拘束力のない賛否投票を行うなど新しい取り組みが進んでいる。また、在任中の不祥事が退任後に発覚した場合など、過去に遡って報酬の返還を求める規定なども導入されつつある。

 日本ではこうした議論がほとんど行われておらず、今回のコード改訂でも突っ込んだ原則での記載は見送られている。

 今回、コードの「原則」が大きく見直されたのは「政策保有株」に関する原則。企業同士や企業と金融機関の間で相互に株式を保有し合う「株式持ち合い」を巡る原則だ。

 株式持ち合いは親密な会社が「安定株主」となることで、実質的に経営陣に「白紙委任」を与えることになり、外部の株主による経営チェックを弱めていると長年批判されてきた。一方で経済界からは、日本企業が長期志向で安定的な経営を遂行するための重要な慣行だとして規制の強化には強く反発してきた経緯がある。ちなみに米国では銀行が企業の株式を政策目的として保有することは原則として禁じられている。

 ガバナンス・コードではこれまで、「政策保有に関する方針を開示すべき」としてきたが、今回の改定ではこれを「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」と変えている。株式持ち合いの「縮減」を目指すべきだと明示しているわけだ。

 さらに、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを大きく変更。「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」と踏み込んだ。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか、と問われると、なかなかそれを立証するのが難しくなる。企業経営者からすれば、そこまで理屈立てて説明しなければ許されないのなら、株式持ち合いは止めようという判断になるだろう。

株式持ち合い」を巡る原則を見直す

 改訂案では、「CEOの選解任の基準は未だ整備が進んでおらず、後継者計画についても、取締役会による十分な監督が行われている企業は少数にとどまっている状況にある」と指摘している。次のCEOを選ぶためのルールを確立していく必要性を訴えている。

 最近では次のCEOを選ぶために「指名委員会」を設置する例が増えているが、現CEOや取締役会に答申する「任意」の組織が多く、独立社外取締役が過半を占める委員会の設置を求める会社法に則った正式な「指名委員会等設置会社」は圧倒的に少ない。改訂案では任意の指名委員会を否定はしていないものの、「選解任プロセスの独立性・客観性を強化する」ことが必要だとしている。

 付随して、経営者の報酬に関する「補充原則」もより突っ込んだ表現に変えられた。「取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである」という一文が加えられている。

 日本企業の経営者報酬は近年、大幅に上昇しており、年間1億円以上の報酬を得ているケースも増えている。一方で、報酬の決定方式の透明性が乏しい例も少なくない。欧米では高額報酬への批判が高まっていることもあり、経営陣の報酬について株主総会で拘束力のない賛否投票を行うなど新しい取り組みが進んでいる。また、在任中の不祥事が退任後に発覚した場合など、過去に遡って報酬の返還を求める規定なども導入されつつある。

 日本ではこうした議論がほとんど行われておらず、今回のコード改訂でも突っ込んだ原則での記載は見送られている。

 今回、コードの「原則」が大きく見直されたのは「政策保有株」に関する原則。企業同士や企業と金融機関の間で相互に株式を保有し合う「株式持ち合い」を巡る原則だ。

 株式持ち合いは親密な会社が「安定株主」となることで、実質的に経営陣に「白紙委任」を与えることになり、外部の株主による経営チェックを弱めていると長年批判されてきた。一方で経済界からは、日本企業が長期志向で安定的な経営を遂行するための重要な慣行だとして規制の強化には強く反発してきた経緯がある。ちなみに米国では銀行が企業の株式を政策目的として保有することは原則として禁じられている。

 ガバナンス・コードではこれまで、「政策保有に関する方針を開示すべき」としてきたが、今回の改定ではこれを「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」と変えている。株式持ち合いの「縮減」を目指すべきだと明示しているわけだ。

 さらに、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを大きく変更。「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」と踏み込んだ。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか、と問われると、なかなかそれを立証するのが難しくなる。企業経営者からすれば、そこまで理屈立てて説明しなければ許されないのなら、株式持ち合いは止めようという判断になるだろう。

2018-04-13

働き方改革には「マインド改革」が不可欠だ 永田稔・ヒトラボジェイピー社長に聞く

| 09:27

日経ビジネスオンラインに4月13日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/041200065/

