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2017-03-23

訪日外国人の「爆買い」が再び?トランプ大統領は消費にプラスか。

| 11:48

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。3月号(2月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→http://www.webchronos.net/

 日本政府観光局(JNTO)がまとめた推計によると、2016年の1年間に観光やビジネスなどで日本を出国した日本人は1711万6200人と、15年に比べて5・6%増加した。12年の1849万657人をピークに減少し続けていたが、4年ぶりに増加に転じた。年前半は為替がやや円高に振れたことや原油価格が安かったこともあって、航空券や旅行代金が安くなったことなどが影響したとみられる。また、企業収益が回復したことで、ビジネスマンの海外出張も多かった模様だ。

 一方で、訪日外国人、いわゆるインバウンドの増加も続いた。16年の年間の訪日外国人数は2403万9000人と前の年の1973万7409人に比べて21・8%も増加。過去最高を更新した。年間2000万人を突破したのは初めて。12月単月でも205万1000人と過去最高だった前の年の177万3130人を大きく上回った。

 国別で訪日客が最も多かったのは中国の637万3000人で、前の年に比べて27・6%も増えた。中国がトップになったのは2年連続。2位は韓国の509万300人で27・2%増、14年にトップだった台湾は3位となったが、416万7400人と前の年に比べて13・3%増えており、増加傾向が続いている。台湾の人口は2300万人ほどで、単純に計算すれば6人にひとりが日本にやって来たことになる。これに続いて、香港米国、タイ、オーストリアの順になっている。

 訪日外国人が増え続けている背景には、円安の効果がある。現地通貨との比較で日本円が安くなれば、日本への旅行費用が安いだけでなく、日本国内の物価を安く感じる。実際、物価上昇が激しい中国アジアの国々の国内で買うよりも、日本で買う方が安い「逆転現象」が起きている。これが極端に表れたのが数年前の「爆買い」で、日本の百貨店にやってきて高級ブランドを買いまくる中国人らの姿が目立った。

 15年の秋ごろから「爆買い」に一服感が出始め、16年は後半になると「爆買い」が終息したかに見えた。ところが、ここへ来て再び、「爆買い」が増える気配が見える。日本百貨店協会の集計によると、12月に全国の百貨店で免税手続きして買い物した「免税総売上高」は192億4000万円と1年前に比べて8・3%増えた。対象店舗数が違うなど直接比較できない面もあるが、実額ではピークだった15年4月の197億5000万円に次ぐ。免税手続きをした客の人数は28万件で、昨年7月を上回り過去最多となった。

 もうひとつ注目すべきなのが客あたりの免税売上高が6万9000円に上昇したこと。15年ごろには8万円を超えていたが、16年に入ると急速に低下、昨年7月には5万2000円まで低下していた。それが秋以降、急速に回復、11月に6万1000円となっていた。

 「爆買い」復活の予兆とみることもできるが、明らかにきっかけは円安が進んだこと。米国大統領選挙ドナルド・トランプ氏が当選したことで、一気にドル高となり、円安が進んだ。この結果、アジアからの訪日客にとって日本での買い物が再び「割安」になったのだろう。

 もっとも、単価がピークだった15年は、百貨店での免税売り上げの「売れ筋」は、高級ブランド品だったが、今のトップは化粧品。それも資生堂など日本ブランドの化粧品が売れているという。単に安いというだけでなく、日本の良いものを買いたいという旅行者の心理が表れているとみることもできる。高級時計の売り上げにもプラスに働くかもしれない。

 それでは、円安につながったトランプ大統領の誕生は、日本の消費、とくに高級品の売れ行きにプラスになるのだろうか。手離しで喜ぶわけには行かない面もありそうだ。特に経済のブロック化や移民の排斥などにつながれば、国際的な人の移動が減る可能性もある。出国日本人や訪日外国人の増加にブレーキがかかるようなことがあれば、せっかくの消費に水を差される可能性もある。

