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2018-07-19

「モノ言う株主」に変貌する「GPIF」の脅威

| 20:43

7月19日にフォーサイトにアップされた原稿です。

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債権中心から株式へ大きく重心を移したのは、政府の方針(「GPIFHPより)

 国民の年金資産を運用するGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)が、日本の大手上場企業の「大株主」として存在感を増している。

 GPIFが7月6日に発表した2018年3月末時点の保有資産は156兆3832億円で、そのうち25.14%に当たる39兆3147億円が「国内株式」、つまり日本株に投資されている。東京証券取引所市場1部の3月末の時価総額は638兆5655億円だから、何とその6.2%に相当する規模の株式を、1つの機関投資家が握っているわけだ。

・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)→http://www.fsight.jp/articles/-/43983

2018-07-18

安倍政権の「GPIF運用、10兆円黒字」で問われる野党の批判能力 結局、ピンボケだった…

| 22:32

現代ビジネスに7月18日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56597

株価好調で年金大もうけ

国民の年金資産を運用するGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)が2017年度に10兆円を超える運用益を稼ぎ出した。

7月6日にGPIFが発表した業務概況書によると、2017年度の運用収益は10兆810億円に達し、利回りは6.9%となった。この結果、期末の運用資産残高は156兆円3832億円になった。

2001年に市場運用を開始して以降の累計収益は63兆4413億円、率にして年率3.12%に達する。

2012年末に安倍晋三内閣が発足して以降の株高の効果が大きく、特に、GPIFポートフォリオ(運用資産構成割合)を見直して、債権から株式に大きくシフトした効果が出ている、と言ってよい。

だが、安倍内閣主導によるGPIFの「株式シフト」には批判の声も強かった。

「年金運用『5兆円』損失追及チーム」。2016年の8月には当時の野党第一党である民進党がこんな名前のチームを立ち上げ、「株式シフト」に批判を浴びせた。つい2年前のことだ。

株価の下落によって2015年度の年間収益が5兆3098億円の赤字になったことや、2016年度第1四半期(4-6月)の収益が5兆2342億円の赤字になったことが追及チーム結成の理由だった。

「損失が出たこと自体よりも、ポートフォリオを見直して株式での運用比率を高めた結果、損失が出ていることが問題。判断を誤ったのではないか」

当時の追及チームのメンバーだった国会議員からは、こんな批判の声が挙がった。

GPIFは2014年10月31日に基本ポートフォリオを全面的に見直し、それまで12%だった「国内株式」の割合を25%にまで引き上げた。構成割合には上下乖離幅というのが認められており、この時点で、国内株を34%まで買うことができるようになった。

一方で、それまで60%だった「国内債券」での運用割合は35%(乖離幅上下10ポイント)にまで引き下げたのである。また、外国株式も12%から25%に引き上げた。

これによってGPIFは、国債中心の運用から株式に大きくシフトしたわけだ。この「株式シフト」が損失を発生させたと、2年間に野党は批判の声を上げた。2年前の野党議員は、国債中心の安全運用に徹していれば、こんな損失を被ることはなかった、と声を荒げたのである。

常識的な運用の結果

ところが、そんな株式運用批判はその後、急速に沈静化する。

というのも株価が大きく上昇に転じたからだ。米国でトランプ氏が大統領選で勝利すると、大方の予想を上回って日本の株価も大幅に上昇したのだ。

結局、2017年度のGPIFの決算は7兆9363億円の大幅黒字となったが、これと共に「株式シフト」批判は雲散霧消した。

2018年度も、それをさらに上回る10兆円超の収益を上げることができたのも「国内株式」へのシフトの効果が大きい。

3月末のGPIFポートフォリオは「国内株式」25.14%、「外国株式」23.88%、「国内債券」27.50%、「外国債券」14.77%と、ほぼ基本ポートフォリオどおりになった。国内債券が基本割合を下回っているものの、乖離幅の範囲内である。

