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2017-01-20

海外投資家を日本株に呼び戻す「3つの改革」 ガバナンス改革、働き方改革、資本市場改革

| 11:08

日経ビジネスオンラインに1月20日にアップされた原稿です→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/011900040/

「トランプ相場」受け、日本株にも海外投資家の買いが入った

 日本の株式相場の行方を大きく左右する海外投資家は、今年どんな動きをするのだろうか。米大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の当選をきっかけに、日米の株式市場は大幅に上昇、日本株にも海外投資家の買いが入った。10-12月だけで2兆5000億円を買い越したが、果たして今後もこの流れは続くのだろうか。続くとすれば、そのための条件は何か。政府や企業がどんな取り組みを加速すれば、日本株に海外投資家を呼び戻すことができるのか。

 2016年の年間を通すと海外投資家は大幅な「売り越し」に終わった。東京証券取引所が発表した年間の投資部門別売買状況によると、3兆6887億円の「売り越し」で、2509億円の「売り越し」だった2015年に続いて2年連続の「売り越し」となった。

 海外投資家は日本株を2009年から2014年まで6年連続で買い越していた。特にアベノミクスが大きな話題になった2013年には15兆円余りも買い越した。売買状況だけをみれば、アベノミクスへの期待はひとまず一服という状態になっている。

株主の高齢化が微妙に影を落とす

 基調として海外投資家の日本を見る目は今も厳しいが、日本の先行きに対する見方が厳しいのは海外投資家だけではない。個人投資家は2012年以降5年連続の売り越しとなった。その額、3兆1623億円あまり。この5年で22兆円も売り越している。日経平均株価安倍首相就任時の1万円から、昨年末には1万9114円まで上昇したが、その戻り局面で個人投資家はせっせと株を売り続けてきたわけだ。長年塩漬けになっていた株式をヤレヤレで手放したものもあったろう。また、株価が上昇したことで、保有株の一部を売却して、消費に回すケースもあったに違いない。いずれにしても高齢化が微妙に影を落としている。

2016年に最も買い越していたのは信託銀行

 個人と海外投資家を合わせて6兆8510億円の売り越しだったわけだが、では2016年の年間では誰が買い越していたのか。

 最も大きかったのが「信託銀行」の3兆2651億円である。年金基金などが株式運用する場合、その売買は信託銀行の口座を通じて行われるケースが多い。国民の年金資産を預かる年金積立金管理運用独立行政法人GPIF)などの買い越しが大きいのではないか、とみられる。

 もうひとつが「事業法人」。2兆2236億円を買い越した。かつては株式の持ち合いなどで企業が他の企業の株式を持つ例が多かったが、最近の買い越しで大きいのは企業による「自社株買い」とみられる。株価が下落した段階で自社株を買い戻すことで、市場に流通する株式が減れば、一株当たりの価値が増すので、株主に報いることになる。資本を圧縮して経営効率を高めることにもつながるため、最近は自社株買いがブームになっている。

 2016年は1-9月だけでも4兆3500億円の自社株買いが実施されたと報じられており、その規模は過去最大。この株式取得が、個人や海外投資家の売りを吸収したとみることもできる。

海外投資家が本格的な買いを入れて来る条件とは?

 では、2017年は海外投資家はどう動くのか。1月20日に就任するトランプ大統領は、「偉大なアメリカを再び」というキャッチフレーズの下、米国の国内景気の底入れに力を注ぐ姿勢を見せている。財政出動と金融緩和が行われれば、日本のアベノミクスと同じような政策の方向性になる。そうした期待感から当選直後から株価が変われ、「トランプ相場」が現出したわけだ。

 この流れはしばらく続くことになるだろう。そんな中で、日本株に海外投資家が本格的な買いを入れて来る条件はいくつかある。

条件その1、「コーポレートガバナンス改革」のさらなる強化

 1つ目は安倍内閣が進めてきた「コーポレートガバナンス改革」のさらなる強化だろう。日本企業の経営が変わり「稼ぐ力」が増すことになれば、当然株価も上昇する。その際の指標がROEだ。株主資本に対する利益率で、これが欧米企業に比べて日本企業はあまりにも低いとされてきた。不採算事業を抱え続けたり、生産性の低い事業運営を行ってきたためである。

