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2017-02-24

外国人に日本語教育を、ダブル・リミテッド防げ 外国人材の受け入れは進むのか

| 13:30

日経ビジネスオンラインに2月24日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/022300036/


 政府の「働き方改革実現会議」が2月22日に会合を開いた。昨年9月の初会合から8回目で、これまでの会合で取り上げなかった具体的な項目について議論した。

 実現会議の初会合で安倍晋三首相は、以下の9項目を検討すると表明していた。 

 1)同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善。

 2)賃金引き上げと労働生産性の向上。

 3)時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正。

 4)雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題。

 5)テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方。

 6)働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備。

 7)高齢者の就業促進。

 8)病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立。

 9)外国人材の受入れの問題。

外国人材の「受け入れ」には慎重な記述

 この中で最後まで手付かずだったのが9番目の「外国人材の受け入れ」だった。ほかの項目が現状の働き方をどう変えて行くか、という日本人の働き方に直結する問題だった中で、外国人材の「受け入れ」という今後のテーマが設定されていたことで、議員の間にも戸惑いがあったのだろう。委員が提出した資料には以下のような慎重論が並んだ。

 「現在の技能実習制度に問題があることは十分承知しているが、さりとて直ちにこれがベストという具体案を持ち合わせていない。本件は、一時的な労働力不足への対応といった視点だけで即断するのではなく国民の理解と判断が求められる」(労働政策審議会会長を務める樋口美雄・慶應義塾大学教授)

 「外国人材の安易な在留資格や就労資格の緩和などなし崩し的な受け入れ拡大は問題であり、社会インフラの整備とそのコスト負担も含めた総合的・国民的な議論が必要である」(連合の神津里季生会長)

 「中長期的な視点から、日本の労働市場の健全な発展(日本人の技能形成・雇用確保等)と外国人材の積極的な活用との両立を可能とする制度のあり方を検討することが必要ではないか」(水町勇一郎・東京大学教授)

 唯一、高橋進・日本総合研究所理事長が、外国人労働者を積極的に受け入れるべきだとの立場から具体的な提案をしていたが、会議全体としは「外国人材受け入れ」問題については議論は低調だった。

まず誰かが具体案を提示することが必要なのに…

 議論を受けて安倍首相は、高度人材については積極的に受け入れるという従来の方針を繰り返したうえで、以下のように述べた。

 「他方、専門的・技術的分野とは評価されない分野の外国人の受入れについては、ニーズの把握や経済的効果の検証だけでなく、日本人の雇用への影響、産業構造への影響、教育、社会保障等の社会的コスト、治安など幅広い観点から、国民的コンセンサスを踏まえつつ検討すべき問題との立場をとっているところであります」

 要は、「国民の理解と判断」や「総合的な・国民的な議論」、「国民的コンセンサス」が必要だというのである。国民的コンセンサスを得るためにも、誰かが具体的な案を提示し議論を始めることが必要で、そのために「働き方改革実現会議」など様々な会議が首相官邸に設けられているはずだが、これでは問題の先送りだろう。

人手不足により増加し始めた外国人労働者

 一方で、深刻化する人手不足に対応する形で、外国人労働者がなし崩し的に増加し始めている。厚生労働省が1月27日に発表した「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、2016年10月末時点の外国人労働者数は108万3769人と、1年前に比べて19.4%増加、4年連続で過去最多を更新した。遂に「届け出ている」外国人労働者だけでも100万人を突破したのである。

 この調査は、年に1回で、すべての事業主に外国人労働者の氏名、在留資格在留期間などを確認してハローワークに届け出ることを義務付けているものだが、実は届け出をしていない事業者も多い。

 この統計の中でも増加が目立つのが、「資格外活動」に分類される外国人労働だ。大半は留学生である。大学だけでなく、専門学校や日本語学校に留学生資格でやってきて、働いているケースだ。留学生には週に28時間までの労働が認められているほか、学校が長期休暇の間は1日8時間、週40時間まで働ける「例外」もある。留学ビザで入国して働いている外国人が急増しているのだ。その数23万9577人。全体の22.1%を占めるに至っている。

