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2018-05-25

「高プロ」導入で問われる「労働組合」 働き方が多様化する時代で「存在意義」はどこに?

| 17:46

日経ビジネスオンラインに5月25日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/052400077/

安倍内閣の悲願だった制度導入

 働き方改革関連法案が今国会で成立、「高度プロフェッショナル高プロ)」制度が導入される見通しとなった。与党である自民党公明党と、日本維新の会などの一部野党が「働き方改革関連法案」の修正で合意し衆議院を通過する公算で、参議院でも6月20日の会期末までには可決成立する方向だ。仮に会期を延長しても小幅にとどまるとみられる。

 高プロ制は、年収1075万円以上で専門性の高い「社員」に限って、残業規制などの対象から除外する制度。「時間によらない働き方」の制度導入は、2012年末に第2次安倍晋三内閣が成立して以降の懸案だった。

 当初は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれ、経営の幹部候補などを時間規制から除外することを狙ったが、左派野党が猛反発。対象を高年収の専門職に絞り、「高プロ」として法案をまとめてからも2年以上にわたって審議されず、棚ざらしにされてきた。安倍内閣からすれば「悲願」の制度導入といえる。

 高プロ制はIT(情報通信)技術者やクリエイティブ系の職種など、労働時間と業務成果が比例しない職務につく社員に対して導入される。こうした職種を抱える企業からは、一律、時間で縛る現行制度への不満が長年くすぶってきた。これは働かせる企業側だけでなく、働く社員側にも不合理だとの声があった。

 一方、左派野党は、年俸だけで際限なく働かせることにつながるとして、「残業代ゼロ法案」「定額働かせ放題プラン」「過労死促進法案」などとレッテルを貼り、徹底的に導入に反対してきた。背景には支持母体である労働組合の根強い反対がある。

 そんな高プロ制が導入に向けて動き出したのは2017年3月末に政府の「働き方改革実現会議」が「働き方改革実行計画」をまとめたのがきっかけ。長時間労働の是正を掲げて、残業に罰則付きで上限を求めることとし、経済界と連合などの間で合意に達した。残業の上限を原則として月45時間とする一方で、どんなに忙しい月でも「100時間未満」とすることとした。

 残業時間については法律で上限が決まっているものの、労使が合意して「36協定(さぶろく協定)」を結べば、実質的に青天井で働かせることができた。そこに法律で歯止めをかけることになったわけで、労働者側からすれば、画期的な規定ということになる。

新種の「正社員」が誕生する

 当初は「100時間未満」という絶対的な上限設定に対して、経団連など経営者側からは「100時間程度」などあいまいな表現にするよう求める声が上がったが、安倍首相が「裁定」を下す格好で収束させた。ただし、同時に法案には高プロ制を盛り込むことも了解された。それが2017年3月のことだった。

 いわば、「罰則付き残業上限」の導入と、「高プロ」の導入は、労使間のバーターだった。連合も当初はそれを受け入れた。

 ところが、連合傘下の組合から猛烈な反発がわき上がる。昨年夏のことだ。以来、連合の支援を受ける左派野党は一貫して高プロの導入に反対してきた。

 なぜ、労働組合高プロに反対するのか。

 いったん制度が導入されれば、1075万円という年収下限がさらに引き下げられ、多くの労働者が低い年俸で働かされることになりかねない、というのがその理由。まさに残業代ゼロを容認する制度だというわけだ。さらに、労働時間規制を外せば、膨大な仕事を与えられて24時間際限なく働かされることになる、とも主張する。「定額働かせ放題」というわけである。

 だが、労働組合が最も恐れているのは、従来とは違った制度で働く「正社員」が生まれることで、組合活動に深刻な問題が生じるからに違いない。

 従来の労働組合は、組合員が一致団結して、ベースアップなどの待遇改善を一律で求めていくスタイルだった。当然、一部の社員だけが厚遇されることは許さないという建前だ。

 背景には「同一労働同一賃金」の考え方がある。同じ正社員が同じ仕事をする以上、同じ賃金が支払われるべきだ、というものだ。

 だから、特殊な働き方をして従来の枠組みとは異なる待遇を受ける社員が誕生することに戸惑いがあるのだ。労働時間の圧縮などを組合が求める時に、労働時間に関係なく働く社員がいた場合、求めるものが変わってくる。