年間の収益率は前述の通り6.90%になったが、運用資産ごとに利回りは大きく違う。低金利が続く中で「国内債券」の利回りは0.80%、「外国債券」も3.71%に過ぎない。

これに対して、「国内株式」の利回りは15.66%、外国株式は10.15%と好成績を収めた。株式の利回りが高かったことが、全体の利回りを押し上げたのである。

これを見れば、0.80%の利回りしか上げられなかった「国内債券」中心での運用だった場合、こんな黒字を稼ぐことは不可能だった。何せ、前期に10兆810億円稼いだうちの5兆5076億円は国内株式、3兆5140億円は外国株式だった。

何と収益全体の9割は株式への運用で得たのである。国内株式は3622億円、全体のわずか4%に満たなかった。つまり、「株式シフト」なかりせば、前々年度や前年度の大幅黒字はあり得なかったのである。

野党の批判はピンボケ

結論は「株式シフト」 は成功だった、と言ってよいだろう。

もともと、アベノミクスで大胆な金融緩和に取り組み、低金利政策を実行に移しているのだから、国債の利回りが低下傾向になるのは当然である。

短期運用ならば価格が上がる債券のディーリングで利益を生むことも可能だが、基本的に長期運用で利回りを期待するGPIF債券運用では、債券の運用収益は小さくなっていく。

金融緩和が続けば長期的には株価が上昇するわけで、GPIFの資産運用を債券中心から株式へとシフトさせたことは、アベノミクスの政策と「整合的」だったと言える。つまり、金融緩和を進める政府が年金運用を債券から株へと移したのは当然の方向性だったと言ってよい。

つまり、2年前の野党の批判はピンボケだったことになる。国民の大切な年金資産は安全性の高い国債で運用すべきだ、という当時の民進党の主張は、原理原則ではそうかもしれないものの、経済政策をまったく度外視した主張だったと言えるかもしれない。

森友学園問題を巡る財務省の公文書改ざん問題などもあり、安倍内閣は強い批判にさらされた。2月から3月にかけて内閣支持率も大きく低下、不支持が支持を上回る事態に直面した。

そんな安倍内閣が持ちこたえているのも、経済政策などで着実に成果を上げていることが一因とみられる。雇用情勢は改善を続け、未曽有の人手不足が続いている。株価も堅調さが続いている。

結局、安倍内閣経済政策を批判するだけの「対案」が野党にないことが、結局、安倍内閣を存続させているようにみえる。GPIFポートフォリオ見直し批判も結局は野党の空振りに終わり、安倍内閣を後押しする結果になった。

2018-07-13

精神を病んだ社員の労災申請が急増 いま「日本の職場」で何が起きているのか

| 11:55

日経ビジネスオンラインに7月13日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/071200071/

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精神障害の労災補償件数の推移(出所:厚生労働省)


職場のストレスによる自殺が増える

 職場で精神を病む社員が急増している。厚生労働省が7月6日に発表した2017年度の「過労死等の労災補償状況」によると、「精神障害等」で労災を申請した件数が1732件と前年度に比べて146件、率にして9.2%も増加した。そのうち、未遂を含む自殺による請求は前年度比23件増の221件と、1割以上も増えた。

 労災申請は、かつては脳疾患や心臓疾患などによる申請が多かったが、2007年ごろから精神疾患がこれを上回っている。2017年度は「脳・心臓疾患」による申請は840件で、「精神障害等」はその2倍以上になった。職場での過度のストレスによって精神を病むケースが大きく増えている様子がわかる。

 今国会では安倍晋三内閣が最重要法案と位置付けてきた「働き方改革関連法」が成立。残業時間に罰則付きの上限が設けられるなど、長時間労働の是正が動き始めた。だが、職場での精神障害は、必ずしも労働時間だけに連動するものではない。過度のストレスを生じさせない本当の意味での働き方改革に本腰を入れないと、精神障害の激増に歯止めはかかりそうにない。