2017-03-22

日本企業の皆様へ。次の社長選びに顧問が発言権を持つって変ですよ 米資産運用会社の提言

| 12:15

現代ビジネスに3月22日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51271


日本独自の制度として昨年来、急速に広がっていた「監査等委員会設置会社」。海外投資家などの批判もあって、「指名委員会」を任意で設置するケースが増えている。

昨年3月、オプト・ホールディングの監査等委員会設置会社への移行に反対し、日本の制度改革に一石を投じた米国シカゴの資産運用会社「RMBキャピタル」は、その後の日本企業の動きをどう見ているのか。

同社の日本株式投資部長でポートフォリオマネジャーである細水政和氏に聞いた。

日本企業の慣習を変えた提言

――オプト・ホールディング株主総会が3月24日に開かれます。

総会に出席するために日本にやってきました。

昨年はオプトが監査等委員会設置会社に移行する議案を出したため、それに反対しました。RMBは大量保有報告書に実質保有者として記載されていましたが、名義を書き換えていなかったために株主総会に入ることはできませんでした。

今年は保有株のうち株主提案に必要な3万株だけ名義を書き換えて6ヵ月以上たっていますので、堂々と総会に出席できます。

――今年は何か株主提案として議題を出しているのですか。

いいえ。当初は株主提案を出す予定で、会社側にも伝えていました。ところが、我々が要求しようとしたことを、会社が率先して実行したため、株主提案する意味がなくなりました。

――具体的には。

かつて業務提携していた電通が保有している株式を買い戻したこと。そして、同社が保有していた金庫株を含めて自社株消却を行ったことです。さらに、任意ではありますが「指名・報酬委員会」を設置することをすでに発表しています。

総会の会社提案では、新任の役員候補にリクルート出身の社外取締役を追加選任し、指名・報酬委員会はCEO(最高経営責任者)とこの社外取締役、そして東証の基準では独立社外取締役にはならないものの、実質的に社外色の強い取締役の3人で構成することを明らかにしました。

私たちが主張してきたことを、当然の事として会社自らが動いたということです。

――昨年の批判はオプトだけでなく、監査等委員会設置会社に大きな影響を与えたように見えます。

米国企業では指名、報酬、監査の3つの委員会を設置して、社外取締役が中心になって、社長の後継者決定や、役員の報酬決定に携わるのが当たり前になっています。

日本では後継社長の任命権を現職の社長や会長が握っているケースが多く、なかなかそれを社外取締役に委ねることができないのでしょう。

日本独自の制度として監査委員会だけを設置する「監査等委員会設置会社」が認められ、昨年の株主総会で導入する企業が急増しました。

私たちはこれによって日本企業のコーポレートガバナンスが後退するのではないか、と危惧したのです。

機関投資家に議決権行使を助言する米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、長文のレポートを出し、もしRMBがオプトへの株主提案で指名委員会等設置会社への移行を対案として出していたら、ISSは支持したとまで言ってくれました。

昨年の株主総会では移行阻止に必要な3分の1の議決権を集めることができず負けましたが、20%くらいの賛成票を集めたことは経営陣に対するプレッシャーになったと思います。

――指名委員会を任意で設置する動きも広がっています。

米国型ともいえる指名委員会等設置会社は70社ほどで増えていませんが、任意の指名委員会等設置会社は600社を超えているようです。

任意の指名委委員会で決めたことに拘束力はありませんが、それでも、その結論を無視して経営者が後継を決めることは容易ではありません。

監査等委員会設置会社は世界的に見て恥ずかしい制度だということが広く認知された結果、任意でも指名委員会を入れようという流れになっているのだと思います。

日本企業は変わりつつあるのか?

