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2016-05-26

監査役等設置会社は「前進」か「後退」か

| 10:30

日本CFO協会が運営する「CFOフォーラム」というサイトに定期的に連載しています。コラム名は『コンパス』。この記事は2016年5月16日にアップされたものです。オリジナルページもご覧ください→http://forum.cfo.jp/?p=5218

 3月25日、東京証券取引所市場1部上場のオプトホールディング(以下オプト)の株主総会が開かれた。これまで大株主でCEO(最高経営責任者)の鉢嶺登氏が支配権を掌握し、毎年の株主総会は話題になることもなかったが、今回は違った。

 同社株の約5%を保有する投資ファンドのRMBキャピタル米国シカゴ)が、会社側が総会にかけた提案に反対したからだ。RMBは富裕層などから資金を預かり長期投資を行っているファンドで、別会社から引き継いだファンドを通じて2012年頃からオプトに投資してきた。長期投資の安定株主とみられてきたファンドから反対を突きつけられたのである。

 RMBが反対したのは監査等委員会設置会社への移行。2015年5月の会社法改正で導入された。それまでの会社法で規定されていた「委員会設置会社」は、社外取締役が過半を占める「指名委員会」と「報酬委員会」、「監査委員会」の3つを設置することが義務づけられていた。これが新制度では、「指名」と「報酬」の委員会は置かず、監査委員会だけを置くことができる。また、監査等委員会設置会社に設置すれば、それまで置いていた監査役は廃止することも可能だ。

 昨年5月の新会社法では、社外取締役の実質的な義務づけが大きな話題になった。法文上は義務づけられていないが、社外取締役がいない場合、「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明しなければならない。このため、多くの会社で社外取締役の導入の動きが加速した。

 そんな中で急速に注目されたのが、監査等委員会設置会社だ。今年6月の株主総会シーズンまでに400を超す会社で導入される見通しになっている。

 海外ファンドなど、コーポレートガバナンス(企業統治)の行方に強い関心を持っている投資家は、当初、監査等委員会設置会社は、世界に例のない日本型の監査役会設置会社からグローバルスタンダードである委員会設置会社へと日本企業が変わっていく「過渡期」だと見ていた。このため、導入に際しての議決権行使では、賛成票を投じてきた。

 米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)など議決権行使助言会社も「賛成」するよう助言してきた。

 ところが、監査等委員会設置会社に移行する会社が増えるにつれ、監査役を廃止するデメリットを強調する声が強まった。監査役制度はかつて「閑散役」などと揶揄され、機能しない制度の典型とみられてきた。一方で度重なる法改正によって監査役の機能強化が図られ、任期の延長などによる独立性の強化や監査役室の設置による常勤スタッフの強化、社外監査役の義務づけなどが進んできた。

 これを廃止し、社外取締役からなる監査委員会で足りるとすれば、社外役員の総数はこれまでと変わらないうえ、常勤で監査に携わる役員が減り、スタッフもなくすことが可能になる。監査等委員会設置会社は、世界に類を見ない日本独特の制度になるのではないか、という見方が広がりつつある。

 つまり、コーポレートガバナンスからみて、強化に向けた前進ではなく後退ではないか、という疑念が広まっているのだ。

 それに真正面から疑問を呈したのがRMBだった。12月決算会社のオプトでひと足先に疑問を呈したというのだ。

 オプトで運用しているポートフォリオ・マネジャーは、野村証券出身の細水政和氏。細水氏はこれまで何度も鉢嶺CEOに会い、積極的に「対話」を繰り返してきた。

 オプトに対してRMBは、買収防衛策の廃止や大量に保有する自社株の消却を求めてきた。オプト側は買収防衛策の廃止は受け入れたものの、その後、監査等委員会設置会社への移行を打ち出し、これにRMB側が反発していた。

 細水氏は「指名委員会と報酬委員会を置かない制度をなぜ導入するのか、米国人にも理解できない」と語る。放っておけば、「日本企業が雪崩を打って監査等委員会設置会社に移行し、世界には通用しないガラパゴス状態に陥りかねない」というのだ。

 総会では結局、会社提案が承認されたが、反対票も19.79%に達した。今後、世界の機関投資家が日本の監査役等委員会設置会社に関心を持ち、それが本当に日本企業のガバナンス強化につながっているのかどうかを検証することになるだろう。