 実は、同様の問題が嘱託社員や派遣社員など「非正規労働者」と「正社員」の間でも起きている。連合などは非正規労働者を組合員として受け入れることの重要性を訴えているものの、実際には大手の企業の労働組合で非正規社員が加わっているケースは少ない。

 正社員でも労働組合に所属しない人が増えている。労働組合加入を義務付ける「クローズドショップ」の組合も少なくなり、労組加入が任意となっている企業が多いことから、組合の組織率は年々低下している。2017年6月末での労働組合の推定組織率はわずか17.1%である。

 これは、労働組合が働き手のニーズをつかみ切れていないことを示している。

労働組合高プロ社員の「味方」になる?

 「労働組合は敵だと思いました」と大手電機メーカーから外資系に転職した中堅社員はいう。その大手メーカーは経営危機に直面、退職者が相次いだが、そのしわ寄せが残った社員にのしかかった。残業時間はみるみる増えたが、「さぶろく協定」で組合が受け入れている以上、残業は拒否できない。耐えられなくなったその社員自身も外資への転職を決めざるを得なかった。「あのまま働いていたら過労死していたかもしれません」。

 高プロ制が導入された場合、労働組合高プロ社員の「味方」になるのだろうか。維新との修正協議で、高プロ社員が自らの意思で高プロから外れることができるよう明示された。

 高プロ制では、年俸と仕事量が見合っているかどうか、本人が納得しているかどうかが重要な要素になる。仕事量が多すぎる場合など、組合に相談しても、「それなら高プロを辞退しろ」と言われるのだろうか。少なくとも、現在の労働組合のスタイルの中で、個別の社員の待遇についてバラバラに交渉することは想定されていない。

 おそらく今後誕生してくる「高プロ」社員を、現状の労働組合が受け入れることは難しいだろう。高プロだけでなく、今後、働き方が多様化して、様々な条件で働く人が増えていく中で、組合がそれぞれのニーズを汲み取ることはできないに違いない。つまり、労働組合の組織率は、組合が変わらない限り、今後も低下を続けるだろう。

 では、労働組合はどう変わっていくべきか。

 働き方が一律であることを前提とした組合は、働き手からは必要とされなくなっていく。会社と働き手が個別に労働契約を結ぶようなケースが増えていくことになれば、従来の労働組合の「闘い方」では救えない働き手が急増してくることになるだろう。

 今後、組合が生き残っていくには、働き手のニーズをきちんととらえ、彼らの支援をする組織へと変わっていくことが求められる。会社と働き手が結ぶ契約の内容が不当ではないか、契約と違わない業務が与えられているか、問題がある場合、本人にアドバイスするなり、組合として改善を求めていけるか。個々の働き手のコンサルティングを担うような組織に変わっていく必要があるだろう。

 そんなのは労働組合ではない、という声が関係者からは上がりそうだ。

 もうひとつの生き残り策は、欧州のような「産業別」の労働組合に再編していくことだろう。同一労働ならば会社が違っても同一賃金を求めるというのが前提だが、日本の伝統だった企業別組合とは相容れない。働く側の意識もライバル企業より給与が高いかどうかに関心があり、同じで良い、とはならないだろう。また、産業別労働組合自体が、伝統的な工場労働などを前提としており、多様な働き方が普通になっていく今後の時代にマッチしているのかは微妙だ。

 いずれにせよ、「高プロ」は日本人の働き方を大きく変えていく第一歩になるのは間違いないだろう。そんな中で旧来型の労働組合も間違いなく変化を求められる。変化できなければ時代から取り残され、滅ぶことになるだろう。