 政府の主導で2014年には、スチュワードシップ・コードが導入された。機関投資家のあるべき姿を示したもので、生命保険会社や信託銀行などの大株主を「物言う株主」に変えることで、企業経営自体を変革させようとした。金融庁は今、このコードの見直しに着手しており、さらに機関投資家のプレッシャーを高めようとしている。これによって企業行動が目に見えて変化すれば、海外投資家も日本企業を投資先として見直すことになるだろう。

条件その2、「働き方改革」により企業の生産性を高める

 2つ目は「働き方改革」だ。安倍晋三首相は昨年来、「今後3年間の最大のチャレンジ」として働き方改革を掲げてきた。長時間労働の是正など、働き方を変えさせることによって、企業の生産性を高めるのが本来の狙いだ。人手不足が深刻化する中で、企業の生産性を上げようと思えば、これまでと同じ働き方をさせていては難しい。官邸に設置された「働き方改革実現会議」が3月末までに「行動計画」を策定することになっている。

 実際に働き方を変えるかどうかは企業経営者に委ねられているわけだが、生産性の向上に結び付く働き方に変えた企業は株式市場で評価され、株価が上がることになるため、経営者が改革を競うことになるかもしれない。

 同一労働同一賃金や残業時間の規制は、従来型の仕事の仕方を維持した場合には、企業の生産性を落とすことになりかねない。長時間労働をしているから今の売り上げが稼げている、という実態も間違いなく存在する。つまり、根本的に仕事の仕方を見直し、今後「働き方改革」で求められる規制強化を、むしろ生産性の向上につなげるかどうか。経営者の手腕が問われることになるわけだ。

条件その3、資本市場の環境整備

 3つ目は資本市場の整備だ。昨年末の年金関連法改正では、野党が「年金カット法案」とレッテルを貼ったこともあり、マクロ経済スライドの仕組みの見直しにばかり注目がいった。だが、その中にはGPIFガバナンス体制の見直しが入っていた。GPIFの運用方法の決定における独立性を高めるのが狙いで、今後、GPIFが国民の年金資産を増やすために、企業に一段と経営改革を迫るようになる可能性が出てきた。

 経営者団体などは、GPIFが議決権行使に直接関与することに抵抗している。GPIFはすでに主な有力企業の大株主になっており、これまでの「物言わぬ株主」から「物言う株主」へと変身した場合、そのプレッシャーは大きい。だが、これまでのようにGPIFに対する政府の影響が大きい状況では、議決権を政府が握ることに等しいという批判もあった。このため今後、ガバナンス改革で運用や議決権行使については政府から独立性が強い組織が行う体制ができればこの批判を回避でき、GPIFが「物言う株主」になることは十分に可能なのだ。

粉飾決算企業」の正しい責任追及のあり方とは?

 資本市場の環境整備では、さらに、粉飾決算企業の責任追及のあり方など、市場の規律を守るための体制整備も不可欠だろう。東芝の不正会計問題では歴代社長を告発すべきだと、市場の番人である証券取引等監視委員会は検察庁に申し入れしているものの、検察は立件が難しいとして見送る姿勢を崩していない。海外投資家から見れば、市場の規律を乱す重大犯罪を犯しておきながら、誰も刑務所に入らない日本市場は「不正がまかり通る市場」だと映っている。不正を働いた企業の上場廃止ルールも含め、早急な改革が必要になる。

 こうした3つの改革が進むかどうか、長期的な視点で投資する海外機関投資家などは、「日本企業が本当に変わるのかどうか」「日本企業の収益性が大幅に向上するのか」に着目している。この3つで大きな「前進」を印象付けられれば、日本株への投資が再び戻って来ることになるに違いない。

2017-01-19

「新聞崩壊」が深刻化。またまた100万部減少していました ついに「次の時代」が始まるのか?

| 10:37

現代ビジネスに1月19日にアップされた原稿です。

オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50744

1年間で100万部減少

新聞発行部数の減少に歯止めがかからない。日本新聞協会がこのほど公表した2016年10月時点の新聞発行総部数は4327万6147部と、1年前に比べて2.2%減少した。部数にして97万部の減少である。

一昨年(2014年10月時点)は3.5%の減少、昨年(2015年10月時点)は2.5%の減少と、減少率こそ小さくなっているものの、1年間で100万部近い減少が続いており、とても下げ止まる気配は感じられない。まさに音をたてて崩壊している感じだ。