2016-05-25

ついにきた! 中国人「爆買い」終了の兆候 この一大事をどう乗り切るか? データで見るとはっきり分かる

| 16:42

現代ビジネスに5月25日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48738

人気商品に変化が…

訪日外国人観光客による多額の消費、いわゆる「爆買い」の一服が鮮明になった。日本百貨店協会が5月20日発表した4月の外国人観光客の売上高が前年同月比でマイナスになったのだ。

アベノミクスが始まった2013年1月以来、39カ月ぶりである。本欄でも、「ついに「爆買い」がピークアウト!?」(2015年10月21日http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/45941)、「『爆買い』は2月で終わる!?」 http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/47447)と折に触れて注目してきたが、遂にその時がやってきたわけだ。

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4月に全国84の百貨店店舗で免税手続きをして購入された商品の総売上高は179億9000万円と前年同月比9.3%減少した。2013年1月の段階では、免税売り上げが19億4040万円に過ぎず、全体への影響はわずかだったため、外国人の国内消費に注目する人はほとんどいなかった。

それが、今では全国百貨店総売上高の4%近くを占めるようになり、百貨店の業績ばかりか、日本の消費動向を大きく左右するようになっている。それだけに「爆買い」のピークアウトは、日本経済にとって一大事なのである。

爆買い一服の理由は明らかだ。中国人観光客による高級品の購入が激減しているのだ。

百貨店協会の発表では、「外国人観光客に人気のあった商品」として上位5分野を発表している。これまで1位の常連は「ハイエンドブランド」だったが、4月になって異変が起きた。

「婦人服飾雑貨」が1位に浮上、2位は「化粧品」、3位は「婦人服」、4位は「食品」、5位は「家庭用品」となり、「ハイエンドブランド」が姿を消したのである。これまで売れ筋だった高級ブランドもののバッグや時計・宝飾品などがめっきり売れなくなり、どちらかというと庶民的なモノが売れ筋になったのである。

このまま終焉するのか?

中国人観光客が日本で「ハイエンドブランド」を買い漁ってきたのは、中国国内よりも日本で買う方が価格が安かったからだ。円安で人民元が強くなる一方、日本国内での販売価格は円高期から一気に値上げできない状態が続いたため、日本国内の輸入品はまさに「常時バーゲンセール状態」になったのである。

世界の高級ブランド品を買うなら日本が一番安いという状況が長く続いたわけだ。それが、円安が続いたことで、輸入品の価格改定が進み、値段がジワジワと上昇。そこへ円安が一服する状況になったため、中国人観光客にとって魅力のある価格ではなくなっているのだ。

また、中国の景気減速で、高級品を買う力に陰りが出ているという指摘もある。中国人観光客の総数自体は増えているが、その分、日本に来る観光客に占める富裕層の割合は減り、庶民の割合が高まっているという。こうした「客層」の変化によって免税売り上げが落ちているというのだ。

実際、1人当たりの購買単価が大きく落ち込んでいる。

免税対象が化粧品などにも広がった2014年10月以降で、購買単価がピークだったのは、2014年12月の8万9000円。それが昨年6月以降、7万円台となり、今年3月には初めて7万円を割って6万8000円を付けた。4月も3月と同じ6万8000円だった。ひとりあたりの購買金額はピークの4分の3になったのである。

では、このまま、「爆買い」は終焉してしまうのだろうか。

今までのような高額商品を爆発的な勢いで買い漁る動きは沈静化するかもしれない。上海あたりで再び不動産投機熱が強まれば、その余波で爆買い第二弾が盛り上がる可能性もないではない。

だが、訪日外国人に日本の消費を安定的に下支えしてもらうには、従来のような爆買い一辺倒でなく、日本の良いものを買う「正常」な姿に変化してもらう方が好ましい。

というのも、百貨店で免税手続きをする人は減っていない。4月の免税購買客数は約26万人と1年前の4月に比べて7.8%も増えているのだ。最も観光客が多い時期だった昨年7月は24万4000人だったが、中華圏の新年である春節だった2月には25万人に増加。4月はそれを上回ったのである。確実に免税手続きをする客の層は広がっているのである。

リピーターのニーズを掴めるか

ちなみに日本政府観光局(JNTO)の推計によると4月の訪日外客数208万2000人。3月に続いて200万人を超え、単月としては過去最高を記録した。日本にやってくる外国人はまだまだ増え続けているのだ。