 労災申請のうち、厚労省が労災として「認定」した件数も増えている。2017年度の精神障害での労災認定は506件で前年度に比べて8件増加。中でも未遂を含む自殺が98件と、前年度に比べて14件も増えた。職場のストレスによる自殺が大きく増えているわけだ。

 労災認定されるには業務との因果関係が重視されるなどハードルが高く、労災申請や労災認定で明らかになる件数は氷山の一角とされる。日本の職場ではメンタルを病む社員が増え続けている。いったい日本の職場で何が起きているのだろうか。

 この調査はいわゆる「過労死」が問題になって厚労省が公表し始めた。過重な労働によって脳疾患や心臓疾患を発症したり、それが原因で死亡したりした件数を集計している。

 「脳・心臓疾患」で労災認定された249件と、時間外労働時間には明らかに相関関係がある。残業時間でみると「80時間以上から100時間未満」が101件と最も多く、次いで「100時間以上120時間未満」が76件、「120時間以上140時間未満」が23件となっている。80時間未満で認定されたのは13人だけだ。

長距離ドライバーの過労が深刻

 今回通過した働き方改革法でも、残業時間の上限を2〜6カ月の平均で80時間以内、単月の上限は100時間未満としているが、現状でもこの水準を上回れば「過労死」「過労疾病」と認めているわけだ。

 「脳・心臓疾患」で支給決定された人の職種を見ると、89件で最も多かったのが「自動車運転従事者」。長距離トラックのドライバーなど、人手不足もあって慢性的な長時間労働となっている。2位の「法人・団体管理職員」が21件なので、いかにドライバーが過労によって病気を発症しているかがわかる。

 請求件数でみてもドライバーが圧倒的に多く、2017年度は164件の申請が出されトップだった。

 一方で、精神障害労災認定された人は、必ずしも長時間労働の人だけではない。最も多いのが残業「20時間未満」の75人だった。「100時間以上120時間未満」が41人、「160時間以上」が49人と、長時間労働による認定者が少ないわけではないが、すべての時間区分で30人前後が労災認定されている。自殺者の数もほぼ全残業時間区分で大差はない。

 支給決定に当たっては、精神障害に結びついたと考えられる「出来事」も調査しているが、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が88件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が64件と多かった。申請では「上司とのトラブルがあった」や「配置転換があった」とするケースが多かった。

 職場の人間関係や、仕事内容の大幅な変化が、ストレスになり、精神疾患へと繋がっている様子がわかる。

 「精神障害」での労災申請が最も多い業種の上位は「医療・福祉」で、「社会保険・社会福祉・介護事業」に携わっていた人が174件、「医療業」に携わっていた人が139件に上る。実際に認定された人のトップは運送業で45件だったが、「医療業」「社会保険・社会福祉・介護事業」が各41件でこれに次いだ。医療や介護の現場も人手不足が深刻で、人間関係などが大きなストレスになっている様子が浮かび上がる。

 もっとも、決定件数を職種別に見ると、「一般事務」から「自動車運転」「情報処理」「商品販売」「飲食物調理」「保健師・助産師・看護師」「接客給仕」など多岐にわたる。「脳・心臓疾患」のように、トラック運転手の長時間労働が圧倒的に多い、といった明確な傾向は見られないのだ。つまり、どこの業界、どこの職種でも精神障害による自殺や疾病が発生しかねない状況にあると言ってもいいだろう。

 おそらく、今回の「働き方改革関連法」による残業時間の規制は、「脳・心臓疾患」の労災を減らす効果はあるに違いない。原因になっている長時間労働を禁止するわけだから、物理的な「過労死」は減っていくだろう。

労災認定された自殺者で女性は少ない

 だが、精神的に追い詰められて「過労自殺」するような精神障害は、労働時間の規制だけでは大きく減らないのではないかと思われる。

 精神障害の労災補償状況で目を引くのは自殺者のうち女性の比率が極端に小さいことだ。過労自殺の申請221人のうち女性は14人。労災認定された自殺者98人中女性は4人だけだった。一方で、精神障害全体の請求件数1732件のうちでは女性は689人にのぼっている。