新聞発行部数をグラフに描いてみると、2008年に大きな屈折点があったことが分かる。リーマンショックで景気が大幅に悪化したことから、会社や家庭で新聞購読を止める動きが広がったのだろうという想像はつく。

だが、その背景にはインターネットスマートフォンの普及があるのは間違いない。「ニュースを知るために新聞を読む」という行動が急ピッチで失われているのだ。

新聞発行部数が急激に減っている一因に、新聞社が慣行として行ってきた「押し紙」をやめ始めているため、という事情もあるとされる。「押し紙」とは、新聞社が販売店に余分な新聞を買わせることで、見かけ上の新聞発行部数を「水増し」することに狙いがある。過去十数年にわたって業界の悪弊として問題視されてきたが、2016年になっても依然として続けている新聞社が少なくないとみられる。

2016年3月末には朝日新聞社公正取引委員会から「注意」を受けていたという話が本コラムhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/48396でも報じられている。

新聞社が発行部数を「過大」申告したがるのは、広告料金に直結するからだ。発行部数が多ければ多いほど、広告効果が期待できるとして、高い広告料金が設定されていた。広告主に高い広告代金を払わせるには、部数が大きくなければ都合が悪いわけだ。

もちろん、新聞の部数は日本ABC協会が認定する部数(ABC部数)が公表されているから、架空の数字を申告するわけにはいかない。そこで、実際に印刷して販売店に押し付ける「押し紙」が常態化したわけだ。販売店に届けられた「押し紙」は封が切られることもなく、そのまま古紙回収業者などに回される。そんな光景が何度か週刊誌グラビアを騒がせてきた。

だが、広告主もバカではない。今ではすっかり新聞広告の宣伝効果が乏しい事を見抜いている。部数の水増しも知れ渡るところとなり、新聞社は印刷代や紙代がかかる押し紙を維持する必要が薄れてきた。それが新聞協会の部数減に表れているというわけだ。

だがどう見ても、押し紙を止めただけの影響とは思えない。実際、新聞離れが深刻になっているのは間違いないだろう。総発行部数のピークは1997年の5376万部。19年で1000万部減ったわけだ。

いやいや、デジタル版に置き換わっているのではないか、という指摘もありそうだ。

実際、日本経済新聞は1月7日のニュースとして、「日経電子版、有料会員50万人に 20代読者がけん引」とする記事を掲載している。2016年に日経電子版の有料会員になった人のうち20代が4万人超と34%を占め、最大だったという。新社会人などが電子版を契約しているというわけだが、それだけ若い世代の「紙離れ」が顕著になっているということでもある。

その記事にもグラフが付いていたが、米国のニューヨークタイムズの有料会員が155万人、米ウォール・ストリート・ジャーナルの有料会員が96万人と、今や新聞は世界的にみてもデジタル化が主流だ。

それならば新聞社は安泰だと思われるかもしれないが、そうではない。紙の新聞の広告料金とデジタル版の広告料金では雲泥の差がある。紙が減って広告収入が減れば、デジタル版の購読料がいくら増えても追いつかない。新聞社の経営は決して楽にならないわけだ。

「育てる」機能はどこが担っていくのか?

では、時代の趨勢だから新聞社は滅びても仕方がない、と割り切るべきなのか。

ここで大きな問題がある。今、ネット上に流れている多くの情報が、もともとは新聞社所属の記者が取材した一次情報に依存している例が少なくない。ネット上の情報の多くが二次情報、三次情報になっているのだ。

キュレーション・サイト」と呼ばれるサイトが大流行りだが、その大半は「他人のふんどしで相撲を取る」ビジネスモデルだ。論評をする形を取ることで、もともと新聞社や雑誌社、テレビの一次情報を紹介している。つまり一次情報がなければ成り立たないモデルだ。

新聞社が崩壊した場合、誰がその一次情報を取材し、編集して、記事にするのか。実は、この一次情報を収集するコストがメディアにとって最大の重荷なのだ。

昨年末、 DeNAのキュレーションメディアが問題視され、記事が非公開になる「事件」が起きた。これがメディア業界の転換点になるかもしれない、と筆者は考えている。メディア自身が自らきちんとしたコンテンツを作る動きが徐々に広がっていくのではないか、と期待しているのだ。

実際、一部のネットメディアではかつての紙媒体に匹敵する水準の原稿料を払ってフリーライターなどに独自記事を執筆させる例が出始めている。紙媒体の数分の一が当たり前というネットメディア原稿料に異変が起きている。