 しかも、留学よりも働くことが本当の目的で、上限時間を超えて働いたり、バイト先を掛け持ちして規制の枠を逃れるケースも少なくないとみられる。

ドイツ議員、「定住してもらうための取り組みが後手に」

 結局、外国人労働者の受け入れ議論を先送りしていることが、法の目をかいくぐった、なし崩し的な増加に結び付いているのである。

 同じ2月22日、日本国際交流センターが「人口動態の変化とグローバルな人の移動」と題するシンポジウムを開催した。外国人の受け入れに大きくカジを切ったドイツから政治家らを招き、日本の政治家などと議論した。

 筆者がコーディネーターを仰せつかったパネルディスカッションで、ドイツ連邦議会国会)のロルフ・ミュッツェニヒ議員は、「移民政策でのドイツの失敗は」と問われて、こう答えていた。

 「労働者不足を補うためにガスト・アルバイター(ゲスト労働者)として受け入れ、ドイツで生活者として定住してもらうためのドイツ語教育や共生のための取り組みが後手に回ってしまった」

 労働者としての視点だけで外国人を受け入れ、生活者としての視点が欠けていたために、その後、大きな社会問題を引き起こしたというのだ。1980年代のことである。

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日本国際交流センター主催の「人口動態の変化とグローバルな人の移動」と題したシンポジウム。2月22日に行われた。右から2人目がミュッツェニヒ議員、左へ河野太郎議員中川正春議員

まずは定住外国人に日本語教育を行うことに合意を

 日本側からは自民党河野太郎・前規制改革担当相と民進党中川正春・元文部科学相が参加した。両議院とも外国人受け入れの積極派として知られる。

 中川氏からは、外国人受け入れの増加に向けて、昨年秋にひとつの議員連盟超党派で立ち上げた事が報告された。設立したのは「日本語教育推進議員連盟」。まずは、日本で働く外国人や留学生向けの日本語教育を充実させ、経済活性化の一助にすることを目的とする。日本に定住する外国人の子弟が、日本語も母国語も十分に理解できない「ダブル・リミテッド」と呼ばれる状態に陥るケースが出てきたことなどに、国が積極的に関与していくことを求める。「日本語教育振興基本法(仮称)」の制定を目指すという。自民党の河村建夫・元文部科学相が会長、中川議員が会長代行を務めるほか、歴代文科相経験者などが名を連らね、現在60人のメンバーが集まったという。

 中川氏は「いきなり外国人受け入れ拡大と言っても、議員の意見は一致しないので、まずは定住する外国人に日本語教育をしっかりやっていくという点でコンセンサスを作りたい」と話していた。

 ようやく、議論が始まりつつあるとも言えるが、国民感情に敏感な永田町では、まだまだ「タブー」として議論を避ける傾向がある。日本を訪れる外国人観光客の急増で、地方でも外国人アレルギーは急速に減退している。身の回りでも働く外国人に接するのが日常的になっている。働き手としてやってくる外国人も、いったん国に入れば生活者である。今後増えていく定住外国人にどう向き合っていくのか。国民的議論を早急にまとめる必要がある。

2017-02-23

安倍内閣が最も日本的な「あの人事慣行」にメス 社長は退任したらさっさと去るべし

| 11:40

現代ビジネスに2月22日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51032


社長よりも強い人がいるのはなぜ?

政府の成長戦略を作る「未来投資会議」が、コーポレートガバナンスの強化策として、社長OBが相談役や顧問として企業に残る慣行の見直しに乗り出した。

1月27日に首相官邸で開いた第4回未来投資会議での議論を受けて、安倍晋三首相自身が「本日の問題提起を踏まえて、不透明な、退任した経営トップの影響を払拭し、取締役会の監督機能を強化することにより、果断な経営判断が行われるようにしていきます」と述べ、今後、具体的に対応していくことを明言した。