 おそらく女性の方が職場でストレスを感じると、早期に退職するなどその場から離れているケースが多いのではないか。一方で、男性社員は職場の人間関係や職務の重圧から簡単に逃げ出すことができず、自殺するまで追い詰められていると考えられる。日本の職場がまだまだ「男社会」の色彩が強く、職場の上下関係などに悩む男性社員を横目に、女性は早い段階で職場を見限っているのかもしれない。

 これは就労形態別のデータにも現れている。精神障害の労災決定件数506人のうち、「正規職員・従業員」が459人にのぼり、派遣労働者やパート・アルバイトは件数が少ない。特に自殺者は98人中95人が正規雇用だ。つまり、正社員ほど職場の状況から逃げられず、追い詰められている、ということだろう。

 「働き方改革」では、長時間労働の是正や同一労働同一賃金に焦点が当たった。本来は、ライフスタイルにあった多様な働き方を認めていく社会に変わっていくことが目的なのだが、まだまだそこまで議論が及んでいない。

 1つの会社に入ったら、一生その会社で働くという「年功序列・終身雇用」の中で働く場合、上司との人間関係などはそう簡単には変わらず、一生同じ職場環境で過ごすことが前提になる。そうした会社では、ライフスタイルに合わせて働き方を変えたり、上司との人間関係を見直すことは極めて難しい。いったん精神的に追い詰められると、そこから逃げ出すことができなくなってしまうわけだ。

 副業や複業が当たり前になれば、もっと自分のライフスタイルに合わせた働き方になり、自らの専門性を活かして働いていくことができる。転職可能な専門スキルを身につけていれば、職場環境に耐えられなくなった場合、そこから逃げ出すことも可能になる。

 また、日本の会社の働き方が、正社員として採用されれば、あとは辞令1枚で、職種も勤務地も変えられるような「メンバーシップ型」から、専門性を持った「ジョブ型」に変わっていけば、突然、仕事の内容が変わったり、自分の専門外の仕事を振られることもなくなっていく。不必要なストレスを受けないで済む雇用の仕組みに変えていくことが、職場の精神疾患をこれ以上増やさない切り札になるに違いない。今こそ、本当の意味の「働き方改革」に日本の会社は取り組むべきだろう。

2018-07-11

「年俸1億円以上」の会社役員がついに500人突破した背景 日本でも高額報酬が当たり前の時代に

| 12:07

現代ビジネスに7月11日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56502

外国人が高額化を牽引

サラリーマン社長でも1億円以上の高額報酬が得られる時代に日本もようやく変わってきたようだ。

東京商工リサーチが3月決算企業の有価証券報告書から抽出して集計した「報酬1億円以上」の役員は、240社538人と初めて500人を突破した。前年は223社466人だったので、前年を大幅に上回ったことになる。

集計対象は2413社なので、ちょうど1割の企業で1億円の役員が存在することになる。

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かつては、創業社長や創業一族の役員、外国人経営者などが高額の報酬を得るケースがほとんどだったのが、ここへきて業績好調な企業では経営陣は1億円超えが当たり前になってきた。欧米に比べて日本の経営者の報酬は大幅に低いという、これまでの常識が大きく変わってきたことを示している。

2018年3月期の役員報酬額でトップだったのは、ソニー平井一夫前社長の27億1300万円。ソニーの業績を立て直した立役者で、報酬は前の年度の9億1400万円から大幅にアップした。今年の株主総会で会長に退いた。

ソニー有価証券報告書によると、平井氏の基本報酬は2億4400万円、これに業績連動報酬として6億4700万円、株式退職金として11億8200万円が支給された。さらにストックオプションが20万株、譲渡制限付き株式が5万株付与された。