2018-05-24

労働組合が「高度プロフェッショナル制度」に反対する本当の理由 日本型組織が大きく変わろうとしている

| 07:07

現代ビジネスに5月24日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55790

労働組合が嫌う「高プロ

安倍晋三内閣が今国会の最重要法案と位置付けてきた「働き方改革関連法案」が成立する見通しとなった。自民・公明両党と日本維新の会など一部野党が協議の結果、法案の修正で合意。5月24日にも衆議院を通過する見通しとなった。

立憲民主党国民民主党共産党などは裁決に反対しているが、6月20日の会期末までには参議院でも可決され、成立することになりそうだ。

法案の柱は大きく分けて2つ。

残業時間の上限を原則「月45時間」、繁忙期の例外でも「月100時間未満」とし、それを超えた場合、罰則を科す。長時間労働の是正に向けた規制強化がひとつ。

もうひとつは年収1075万円以上の専門職社員に限って労働時間規制から外せるようにする「高度プロフェッショナル高プロ)」制度の新設である。

連合など労働組合は前者の規制強化については賛成しているが、高プロの導入には強く抵抗している。これを受けて立憲民主党国民民主党なども「高プロ」の法案からの除外を求めてきた。

左派野党高プロ制について「定額働かせ放題プラン」「過労死促進法案」といったレッテルを貼り、高プロ制が導入されれば、対象社員が際限なく働かせられ、今以上に過労死が増えるとした。

「働かせ放題」阻止は自主性で

では、本当に高プロ制度の導入によって過労死が増えることになるのだろうか。

「いや、うちの会社では高プロの導入は難しいです」と大手製造業の人事担当役員は言う。製造業の場合、時間で管理するのが当たり前になっている上、管理職ではないヒラ社員に1075万円以上の年俸を支払うことは難しい、というのだ。

同様に、運送業や建設業など慢性的な長時間労働の業界でも、「高度プロフェッショナル」と呼べるような専門性を持ったヒラ社員はほとんど存在しない。

一方で、ソフトウェア開発などIT(情報技術)技術者を多く抱える企業では高プロ制の導入を歓迎する。「そもそも労働時間で評価できる業種ではないので、ようやく働き方に合った制度ができる」(IT企業の経営者)というのだ。

厚生年金の支払い実績などから見た年収1075万円以上の社員は、全体の1%未満。野党は、いったん制度が導入されれば、年収要件がどんどん引き下げられる事になりかねないと批判するが、現状では「高プロ」に移行する社員の数はそれほど多くはならないと見られる。

本当に「働かせ放題」にならないかどうかは、導入する企業が対象社員をプロフェッショナルとして扱い、自主性を認められるかにかかっている。不本意な労働を強いられれば、ストレスは大きくなり、過労死の原因になり得る。

維新などとの間で合意した修正には、対象社員が自らの意思で、高プロの適用を解除できるという文言が盛り込まれており、社員の自主性を重視する姿勢が強調された。

高プロが崩す日本型正社員

高プロの導入はこれまでの企業と社員の関係を大きく変える第一歩になるだろう。労働組合高プロに反対する本当の理由はそこにあるように思う。

ごく一部とはいえ社員の中に「時間によらない働き方」をする人が生まれれば、社員の労働に対する考え方がバラバラになり、「団結権」をテコに同等の待遇改善を求めてきた従来の労働組合の「闘い方」に影響が及ぶ。そうでなくても組合の組織率は17%にまで低下している。

高プロの導入で、働く社員の意識も大きく変わるだろう。労働時間に関係なく一定の年俸を得る仕組みになれば、無駄な残業をする意味はなくなる。長く会社にいれば残業代が増えるという事はなくなるのだ。

そうなれば、いかに時間を短くして効率的に仕事を終わらせるか、という志向に変わっていくはずだ。まさに「働き方改革」である。

だからと言って、到底こなすことができない量の仕事を与えられては24時間働いても仕事が終わらない、ということになりかねない。企業としては、どれだけのアウトプットに対して、年俸を支払うのかをきちんと計量しなければならなくなる。

長年重要性が指摘されながら導入されてこなかった「ジョブ・ディスクリプション」が明確になっていくに違いない。高プロの社員には、何が「専門」なのかを明示し、仕事の範囲を決めなければ、評価ができなくなってしまう。