働き方改革関連法案がいよいよ閣議決定され、今国会に提出、審議が本格化する。時間外労働の上限をどんなに繁忙な時でも月100時間未満とするよう定め、罰則も設けるなど、画期的な内容を含む。一方で、時間によらない働き方をする専門職を対象にした「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」の導入も盛り込まれている。

 果たして、今回の法案が成立すれば、日本人の働き方が変わり、長時間労働は是正されていくのか。人材に関する問題解決に取り組むコンサルティング会社「ヒトラボジェイピー」の社長で、立命館大学大学院教授も務める永田稔氏に聞いた。

(聞き手は、磯山友幸)


f:id:isoyant:20180413093118j:image

永田稔(ながた・みのる)氏

ヒトラボジェイピー社長。立命館大学大学院経営管理研究科教授。一橋大学社会学部卒業、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にてMBAを取得。松下電器産業(現パナソニック)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ワトソンワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。ディレクター兼組織人事コンサルティングチーム部門長などを務めた。ビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。2016年6月にウィリス・タワーズワトソンを退社し、ヒトラボジェイピー(HitoLab.jp)を設立。 著書に『不機嫌な職場』(講談社、共著)など。


――今回の法案で日本の長時間労働は変わるのでしょうか。

永田稔・ヒトラボジェイピー社長(以下、永田):罰則付きで残業時間を規制するなど、これまでにない法改正であるのは事実ですが、日本の職場に根付いた「残業体質」が一気に変わるかどうか、疑問ですね。というのも、仕事の量や複雑さだけでなく、働かせる上司のマインドや働いている部下本人たちの意識が、日本企業の残業体質や非生産的な体質を作り上げているからです。この風土の問題をどうにかしないと、長時間労働は解決しません。

――部下のマインドですか。

永田:ヒトラボジェーピーでは、クライアント企業の事業責任者や管理職、中堅若手の社員などに70問にわたる綿密な質問票を記入してもらい、それを集約して、その会社の「働き方」「働かせ方」のどこに問題があるかを分析するサービスを行っています。いわば「残業体質の診断調査」です。

――どんな調査を行うのでしょうか。

永田:会社の「組織風土」と「環境・仕組み」、上司つまり管理職の「マインド」と「スキル」、社員本人の「マインド」と「スキル」、そして「業務の量と質」の7つについて、どれぐらい長時間労働の要因になっているか聞きます。また、「仕事のやりがい・活力」や「ストレス状態の認識」についても聞きます。

――回答に全体的な傾向はあるのでしょうか。

永田:各社、結果には差があるのですが、これまでに受託した15社約2000職場の全体集計をかけると、ある傾向が分かりました。まず、業務の複雑度や非定型度合いが高まっていると多くの回答者が答えています。仕事が難しさを増す一方で、業務に対する習熟度が追い付いていない、学習スキルが足らないと焦っている社員がかなりいることが分かります。


「過剰チャレンジ」と「過剰確認」を求める上司

永田:そうした中で、社員本人のマインドには、自分の仕事は自分でこなしたいという「抱え込み傾向」や、何としても自分だけで頑張るという「独力遂行傾向」が見られるのです。また、長時間働いていることを上司がプラスに評価するだろうと感じている傾向が強いことも分かります。

 一方で、上司の側のマインド、意識にもかなり問題があることが分かりました。「過剰チャレンジ」を求める傾向が強かったり、「過剰確認」を現場に求めたりしているケースが少なくないことが分かります。仕事が複雑さを増して、社員の能力が落ちているから、過剰に管理職がチェックをし口を出さざるを得なくなっている、ということでしょうか。

――仕事を抱え込んで長時間働くのが美徳、というわけですね。

永田:はい。複雑な業務を一人で抱え込んで、長時間働くことをよしとしている、社員の意識が根強くあるということです。また、会社全体の風土として、「頻繁に方針が変更される」という答えも目立ちました。上司の方針がしばしばブレて朝令暮改になったり、過剰なチャレンジを求めたりすることで、部下の負担になっているということも明らかになりました。

――部下も上司も長時間労働を嫌がっていない、ということですか。

永田:残業代を生活費の一部として当てにしているという答えもかなりあるのですが、それ以上に、職場が長時間労働になっている方が上司も部下も安心、満足だという傾向が見られます。調査結果をみると、何と、長時間労働と仕事の満足度が比例しているのです。