輸入高級品を中心に大量に買う「爆買い」から、日本の良い物を買って帰る「正常な日本買い」へ。百貨店など小売店もターゲットを移していく時期に来ているのではないか。日本にやってくる外国人観光客も初めての人よりも、複数回来ている人が徐々に増えてきた。

ファンが定期的に日本を訪れて、日本ならではの産物を買って帰る。輸入した高級ブランド品を再輸出するよりも、日本経済への貢献度が大きいのは明らかだ。

人気が、ハイエンドブランドから食料品などに移行し始めているのも、日本ブームが定着し始めている表れとみることもできるだろう。そうした外国人リピーターのニーズをつかみ取ることができれば、訪日外国人の国内消費はまだまだ増えていく可能性がありそうだ。

2016-05-24

株主総会を終え、大塚家具は建て直しの正念場へ 20億円以上の資金を得たという父が打つ次の手は?

19:28

日経BPが販促用に本から抜粋して作ってくれた記事です。

3月25日に開催された大塚家具の株主総会は、所要時間60分足らずで平穏に終わった。昨年の株主総会での父と娘の闘争から1年。経営権を握った大塚久美子社長は、企業の立て直しに向けて正念場を迎えつつある(前回のブログはこちらをご覧ください → http://d.hatena.ne.jp/isoyant/20160331/1459415615)。

 大塚家具の経営権を掌握した大塚久美子社長にとって、最大の課題は業績の立て直しだった。2015年1月末に社長に復帰したとはいえ、実際には勝久会長が総会まで営業部門を統括し続けていた。勝久氏の方針による店舗運営がその年の3月末まで続いていたのだ。

 争点になっていた広告宣伝も、4月分までは会長の方針で決まっていた。案の定、経費をかけた割には来客数や売り上げは伸びていなかった。第1四半期(1〜3月)の業績が相当厳しい状況になることは明らかだった。

 実際、その後発表された第1四半期の業績は散々だった。消費税が2014年4月から引き上げられたため、前の年の1〜3月が駆け込み需要期に当たっていたこともあるが、勝久氏の店舗運営が成果を上げていないことは歴然としていた。

 第1四半期の売上高は前年に比べて23%も減少、経常損益は11億1300万円の赤字になった。前年同期は6億7500万円の黒字だったから、大幅な転落である。

入りづらいイメージの修正を目指す

 久美子氏は一気に店舗をかつての自分自身の路線に戻す。4月から路面店、大型店を中心に店舗リニューアルを実施した。店舗の受付スペースを縮小し、消費者が気軽に立ち寄れる店づくりを目指した。いわゆる「会員制」ではなく、オープン化を進めたのである。買い替え需要のボトルネックになっていた入りづらいイメージの修正を目指したのである。

 さらに4月中旬から3週間にわたって、「新生大塚家具 大感謝フェア」を開催した。社長が店頭に立って客を出迎えるというスタイルで、ワイドショーでがぜん知名度の上がった久美子氏を一目見ようという客で店舗はごった返した。

 初日の新宿店には開店前から130人が並び、1日で1万257人が来店したという。開店時に先着100人に久美子社長からガーベラの花をプレゼントした。「久美子」から取った93万5000円の高級寝具セットが各店10セット用意されたが、初日に完売したという。

 父娘の対立という人目に晒したくない騒動だったものの、その宣伝効果は大きかった。ワイドショーが父娘の対立点として繰り返し、店づくりなどのビジネスモデルを解説したことから、お茶の間に大塚家具の店舗運営を解説できる女性が急増した。そうした女性たちが、一度店舗を見に行ってみようか、となったのである。テレビや新聞の報道を広告費換算すれば、巨額になったに違いない。知名度が抜群に上がる結果になったのである。

 これは業績にも表れた。第2四半期(4〜6月)の売上高が前年同期に比べて28%も増加、17億円の経常利益を上げたのである。1月からの通算でも6億円の黒字となった。第1四半期の落ち込みは取り戻したのである。

 第3四半期(7〜9月)は消費全体が落ち込んだこともあり、再び赤字に転落したが、11月には「全館売り尽くしセール」を開始。社長自らが記者を店舗に招いて発表会を行った。展示品の約34万点を対象に最大50%を割り引くというセールだった。

 久美子氏は「生まれ変わるための挑戦で、インテリア業界をリードしていきたい」と語った。16年1〜2月にかけて店舗をリニューアル。ロゴも変えた。16年が久美子氏にとって本当の勝負の年になる。