最も日本的とされる人事慣行のひとつにメスが入ることになる。

第2次安倍内閣が取り組んできたコーポレートガバナンス改革では、取締役会の権限強化や独立性強化に力点が置かれてきた。

ところが、日本企業にはガバナンス上、大きな問題があるケースが少なくなかった。社長よりも絶対的な権限を握っている人物がしばしば社内にいることだ。

社長や会長を退任して肩書上は「顧問」や「相談役」になっていても、実質的に権力を握り続けている例が多くあり、日本的な人事慣行といっても良いほどになっている。

いくら独立した取締役会で議論しても、実力「顧問」の鶴の一声ですべてが変わってしまうのであれば、コーポレートガバナンスの強化は絵に描いた餅になる。

退任したら、黙っていなさい

経済産業省が昨年、東証1部2部上場の約2500社を対象に行った調査では、回答した871社のうち、「顧問」や「相談役」を導入している企業が77.6%に及んだ。

役割については、「経営陣に対する指示や指導」と答えた企業が35.6%と最も多く、「中長期の経営戦略・計画についての助言」や「本社役員人事についての助言」という回答も多かった。

コーポレートガバナンス上、役割が明確でない「顧問」や「相談役」が、重要な経営事項に関与している様子が浮かび上がった。

1月27日の会議でこの話を持ち出したのは、民間議員である三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長。

未来投資会議の下に作った構造改革徹底推進会合で企業関連制度改革や産業構造改革のまとめ役になっている。経済同友会の代表幹事を務める一方、経営危機に直面している東芝の社外取締役も務める。

「日本企業の『稼ぐ力』の向上に向けて」と題した資料の中で、退任した経営トップが果たすべき役割として、次の点を挙げた。

「経営トップには、時として、過去にとらわれない経営判断が求められる。こうした企業文化を醸成していく必要があり、とりわけ社長OBが相談役や顧問として経営陣に指示・指導しているような慣行の見直しを検討する必要がある。社長OBは、他の会社の独立社外取締役としてその高い知見が活かされていくことを検討すべきではないか」

つまり、社長を辞めたら、さっさと会社を去って、むしろ他の会社で社外取締役などになった方がいい、としているのだ。

東芝の相談役は80歳まで!?

実は、日本企業のこの権力の二重構造とも言える実態については、海外の機関投資家などからも批判が多い。

海外の機関投資家が日本企業の株式を保有している場合、その議決権行使については、議決権行使助言会社の方針に従うケースが多い。

その議決権行使助言会社の大手のひとつである米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が、今年株主総会に向けた助言方針の中に、「相談役・顧問制度を新たに規定する定款変更議案」が出た場合、「反対」を推奨することとした。

ただし、相談役や顧問を取締役の役職として規定する定款変更については反対は推奨しないという。

つまり、会社(経営者)の一存で任命できる不透明な「顧問」や「相談役」の新設には反対するというわけだ。

経済産業省の調査にしても、ISSの新方針にしても、その大きなきっかけがあった。2015年に発覚した東芝不正会計問題である。

当時、東芝には最も多かった時で相談役5名、顧問27名が在籍していたことが明らかになり、社長、会長の経験者は80歳まで相談役として君臨することになっていた。

実際、社長・会長を務めた後、東京証券取引所や日本郵政のトップを務めていた西室泰三氏も「相談役」として在籍し続け、個室や車、秘書が付いていた。

不祥事発覚で歴代三社長が引責辞任する際、会長だった室町正志を留任させるよう説得したと西室氏自身が語っており、人事などに大きな影響力を持ち続けていた。

あぶり出される「天下り」

安倍内閣が今後、企業の「顧問」や「相談役」についてどんなルールを具体化していくかは分からない。企業のあるべき姿を示したコーポレートガバナンス・コードの見直しなどに含むことになるのかは、今後の未来投資会議の議論で決まる。

規制の仕方についても、「社長経験者は退任後顧問に就けない」などと一律で規制することは難しい。社長はダメで副社長は良いのか、といった声も出る。かといって、一切、顧問や相談役を置くのは禁止、とすることにも無理がある。