――そうした風土にメスを入れない限り、日本の長時間労働はなくならない、というわけですね。

永田:ええ。ある金融機関で、午後5時に帰る運動を始め、入館証で出退勤をチェックするようにしたところ、社員同士で入館証の貸し借りをして残業時間を調整していることが明らかになったケースもあります。また、PCで仕事時間を測定している会社の例では、パソコンのIDを貸し借りしているケースがありました。まさに社員のマインドの問題、職場の風土の問題だと言えます。

――どうすれば日本の会社の風土を変えられるのでしょうか。

永田:職場の仕組み、働き方の形を作り直すことから始める必要があるのではないでしょうか。本当の意味の「働き方改革」ですね。日本の場合、誰が何をやるかというジョブ・ディスクリプションが曖昧なケースが多く、自分の仕事が終わっても同じ職場の同僚が終わらないと帰れないというムードが強い。

 上司も「俺の若い頃はもっと厳しかった」といった思いがある。本当は今、目の前にいる部下がどう感じているか、仕事がキツイと思っているかどうかが重要なのですが、どうもそうした「風土」になっていない。上司による「過剰チャレンジ」の要求や仕事の「丸投げ」なども変えていく必要があります。私たちは分析結果を基に、経営者や管理職と話をして、ワークショップを行うなど、問題解決のお手伝いをしています。

――そうした現場の「風土」は必ずしも経営者が把握していないケースが多いわけですね。

永田:ええ。しかし、現場で起きる1つの労働問題が、会社全体のリスクになる時代です。過労死などが発生すれば、経営者の責任は重大です。


職場をプロ集団に変える一歩は「新人採用」

――ところで、今回の法案では裁量労働制の適用範囲の拡大は外されましたが、高度プロフェッショナル制度については法案に残っています。永田さんは高プロ制度についてどうお考えですか。

永田:時間によらない働き方という理念はよく分かります。しかし、今の日本企業のマネジメント体質のまま高プロ制度を導入した場合、悲惨なことになるのではないか、と危惧しています。私もコンサルタントをしてきて痛感しているのですが、日本企業の経営陣は、専門家に仕事を任せるのではなく、まず3つ4つの案を出せと言います。そしてその中から1つを選ぶのが経営者や管理職の仕事だと勘違いしている。

 そんな中で、時間規制のない「専門職」がいたとすると、いくつもの案を永遠に作らされることになりかねない。まずは、専門職を本当の意味で使いこなすようにマネジメントの行動を変えないといけません。

――確かに、日本企業はこれまで「ゼネラリストを育てる」という名目で、何でもやらせることができる使い勝手の良い「正社員」を主体としてきた。その人がどんな専門知識を持っているか、きちんと把握して戦力化していない。それが生産性が低い一つの例のように思います。

永田:私の会社では志望学生のエントリーシートを人工知能で分析するというサービスを始めています。ちょうど今、就職活動が盛りですが、人事部総出でエントリーシートを読んでいる。実際には学校名や部活などに引っ張られています。これをきちんと分析することで、会社が求める人材を選び、適材適所につなげられるのではないか、と思っています。

――テクノロジーを使ってデータを分析して問題を把握し、解決するという手法を取っているようですが、どんな分析をするのですか。

永田:エントリーシートに書かれている言葉の属性を分析して、その人の「チームワーク」度や「分析行動」「戦略思考力」などがどれぐらいあるかを点数化していきます。項目ごとに全応募者名を並べ替えランキングすることも可能ですので、例えば「コミュニケーション力」が一定以上の人を抽出することなどができます。

 今年はこういったタイプの人材を採用したいとか、今年はやめるとかいった「選択」をデータに基づいて行うことができます。そのうえで、面接などに入っていけばよいのです。ちなみに、副次的な効果として、模範解答のような文章のコピペをあぶり出すこともできます。

――日本企業では本人の希望に沿った配属をあえてせずに、様々な職場を経験させようとする傾向がありました。そうした時代ではない、ということでしょうか。

永田:職場をプロの集団に変えていくには、採用の仕方も人事評価のあり方も変える必要があります。職場の風土を変える一つのステップです。このシステムをエントリーシートではなく、中堅社員に文章を書かせ、幹部を選ぶ際のデータとして使えないか、という問い合わせも来ています。日本企業もこれまでの風土を変えようと、模索を始めています。