これまで、新聞社やテレビ局、雑誌社などマス・メディアが記者や報道ジャーナリスト、編集者を育てていた。こうしたメディアの経営が大きく揺らぐ中で、まともなジャーナリストを育てていく機能はどこが担うことになるのか。質の高い情報にはおカネを出す、という読者・視聴者が増えるのか。それともそうしたジャーナリズムを支えるNPOなどが現れてくるのか。

新聞崩壊の深刻化と共に、「その後」のメディア業界のあり方も徐々に見えて来るのかもしれない。

2017-01-16

小売業の「正月三が日休業」に9割近い支持 「共働き世帯」増え、働き手の視点に重点

| 11:44

日経ビジネスオンラインに1月13日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/011200032/

三越伊勢丹HDが2018年から正月三が日の休業を検討

 2017年は年始早々、三越伊勢丹ホールディングスが2018年から正月三が日は休業することを検討し始めたというニュースが流れた。従業員の正月休みを増やし、働く環境に配慮しようというのが狙いだ、という。

 多くの百貨店は1月2日から営業、中には元旦から店を開けるところもある。そんな中で三越伊勢丹は2016年から伊勢丹 新宿本店などを1月2日を休みにして大きな話題になった。それをさらに一歩進めて4日からの営業にする検討を始めるというのである。

 顧客の利便性よりも働く従業員の生活を重視する──。果たして消費者はこれに理解を示すのか。

テレビ視聴者アンケートの結果、「賛成」が圧倒的

 筆者がコメンテーターとして出演した1月4日朝の東京MXテレビモーニングCROSS』で、番組時間中に視聴者アンケートを行った。質問は「小売業界が三が日休むこと」に対して賛成か反対かを聞いたものだった。

 結果は、賛成が2133ポイントだったのに対して、反対は333ポイント。圧倒的に賛成意見が多かった。実に86.5%が三越伊勢丹の検討を支持したのである。

 番組の最後にこの集計結果が画面に出ると、司会の堀潤さんほか、一斉に驚きの声を挙げた。私も賛成意見が多くなるだろうとは思ったが、ここまで大差になるとは考えなかった。

消費者が「多少の不便」を我慢すれば、働き方は変えられる

 同じくコメンテーターだった音楽家の秦万里子さんは、「我慢をすることも大事よ」と仰っていた。確かに、何から何まで便利になり、いつでも物が買えるのが当たり前というのは、せいぜいここ20〜30年の話。昔は市場が閉まり、物が店頭から消えたから、保存がきくお節料理やお餅を食べつないだ。

 確かに往時は「不便」だったが、だからこそ、みんなが一斉に休むことができた。一方、今は便利さを実現するために、大晦日まで歳末大売り出しの店頭に立ち、テレビから流れる除夜の鐘を聴きながら、模様替えを行って元旦からの初売りに備える。そんな仕事の仕方を迫られる人たちが俄然増えたのである。

 消費者が多少の不便を我慢すれば、そんな働き方から解放される──。伊勢丹の検討に対する秦さんのコメントはそれを端的に示していた。

「消費者」よりも「働き手」として判断した人が多かった

 私は86.5%という圧倒的な数字を見て、別の事を感じた。「消費者」よりも「働き手」として、このニュースを見る人が多かったのだろう、というものだ。1月4日の朝8時に、この時間帯の番組としては比較的「硬派」のモーニングCROSSを見ている人自体が、これから出社して働こうとしている人たちが多いのではないか、という推論も成り立つ。

 だが、私は根本的に家族の構造が変わったことが、人々の意見を変化させたのではないか、と考えた。

 総務省の「労働力調査」の中に「専業主婦世帯」と「共働き世帯」の数の推移を示すデータがある。(■図1)

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(出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

 それによると2015年の共働き世帯は1114万世帯であるのに対して、専業主婦世帯は687万世帯。この差は年々開いているが、とくにこの5年の変化は急激だ。共働き世帯が1000万世帯前後から一気に100万世帯以上増え、専業主婦世帯は800万世帯弱から100万世帯以上減ったのだ。

お母さんやお父さんが年末年始に働いている家が増えた

 1990年頃までは、専業主婦世帯の数が共働き世帯を上回っていた。1990年から2000年頃までは両者の拮抗が続いたが、2000年を境にどんどん共働き世帯が増えた。

