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2016-12-02

痛みを伴う「年金抜本改革」を誰が言い出すのか 「年金カット法案」を巡る与野党攻防は茶番劇

| 11:35

日経ビジネスオンラインに12月2日にアップされた原稿です→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/120100036/

「反対しました」という形が欲しい

 野党が「年金カット法案」とレッテルを貼る年金制度改革関連法案が11月29日、衆議院本会議で可決され、参議院に送られた。国会会期は12月14日まで延長されており、政府与党は何とか今の国会で成立させたい意向だ。年金支給額の新たな改定ルールを盛り込んだ今回の法案には、民進党自由党社民党共産党野党4党が反対。自民党公明党日本維新の会などが賛成した。野党衆議院での法案通過を阻止するために、衆議院厚生労働委員会の丹羽秀樹委員長の解任決議案と、塩崎恭久厚生労働大臣に対する不信任決議案を提出。否決されると、民進党自由党社民党本会議場から退出、法案の議決には加わらなかった。

 会期末が迫るとしばしばみられる「茶番劇」である。民進党は、「年金カット法案をいい加減な審議で通すことに断固反対だ」としているが、民進党が求めるように審議時間を増やせば今国会での成立は絶望的になる。また、審議時間を増やしたからといって民進党が賛成に回る可能性はまずない。「年金の減額につながる法案に私たちは反対しました」という形が欲しいのだ。

抜本改革を議論するというのは結局、問題の先送り

 民進党はさらに「今の高齢者から将来の世代まで、まともな額の年金をもらえるように抜本改革に今すぐ取り組むべきだ」とも主張している。これは正論だ。年金制度の抜本改革の議論は今すぐにでも着手すべきだが、だからといって、抜本改革の議論を始めて今国会で成立することなどあり得ない。今回の法案を止めて、抜本改革を議論するというのは、結局は問題の先送りになるだけだ。

 それは民進党議員の多くも十分に分かっている。年金の支給額を抑制しなければ、今の制度がもたないことも十二分に理解している。

自民党など与党の主張にもウソ

 一方で、自民党など与党の主張にもウソがある。衆議院での討論で、自民党は「法案は、公的年金制度の持続可能性を高め、将来世代の年金水準を確保することによって、将来的にも安心な年金制度を構築するためのものだ」と述べたが、この法案で将来にわたって安心な年金制度になるわけではない。これもマヤカシなのだ。長年政府は、「百年安心プラン」といった言葉を使って、年金制度にマクロ経済スライドという仕組みを導入すれば、制度は持続可能だと言い続けてきた。

 2004年の法改正で、毎年年金掛け金を引き上げる一方で、経済情勢で年金支給額を増減できるようにしたのだ。年金給付を減らして将来世代に回すなど制度全体で「完結」するようにはなっているが、あくまで机上の論理。実際には年金制度は維持できたとしても、高齢者がその年金の金額で生活できなくなったり、逆に、若年層が年金掛け金の負担に耐えられなくなる可能性は十分にある。制度を司る厚生労働省は安心かもしれないが、生活者の不安は解消されない。

日本の公的年金制度は「修正賦課方式」

 何せ日本は猛烈な少子化である。年金という制度は現役世代が払った原資を、高齢者世代が受け取るという仕組みだ。自分で払ったものを自分で受け取る仕組みを「積立方式」と言うが、日本の実情はすでに積立方式ではなくなっている。今の若手世代が払った保険料を高齢者への給付に充てる「賦課方式」に近い。一部は積み立てられた年金資産を運用に回しているため、「修正賦課方式」などと呼ばれる。

 現在65歳以上が人口に占める割合は27%だ。高齢者がどんどん増える中で、支払う年金も増えている。それを制度的に賄うには大きく分けて2つの方法がある。年金支給額を引き下げるか、保険料を引き上げるか、だ。

若い世代の社会保険料と税の負担感は相当なもの

 2004年の法改正で、それまでは景気や年金資産の運用状況によって改訂していた保険料率を、毎年0.354%ずつ自動的に引き上げることを決めた。2003年に13.58%(個人と会社で半分ずつ負担)だった保険料率を、14年にわたって引きあげ、2017年9月以降は18.30%で固定するというものだ。毎年一定の保険料収入の増加を可能にしたわけで、この保険料の引き上げは今も続いている。18.30%というのは年金の保険料だけで、これに健康保険料も加わり、さらに所得税もかかる。若い世代の社会保険料と税の負担感は相当なものだ。これ以上、保険料負担を上げるというのは現実的には難しい。