――RMBはオプトのCEOなど経営陣との意見交換は行っているのですか。

CEOとは、最低でも四半期に一度は話をしていますので、私たち投資ファンドが何を求めているかは十分、ご承知です。

経営陣としても必要だと思っていた事を、投資ファンドに言われることで、背中を押すことができた面はあるかもしれません。結果として、株価も大きく上昇しました。

われわれはあくまで投資ファンドなので、どこかのタイミングで株式を売却してエグジットすることになりますが、変わって長期投資をする機関投資家などが入って来ることで役割交代していけばよいのではないでしょうか。

――今年は、顧問や相談役という制度のあり方が焦点になっています。

ISSが新しく定款に制度を盛り込む場合には反対を推奨すると明言しています。

実際には最高顧問や相談役といった社長OBが社内の権力を握っているケースはかなりあると思います。実態が分からないわけですが、次の社長を選ぶのに顧問が発言権を持つというのはコーポレートガバナンス上、不思議な制度です。

大きな流れでいえば、社長を選ぶという株主として当然の権利を、株主側に取り戻す動きが続くということでしょう。

――RMBはどんな企業を投資対象に選んでいるのですか。

株主として意見を言うアクティビスト的な行動が前提ではありません。割安に放置されている企業を発掘して、なぜその企業は割安なのかを分析し、会社に変化を促していきます。

例えば、潤沢な資金を持っていながら、配当を増やす増配には創業家が反対しているケースもあります。それを私たちが要求することで増配が実現し、株価も上昇する、という結果になります。

キャッシュを含む実物資産を持っていながら、それを十分に生かせていない企業が投資対象です。もう少し経営の中身に関与して社外取締役を引き受けるようなことも、私自身としてはやってみたい手法です。

――安倍晋三内閣はコーポレートガバナンスの強化を掲げていますが、細水さんからみて、日本企業は変わり始めていますか?

社外取締役を導入する企業も一気に増えましたし、ガバナンス改革は着実に動き出していると感じます。


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細水政和(ほそみず・まさかず) RMBキャピタル 日本株式投資部長 ポートフォリオマネジャー。1998年東京大学法学部卒。同年野村証券入社。支店勤務の後、社内留学制度でシカゴ大学に留学しMBA取得。野村證券ニューヨーク支店勤務を経て2005年米国ファンドのコッグヒル・キャピタル・マネジメントに転じアジア株の運用を担当。2013年RMBキャピタルに移籍して、現職

2017-03-21

トランプ大統領の口先介入に振り回される 為替相場の影響を受けやすい日本経済

| 11:25

月刊エルネオス3月号(3月1日発売)に掲載された原稿です。http://www.elneos.co.jp/

政府による為替介入の効果

 米国でトランプ大統領が誕生したことで、世界の為替相場が不安定になっている。というのも、トランプ氏の発言で為替相場が大きく乱高下するケースが頻発しているからだ。

 一月三十一日、トランプ大統領医薬品メーカーとの会合の場で、中国や日本などが「意図的に市場で為替操作をして、米国は損害を受けてきた」と発言した。その発言が伝わるやドルは急落。円は一法甍谿貉葦濛羝緘召世辰燭發里、一時、一一二円〇八銭まで上昇した。仮に円安になるよう操作していたとすれば、米国の批判でそれができなくなるので、円高にならざるを得ないというわけだ。

 では実際、日本は為替操作をしているのだろうか。

 一九七三年の変動相場制移行後、日本政府は何度かの「円売りドル買い介入」を行ってきた。小泉純一郎政権下の二〇〇三年から〇四年にかけては総額三十二兆円にのぼる円売りドル買い、ユーロ買い介入を行った。また、一〇〜一一年にかけて、民主党政権下でも繰り返し介入が行われ、その規模は十六兆円に達した。いずれも猛烈な円高を止めるために、米国財務省の理解を得たうえで行ってきた。

 では実際に、それで相場を円安にすることができたのかといえば、そうではない。為替介入の効果は限定的というのがもはや世界の常識になっている。

 為替市場の規模が巨大化する中で、政府が介入しても市場に逆らうことは難しい。それでも介入するのは、政府の意思を示すことで、市場の流れを変えるきっかけになればという期待からだ。ちなみに、米国は二〇〇〇年以降、為替介入はしていない。