 つまり、年末年始はお母さんが家にいるのが当たり前、という生活スタイルが激変し、お母さんもお父さんも年末年始は忙しく働いているという家庭が増えたのだ。これが、年末年始の小売業が休みを減らす原動力にもなったわけだが、皮肉なことにそれがさらに年末年始に働かなければいけない人たちを増やす結果になった。

 「もうそろそろ年末年始ぐらいゆっくり休みたい」──多くの人たちがそう感じるようになったのではないか。つまり、消費者としての視点よりも働き手としての視点の方に、より重心がかかるようになった、ということなのかもしれない。

三越伊勢丹HDの「覚悟」

 三越伊勢丹の経営者はその時代の変化を現場のムードから感じ取ったのだろう。1月2日を休みにしても世間の批判は浴びなかったことから、3日の休みも「検討」するとしたわけだ。休みを決めて発表するのではなく、検討段階だと断ってメディアに発信したのは、間違いなく世間の反応をみたいという経営者の思惑があってのことだろう。

 百貨店の経営者にとって営業日を減らす決断は「怖い」。普通ならば営業日が1日減れば、その分売り上げは減少する。しかも1月3日となれば仕事が休みの人たちがまだまだ多い。毎月の売上統計でも、日曜日の日数が減ると、てき面に成績が落ちる。それでも従業員の事を考えて休みにしますというのは、かなりの「覚悟」がいる。

 経営者がそんな「覚悟」を持たなければならなくなったのには理由がある。人手の確保が難しくなっているのだ。昨年11月の東京都有効求人倍率は2.03倍。職を探している人ひとりに対して2つ以上の求人があることを示している。しかも求人数は79カ月連続で増え続けている。少子化の影響もあり圧倒的に人手不足なのである。

外食産業では人手不足で営業を休まざるを得ないところも

 中には人手が足らないために、営業に支障をきたす業界も出始めている。深夜に営業する外食産業などの中には、人手が確保できずに営業を休まざるを得ないところも出始めている。

 もちろん、アルバイトやパートの時給を引き上げるなど待遇改善で人を集めようと努力している企業も多いが、そもそも深夜の仕事や土日の仕事が選ばれにくくなっているのだ。特に若い人ほどそうした傾向が強い。

 かつて大手の小売業が地方の高校などでリクルートを行い、大都市圏の社員寮に住まわせて店舗で働かせる人材確保の仕組みを作っていた。大都市には仕事があるが、地方都市は不景気で仕事がない、というのが前提に成り立っていたわけだが、これが崩れ始めている。全国の都道府県有効求人倍率が1倍を超えるなど、人手不足は地方都市にも及んでいるからだ。

今後ますます都会の小売業は人材採用に苦労する

 大都市圏に出て来れば、社員寮は格安にしても、生活費は地方の比ではない。わざわざ大都市に出なくても、自宅から通える地方都市に仕事があればそこに就職する。そんな若者が増えているのだ。

 今後ますます大都会の小売業は人材採用に苦労することになるだろう。大きな戦力だった主婦層も、前述のデータが示すように共働きへと変わっている。定年退職した後の人材を使うにしても限界がある。人手不足はこれから一段と深刻になってくるのは間違いない。

 そんな中で、長時間労働は当たり前、土日に働くのも当たり前だった小売業は、真っ先に「働き方」の改革を求められることになる。働き方、つまり勤務環境を変えなければ人材確保ができなくなるのは目に見えているからだ。

他店とは異なる店づくりが必要になる

 そうなると小売業の営業のスタイルも大きく変えざるをえなくなってくる。どこの店に行っても似たような品揃えならば、その時に空いている店に買いに行く。ところが特定の店に行かなければ買えないものがあるとなれば、休業日の翌日に店を開くのを待ってでもその店で買うことになる。

 繰り返し言われていることだが、他の競合相手との差別化を進めるしかないわけだ。さらに従業員の待遇を改善するためには、商品を販売した際の利益率を高めなければならない。独自の商品を高く売る、逆に言えば高くても選んでもらうことができる店づくりが焦点になる。まさに経営力が問われる時代になるわけだ。