 そうなると、高齢者が受け取る年金を減らすしかない。現在、年金支給開始年齢を65歳にまで引き上げる作業が続いている。抜本的な改革はこれを70歳にまで引き上げる方法だが、それでは退職後の無年金時代が生じてしまう。すぐには実行できないのだ。そうなると、今の年金受給者がもらっている年金を減らすほかない。

「物価が上がり、年金額が下がったら生活できない」は正論だが…

 今回、民進党が問題視したのは、「物価が上昇した場合でも、現役世代の平均給与が下がった場合には、年金額が下がる」という仕組みだ。物価が上がって年金が下がったら生活できないというわけだ。もちろん正しい主張だ。

 東京巣鴨地蔵通りでお年寄りを相手に「年金減額法案に賛成か反対か」と聞いていたが、当然、「反対」が圧倒的になるに決まっている。だが、年金額を維持しようと思えば、どうなるか。「現役世代の給与が下がっても、高齢者の年金額を維持するために、さらに現役世代に負担を求める」ことになるわけだ。「あなたの子供や孫の負担を増やしても年金を維持してほしいですか」と聞けば、違った反応だったかもしれない。

 税金で賄うべきだ、という声もあるだろう。だが、所得税を増やせば、結局は勤労世代の負担を増やす。保険料か税金かの違いだ。消費税ならば高齢者も負担することになるが、2019年までは上がらない。

マクロ経済スライドは、どれだけ「机上の空論」か

 経済が上向き、働く世代の給料が増えれば、結果的に社会保険料や税収も増えることになる。だが、それで少子高齢化による負担増を吸収できるわけではない。日本の年金制度はかなりの危機に瀕している。抜本改革は待ったなしなのだ。

 抜本改革を主張する民進党はどうやって問題を解決しようと考えているのだろうか。民進党ホームページで、井坂信彦衆議院議員が解説している。長妻昭氏に次ぐ「新ミスター年金」として民進党が売り出したい若手の有望議員だ。

 現在の「年金カット法案」について、「将来世代の受給額が7%増える事実はまったくない。なぜ政府案でそうなっているかというと、政府の試算は2005年からずっと長い間、高齢者の年金を3%カットして巨額の財源をつくり、しかも年4.2%というありえない運用利回りで50年くらい増やして、それが将来世代にばらまかれると7%増えるという計算をしている」と指摘している。いかに政府マクロ経済スライドが「机上の空論」かを追及しているのだ。

 そのうえで、「年金カット法案は不要」だと断定している。「場当たり的に削れるだけ削っておこうという発想で、将来世代が少しの額しかもらえない制度が延命されるだけだ」というのだ。さらに、年金の制度設計で大事なこととして、]係紊諒襪蕕靴鮑把禪打金で支える最低生活保障が大原則、∈の制度のように「若い人は払い損」という世代間の不公平があってはいけない──つまり、「最低生活保障と世代間公平の二つを何とか両立できるような制度設計をしなければいけない」としている。

年金の試算を第三者機関で行い、都合のよい解釈をさせない

 だが、どうすれば、それが可能になるのか。井坂氏が挙げている1つ目は、年金の試算を中立的な第三者機関で行う、というもの。政治家や役所に都合のよい解釈をさせないということだろう。大賛成だ。さらに同世代間で区切る疑似的な積立方式に近い形も目指すという。世代ごとに景気変動の影響の受け方が違い、世代間の不公平間が高まるかもしれないが、積立方式に近い形ということでこれも良しとしよう。

 財源については「高所得者に負担いただくことと、歳入庁の設置やマイナンバーの活用で、きちんと皆さんに保険料を払っていただく」こと。さらに「それだけでは足りないから広く薄い相続税のような形で、亡くなったあとに回収する形も考えなければいけない」としている。

 民主党政権時代には相続税増税が検討されたが、これを「広く薄く」取るというのは言うは易く行うは難い。マイナンバーが導入されたといっても、国民の資産を国が把握しているわけではない。大金持ちの遺産を調べてガバッと課税するならともかく、広く薄く相続税を取る仕組みを構築するのは容易ではない。