円安誘導か金融緩和

 もう一つ、「口先介入」と呼ばれるものがある。首相財務相日銀総裁などは、為替について聞かれても一切答えないのが不文律になっている。ところが、意図的に為替水準について触れた発言をするケースがたまにある。突然、円高が進んだ場合などだ。

 そうした発言を受けて市場関係者は、これ以上円高になると、政府が円売り介入に乗り出すのではないかという懸念を持つ。政府為替介入する際は抜き打ちで行うのが通例で、買い上がることのリスクを考えるようになるわけだ。そうなると円高圧力が弱まり、結果的に円高の流れが止まることになる。長期のトレンドに影響を与えるのは難しいものの、「口先介入」で短期的には相場に影響を与えることは可能だ。

 そういう意味では、トランプ大統領為替に関する積極的な発言は、一種の「口先介入」と見ることもできる。

 では、トランプ大統領の発言はまったく的外れなものなのか。日本は意図的に為替を操作していないと言い切れるのか。

 実は昨年来、米財務省は「外国為替報告書」の中で、「為替操作国」にあたるかどうかの「監視リスト」を公表している。昨年十月に公表されたリストには、中国韓国台湾ドイツスイス、日本の六カ国・地域の名前が記載されている。オバマ大統領時代から、日本は為替円安に誘導しているのではないかという疑念を米国は抱いているのだ。

 それはなぜか。

 一二年末に第二次安倍晋三政権が発足して以降、確かに為替介入は行っていない。しかし一方で、アベノミクスの一本目の矢である「大胆な金融緩和」を発動。これによって、為替は一気に円高が修正されて円安になった。大胆な金融緩和は銀行による国内貸し出しを後押しし、国内経済を刺激するのが狙いで、為替を動かすことが本意ではないというのが安倍内閣の立場だ。

 しかし現実には、為替円安になったことで、輸出企業を中心に輸出採算が改善するなど利益が一気に改善している。つまり、円安効果によって企業収益が改善したのは紛れもない事実なのだ。

 もともと大胆な金融緩和リーマン・ショック以降の米国が始めた政策だ。ドルを刷りまくることで、金融損失で景気が失速するのを防ごうとしたのだ。その裏側で金融緩和をためらった日本が猛烈な円高に見舞われ、デフレが深刻化したのは当然のことだった。リーマン・ショックと呼ばれた金融危機で最も銀行の傷が浅いといわれた日本が、最も景気後退の影響を受けたのである。

 そのデフレから脱却しようとして安倍内閣が始めた大胆な金融緩和を、「為替誘導」だとされては安倍首相もたまらないだろう。

経済不透明の中の米国株高

 もちろん、米国には米国の事情がある。今後、米国は大胆な金融緩和からの「出口戦略」を進め、徐々に金利を引き上げていく見通し。そうなればドルは強くなり、円は安くなるのが通例だ。つまり、「口先介入」しなければドル高が進む可能性があるわけだ。

 もっとも、市場が乱高下するのには別の理由もある。トランプ政権の経済政策の方向性がきちんと見えないからだ。大統領選の段階ではトランプ氏が勝利した場合、ドルや米国株は急落するとの読みが大半だった。ところが、現実にトランプ氏が勝利すると、為替も株も逆の動きになった。トランプ政権が米国経済を強くするとの見方が出たからだ。

 トランプ政権では閣僚の任命が進まないうえ、任命したマイケル・フリン国家安全保障担当大統領補佐官が辞任するなど、政権の骨格が固まらない。そうした中で米国株は高値を更新しているが、どんな経済政策を打ち出すのかなど、不透明感が強い。

 一方で、日本の景気が為替に大きく左右されるのも現実だ。仮に為替円高方向に動いていくとすると、自動車などの輸出産業の業績にはマイナスで、アベノミクスが目指している「デフレ脱却」が一気に頓挫することになりかねない。