2017-01-11

「政治とカネ」に憤慨!ついに公認会計士たちが立ち上がった おカネのプロが、やるしかない

| 13:38

現代ビジネスに1月11日にアップされた原稿です。

オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50691

チェックが雑になる理由

政務活動費の不正使用が地方議会で次々に明らかになっている。

昨年秋には定数40の富山市議会で不正使用を認めた12人が辞職する異常事態となり、補欠選挙が行われた。11月には宮城県議会議長が政務活動費の過大請求を認めて辞任したほか、高崎市議会でも議長、副議長が辞任に追い込まれた。

相次いで明らかになった不正使用は、政務活動とは関係のない飲食費や備品費、講演料などを支出し、中には領収書の改竄が疑われるものもあった。政治家の資金管理の甘さが改めて表面化した格好だ。

政治とカネ」は繰り返し問題になっている。安倍晋三内閣でも小渕優子衆議院議員が自らの政治団体の政治資金でベビー用品など多額の不透明な支出を計上、経済産業大臣を辞任に追い込まれた。

なぜ、こうしたカネを巡る問題が繰り返し起きるのだろうか。

ひとつは政治家の「資金管理」に対する認識の甘さである。企業ならば当然、伝票や領収書を保管し、決算書を作る。さらに大企業には外部の公認会計士による会計監査を受けることが義務付けられている。

一応、政治家が持つ「資金管理団体」も政治資金規正法に基づく政治資金収支報告書の作成が義務付けられており、外部の専門家のチェックが義務付けられている。

だが、そのチェックは「監査」と呼べるような代物ではない、というのが公認会計士の共通した意見だ。

2014年に経産相を辞任した小渕議員の場合、関連政治団体「小渕優子後援会」が政治資金収支報告書を作成、そこにも「政治資金監査報告書」が添付されていた。署名捺印しているのは「登録政治資金監査人」である。

 

ただ、この登録政治資金監査人は公認会計士である必要はなく、税理士や弁護士も登録することができる。

小渕後援会では当時、税理士が署名捺印していたが、この税理士は、税理士で作る小渕優子氏の後援会の幹事長だった。第三者ではなく、支援者がチェックしていたわけだ。

「政治団体の場合、領収書と帳簿が符号しているかを調べる程度で、企業の監査のように実際に資金の移動があったかどうかなどを見るわけではない。監査のようで監査じゃないんです」

日本公認会計士協会の役員も務めたベテラン会計士はそう語る。

会計士業界はなぜ、「監査」という自らの職業基盤の信頼を損ないかねないような、“まがいもの”の監査を許すのか。

自らも許認可を受けて営業している公認会計士は政治家を相手に事を構えることはできない、ということだろうか。

「ごくごく当たり前のこと」をやる

そんな中、「政治資金の管理及び報告についての提言」という文書が近畿地方の政治家宛てに出された。昨年12月22日のことだ。提言をまとめたのは、日本公認会計士協会近畿会が設けた「政治資金問題特別委員会」。

 

もともと、全国組織である日本公認会計士協会の本部(東京千代田区)に委員会を設立すべきだという声が会員会計士から上がっていたが、協会が消極姿勢を取り続けたため、近畿地方の組織である近畿会で独自に委員会を設けたものだという。

このため、提言の宛先は国会議員及び地方議員となっているものの、国会議員近畿地方選出の議員だけに限られている。 

提言には「政治家が自らを守るための政治資金の管理方法」という副題がついている。

「国民目線で、真面目な政治家がこのような(政治資金スキャンダルの)問題に巻き込まれないよう、安心して政治活動に専念するためにとるべき方策について議論を進め」たとし、「法律や条例の改正などに頼らず、まずは政治家たちが自らを守るために最低限構築すべき自主規制を確立し、透明性を確保することが本筋である」としている。

まじめな政治家はきちんと資金管理をしているはずだという前提で、そのための手法を示すというのである。

そのうえで、以下の提言を行った。

提言1 政治資金の使途及びその開示に関する内部規則の作成と公表。政治家は、自主規制方針として内部規則を設け、市民に公表する

提言2 複式簿記の採用。簡便かつ正確に出納管理を行うため、複式簿記で記帳し、勘定の残高を管理する

民間からすればごくごく当たり前の事だが、公私の区別など使途についての許容範囲を明瞭化し、政務活動費等に関わる報告書がいつでも閲覧・入手できるなど透明性 についても内規を設けるべきだ、としたのだ。

そのうえで、「個々の支出の源泉が(地方の政務活動費のような)税金であろうと、寄付金等であろうと区別せず、その管理や開示に、しかるべき自主規制を設けることが、市民に信頼される政治家への道だと私たちは考えます」と結んでいる。