 結局、ホームページをみても、抜本的な改革提案はなされていない。

悲惨な社会保障の現状を理解してもらうしかない

 『シルバー民主主義』(中公新書)の著書もある八代尚宏・昭和女子大学特命教授は、「高齢者に日本の悲惨な社会保障の現状を理解してもらうしかない」と話す。(当コラム 2016年6月17日配信「『40歳定年制』は非常に合理的な意見」ご参照)

 そのうえで、2つの方法があるとして以下のように言う。

 「ひとつは理詰めで説得すること。政府は年金制度が持続可能だと言っているが、実際にはそれは粉飾で、年金はすでに不良債権ということをきちんと説明する。そのうえで、年金の一部切り下げを受け入れてもらうわけです。

 もうひとつは高齢者の『利他主義』に訴えること。あなたのお孫さんを犠牲にしてまで多くの年金を受け取りたいですかと問えば、日本の多くの高齢者はとんでもないと言います。政治家はそうした点をもっときちんと高齢有権者に訴えるべきです」

「痛み」受け入れのお願いを、自民党野党も口にしない

 支給年齢を引き上げるか、大幅に年金支給額をカットするしかない、それを高齢者に理解してもらうべきだ、というのだ。年金制度の抜本的な見直しは、まさしく「痛み」の負担を受け入れてもらうことなのである。それを自民党野党も真正面から堂々と主張していないところに問題がある。

 もともと、年金は「保険」だ。元気に働いて十分な収入を得ている人には全額辞退してもらえばよい。その一方で、働きたくても働けない人や、病気の高齢者には生活に必要な年金は保証する。今の人口構造の中で、全員が満足できる金額を受け取れる年金制度の設計は無理だろう。

2016-12-01

制度は維持できても生活できない―― 抜本改革なしの年金制度の行方

| 11:00

月刊エルネオス12月号(12月1日発売)に掲載された原稿です。http://www.elneos.co.jp/

上がり続ける保険料率

 秋の臨時国会では年金にまつわる重要法案が審議された。一つは年金の受給資格が得られる保険料の納付期間を二十五年から十年に短縮する「年金機能強化法改正案」で、これは全会一致で可決された。

 これによって六十四万人が新たに年金支給対象に加わることになった。当初は消費税率を一〇%に引き上げる際に行う予定だったが、消費税増税の延期で先行実施された。

 一方、経済環境によって年金支給額の上昇を抑える「マクロ経済スライド」を強める国民年金法改正案の審議は与野党激突の様相となった。民進党など野党は、物価が上昇しても賃金が下がれば支給額を下げる内容に、「年金カット法案」というレッテルを貼って強く批判している。

 改正前のスライド制度では、物価が下落すれば年金額は減る仕組みだが、物価上昇しても賃金が減少するようなケースでは年金額はプラスマイナスゼロに据え置かれる。ところが、改正後の新ルールでは、物価と賃金のどちらかがマイナスになれば、年金額が引き下げられるうえ、物価と賃金がどちらもマイナスの場合はマイナス幅が大きいほうに合わせて年金が減る。

 二〇〇四年の法改正で「マクロ経済スライド」が導入された際、厚生労働省も自民公明与党も、「百年安心プラン」と銘打って胸を張った。〇四年の改正では、それまで景気や年金資産の運用状況によって改定していた保険料率を、毎年〇・三五四%ずつ引き上げることを決めた。〇三年には一三・五八%(個人と会社で半分ずつ負担)だった保険料率を、十四年にわたって引き上げ、一七年九月以降は一八・三%で固定するというもの。毎年一定の保険料収入の増加を可能にしたわけで、この保険料の引き上げは今も続いている。

 その一方で、マクロスライドを導入して、デフレなど物価下落が起きた場合には年金支給額を減額することにしたわけだ。現役世代の保険料を目いっぱい引き上げるのに対して、年金受給者は経済情勢に応じて受け取る年金額を我慢してもらうという仕組みに変えたのだ。「百年安心」としたのは、この仕組みによって年金受給者は現役世代の五〇%の所得を確保できるという計算からきていた。