 安倍首相米国訪問でトランプ大統領とゴルフに興じるなど人間関係の構築にひとまず成功したように見える。日本経済が失速すれば米国経済にも影響が及ぶことを説明し、日本に無理難題を押し付けないよう説得できる関係が築けたのかどうか。トランプ大統領の無責任な「口先介入」で日本経済を振り回すことだけは勘弁してもらいたい。

2017-03-17

国民の“虎の子”年金資産を「海外インフラ」へ GPIFの新投資は「安全かつ効率的」か?

| 11:21

日経ビジネスオンラインに3月17日にアップされた原稿です→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/031600044/?rt=nocnt

GPIFが「海外インフラ投資」に本腰

 国民の年金資産を預かるGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)に対する関心が、急速に薄れている。株価の下落で多額の損失が発生した際には、新聞や週刊誌、テレビなどで大きく取り上げられたが、株価が戻してGPIFに多額の利益をもたらすと、ほとんど報道では取り上げられなくなった。

 そんな国民の関心が薄れる中で、GPIFが新しい分野への投資に本腰を入れ始めた。発電や送電、ガスパイプライン、鉄道といった海外のインフラストラクチャーインフラ社会資本)に投資する「インフラ投資」だ。すでに日本政策投資銀行(DBJ)、カナダオンタリオ州公務員年金基金(OMERS)と共同投資協定を締結。「適切な投資案件が選定された際に、GPIF も資金を拠出する」としている。

 海外のインフラ投資にのめり込もうとしているGPIF同法人の運用の基本は「安全かつ効率的な投資」だ。果たして、海外インフラは安全で効率的な運用先なのだろうか。

「トランプ政権との関係強化のため」との報道

 2月2日、日本経済新聞はこう報じた。「年金積立金管理運用独立行政法人GPIF)が米国インフラ事業に投資することなどを通じ、米で数十万人の雇用創出につなげる。対米投資などで米成長に貢献できる考えを伝え、トランプ政権との関係強化につなげる」というのである。

 これに対してGPIFは同日、高橋則広理事長のコメントを出した。「本日、一部報道機関より、当法人インフラ投資を通じた経済協力に関する報道がなされておりますが、そのような事実はございません。GPIF は、インフラ投資を含め、専ら被保険者の利益のため、年金積立金を長期的な観点から運用しており、今後とも、その方針に変わりはありません。なお、政府からの指示によりその運用内容を変更することはありません」

安倍首相も寝耳に水?

 さっそく、この問題は国会でも取り上げられた。翌2月3日の衆議院予算委員会民進党大串博志政調会長がこう質した。

 「公的年金というのは、国民の皆さんのお金ですよ。将来の年金の給付に充てられるべきお金ですよ。これをトランプ新大統領の面会のときに、日本からお土産のように、安倍総理の財布がわりかのごとく出していくというのは、私、どういったことなのか」

 これに対して安倍晋三首相は気色ばんでこう答えた。

 「GPIFによる年金積立金の運用は、法律の規定に基づき、専ら被保険者の利益のために行われるものであり、実際にGPIFでそのように判断して運用を行うものと考えているわけでありますが、政府として今おっしゃったようなことを検討しているわけでは全くございません。これははっきりと申し上げておきたいと思います」

 国民の年金資金を米国への手土産にする──。もしそんな事を内閣で考えているとすれば、国民の怒りが沸騰するのは明らかだ。どうやらこの話、安倍首相には寝耳に水だったようで、答弁でも「(新聞では読んだが公の場では)初めて聞いた」と答えている。

 GPIFを管轄する塩崎恭久厚生労働相も答弁に立ち、「GPIFの運用方針そのものの中に政治判断が入るということはない」という模範答弁をしていたが、GPIFの運用と米国への協力を結び付けたことに、「うち(厚生労働省)から出た話ではない」と憤っていたようだ。答弁には立たなかったが、麻生太郎副総理財務相も「筋の悪い話」と切り捨てていた、という。