本腰、とはいえないものの……

この提言を読んだ地方議員は、「素晴らしい提言だとは思うが、地方議員は秘書を雇うのも大変で、資金管理の仕組みや書類を作る能力が欠けている人が圧倒的だ」と語る。そうした声もあってか、提言では「参考」として、こんな一文を付けている。

「資金管理については政治家が個人単位で行うのではなく、政党・会派の事務局または共同事務センターのようなものを設けて、複数の政治家の資金管理をまとめて出納・記帳することとし、牽制が働く体制を構築することが望ましい」

共同で資金管理を行えば、自ずから透明性も高まるというわけだ。

ただし、この提言。政治家の自主規制を呼び掛けているだけで、すでに制度としてある「政治資金監査」については触れていない。

関係者によると、「そこまで踏み込むと会計士協会の本部の抵抗にあう懸念があったため」だという。「監査のようで監査でない」と言われる制度を放置している責任を問う格好になりかねないからだ。

政治家にはなかなか強いことが言えなかった会計士にとって、精一杯の「提言」ということなのか。それともこれを機に、会計士が本腰を入れて政治資金問題に取り組むことになるのか。

政治資金を巡る問題が注目されている今こそ、会計士の奮起を期待したい。

2017-01-07

株高に救われるも、安倍内閣のアキレス腱は年金 2016年10-12月の年金の運用益は6兆円超の黒字か

| 11:07

日経ビジネスオンラインに1月6日にアップされた原稿です→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/010500038/?P=1

株高で年金の運用に明るさ

 株高が続いている。2016年末の日経平均株価は1万9114円37銭と、2015年の終値1万9033円71銭を上回り、かろうじて5年連続の上昇となった。1年の動きを示す株価グラフをローソク足で描くと、いわゆる「陽線」(年末の大納会の終値が年初の大発会終値以上)となったわけだ。2012年末に安倍晋三内閣が誕生して以降、「陽線」が続いたことになり、ムードは一気に明るくなった。年明け大発会の1月4日も479円高と大幅に上昇して始まり、1万9594円16銭と昨年来高値を更新した。

 この株高に救われたのは安倍内閣である。年金の運用益が大きくプラスになることが確実になったからだ。130兆円を超す国民の資産を預かる年金積立金管理運用独立行政法人GPIF)は2015年度に5兆3098億円の運用損を出し、世間から大きな批判を浴びた。2016年度に入ってからも、第1四半期(4-6月)は5兆2342億円の損失を出していた。

 かろうじて第2四半期(7-9月)は2兆3746億円の黒字となったが、第3四半期(10-12月)は、年末の株価が大きく上昇したことで、大幅な運用益が出た模様だ。

運用益が出て救われた安倍内閣

 年末の1万9114円という日経平均株価は、6月末の1万5575円に比べて22%高い水準に当たる。GPIFが6月末に保有していた27兆3151億円の「国内株式」に単純に22%を掛けると、6兆円も評価額が増えたことになる。この他に外国株式などでの運用もあり、運用益はさらに膨らみそうだ。今年度を通算すれば、5兆円近い運用益を稼いだことになるだろう。

 GPIFの第3四半期の運用成績が発表されるのは2月末。ちょうど国会論戦の最中である。このタイミングで巨額の損失数字が明らかになれば、野党の集中砲火を浴びるのは明らかだった。特に昨年12月には野党が「年金カット法案」と呼び攻撃した改正国民年金法が“強行採決”によって可決成立している。衆議院の委員会採決で、委員長席を「年金カット反対!」と書いた紙を持った野党議員が取り囲んだシーンを覚えておられる読者も多いだろう。

かつて「消えた年金」への怒りが第1次安倍内閣を倒した

 10月に衆議院東京10区の補欠選挙が行われた際には、民進党大串博志政調会長や、「ミスター年金」こと長妻昭議員らが東京巣鴨の「とげぬき地蔵」で知られる地蔵通り商店街で演説し、「年金カット法案」への反対を呼びかけた。その際には、法案に賛成かどうかをお年寄りらに聞いてボードに赤丸印を貼ってもらう演出を行っていた。年金が減額されると聞けば、賛成に丸を付けるお年寄りはひとりもいない。「反対」欄が赤丸で埋め尽くされることとなった。