「百年安心プラン」の現実

「百年安心」などと政府が大見得を切る時ほど、実現性が怪しい時はない。改正当初から、早晩、矛盾が噴き出すという指摘があったが、金利低下による年金運用収益の減少や、現役世代の人口減少に加え、デフレ経済下での給与低下もあって、年金の支払い「原資」は想定ほど増えなかった。一方で長寿化が進み年金受給者は膨らみ続け、年金支給額も増え続けた。「百年安心」どころか、初めからバランスが崩れたのだ。

 今回の改正案も、この「百年安心プラン」の辻褄を合わせるために、マクロ経済スライドをきつくし、現役世代の給与が減った場合には、年金支給額も減る仕組みに変えようとしているわけだ。

 年金をもらっている人の中には、自分がかけた保険料が積み立てられて、そこから年金が支払われていると考えている人がいる。こういう保険の仕組みを「積み立て方式」と言い、個人で加入する民間保険会社の年金保険などはこうした仕組みで運営されている。

 国の年金も当初は積み立て方式で始まったが、若い世代が多い時代にたくさん入って来た保険料を大盤振る舞いして高齢者世代に年

金として支払ったため、積立金が大幅に不足した。現役世代の保険料をそのまま高齢者世代の年金に回すのを「賦課方式」と呼ぶが、日本の年金は事実上、賦課方式となっている。役所は「修正賦課方式」などと呼んでいる。

 つまり、年金受給者がもらっている年金は、自分でかけた保険料が戻って来ているわけではなく、今の現役世代が納めたものなのだ。もちろん、保険料の一部は年金基金として蓄えられ、それが運用に回されている。その運用の良しあしで年金財政は揺れ動くが、現実離れした高収益を上げなければ、運用だけで年金支払いを賄うことはできない。

もはや見直すしかない制度

 では、マクロ経済スライドを強化すれば、年金制度は維持できるのだろうか。

 制度は維持できるが、支給される年金で生活ができなくなる可能性が出て来る。現役世代の五〇%という目安をどんどん下回り、三分の一程度になってしまう可能性があるのだ。

 もちろん、現役世代の負担をさらに引き上げていけば、年金支給額は維持できるかもしれないが、一八・三%はかなりの水準だ。これに現役世代健康保険介護保険なども負担しており、さらに所得税などを支払うわけだから、簡単には負担増はできない。

 野党が「年金減額法案だ」と批判するのは的を射ている。現役世代の人口が減り、年金世代の人口が増えているのだから、年金は減額しなければ、年金財政はバランスしない。それを分かりながら、年金支給対象を広げる法案には賛成して、年金を減額する法案には反対するというのは無責任だろう。

 安倍晋三内閣経済成長を取り戻して、企業収益を上向かせ、給与を引き上げさせようとしているのは、年金制度を維持する観点からは、理にかなっている。保険料率が一定でも、給与が増えれば、年金保険料収入は増え、年金支給額も増やすことができる。だが、人口減少が続く中で、経済成長だけで年金制度を維持・機能させていくことは難しい。

 特に、高齢化が進んで高齢者の割合が増えれば、年金財政はどんどん厳しくなる。六十五歳以上の高齢者はすでに人口の二六%を超えており、三〇%に近付こうとしている。しかもその高齢者が三十年近くにわたって年金をもらい続けるとなると、現役世代の所得の大半を奪っても年金財政は成り立たない。

 ではどうするか。今の制度が「百年安心」だという建前を捨てて、年金制度を抜本的に見直すことが不可欠だろう。高齢者でも一定以上の所得のある段階では年金は支給せず、本当に必要になった人にだけ支給するなど、仕組みを根幹から見直すべきだ。さもなければ、制度は残っても役に立たない代物になってしまう。

2016-11-30

年金運用は結局「勝っている」のか「負けている」のか 日経平均株価は戻ったけれど…

| 11:24

現代ビジネスに11月30日にアップされた原稿です。

オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50329

「プラスになった」と喜んでいいのか?