後任の社長になった吉田憲一郎氏の前年度報酬も8億9800万円と多額。基本報酬は8000万円だが、これに業績連動報酬が3億5800万円加わった。さらにストックオプション14万株、譲渡制限付き株式4万株が付与されている。

東京商工リサーチによると、外国人はベスト10に5人と半数を占めた。そのうち3人がソフトバンクグループだった。ロナルド・フィッシャー副会長が20億1500万円で2位にランクイン。3位にはマルセロ・クラウレ副社長COO(最高執行責任者)が13億8200万円で、4位にはラジーブ・ミスラ副社長が12億3400万円で入った。

5位は武田薬品工業のクルストフ・ウェバー社長で、12億1700万円と、前年度の10億4800万円から増加した。

このほか、外国人では8位に、トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長が10億2600万円で入った。ちなみに社長の豊田章男氏の年間報酬は3億8000万円だった。

日本人よりも外国人経営者に多額の報酬を支払うのは、海外事業などを任せる経営者に有能な人材を確保しようと思えば、高額の報酬が必要になるため。報酬の「相場」に大きな開きがあるわけだ。

もっとも、外国人だというだけで日本人よりも高額の報酬を支払うことには、日本人役員の間にも異論がある。結果的に日本人取締役の「相場」を引っ張り上げる効果を発揮していると言えそうだ。

退職金を除外しても10億円近い年俸を支払うケースが日本企業でも今後増えてくる可能性がある。

好業績なら年俸1億円は当たり前

そうした取締役報酬の「相場」が高騰するにつれ、業績好調企業のトップなら1億円は当たり前といったムードが広がって来た。

三菱電機は執行役22人全員が1億円以上の報酬を得た。杉山武史・執行役社長以下の基本報酬は4200万円から3700万円だが、これに業績連動報酬として9900万円から8100万円が上乗せされている。

また、日立製作所も役員18人が1億円以上の報酬を得た。前年は7人だったので、大幅に増加したことになる。

また、ファナックと東京エレクトロンがそれぞれ10人、ソニー、大和ハウス工業、三菱UFJフィナンシャル・グループがそれぞれ9人、大和証券グループ本社、三井物産、LIXILグループ、日本精工がそれぞれ8人の「1億円役員」をだしている。

社長だけでなく、取締役や執行役といった役員になれば1億円以上の年俸を得られる会社が急速に増加しているわけだ。

業績を上げ、株価を上げていれば、堂々と高額報酬を得ても何ら恥じることはない、そうした感覚が着実に日本の企業経営者の間に根付きつつある。

さらに高報酬化は進む

取締役役員報酬1億円以上の開示は、内閣府令によって2010年3月期決算から有価証券報告書に開示することが義務付けられた。リーマンショック後に欧米で金融機関経営者の高額報酬が批判された流れから、国際的に報酬開示が進んだ。

日本も当初は「1億円以上ならばほとんど開示対象者がいない」という推定の下、当時の民主党政権下で開示に踏み切った。

開示する段階になってトップの報酬を開示対象から外すために1億円以下に引き下げる大手金融機関などが現われ、財界の一部からは開示制度を批判する声も上がった。横並び意識の強い産業界で、高額な報酬を得ていることが明らかになることを気にする経営者が多かったのである。

ところが、アベノミクスによって企業業績が大幅に改善したこともあり、2014年ごろから1億円超の報酬を支払う企業が増え始めた。

最近では、報酬を支払うルールを明確化し、ストックオプション株式報酬などの割合を増やす企業が増加。そうした業績連動の結果、1億円以上になる役員のケースも増えている。

コーポレートガバナンス・コードなどで報酬ルールを明示するよう求められたことで、かえって高額報酬を受け取りやすいムードができているともいえる。

役員報酬が高いことが明らかになれば、社員のインセンティブにつながるという考え方もある。また、新卒学生などに入社を決断させるひとつの「夢」になるという声も聞かれる。サラリーマン社長でもうちの会社なら年俸1億円も夢じゃない、というのが入社説明会の売り文句になるというのである。