企業と専門社員の関係は、業務請負のような色彩を帯びるに違いない。そうなると報酬も「市場価格」へと、さや寄せしていくことになるだろう。毎年、一定の昇給をしていくというスタイルも崩れていくに違いない。

つまり、高プロの導入は、いったんその会社に採用されたら、定年を迎えるまで雇用が守られ、給与も増えていくという「日本型正社員」が崩れていく蟻の一穴になるのは間違いない。

「定額働かせ放題」と言うなら、現状の「管理職」の方が、問題は大きいのではないか。中小企業などでは年収1075万円以下の管理職は大勢いる。彼らは残業代もつかずに長時間労働を強いられている。

本来、管理職は自らに裁量権があるとされ、時間管理から外れているが、中間管理職の多くは実際にはヒラ社員と変わらない働き方を求められている。実際には管理していない「名ばかり管理職」問題もまだまだ存在する。高プロの導入をきっかけに、こうした名ばかり管理職の取り締まりを強化していくべきだろう。

いずれにせよ、高プロの導入が、日本の会社における「働き方」が変わる第一歩になることだけは間違いなさそうだ。

2018-05-23

スイスの時計輸出が「底入れ」

| 21:23

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。3月号(2月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→https://www.webchronos.net/

 2017年のスイスの全世界向け時計輸出額が3年ぶりに増加した模様だ。スイス時計協会の統計では、2017年1月から11月までの累計輸出額は182億4740万スイスフラン(約2兆900億円)で、前年の同期間を2.8%上回っており、12月によほど大きく失速しない限り、年間ベースでも前の年を上回る見込みだ。本誌が読者のお手に届くころには同協会が昨年の統計結果を発表しているはずである。

 スイスの時計輸出は2014年の222億5770万スイスフラン(約2兆5660億円)がピークだった。2016年には194億510万スイスフラン(約2兆2370億円)にまで落ち込んでいた。ピークから13%減っていたことになる。それを底に2017年は上昇に転じたわけだ。

 底入れの理由は、スイス時計の世界3位の輸出先である「中国(本土)」向けが大きく回復していること。2017年は2016年に比べて2割前後伸びた模様だ。2015年に上海株が急落したことをきっかけに需要が落ち込んでいた。

 高級時計などラグジュアリー商品の需要減少の背景には、習近平体制による汚職追及があるという声も強かった。高級酒や高級時計、ブランド品などが謝礼や贈答品用に多用されていたのが、汚職追放の流れの中で一気に使われなくなった、というのである。小さくて高価な高級時計は贈答用に重宝されてきたといわれる。

 中国の景気に左右される香港での時計需要も回復傾向にある。香港スイス時計の最大の輸出先で、2014年には41億2190万スイスフラン(約4750億円)に達していた。これが、2016年には23億8260万スイスフラン(2750億円)にまで激減していたが、2017年は持ち直した模様だ。

 2017年はスイス時計の主要輸出先30カ国・地域のうち20カ国近くが前年よりプラスになったようだ。2016年には前の年に比べてプラスだった国は7カ国にとどまっていただけに、世界的に景気回復の色彩が強まってきたことを示している。

 どうやら2018年も世界景気は引き続き明るさを維持しそうな気配で、高給時計市場にとっては期待できそうな年になりそうだ。スイス時計の輸出も2年連続でプラスになると期待される。

 そんな中で、最も注目される市場のひとつが日本になりそうだ。スイス時計の日本向け輸出は1月から11月までの累計では3.4%の減少となっていたが、11月単月だけをみると前年同月比22.5%増と劇的に増えていた。

 前回のこのコラム(「消費が盛り上がり始める3つの理由」)で指摘したように、長年低迷が続いていた日本の消費にようやく明るさが見え始めており、2018年は日本の時計販売が大きく改善する可能性が高まっている。

 昨年後半から株価の上昇が続いており、1月には日経平均株価が2万4000円台を回復した。26年2カ月ぶりという高値水準だ。明らかにムードは変わっている。株価の上昇によって財布の紐が緩む「資産効果」も出始めており、消費に力強さが見え始めている。