2018-04-12

なぜ政治家に「忖度」するのか 「内閣人事局」が問題なのではない

| 09:16

月刊エルネオス4月号(4月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 森友学園問題は、国有地売却に関わった財務省近畿財務局が、本省の指示によって決済文書を事後に改ざんしていた事が明らかになるという驚きの展開になった。財務省が認めたところによると14件の文書を300カ所にわたって書き換え、森友への国有地売却が「特例」であるという表現が削除されていたほか、安倍晋三首相の妻である昭恵氏の名前や政治家の名前が消されていた。

 なぜ、公文書を改ざんするという法律に触れかねない前代未聞の行為にまで財務省は組織的に踏み込んだのか。改ざん当時、理財局長だった佐川宣寿・前国税庁長官国会答弁に合わせるために、佐川氏の指示で改ざんしたとされるが、佐川氏個人の犯行などという説明では国民の多くは納得しないだろう。

 そもそも、森友学園への売却は「特例」ではなく、適切に処理されていたと繰り返し国会で答弁した佐川氏は、なぜ、そんな嘘を国会で答弁せざるを得なかったのか。

 疑われるのは政治家の関与だ。よもや安倍首相自身が改ざんを指示したとは思えないが、内閣官房長官首相官邸詰めの幹部官僚が関与していなかったか。焦点はそこにある。

 政治家が直接の指示を下さなくても、官邸の官僚たちが、首相にマイナスにならないよう理財局長に工作を指示したことはなかったのか。徹底した調査が必要だろう。

 少なくとも、佐川氏が状況を「忖度」して国会答弁をし、それに合わせて改ざんしたのは明らかだろう。だが、普通に考えて、官僚が自らの身の危険をおかしてまで、そんな事をするか。その後佐川氏は、理財局長から国税庁長官というトップに登り詰める処遇を受けており、外形的にみて、「忖度」には見返りがあったという事もできる。

 出世に目がくらんだ官僚が「忖度」して公文書の改ざんまで行った、ということなのか。

 霞が関の官僚からは安倍政権になってできた「内閣人事局」が問題だ、という声が上がっている。2014年に内閣官房の下に置かれた組織で、省庁の幹部600人の人事を一元的に行う。「省益あって国益なし」という省庁縦割りの仕組みを打破するために、内閣人事局が幹部の実質的な人事権を握ったのである。公務員制度改革の柱のひとつだったが、これには霞が関から猛烈な反発が起きた。

 内閣人事局長は官房副長官が就くことになっているが、初代の内閣人事局長は政治家の官房副長官である加藤勝信衆議院議員(現・厚生労働大臣)が就任した。官房副長官には事務方のトップもいて、当初は事務の副長官が室長を兼ねるとみられていたが、最後の最後で安倍首相は政治家を任命した。政治主導で幹部人事を仕切る体制を明確にしたのだ。

 こうした人事の「官邸主導」が政治家への「忖度」を生んだというのが、内閣人事局批判の根幹である。

 確かに、内閣人事局ができて、官邸の顔色を伺う官僚が増えたのは事実だ。省の都合よりも内閣の意向を尊重するようになったのである。もともと官僚は人事権者には従順な人たちだ。人事権を握った政治家の指示には素直に従うようになった。

 内閣人事局ができる前はどうだったか。各省庁の事務のトップである事務次官が人事権者として絶対的な力を握っていた。大臣ですら人事権を振おうとすれば、大騒動になった。そうした例は過去に多くの例がある。

 省庁の人事を握る事務次官の権力は大きく、事務次官会議で了承したものしか閣議にかけることはできないという不文律までできていた。それが、戦後一貫して続いた官僚主導体制だったのだ。つまり、政策を政治主導で行うには人事権を内閣が握る必要があったのである。

 政治への「忖度」が起きるから内閣人事局を廃止せよというのは、官僚による、為にする議論だ。官僚は国民全体への奉仕者だから政治家からも独立していた方が良い、というのは詭弁である。忘れてならないのは、政治家は国民が選挙によって選ぶことができるが、官僚は国民が直接選ぶわけではない。その官僚の人事権を内閣が握るのは民主主義社会では当然のことだろう。