可能性があるのは「情報開示」。顧問や相談役といったポストに就いている人について、一律に開示させる方法が最も簡単である。取締役の報酬も個別開示が進んでおり、一定金額以上の顧問や相談役について報酬開示をするのも一案だろう。

実は、企業側で顧問や相談役を全面開示することには大きな「副次効果」がある。規制官庁からの天下りがあぶり出されることだ。

未来投資会議の数日後、国会でどよめきが起きる質疑があった。

明治安田生命保険で「顧問」に就任していた文部科学省人事課OBである嶋貫和夫氏の同社での待遇が、「月2回の勤務で年収1千万円」ということが明らかにされた際のことだ。

しかも、明治安田の根岸秋男社長は記者会見で「法人営業全般について指導や助言を受けていたが、報酬に見合うものだった」と述べている。

これに野党などはまったく噛みついていないが、天下り役人に保険会社が期待する1日40万円という「職務」が何なのか、もっと追及されてしかるべきだろう。

もっとも、日本郵政の社長を更迭されながら同社の「顧問」に就任していたことが発覚した元財務官僚の坂篤郎氏の顧問料は月額100万円だった。それが天下り官僚の顧問の「相場」なのかもしれない。

いずれにせよ、経営者の裁量で決められている顧問や相談役は、コーポレートガバナンスの視点から見た時に、あまりにも不透明だ。

今後、どんなルールが出来上がるのか。大物官僚の天下りがやりにくくなることもあり、安倍首相がどこまで踏み込めるかが注目される。

2017-02-20

財務省に操られた「国民負担率」報道の「まやかし」

| 13:53

2月20日にフォーサイトにアップされた原稿です。

 今年も大手メディア財務省の情報操縦に見事にはまった。2月10日に財務省が発表した「国民負担率」の報道である。

 中でも、11日付の日本経済新聞が経済面トップで書いた記事に、財務官僚は膝を叩いて、「よくぞ書いてくれた」と唸ったに違いない。題して、「17年度の国民負担率、横ばい42.5% 将来世代へ先送り鮮明」である。

 国民所得に対する税金や社会保険料の負担の重さを示す「国民負担率」は、毎年2月のこの時期に決まって公表される。

 しかし、常に「次年度の見通し」にウエートが置かれ、確定した「実績」について記事が書かれることはほとんどない。財務省の記者クラブで財務官僚が「見通し」に力点を置いて説明するのを、そのまま記事にしているからだろう。

 発表資料によると、2015年度の「実績」が42.8%、2016年度の「実績見込み」が42.5%、そして2017年度の「見通し」が42.5%となっている。

 確定した実績である2015年度の42.8%は5年連続の上昇で、4年連続の過去最高である。年々負担が増しているところに国民の関心があるのは間違いないから、普通ならば「国民負担率、4年連続で過去最高」といった見出しが立ちそうなものだが、ついぞそうした記事にはならない。


・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)→http://www.fsight.jp/articles/-/42020

2017-02-17

「東芝」で問われる東証の「上場廃止ルール」 原発子会社「内部統制の不備」をどう判断するか

| 11:21

現代ビジネスに2月16日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/021600042/?P=1

原子力事業でのれん減損7125億円

 東芝が断末魔に喘いでいる。昨年末になって突然、米国原子力発電子会社ウエスチングハウス(WH)が2015年末に買収した原発サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)で「数千億円」規模の損失が発生する可能性があるとしていたが、2月14日になって、原子力事業の「のれん」の減損額が7125億円に達することを公表した。もっとも、2016年第3四半期決算の数字が確定できない異例の事態となっており、この損失額も「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したもの」という前提付き。今後、損失額がさらに膨らむ可能性もあるとしている。

内部統制の不備を示唆する内部通報

 決算発表が当日になって延期された理由として東芝の社外取締役で監査委員会委員長の佐藤良二・元監査法人トーマツCEOは14日夕に開いた会見で、こう説明した。

 「CB&Iストーン・アンド・ウェブスター社の買収に伴う取得価格配分手続きの過程において、内部統制の不備を示唆する内部通報がありました」

 年明けから2度にわたったという内部通報を受けて、東芝は弁護士事務所に依頼、調査を行ったが、「さらなる調査が必要との結論」に至ったとしている。記者からは「内部統制の不備を示唆する内部通報とは具体的にどういうことか」という質問が出たが、佐藤氏は、「現在調査中なので内容については、コメントを控えさせていただきたい」と回答を避けた。