こうした高額報酬化の流れは今後も続くことになりそうだ。

2018-07-06

安倍内閣弱体化で「規制改革」が正念場に 国家戦略特区のつまずきで誤算

| 20:43

日経ビジネスオンラインに7月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/070500080/

加計学園問題で国家戦略特区に批判が集中

 内閣支持率は底割れを回避し、奇妙な「安倍一強状態」が続いている。森友学園問題や加計学園問題への対応には、多くの国民が不信感を抱いているものの、野党からも自民党内からも安倍晋三首相を脅かす勢力は出て来ない。

 だからといって、かつてのような求心力が働いているわけでもない。野党が反対した働き方改革関連法も何とか成立させたが、結局は数頼みだった。

 そんな中で、猛烈な逆風が吹き始めているのが「規制改革」である。第2次安倍内閣発足以降、安倍首相が推進してきたアベノミクスでは、「3本の矢」の「3本目」として「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げた。そして、成長戦略の「1丁目1番地は規制改革」だと言い続けてきた。

 当初「3本目の矢」には、海外投資家などが大きく期待し、株価上昇の原動力になった。規制改革で日本経済の「稼ぐ力」が増せば、株価が上昇するという期待が盛り上がったのである。ところが、その規制改革が、ここへきて、逆風にさらされているのだ。

 最大の要因は、安倍首相が「規制改革の1丁目1番地」と位置付けてきた「国家戦略特区」のつまずきである。首相は「岩盤規制」に穴をあけるドリルの刃になると宣言、医療や農業、労働市場を名指しして改革をぶち上げた。全国一律に規制を緩和するのではなく、特区でまず規制をぶち破り、それを全国に広げていく。そんな作戦を立てたのだ。

 ところが加計学園問題で、この特区に批判が集中することとなった。特区には2014年3月に東京圏関西圏兵庫県養父市などが地域指定され、2016年1月に「広島県今治市」が3次指定として追加された。そして、特区担当大臣と自治体の長、事業者の三者で更生する「区域会議」で、獣医学部の新設を盛り込んだ。

 獣医学部新設は50年以上にわたって認められてこなかった「岩盤規制」である。結局、事業者として手を挙げた加計学園が、特区として認定された今治市内で2018年4月に獣医学部を新設したが、その認可の過程で、加計学園理事長と長年の友人である安倍首相の指示あるいは、官僚たちによる忖度があったのではないか、という批判が野党を中心に噴出したのだ。つまり、「加計ありき」で安倍首相特区制度を利用したのではないか、というわけだ。

規制改革を求める「事業者」が登場するか

 獣医学部の新設に関しては、特区諮問会議のワーキンググループ(WG)が医学部新設とともに早い段階から「岩盤規制」として俎上に載せていた。2014年以降、WGでの議論に登場するが、議事録を読む限り最も熱心だったのは座長の八田達夫・大阪大学名誉教授だ。何せ50年以上も学部新設を許可しない文科省行政は、岩盤規制そのものだと八田教授は考えたようだ。WGのメンバーは記者会見を開き、今治市選定のプロセスについてこう語った。

 「今回の規制改革は、国家戦略特区のプロセスに則って検討し、実現された。言うまでもなく、この過程で総理から『獣医学部の新設』を特に推進してほしいとの要請は一切なかった」

 規制改革プロセスとしては「一点の曇りもない」と強調したのだ。八田教授は国会での参考人聴取でも同様の発言を繰り返した。また、特区諮問会議の議員に名を連ねた坂根正弘・コマツ相談役も、首相の関与などありえないと発言している。

 それでも野党の批判は執拗に続いた。安倍首相も最後まで選定プロセスには全く関与しておらず、一点の曇りもないと繰り返したが、安倍首相の意向を忖度して加計学園が選ばれ、特区獣医学部開設を実現できた、という印象が定着した。