 だが、官僚が時の政権への「忖度」で、国民を欺く不法行為を行う事は断じて許されるべきではない。安倍内閣は自らの責任において、そうした公務員としてあるまじき行為を行った個人の責任を徹底的に追及すると同時に、組織ぐるみで不正を行った財務省を徹底的に糾弾すべきだろう。

 また、第2次安倍内閣以降、停滞している公務員制度改革に本腰を入れるべきだろう。

 そのうえで、そうした「忖度」の土壌を作った政治の責任は明確化すべきだ。国会で嘘の答弁を続け、国民を騙し続けた麻生太郎財務大臣の責任は免れないし、結果的には自分自身や妻への追及を回避することにつながってきた安倍首相の責任も問われる。

 そうした「忖度」が生じた最大の原因は、安倍内閣が長期政権になったことだ。官僚からすれば、今の政権が将来にわたって続くとみれば、「忖度」することが自分の保身に役立ち、将来の出世にも結び付く、と考えてしまうことになる。

 長期政権は安定をもたらし、外交や経済政策に一貫性を持たせるプラス面も大きい。だが、時間がたてば権力は澱むのが常だ。安倍首相は改ざん前の文書が国会に提出された段階で、「前の文書をみてもらえれば、私や妻の関与が無かったことがはっきりした」と開き直った。その答弁に権力者の奢りを感じた国民は少なくなかったのではないか。

 世論調査でも内閣支持率は大きく低下している。そんな折に、政権を託せる力を持つ野党がないのは不幸なことだ。安倍内閣を上回る明確な外交戦略や経済政策を掲げる野党はない。また、自民党内にも安倍首相を追い落とした後、安倍首相を上回る政策実行力を持っているように見える宰相候補がいないようにみえる。

 「官邸主導の政治」というここ20年にわたって続けてきた日本政治の体制改革がその真価を問われている。

2018-04-11

自民党が決めた「郵便局2万4000維持」の見過ごせない奇怪さ ほんとにそんなに必要ですか?

| 08:20

現代ビジネスに4月11日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55219

本当に消費税が理由?

自民党は4月9日、「郵政事業に関する特命委員会」(細田博之委員長)などの合同委員会を開き、全国2万4000の郵便局を維持するための法案の骨子を決めた。

現在は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険が、郵便局網を運営する日本郵便に業務委託料として負担金を支払っており、その額は合計1兆円にのぼる。郵便局は山間地や離党など過疎地にも存在し、不採算な局が少なくない。これを金融2社の委託料で補っている。

今回の法案では金融2社が第三者機関に「負担金」として納め、第三者機関が日本郵便に郵便局の維持管理費として交付するとしている。

民営化を進めている郵政会社間の取引に「第三者機関」を絡ませる理由について、業務委託料として金融2社が支払っている現在は、年間500億〜600億円の消費税が課せられているが、第三者機関に負担金として納めれば200億円程度で済むとし、消費税負担の軽減が目的だとしている。

メディア消費税の圧縮が目的だと報じているところもあるが、実際には民間企業の店舗業務委託費用を、第三者機関を通したからと言って「非課税」にするのは簡単ではない。同様に地方の不採算店を抱える宅配便会社などに比べて郵政が優位になってしまう懸念もある。

隠れた目的

だが、こうした「消費税」の圧縮が目的というのは目くらましではないか。

自民党が検討している「第三者機関」は、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構のようだ。民営化する以前に預け入れられた定額貯金や積立貯金などの定期性郵便貯金を管理するための組織で、11兆円近い資金を持つ。

これらの貯金は依然として国の保証が残っているが、設定された満期と共に役割を終えていく運命にある。

これを郵便局維持の資金の受け皿にしようというのが隠れた目的ではないか。郵便局維持のために交付金を支給できるとなれば、この機構に金融2社から負担金を取るだけでなく、いずれ国からも予算を取ることを狙っているのではないか、と疑いたくなる。

自民党の前提とは

自民党の議論は、2万4000ある郵便局をそのまま維持することが大前提になっているようにみえる。人口減少が鮮明になる中で、2万4000の郵便局が本当に必要なのか、という議論もまったく欠如している。

これだけインターネットが発達する中で、金融窓口と職員を配置し続ける意味があるのか。民営化した以上、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険という「民間会社」が自分たちの採算に合うかどうかを考えたうえで、業務委託すべきではないのか。窓口業務が必要ならば、なぜ地域の金融機関に業務委託することを考えないのか。