 引き続き日本を訪れる外国人観光客も増加しており、日本の消費を下支えしている。2017年は過去最多の2869万人の外国人旅行客が日本を訪れ、過去最大である4兆円のおカネを日本国内に落としたとみられている。

 政府は、東京オリンピックパラリンピックが行われる2020年には4000万人の訪日外国人受け入れを目標にしており、8兆円が使われると試算している。オリンピック・ムードの高まりによるスポーツ商品の販売増などを見込むが、時計市場にとっても訪日客の急増はプラスになるのは間違いない。

 日本で買い物をする外国人旅行者のうち最も金額を使っているのは中国からの旅行者。一時は景気減速でひとり当たりの消費額が低下していたが、ここへ来て再び増加傾向にある。スイス時計の日本向け輸出が増えている背景にも、日本にやってくる中国人観光客による購買などがかなり含まれているとみていいだろう。

2018-05-22

ガバナンス・コード改訂で 「株式持ち合い」が消えていく

| 09:15

日本CFO協会が運営する「CFOフォーラム」というサイトに定期的に連載しています。コラム名は『コンパス』。オリジナルページもご覧ください。→http://forum.cfo.jp/?p=9869

 「コーポレートガバナンス・コード」の改訂版が2018年6月から施行される。ガバナンス・コードは2015年6月に施行されたから、丸3年を経て初めての改訂となる。企業経営者と機関投資家の「対話」の促進に重点が置かれ、「投資家と企業の対話ガイドライン」も同時に公表されているが、何と言っても影響が大きいのは、「持ち合い株式の削減方針の明確化」だ。

 持ち合いは日本的経営を支える仕組みとして賞賛された時代もあったが、近年は、企業の資本効率を悪化させる元凶のひとつとされ見直しが求められてきた。また、持ち合いによって機関投資家など他の株主の発言権を封殺しているとして、投資家と企業の対話を阻害していると批判されている。

 今回の改訂版では、持ち合い株式、つまり「政策保有株」に関する「原則」が大きく変わった。

 これまで「政策保有に関する方針を開示すべき」とされていたものが、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」と変わった。ガバナンス・コードに従う会社は、今後、株式持ち合いの「縮減」を目指すべきことが明示されたわけだ。

 さらに、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい、合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを次のように変更した。

 「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」

 中長期的に経済合理性があれば良し、としてきたものを、資本コストに見合っているかを具体的に精査しなければならなくなった。また、合理性について説明するとしてきたものを、保有の適否を検証してそれを開示すべき、と踏み込んでいる。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか、具体的に精査せよとまで問われると、なかなかそれを立証することは難しい。これまでも、経済合理性を説明することは難しいとして、多くの会社が持ち合い解消に動いてきた。資本コストに見合っている、という説明はおそらく難しいので、この解消の流れは一気に強まるのではないか。旧財閥グループの中には、資本コストを犠牲にしても株主にメリットがあることを説明しようと、事業上のメリットの強調などを試みるかもしれないが、投資家を納得させられるかどうかは微妙だ。

 持ち合いについては「外堀」が埋まってきている面もある。生命保険会社や銀行など機関投資家は、スチュワードシップ・コードが導入されたことで、アセット・オーナーの利益に反する行動は取れなくなってきている。政策投資だからといって、かつてのように「安定株主」として、経営陣に「白紙委任」を与えるような投票行動を取ることが難しくなっている。

 機関投資家は投票行動を個別に開示するようになっており、会社側提案の議案に無条件に賛成するというのは難しい。実際、会社側提案に反対票を投じる機関投資家も増えている。企業経営者からすれば、資本コストを度外視して持ち合いをしても、相手が安定株主として行動してくれなくなっているわけだ。持ち合いの効用が消えてきているわけだ。