インフラに兆円単位で投資される可能性はある

 分かりにくいが、GPIFの高橋理事長がコメントで「事実はない」としたのは、「経済協力」としてGPIFのカネを使う事実はない、という意味で、インフラ投資をしないと言っているわけではない。高橋氏は国会答弁で、すでにインフラ投資を行っており、2015年度末で時価総額814億円分を投資、6億円の利益が出ているとした。そのうえで「(法律で)認めていただいておりますのは全体の5%、恐らく7兆円前後の金額が投資可能だ」と答えている。

 つまり、政府が指示するかどうかは別として、米国インフラに日本国民の年金資産が兆円単位で投資される可能性は「ある」わけだ。そうなれば、「結果的に」米国経済に協力することになる。

 日経新聞の記事は誤報ではない。どうやら、ネタ元は経済産業省。首脳会談に同行する予定だった世耕弘成・経済産業相の周辺から情報が流れたようだ。世耕氏は経産相に就く前の官房副長官時代にはGPIFの運用ポートフォリオ見直しなどに関与していた。世耕氏に花を持たせようとした官僚が話を分かりやすく膨らませて話したのだろう。

インフラ事業への投資では、すべて失う可能性も

 だが、この報道は、GPIFが海外インフラ投資にのめり込んでいこうとしていることに国民の関心を呼び起こすきっかけになった。

 GPIFインフラ投資について、「海外の年金基金等では有力な運用手法となっており、長期にわたり安定した利用料収入が得られるとともに、株式市場等の価格変動の影響を受けにくいことから、債券株式との分散投資により、年金財政の安定に寄与する効果が期待できます」としている。確かに、海外の年金基金がインフラ投資をポートフォリオに組み込んでいるのは事実だ。

 だが、ここに大きな問題がある。海外の基金の多くは、毎年料金収入などが見込めるインフラに、直接投資しているケースが多い。つまり、料金収入から毎年一定のリターンを確保するようにするなど、リスク回避に慎重になっている。GPIFが協定を結んだカナダの年金基金も、GPIFの発表資料の図によれば、直接インフラ企業の株式などに投資している。

 ところが、GPIF投資信託の形で投資するとしている。間に資産運用会社が入り、「金融投資」に変わっているのだ。インフラ事業自体のリスクの把握が、運用会社任せになりかねない。GPIF自身が直接インフラ投資のリスクを把握できなければ、安全な投資先とは言えない。

 上場企業株式への投資と違い、インフラ事業自体への投資は、問題が起きた時に逃げるのが難しい。株式ならば市場で売却すれば済むが、事業投資では流動性が極端に薄く、転売が難しい。事業が行き詰まれば、投資をすべて失う可能性もある。

経営危機に直面している東芝の例

 いま、経営危機に直面している東芝が良い例だ。米原子力大手のウェスチングハウスを買収しただけでなく、米国原発建設に深くコミットしたために、屋台骨を揺るがされている。安定的なインフラ事業と思われていた原発が、本体を危機に陥れることになったのだ。

 そもそも、GPIFに海外のインフラ投資のリスクを判断できる能力が備わっているのだろうか。株式投資のウエートを引き上げた際ですら、運用能力やリスク管理能力に疑問符が付けられた。インフラ投資は、より「事業」を見る専門能力が求められる。株式債券以外のいわゆる「オルタナティブ投資」に資金を割いていくだけの力をGPIFが持っているようには見えない。

 野党メディアは、こうしたGPIFの投資姿勢や、運用体制、リスク管理体制について、もっと突っ込んだ検証をすべきだろう。四半期決算ごとに損失が出たら大騒ぎ、利益が出れば安心、というのでは、本質は見抜けない。

 GPIFが3月3日に公表した第三四半期(10〜12月)の運用成績は10兆4973億円のプラスになった。運用資産額は144兆8038億円に達する。国債などの「国内債券」の運用割合は33.3%にまで低下、国内株式が23.8%、外国株式が23.2%にまで高まった。安倍内閣になって実行に移したGPIF改革のひとつの柱だった「ポートフォリオ(運用資産割合)の見直し」で想定した形に近づいている。