年金改革をめぐる法律審議が佳境だ。制度改革も必要だが、今ある国民の年金資産を、きちんと運用してもらうことも重要だ。今年に入って株価の下落が続いたあおりで、年金運用で巨額の損失が発生した話が報じられたが、その後、株価が戻って年金資産はどうなっているのだろうか。

年金資産を運用するGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)が11月25日、今年度の第2四半期(7月〜9月)の運用成績を発表した。

結果は2兆3746億円のプラス。

四半期では3期ぶりのプラスだけに、今年4月にGPIFの理事長になったばかりの盒郷瞥事長らGPIF関係者はホッとひと息ついているに違いない。国会で巨額損失を責められ続けてきた安倍晋三内閣の面々も同様だろう。

 

だが、「プラスになった」と手放しに喜んでよいのだろうか。

今年度が始まる直前の今年3月末の日経平均株価の終値は1万6758円。第1四半期が終わった6月末には1万5575円まで下がっていたものが、第2四半期が終わった9月末には1万6449円と、ほぼ振り出しに戻った。ところが、4〜9月の運用収益の合計では2兆8596億円ものマイナスになっているのだ。 

確かに株価が上昇した7〜9月は2兆3746億円のプラスになったのだが、第1四半期に出した5兆2342億円の穴が埋まっていないのである。運用方法を大きく国内株にシフトしたことが批判されてきたGPIFだが、損を出している原因は、国内株ではないのか。

 

GPIFの発表資料を詳しくみてみると、投資分野ごとの収益額が出ている。GPIFは保有する資産(9月末で132兆751億円)を、大きく分けて「国内債券」「国内株式」「外国債券」「外国株式」に投資している。

基本的なポートフォリオ(資産運用割合)は、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%ということになっている。2012年末までは60%が国内債券で運用されてきたが、安倍内閣はそれの分散化を進めてきたのだ。

 

国内株式での運用収益額をみると、第1四半期に2兆2574億円損失を出したものの、第2四半期では2兆234億円の利益を出している。ほぼ損失は消えたわけだ。

GPIF株式運用のほとんどが「パッシブ運用」と言われる株価指数への連動を目指す運用のため、日経平均株価などの指数が戻れば、運用収益もそれに比例して上がる。市場での株価の戻りと共に、年金の損失も消えていた。

 

ではどこで損が残っているのか。

第1四半期、第2四半期通算で最も損失額が大きいのが「外国債券」の1兆5591億円。次いで「外国株式」の1兆3651億円である。為替変動がその大きな要因だと思われるが、「外国モノ」で損失を抱えているのだ。 

 

もちろん、年金運用の収益は長期的に見なければいけない。一時的に市場環境が悪いこともあるからだ。そこで使われるのが「ベンチマーク」と呼ばれる指標。市場の平均値であるこの「ベンチマーク」を上回ることを運用のターゲットにする。業界では、運用実績がベンチマークを上回れば「勝ち」、下回れば「負け」と言う。

 

では、GPIFの運用はベンチマークを上回っていたのか。つまり「勝っていた」のであろうか。 


追及するなら「外モノ」

GPIFの資料によると4〜9月のベンチマークの収益率(▲はマイナス)は、国内債券=0.50%、国内株式=▲0.79%、外国債券=▲8.71%、外国株式=▲4.24%となっている。これに対して実績は、国内債券=0.54%、国内株式=▲0.76%、外国債券=▲8.22%、外国株式=▲4.39%となっている。

国内債券と国内株式、外国債券の実績はベンチマークを上回っており、「勝ち」なのだが、外国株式は「負け」ている。0.15%という差は小さいようにみえるが、外国株式には9月末で27兆7358億円を投資しており、0.15%を単純にかければ400億円余りに相当する。

アベノミクス開始以降、円安が進んだこともあり、外国株運用は高い利回りを上げてきた。2012年度は28.91%、13年度は32.00%、14年度は22.27%といった具合だ。これに気を良くしてか、15年度には外国株での運用割合を大きく引き上げたが、逆にマイナス9.63%と損失を被ってしまった。その流れが今も続いているのである。 

低金利が進む中、債券を中心とした運用では、年金資産が増えないのは明らかで、年金の支払いを確実にするためにも運用の見直しが不可欠だったのは理解できる。だがしかし、あまりにもタイミングが悪かった。