 民進党が「年金」を選挙の争点にしようとしたのは正しいだろう。かつて「消えた年金」への国民の怒りが第1次安倍内閣を倒し、その後の民主党政権の誕生へとつながった。依然として年金に対する国民の関心は高い。

 このままでは将来、年金がもらえないのではないか。掛けた保険料はドブに捨てることにならないか。年金で本当に生活ができるのか──。高齢化が進む一方で、年金制度への安心感は大きく揺らいでいる。

増加し続ける社会保険料の負担

 一方で、保険料を支払う現役世代の負担感も大きく増している。多くの国民は忘れているが2004年の法律改正で、厚生年金の保険料率は2005年から毎年9月に引き上げられている。2004年9月に13.58%(半分は会社負担)だった保険料率は以後毎年0.354%引き上げられ、2017年9月には18.3%になり、それで固定されることが決まっている。2004年と比べると、13年で4.72%も上昇するのだ。仮に基準となる給与が年400万円だとすると、会社負担分と合わせて19万円近く上昇することになる。

 財務省は毎年、国民所得に占める税金と社会保険料の割合を示した「国民負担率」を公表している。2015年度は税と社会保障を合わせて44.4%と過去最高を記録した。この統計から逆算すると、社会保険料の負担は2004年度の52兆1800億円から2015年度の66兆9800億円へと、14兆8000億円も増えている。

 消費税率1%の引き上げで2兆数千億円の税収増に当たるとされるので、消費税6〜7%分の負担が知らず知らずの間に増えていたことになる。

現役世代への負担増はもう望めない

 長引く消費低迷の主因も、実は保険料負担の増加による可処分所得の減少にあったとみていい。もはや現役世代への負担増は望むべくもないのだ。

 年末に成立した改正国民年金法では、現役世代の保険料引き上げによる収入増が頭打ちになることを前提に、高齢者への年金支給を抑制することを狙っている。従来の年金支給は物価に連動して増減されるようになっていたが、現役世代の賃金が下落した時も、年金支給額を引き下げられるようにした。現役の賃金が下がれば、保険料率が変わらない以上、保険料収入は減少する。それに合わせて年金支給額も減らすというわけだ。

 逆に言えば、物価や賃金が安定的に上昇していれば、年金が減ることはない。民進党などが強調したのは、物価が上昇しても、現役世代の賃金が大幅に下落した場合、年金が減ることになるという点だ。ここに焦点を当てて「年金カット法案」と喧伝したのである。もちろん、年金が減るのは年金を受け取っている高齢者にとっては切実な問題に違いない。だが、現役世代の賃金が下がっても年金額を維持すれば、年金財政は悪化し、将来の年金制度が危機にさらされることになる。

年金制度の永続性を無視して批判したのは間違い

 民進党が年金を政治テーマに掲げたのは正しい。だが、「年金カット法案」とレッテルを貼り、あたかも法案が通れば、自動的に年金がカットされるようなイメージを振りまいたのは戦術的に失敗だった。年金制度をどうやったら守れるかという点に目をつぶる格好になったからだ。年金制度は国民の人生に大きな影響を与える。だからこそ、全体像を俯瞰した批判が不可欠だったのだが、法案の一部をデフォルメした批判だったために、国民に響かずに終わったとみていい。

 年金運用のあり方についても民進党の追及は場当たり的だ。GPIFの2015年度の運用実績が5兆円を超える赤字になったのを受けて、同党は「年金損失5兆円追及チーム」を立ち上げた。5兆円の赤字という短期的な結果にだけ焦点を当てたために、その後の株価の回復と共にトーンダウンせざるを得なくなった。2016年10-12月期の運用結果が出る2月以降の国会では、もはや「運用失敗」をネタに年金問題を追及することはできないだろう。

安定的にみえる安倍内閣の最大の弱点

 では、株価の上昇と共に、年金の問題はすべて片付いたのかというとそうではない。このまま少子高齢化が進めば、年金掛け金を払う現役層は減り、年金を受け取る高齢者は増え続ける。今の制度のままでは、年金制度自体は破たんしないとしても、受け取る年金では生活ができなくなる可能性がある。

 年金制度のあり方や、年金資産を運用するGPIFの組織のあり方、運用体制などを根本から見直す必要があるのは間違いない。安定的にみえる安倍内閣にとって、最大のアキレス腱はかつてと同様、年金問題だと言ってよいだろう。