東芝本体で発覚した「不正会計」を彷彿とさせる話

 いったいどんな「内部統制の不備」があったのか。

 翌日、日本テレビが報じたところによると、巨額損失が生じることが明らかになった昨年12月、急きょ米国に調査に向かった志賀重範会長(15日で辞任)がWHのダニー・ロデリック会長と共に、WH幹部に対し、東芝にとって有利な会計になるように圧力をかけたとされる。2015年春に東芝本体で発覚した「不正会計」を彷彿とさせる話である。

 実際に、そうした圧力を志賀氏らが加えたのか、それによって決算数字に影響を与えたのか、は今のところ分かっていない。

 問題は、そうした「内部統制の不備」が疑われること自体が、東芝にとって致命傷になることだ。

「特注銘柄」指定期間を延長され、後のない東芝

 東芝は現在、東京証券取引所(東証)から「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」に指定されている。内部統制に問題がある企業が改善するまでの間、指定されるポストである。2015年9月に特注銘柄に指定されたが、1年を経た2016年9月に東芝は「内部管理体制確認書」を東証に提出、特注銘柄から「解除」するよう申請していた。

 これに対して、特注指定解除を審査する東証の自主規制法人(理事長、佐藤隆文・元金融庁長官)が2016年12月19日に理事会を開き、特注指定の期間を延長することを決めた。きっかけは、福岡にある東芝子会社で長年にわたって不正が行われていたことが発覚したためだったが、指定延長からわずか1週間後になって米国原子力事業での巨額損失の可能性が明らかになった。

 東証は指定延長にあたって、「コンプライアンスの徹底や関係会社の管理等において更なる取り組みを必要とする状況が存在しており、これらの改善に向けた取り組みの進捗等について引き続き確認する必要がある」とした。まさに、その懸念が的中したというわけだ。

3月15日までに「内部管理体制」は整うのか

 東証のルールでは「特設注意市場銘柄」指定から1年半たって内部管理体制が改善したと認められない場合は上場廃止になることになっている。3月15日以降に東芝は「内部管理体制確認書」を再度、東証に提出、東証は再びそれを審査することになる。3月15日の段階で東芝株はいったん「監理銘柄」に指定される予定。投資家に上場廃止になる危険性があることを周知するための措置だ。

 2月14日の決算が最大1カ月延期されたことで、決算発表自体が3月14日にずれ込む可能性がある。さらに、米WHで内部統制上の問題が持ち上がったことで、その実態が把握できたとしても3月15日までに「内部管理体制が整った」と言える状態になるのかどうか。

企業が「突然死」した時の影響の大きさに配慮

 もともと、東証のルールでは、「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合で、その影響が重大であると当取引所が認めたとき」に上場廃止になると定められていた。ところがオリンパスの巨額損失隠し事件が表面化した後、「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」と条文を変えた。さらにその後、ルールを変え、特注銘柄の制度を導入した。

 なぜ、東証はそんな変更をしたのか。当時、最高経営責任者(CEO)だった斉藤惇氏の考えが大きかった。斉藤氏は野村証券副社長の後に務めた産業再生機構の社長時代、粉飾決算が表面化したカネボウの案件に直面した。上場廃止になることで経営破たんし、事業がバラバラに売却されていくのを目の当たりにしたのだ。粉飾が発覚した途端に上場廃止して企業が「突然死」した場合、株主に大打撃を与えるだけでなく、会社の再生も困難にすると考えたのだ。最初の条文変更で「直ちに上場を廃止しなければ」と「直ちに」という文言が入ったのは、そうした思いが色濃く反映されている。