自民党が何としても郵便局網を守ろうとする背景には、郵便局が「集票マシン」として機能し、郵便局長会が支援組織になってきたという歴史があるからかもしれない。だが、「ユニバーサルサービス」の維持を旗印に、郵便局に税金交付金を投入していく事に国民の理解は得られるのだろうか。

過疎が進む自治体の住民たちに間でも、何としても郵便局を残して欲しいという声は小さくなっている。過疎地では郵便局よりもコンビニエンスストアが欲しいという声が強くなっている。郵便局よりもサービス領域の広いコンビニによりニーズがあるのは当然だろう。

国会には、「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法の改正案」として自民党を中心とする与党議員議員提出法案議員立法)として提出される見通しだ。おそらく消費税の節減が強調され、野党議員の多くは煙に巻かれるに違いない。

郵便局網の維持に、国が直接的に関与していくようになれば、郵政民営化は後退し、民間企業の経営を圧迫することになりかねない。

上場しても民営化ではない

もうひとつ、国会で議論になっている事がある。ゆうちょ銀行の預け入れ限度額の撤廃だ。

ゆうちょ銀行は民営化され、株式上場したのだから、民間企業と同様、預金の限度額など無くてよいのではないか、というのが論拠だ。ゆうちょ銀行の経営者も当然の事ながら要望している。

もちろん、ゆうちょ銀行が本当に「民間銀行」並みになったのならその通りだろう。

たしかに、ゆうちょ銀行の株式政府は1株も保有していないが、筆頭株主で74%を持つ日本郵政の株式の56%はまだ国が保有している。つまり、ゆうちょ銀は今でも国の「孫会社」に当たるわけだ。

民間金融機関がそろって預金限度額の撤廃に反対するのも当然だろう。ゆうちょ銀行の民営化はまだまだ名ばかりで、郵便貯金は事実上、国に「保証」されているに等しい。

だが、政府が限度額の撤廃に動くのも、前段の郵便局網維持に連動している、とみてよさそうだ。ゆうちょ銀行の収益が上がれば、郵便局網維持のための負担金を増やすことができる。逆に、ゆうちょ銀行が儲からなくなれば、郵便局網の維持は難しくなる。

郵政民営化による日本郵政グループの発足から10年。そろそろ郵便局網の維持ありき、ではない郵便サービスのあり方について、本音の議論を始めるべきだろう。

2018-04-10

2018年は実感できる賃上げになるか 長期的人手不足で正社員採用も増加

| 18:20

月刊エルネオス3月号(3月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 安倍晋三首相は今年の春闘で、経済界に対して「三%の賃上げ」を求めている。企業業績の回復と人手不足もあって企業経営者の間にも賃上げ容認ムードは高まっており、五年連続のベースアップ(ベア)は確実な情勢だ。だが、一方では給与が増えているという実感に乏しい、という声も聞く。果たして二〇一八年は人々が実感できるだけの「賃上げ」が実現するかどうか。

 厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査の一七年分では、実質の「現金給与総額」が前年比〇・二%減少した。一六年は増加していたにもかかわらず、再びマイナスになったのだ。新聞各紙にも「二年ぶり減少」という見出しが躍った。賃上げしているはずなのに減少とは、いったいどうしたことか。

 ここで注意が必要なのは、この数字が「実質」であるということ。給与の増加分から物価の上昇分を差し引いている。一七年の場合、給与は〇・四%増えたのだが、消費者物価が〇・六%上昇したため、「実質」では〇・二%の減少となった。せっかく給与が増えても物価が上昇しては使用価値が増えないわけで、「実質」で見ることにも一理ある。

 これを受けて野党は、アベノミクスは失敗だと批判を強めている。民主党政権時代などデフレが続いていたため、給与が実質でプラスになる現象が起きた。給与が減っても、消費者物価がそれ以上に下落すれば、実質賃金はプラスになる。確かに、価格下落が進めば同じ一万円でも使用価値が高まるというのは事実だが、消費も生産もどんどん縮小していってしまう。デフレの怖いところだ。

パートタイムと一般労働者

 統計に戻ると、事業所規模五人以上を対象とした現金給与総額は、全産業の平均で月額三十一万六千九百七円。前述の通り〇・四%増えた。給与の「実額」としては一三年以降五年連続の増加である。