10月以降、日経平均株価は大きく上昇している。米国でドナルド・トランプ氏が次期大統領に決まった後は、円安が進み、日経平均株価は1万8000円を超えている。

10月末時点でGPIFが試算した国内株式ベンチマークの収益率は4.48%。このままの傾向が12月まで続けば、国内株の運用ではかなりの利益を稼ぐことになるだろう。

だが一方で、外国債券ベンチマークはマイナス8.36%となっており、外国債券の運用損はあまり減らない模様だ。外国株式の10月までのベンチマークはマイナス2.58%に改善しているが、実際の運用でどこまで損失を減らすことができるのか。

 

民進党など野党は、国会GPIFの資産運用を批判する場合、国内株に比重をかけることを問題視する傾向が強い。だが、実際のところ、足下の損失は「外モノ」に原因がある。運用が難しい外国債券や外国株式の運用委託先管理などをきちんとGPIFが行えているのかどうかに目を光らせていく必要がありそうだ。

年金改革関連法案にはGPIFの組織のあり方の見直しも含まれている。塩崎恭久厚生労働大臣は就任以来、ポートフォリオの見直しと、GPIFガバナンス体制の見直しは「車の両輪」だと発言し続けていた。国民の大切な資産がきちんと運用されるための体制整備が、遅まきながら、ようやく始まるわけだ。

2016-11-29

EU離脱で英国経済の衰退が始まる?

| 11:34

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。9月号(8月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→http://www.webchronos.net/

 英国で6月23日、欧州連合EU)からの離脱への賛否を問う国民投票が行われ、52%の賛成で「離脱」が選択された。「残留」への支持を訴えていたデーヴィッド・キャメロン首相は辞任。7月13日に内相だったテリーザ・メイ氏が首相に選ばれ、就任した。メイ氏自身も残留を支持していたが、国民投票の結果を受けて、離脱に向けた準備を始める方針を示した。

 離脱の賛否を巡っては、世代によって意見に大きな差が出た。45歳以上では離脱派が多数を占めたものの、44歳以下では残留派が多数だった。特に24歳から34歳では62%、18歳から24歳では73%が残留を支持した。65歳以上の60%が離脱支持だったのと対照的だった。

 この世代間の違いは何か。若年層は物心ついた時からEUだったので、比較対象できる経験を持っていないという否定的な味方もあった。だが一方で、EUに属していた方がチャンスがあると考える人が若年層に多かったと分析する声が大きい。経済が発展することによって自らもメリットを享受できると考えた層が、EU残留を支持したという。

 実際、高齢層が「離脱」の理由としてやり玉に挙げたのがEUに支払っている分担金だった。その支払いを止めて、その分、年金などに回せと主張した。つまり、英国経済が発展するかどうかよりも、高齢者への分配が大きくなるかどうかに関心があった、と見ることもできる。

 EU域内でヒト・モノ・カネの移動が自由であることは、ビジネスを行ううえで重要だ。英国もかつては「英国病」と呼ばれる経済停滞の時代があったが、EUの一員となった後は好景気に沸くことが多かった。

 とくにロンドンは、建築やデザイン、ファッション、カルチャーといった「クリエイティブ産業」の集積地を目指し、欧州諸国からデザインセンターを誘致するなど、欧州でもクールな都市として脱皮してきた。

 かつて英国と言えば、欧州で最も料理がまずい国といわれたものだが、今ではニューヨークやパリと同様、グルメをうならせるレストランができている。若い世代はEUの一員であることの経済的な恩恵を十二分に理解しているのだ。高齢世代はそうした経済成長などのメリットにはやや無頓着なため、離脱派が勢いづく結果となった。

 EUからの離脱による経済的なマイナスインパクトはいまのところ未知数だ。どういう形で離脱するのか、EUとの交易条件はどうなるのか、現段階ではまったくわからない。

 だが、欧州経済活動の有力なハブのひとつとして成長してきたロンドンの地位が没落すれば、英国経済に深刻な影響を与えるのは間違いない。ロンドンだけ英国から独立させてEUに残すべきだ、という主張が国民の間から出てくるのはある意味、当然のことなのだ。

 英国での高級時計の売れ行きも好調が続いてきた。スイス時計協会の統計によると、スイスから英国への輸出額は2014年は前年比2.4%増だったものが、2015年には19.1%増えた。2015年はフランス向けが9.4%増、イタリア向けが6.4%増、ドイツ向けが0.7%増だったので、欧州の中で最も大きく伸びた市場だった。英国国内の消費が堅調だったこともあるが、人が交流するハブとしての機能が高まったことが大きかった。旅行者などが空港で買う時計などが好調だったのだ。