 逆に言えば、特注銘柄制度の導入で、最長1年間半の猶予期間を与えたことで、その期間に問題を解決できなければ、上場廃止にするという姿勢を示したのである。

「二度と粉飾決算を繰り返さない」ことを示せるか

 決算発表すらできない現状の東芝を見る限り、「内部統制」が十分に機能し始めたと、胸を張ることは難しいだろう。東芝不正会計粉飾決算であることは2015年末に金融庁東芝と監査をしていた新日本監査法人に課徴金を課し、会計士を処分した段階ではっきりしている。処分理由に金融庁が「有価証券報告書の虚偽記載」と明示しているのだ。東芝は「二度と粉飾決算を繰り返さない」ということを体制整備を通じて東証に示さなければならないが、期限が迫る中で、果たしてそれができるのか。

 3月15日に東芝から「解除」の申請がされた場合、東証が再び審査を行い、その結論は6月頃になる見通しだ。

政治の介入で“救済”されるのではないか、という見方も

 それでも「東芝のような日本を代表する企業を上場廃止にできるはずはない」という声が資本市場関係者の間でも根強くある。オリンパスの時と同様、政権の閣僚が介入して“救済”されるのではないか、という見方もある。

 オリンパスの時は、上場廃止でオリンパスが破たんすれば、同社の内視鏡技術など日本の高度技術が中国企業に買われることになる、といった「上場廃止にさせない理由」が繰り返し永田町霞が関に流布された。当時の民主党政権の大臣たちは、真顔でそれを信じていた。

 今回も「東芝上場廃止で破たんすると、原子力技術が中国に買われる」といった危機感を煽る声が出始めている。

大企業は何をやっても上場廃止にはならないのか

 仮に、6月になって東証が東芝上場維持を決めた場合、もはや特注銘柄制度の理念は空洞化することになる。上場したての会社はともかく、老舗の大企業は何をやっても上場廃止にできない、という事を満天下に示すことになるわけだ。

 有価証券虚偽記載罪は資本市場にとって万死に値する重大犯罪だ。不特定多数の投資家から資金を集める上場企業が、決算書を偽っていては市場の信頼が失われ、市場としての機能そのものが失われかねない。

 これは罰則規定をみても分かる。会社法で規定されている「計算書類等虚偽記載罪」(976条)は百万円以下の過料だが、株式を公開している会社を規定する金融商品取引法の「有価証券報告書虚偽記載罪」(197条)は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(または併科)が定められている。

 その大罪を犯しても上場廃止にならないとすれば、東証のマーケットは危なっかしいジャンク市場ということになってしまう。

 東芝の歴代3社長の刑事告発に東京地検特捜部はいまだに躊躇している。「個人の犯罪」としては立件するのが難しいという判断なのだろう。だとすれば「組織ぐるみの犯罪」であることは明らかで、ますます上場維持の可能性は小さくなる。

2017-02-15

背任、詐欺の可能性も…事件化の臭いもしてきた東芝のドロ沼 損失は7000億円で収まりそうにナシ…?

| 13:57

現代ビジネスに2月15日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50984


逃げ道ナシ

東芝は2月14日に予定していた2016年第3四半期決算の発表が行えない異例の事態となった。記者会見の予定時刻である16時になっても一向に会見が始まらず、大勢の記者が待ち構えたが、結局、「最大1カ月間延期する」ことを公表した。

集まった記者が騒然とする場面もあり、18時30分になってようやく会見を行ったが、そこで明らかにされた原子力事業での損失発生額などについては、「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したもの」という注釈が付けられ、「今後大きく修正される可能性がある」とした。

東芝が明らかにした原子力事業の「のれん」減損額は7125億円。東芝原子力発電子会社である米ウエスチングハウス(WH)が2015年末に買収した原発建設会社CB&Iストーン・アンド・ウエブスター(S&W)関連で6253億円、従来のWHの「のれん」残高872億円と合わせた額を全額損失計上する方針を示した。

これによる連結最終損益への影響額は6204億円のマイナスになり、2017年3月期の最終損益は3900億円の赤字になるとした。その結果、1500億円の債務超過に転落するとした。