 もちろん、企業の側も議決権行使の「合理性」を問われることになるので、政策保有株だからといって無条件に会社提案に賛成するというわけにはいかなくなる。

 今回の改訂でコードに「縮減」することが明記されれば、それを「口実」にして持ち合い解消を一段と進める動きが強まるのは明らかだろう。「こういうご時世ですから、申し訳ありませんが」と言いやすくなるわけだ。

 経済界からは、日本企業が長期志向で安定的な経営を遂行するためには株式持ち合いは重要な慣行だという反論が長年あったが、外堀が埋まってきたことで、そうした主張を真正面からする経営者は減っている。

 米国では銀行が企業の株式を政策目的として保有することを原則として禁じている。また、欧州でもドイツなどでは銀行が株式保有によって企業を実質的に支配する仕組みが慣行として広がっていたが、ここ20年の間に急速に銀行の株式売却が進んだ。企業に資金を融資する「債権者」の立場と、「株主」の立場が時として利益相反になるケースが増えていることが背景にある。

 今回のコード改訂は、日本企業の株式持ち合いを消滅させる大きなきっかけになっていくだろう。

2018-05-21

【高論卓説】日本の“カイシャ”の形が変わる 副業解禁で進む終身雇用の崩壊

| 12:29

5月15日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/180515/bsg1805150500001-n1.htm

 「副業」を認める会社が目立ってきた。安倍晋三内閣が「働き方改革」の一環として昨年来、副業や兼業の解禁に旗を振ってきた「効果」が出始めたともいえる。

 厚生労働省が示している「モデル就業規則」から副業禁止の規定を削除。「労働者は、勤務時間外において、他の会社などの業務に従事することができる」と、ひな型で示した。もちろん、競業に該当して元の企業の利益を害する場合などは禁止だが、副業を「原則禁止」から「原則自由」へと180度変えたわけだ。

 なぜ政府は「副業解禁」に動いたのか。多様な働き方を求める人たちが増えたこともあるが、最大の理由は深刻化する「人手不足」が背景にある。

 一つの会社に縛り付ける従来の「働かせ方」では、労働人口の減少とともに、人手はますます足りなくなる。ダブルワークの解禁が人手不足を吸収する一助になる、と考えたのだろう。

 解禁に動いている企業にも理由がある。日本型雇用とされてきた「終身雇用」が企業にとって「重荷」になってきたのだ。日本の伝統的な企業では、いったん就職すれば、定年退職を迎えるまで、よほどのことがない限り解雇せず、面倒を見続けてきた。仮に社員のスキルを生かせる仕事がなくなっても、配置転換などで仕事をあてがい、生活を保障してきた。

 だが、猛烈な人手不足と、時代の変化が激しい世の中になって、配置転換で仕事を与え続けるような人事のやり方は非効率になった。むしろ、必要な人材は中途採用し、専門を生かせる場がなくなった人には、辞めて転職してもらう。そのためには、社員が自ら専門性を磨く「副業」の解禁が必要になるわけだ。

 つまり、副業解禁は「日本型雇用」の崩壊を示しているといえそうだ。時代の変化で仕事がなくなった社員を抱え続ける余裕が会社になくなってきたのだ。

 日本企業の収益力が低いことも一因だろう。人手不足にもかかわらず、給与を大きく引き上げることは難しい。そうなると、自社で稼げない分、外で働くことを容認せざるを得ないのだ。

 こうした副業解禁をきっかけに、日本の「カイシャ」は根本から変わるだろう。副業を解禁するには、その社員の「本来業務」が何かを明確にする必要がある。「本来業務」が何かが明確でなければ「競業」かどうか分からない。つまり、欧米型の「ジョブ・ディスクリプション」がより明確になっていくだろう。

 副業が当たり前になると、より「専門性」を身につけた社員と、会社の関係は希薄化していくに違いない。いや、より「対等」になっていく、と言っても良い。いったん「雇用」したら働く場所も職種も会社次第という時代は早晩終わりを告げる。業務を明確化した上で、それぞれの会社と個人が個別に業務契約を結ぶ。そんな関係が増えていくだろう。

 そうなれば、あたかも「疑似家族」のようだった日本の伝統的な「カイシャ」は急速に壊れていくことになる。