 英国がEUから離脱すると、人の流れやモノの動きに変化が生じる可能性がある。おカネの面でも、EUとの間に国境ができて規制が強化されれば、ロンドンに本拠を置く金融機関が大陸に移動することも十分にあり得る。そうなると、英国欧州のヒト・モノ・カネのハブとして機能できなくなりかねない。

 スイスから英国向けの時計輸出は今年1月から5月までの累計では前年並みの横ばいで推移している。果たして国民投票の結果を受けて7月以降の時計輸出に変化が出てくるのかどうか。大いに注目される。

2016-11-28

【高論卓説】付け焼き刃の外国人受け入れ拡大

| 14:44

産経新聞社が発行する日刊紙フジサンケイビジネスアイ」のコラムに11月24日に掲載された原稿です。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/econome/news/161124/ecd1611240500001-n1.htm


■生活者の視点で日本型「移民政策」を

 全国各地で深刻化する人手不足に対応して、政府は外国人労働者の受け入れ拡大を進める。技能実習制度適正化法案など関係法令が今国会で成立し、来年から新制度が始まる。法改正では、現在最長3年となっている技能実習期間を、優良な受け入れ先について最長5年に延長することや、在留資格に「介護」を新設する。一方で、外国人技能実習生の受け入れ先に対する監督を強化する。

 技能実習は国際協力の一環として、日本で技術を習得し、母国にそれを持ち帰ることを目的としている。もっとも、それは建前で、多くの場合、出稼ぎ目的の就労の受け皿になっている。受け入れ側も人手不足を賄うための便法として活用しているケースが圧倒的。しかも、実習期間が限られているため、本気で技術を教え込もうとせず、単純労働に使っている場合が少なくない。

 技能実習生の外国人の中には、より高い給与を求めて実習先から「出奔」する例が後を絶たない一方、受け入れ側も逃げられないようにパスポートを取り上げるといった人権侵害行為に走る例もある。人手不足を補う労働力という本音と、技能実習という建前が、真正面からぶつかり合っているのがこの制度だ。

 人手不足が深刻な現場からは就労目的での外国人の受け入れを求める声が上がっている。日本の大学を卒業するなど「高度人材」は日本での就職先があれば在留が認められるが、いわゆる単純労働者は就労目的での在留は認められていない。2020年の東京五輪に向けて労働力不足が深刻な「建設・造船」分野は、緊急特例として技能実習期間終了後の在留延長がすでに認められている。今回の法改正でこれに「介護」が加わるが、今後も「農業人材」や「漁業人材」といった具合に対象が広がっていく可能性が大きい。それほど、各地での働き手が不足しているのだ。

 今回の改正法では、違法な低賃金で実習生を長時間働かせている場合など、受け入れ先企業への監督を強化する。このため、認可法人として「外国人技能実習機構」を新設。実習計画を提出させ、認定を与えた上で「実習生」を受け入れる仕組みにする。あくまでも「技能実習」制度の枠組みの中で、外国人労働者を受け入れるというのが政府の姿勢なのだ。

 というのも、安倍晋三首相が「いわゆる移民政策は取らない」という方針を示しているためだ。欧米諸国では「移民」の定義は1年以上居住する外国人を指すため、安倍首相の言う「移民政策」が何を指すかは厳密には分からないが、基本的に労働力としてのみ受け入れて、日本に生活目的で住むことは許さないということなのだろう。

 だが、現実にはそれは難しい。労働者であっても日本に住めば生活者であり、地域社会の一員である。とくに技能実習期間が5年となれば、より生活者として日本に定着する外国人が増えるだろう。人口減少が鮮明になってくる中で、こうした外国人を追い返し続けることは現実には不可能である。放っておけば、なし崩し的に日本に住み続ける外国人が増えることになる。

 それよりもむしろ、(1)外国人に日本社会の一翼を担う存在となってもらうにはどういう仕組みが必要か(2)日本語教育は誰の責任で行うのか(3)地域社会への参加をどう促していくのか−−などを考えることが重要だ。積極的に日本型「移民政策」のあり方を考えるときだろう。