 もともと、特区は、首相のリーダーシップによって各省庁が抵抗する「岩盤規制」を突破しようという仕組みだ。もちろん、各省庁の後ろには、既得権を持つ業界団体がいる。獣医学部の新設が50年にわたって実現しなかったのも、「獣医師は余っている」という獣医師会の反対を受けて、文部科学省などが認可しなかったためだ。加計学園は今回の特区申請以前にも、繰り返し獣医学部新設を要望したが、ずっと拒否され続けてきた。

 実は、特区制度で最大の難関は、規制改革を求める「事業者」が手を挙げるかどうか。特区は前述の通り、国と地方自治体、事業者の3者が一体となって規制に挑む仕組みだ。だが、手を挙げる事業者からすれば、既得権を握る同業者や、その利益を守っている監督官庁を敵に回すことになる。役所を敵に回せば、その案件は通っても、他のどこで意地悪をされるかわからない。まさに「江戸の敵を長崎で討たれる」ことになりかねないのだ。

 加計学園問題で特区が批判されるようになって以降、特区制度を使って規制を突破しようとする事業者が激減している。企業など民間からすれば、いくら政治家や内閣府が後押ししてくれても、監督省庁と事を構えるのは危険だ。安倍内閣も永遠に続くわけではない。

 特区に選ばれた自治体も尻込みしている。「これまでは特区に選ばれたことが大きなPR材料だったが、なぜ特区などに手を挙げたのかという批判から住民の中からも出るようになった」(特区に指定されている自治体の首長)という。自治体の首長としても特区に手を挙げるのがリスクになり始めているのだ。

「目玉不足」の規制改革実施計画

 政府が6月に閣議決定した成長戦略「未来投資戦略2018」には、「国家戦略特区の推進」という項目が残っている。だが、143ページにわたる戦略本文の中で、わずか1ページと6行だけである。規制改革の「1丁目1番地」はまさに風前の灯火だ。

 同じ6月15日には「経済財政運営と改革の基本方針2018〜少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現〜」、いわゆる「骨太方針」と、「規制改革実施計画」も閣議決定されている。この3つを同時に閣議決定し、それを行政の方針として7月以降の「事務年度」で実行に移していく、というのが第2次安倍内閣以降のやり方になっている。霞が関にとって「閣議決定」は重く、内閣の方針として決められた事として、行政はそれに何らかの「答え」を出す事が求められる。

 霞が関の官僚は、閣議決定された方針に真正面から反対することは出来ない。面従腹背することも可能だが、成果を上げなければ、官僚としての評価が下がる。この3本の閣議決定は極めて大きな意味を持つのだ。

 だが、今年は「規制改革実施計画」がニュースで大きく取り上げられることはなかった。「目玉」に乏しかったのである。

 実施計画を策定したのは政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授、元経済財政政策担当大臣)である。計画には、「改革の重点分野」として、「行政手続コストの削減」、「農林」、「水産」、「保育・雇用」、「医療・介護」、「投資等」及び「その他重要課題」を掲げている。農林ではかつてJA全中の解体などを掲げ、大きな議論になったが、ひと山越えた感じになっている。

 今年の計画では、放送と通信の融合に向けた規制改革などが盛り込まれているが、今ひとつ話題にならなかった。

 これまで、農業ではJA、医療では医師会、雇用問題では労働組合などを、岩盤規制を守る既得権者とみなし、政治が前面に出てそうした団体と戦う姿勢を安倍首相らは取り続けてきた。そうした改革姿勢が国民の支持を得て、高い支持率につながると考えたのだろう。

 ところが、ここへきて内閣の足元が揺らぐとともに、そうした既得権者をやり玉に挙げて規制改革を進める手法はなりをひそめるようになった。安倍首相が「敵を作らない」方針に変えたのかどうかはわからない。だが、規制改革をめぐる永田町霞が関のムードが大きく後退していることだけは間違いない。