 もう一つ、注意が必要なのは、この数字には「パートタイム労働者」も含まれている点だ。正社員などの「一般労働者」分だけを見るとまた違った様子が見えてくる。パートの給与の総額は月九万八千三百五十三円と低い。フルタイムで働いているわけではないので当然といえば当然だ。しかも、働き手に占めるパートの割合は年々上昇している。〇八年に二六・一一%だったパート労働者の比率は一貫して上昇を続けて、一七年に三〇・七七%になった。パートが三割を超えているのだ。フルに働いていない給与総額の少ない人の割合が増えているわけだから、全体数字の足を引っ張ることになる。

 では、一般労働者分だけを見るとどうか。直近の底は〇九年の三十九万八千百一円。それが一三年以降、五年連続で増加し、一七年は四十一万四千一円になった。リーマンショック前の〇八年の四十一万四千四百四十九円にあと一歩に迫っているのである。これは中小企業も含めた金額だ。

 では、産業別に見た給与動向はどうだろうか。ここからは正社員など「一般労働者」と「パートタイム労働者」に分けて見ることにする。

 一般労働者で最も給与が高い産業は「電気・ガス業」。五十六万八千三百九円に達する。インフラを担う事業として安定的な収益を稼いできたことから、特に地方中核都市などでは人気職種になってきた。もっとも、電力やガスの小売り自由化が進んでいるほか、原子力発電所の稼働停止で電力会社の収益も悪化傾向にある。二〇一七年は前年比ではマイナス一・一%となった。

 次いで高かったのが、「金融業・保険業」で五十二万六千六百一円。伸び率も二・七%増と高かった。他の産業で給与増が目立ったのは、「建設業」と「卸売業・小売業」の一・〇%増、「医療・福祉」の〇・八%増、「製造業」の〇・六%増などとなった。

 パートを見ると、不思議な数字が表れる。人手不足が深刻化して給与が上昇しているはずの「卸売業・小売業」や「飲食サービス業等」でむしろ給与総額が前の年より減ったのだ。「卸売業・小売業」が九万五千三十三円と〇・四%減、「飲食サービス業等」が七万五千七百六十七円と〇・一%減ったのである。

 原因は、一人当たりの平均勤務時間が大きく減少していること。「卸売業・小売業」のパートの労働時間は一・九%減、「飲食サービス業等」では二・一%も減った。人手不足が深刻化して、深夜営業を取りやめたり、営業時間を見直すなど、パートの労働時間が減っていることが背景にありそうだ。また、パートを正社員化する動きも影響していると見ていいだろう。

非正規上回る正規雇用の伸び

 今後、「働き方改革」が進むとともに、業種別の賃金や労働時間も大きく変わってくるとみられる。残業代などの「所定外給与」の伸びが一七年で最も高かったのは、一般労働者では「建設業」の七・五%増、「運輸業・郵便業」の三・三%増など人手不足を残業で吸収していることが分かる。

 デフレ時代は人件費を抑制するために、多くの企業や店舗などの現場で、「非正規化」を進めた。正社員が退職した後を補充しなかったり、契約社員やパートなどに置き換えるケースが多かった。団塊の世代が大量退職して嘱託社員などの非正規雇用に就く人たちが多く存在したことも大きい。

 安倍内閣が掲げた女性活躍促進などもあり、パートで働く主婦層も大幅に増加した。前述のようにパート比率が上昇してきた背景には、こうした人たちの増加もあった。

 ここへきて猛烈な人手不足となったため、パートの人件費は急上昇している。一七年の給与額で見ても、一般労働者の給与が〇・四%の増加だったのに対して、パートは〇・七%増だった。最低賃金の引き上げもあり、パートの賃金は決して割安ではなくなっている上、長期的な人手不足を補うために、正社員を雇う動きが活発になっている。

 正社員の有効求人倍率が一倍を突破、被雇用者の伸びを見ても、正規雇用の伸びが非正規雇用の伸びを上回る状態が続いている。

 今後も給与の上昇が続くことになりそうだが、冒頭で見たように、「実質」でプラスになるかどうかは微妙だ。日本銀行は二%の物価上昇を目指して金融緩和を続けており、物価もじわじわと上昇しそうだ。物価上昇を上回る賃上げを企業が続けられるかどうかに、今後も関心が集まることになるだろう。