おそらく、この数字で会社は決算発表を行うつもりだったのだろう。ところが、決算内容をチェックする監査法人がOKを出さなかったようだ。この日の資料にも「独立監査人によるレビューの手続き中であり、大きく修正される可能性があります」と記されている。監査法人は損失額がその金額で収まるのかどうか、確証をつかめていないのだろう。

東芝が示すように債務超過額が1500億円程度に留まるのならば、資本増強策によって早期のうちにプラスに戻せる可能性もある。だが、それがあくまで「期待値」で、実際の損失がさらに膨らむということにでもなれば、経営破たんしかねない。

日本経済新聞は2月14日の朝刊で、「東芝、事業継続に『注記』 決算短信記載へ 巨額損失で不透明感」とする記事を掲載した。ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)に関する注記と呼ばれるもので、監査法人が監査する際に、継続性に問題がある企業に注記を求める。破たん懸念があることを投資家に注意喚起するのが狙いだ。

東芝が明らかにした原子力事業の損失の構図をみると、まさに「泥沼」である。米国内で30年ぶりとなる新規の原発を2008年にWHが受注したが、東日本大震災などで原発の規制が強化されたため、その費用負担を誰が負うのかで訴訟合戦になった。工事会社のS&Wとの間でも訴訟になる可能性があったが、WHは2015年末にS&Wを買収する。その結果、原発工事に関わる追加コストなどをすべてWHが被ることになった。

通常、M&Aの「のれん」は資産価格以上に高い金額で買収した場合に生じるため、「減損」つまり損失計上しても実際にはキャッシュが出て行かないケースが多い。ところがS&Wの場合、買収したものの、その会社が請け負っている工事で次々と追加のコストが発生、それが損失として計上されるため、実際にキャッシュが必要になる。

しかもそうした状況に陥っていることを、東芝の幹部はS&Wの買収後1年近くも知らなかったとされる。つまり、7125億円の減損を今期決算で実行したとしても、今後、米国原発が完成するまでにコストが膨らめば、さらに損失を背負わなければならないのだ。

加えて、S&WはWHが買収したのだが、親会社として東芝債務保証をしていることもこの日の説明書類に記載されている。2016年3月末時点でその額7934億円で、その90%弱が米国での原発建設の客先に対する支払い保証だという。

資料には「(米国のプロジェクトにおいて)WHの客先への支払い義務(プロジェクトを完工できなかった場合の損害賠償請求を含む)を履行できなかった場合、当社は親会社として、客先にこれを支払うことが要求されている」と書かれている。完全にハマって、逃げ道はないと言ってよいだろう。

道筋が見えない

東芝は同日、WHによるS&Wの買収を巡り、内部統制の不備を示唆する内部情報があったことを明らかにしている。2015年秋にWHによるS&Wの買収を東芝役員会が承認する段階で、これだけの巨額の損失が発生する可能性があることに気が付いていなかったとすれば、東芝役員陣は失格ということになるだろう。

あるいは巨額損失の可能性を知りながらWHによる買収を東芝に認めさせていたとすれば、背任や詐欺に問われる「事件」になる可能性もある。いずれにせよ、買収して1年で7000億円の損を被るというのはただ事ではない。

この日、志賀重範会長が、取締役と代表執行役会長を辞任した。6月の総会までは代表権のない執行役としてWHの問題解決に当たるという。S&Wの巨額損失の責任を取っての辞任としている。

米国原発事業での損失額が確定しないと、今期の損失見通しは立てられない。東芝の資料にある通り「今後下方修正の可能性がある」ということになれば、債務超過額がさらに大きくなる可能性が大きい。

金融機関との間では借り入れを行うに当たって様々な「財務制限条項」を付けられており、債務超過になった場合、期限の利益を失い返済を求められる懸念も出て来る。もちろん、条件変更などには応じるが、東芝の再生よりも銀行自身の債権回収を優先させることになりかねない。

「WHで何が起きているか、東芝は実態が把握できていないようだ」と経産省の幹部も訝る。1カ月の間に全容を把握できるのか。さらに、どうやってこの「泥沼」から抜け出す絵を描くのか。道筋はまったく見えて来ない。