GPIF改革のもう1つの柱、ガバナンス改革

 GPIF改革にはもう1つの「柱」があった。ガバナンス改革である。ポートフォリオ改革とガバナンス改革を、塩崎厚労相は「車の両輪」と言い続けていた。運用方針の合議制などを盛り込んだGPIFの組織体制の見直しについては法律が昨年通っており、今年秋には新組織体制に移行される。運用についてより透明性を高めていくことになると見られる。

 そうした中で、「海外インフラ投資」をどう位置付け、そのリスク管理をどうやっていくのか。また、投資内容や成績の開示をどうするのか、議論すべきことは多い。GPIFが運用するのは国民の虎の子である。あくまで年金を受け取る年金資産の保有者、つまり国民の利益を最大化することが最優先されなければならない。政府の意向や、金融機関、運用業者、アドバイザーなどの食い物にされることがあってはならない。

2017-03-16

【高論卓説】人ごとではない東芝の断末魔

| 11:24

産経新聞社が発行する日刊紙フジサンケイビジネスアイ」のコラムに3月15日に掲載された原稿です。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/business/news/170315/bsg1703150500007-n1.htm

■海外企業コントロールする経営力が欠如

 東芝が14日に予定していた決算発表を再延期した。原子力子会社のウェスチングハウス・エレクトリック(WH)で見込まれる巨額損失の見積もりなどをめぐって監査法人と折り合いが付いていないもようだ。というよりも、WHが結んださまざまな契約に伴うリスク東芝の経営陣がきちんと把握できていないように見える。

 「どっちが親会社か分からない態度で、腹立たしく思うこともしばしばありました」と、東芝原子力部門で働くエンジニアは振り返る。東芝はWHを2006年に6000億円を投じて買収、傘下に収めた。しかし、当初から東芝本体の経営陣にはコントロールできず、役員の間から「まるで独立王国のようだった」と振り返る声も上がる。もともとWHは、東芝がWHの原発技術が欲しくて買収した。そのWHの経営陣に足元を見透かされているかのようだった、という。

 巨額の損失を生み出す原因となっている米国の4基の原発についても、東芝の経営陣は東芝本体の決算で表面化させない「つじつま合わせ」ばかりに気を配っていた。その結果、東芝にとって不利になる契約や買収を次々にWHが実行するのを許していった。一部のメディアはそれを東芝の経営陣はWHに「だまされた」と表現している。

 仮に、子会社の経営者にだまされたとして、それを唯々諾々と受け入れた親会社の経営陣は許されるのか。要は海外企業をコントロールするだけの経営力が圧倒的に不足していた、ということではないか。

 実はこの問題は東芝に限ったことではない。日本企業による海外企業の大型買収が相次いでいるが、きちんと融合した企業グループを形成して、一体のグローバル企業として経営できているところはごく一部だ。ほとんどのケースでは、傘下に置いているものの、WH型の「独立王国」であることを許している。

 それを「連邦経営」とか「独立性の維持」とか言って、むしろ良いことのように説明している。出資比率が2割ぐらいなら、投資と割り切って「独立王国」を許すのもいい。だが、連結子会社となれば、その企業が問題を抱えれば、すべて親会社の責任になってくる。それが連結経営というものだ。東芝もWHの原発事業に親会社として保証しているが、保証の有無にかかわらず、傘下に収めた以上、経営責任は親会社にある。

 1980年代後半、バブルの勢いにのって日本の老舗企業が欧米の大企業を次々に買収した。結果はどうなったか。その後のバブル崩壊もあり、「死屍累々」で撤退したものも多い。結局、グローバル企業をコントロールする経営力が圧倒的に欠如していたのだ。結局、日本企業は高い授業料を払ったその頃の経験をほとんど学んでいない、ということではないか。

 東芝の断末魔は日本企業の経営のお粗末さを示している。決して東芝特有の問題だと考えるべきではないだろう。