総会後、勝久氏は新会社を設立

 株主総会で会社を追われた勝久氏はどうなるのか。世の中の関心は高かったが、一切表には出てこなかった。株主総会での敗北を受けて、以下のようなコメントを出したのがすべてだった。

「このたびの騒動に関しては、すべて私の不徳の致すところでございます。心からおわび申し上げます。ご支援たまわりました皆さまお一人お一人に深く感謝申し上げます。株主の皆様のご判断を真摯に受け止め、まっさらな気持ちで出直します」

 まっさらな気持ちとは何なのか。大塚家具のために今後、どんな行動を取ろうとしているのか。その説明はなかった。

 勝久氏は大塚家具を去ったとはいえ、株式の18.04%を持つ大株主であることには変わりはなかった。その気になれば、永遠に株主提案を出して株主総会で娘とバトルを続けることは可能だった。

 人事部付となった長男の勝之氏は自らの処遇を巡って久美子氏と話し合いを続けていた。有給休暇の消化が終わった5月末になっても結論は出ていなかった。久美子氏の経営方針に従うのならば営業の現場で残すという妥協案も浮上したが、勝之氏は専務など幹部としての地位にこだわった。結局、両者の話し合いは進まないまま、15年6月末に退職することが決まった。

 その頃からひとつの噂があった。勝久氏が勝之氏と共に新会社を立ち上げるというものだった。

 それが明らかになったのは7月1日、勝之氏の退職に合わせるかのように東京都港区にひとつの会社が登記された。「匠大塚」。資本金3000万円で、事業概要は「家具・寝具およびカーテン・照明器具などの室内装飾品の卸販売、コントラクト業務全般」となっていた。代表取締役は勝久氏と勝之氏で、取締役には妻の千代子氏と、会長が提案した取締役名簿に名前があった元総務部長の池田氏と元財務部長の所氏が名を連ねていた。自らと行動を共にして会社を去った腹心の“骨を拾う”ところは、「情」の経営者らしい行動だった。

 その新会社設立にメディアが気付いたのは8月に入ってからで、一斉に報道が始まった。だが、勝久氏も勝之氏も表に姿を見せず、何を狙っているのかは報道されなかった。

 そんな最中に、財務局に報告書が提出される。勝久氏が三菱東京UFJモルガン・スタンレー証券と契約、保有している大塚家具株350万株のうち95万株について株式売買委託契約を結んだことが明らかになったのだ。自らの権力基盤である株式を手放したのである。

 さらに勝久氏は11月10日にも同様の契約を結び、保有株から追加で68万6500株を売却することとした。合計で163万6500株を売却するとしたのである。実際に売却は進んだ。大塚家具は15年12月25日に筆頭株主が交代したと発表した。勝久氏の保有株は同日現在で186万3500株となり、議決権のある株式総数の10.00%になり、それまで2位株主だったききょう企画(大塚家の資産管理会社)の比率10.15%(議決権のない株式は除く)を下回ったとされる。

20億円以上の資金をどう使う?

 この売却によって勝久氏は20億円以上の資金を手にしたと見られる。この資金を元手に新会社の事業を展開しようとしているのは明らかだった。勝久氏が設立した匠大塚は日本橋に新しく建ったオフィスビルのワンフロアを借り、本社とショールームの設置に動き出した。

 創業者が保有株を現金化するのはなかなか難しい。もし大量の株を売却しようとすれば株価が大きく下落してしまうからだ。また、経営に関与している中で売却すれば、インサイダー取引を疑われることになりかねない。

 この大塚家具の騒動では、会社の知名度が大きく上がるという副次効果があったことはすでに触れたが、創業者である勝久氏にも大きな利益をもたらした。配当引き上げ方針を受けて株価が大きく上昇したのだ。その恩恵を最も受けたのは大株主の勝久氏だった。その勝久氏が持ち株の半分近くを「現金化」することができたのだ。

 もちろん、勝久氏の株式売却で、経営権争いが完全に終わったとは言い切れない。勝久氏が訴えているききょう企画の保有株の購入資金を巡る裁判の判決が、16年4月に控えている。判決によっては勝久氏に資金を返還するために、筆頭株主であるききょう企画は保有株式を手放さなければならなくなるリスクも残っている。

(この記事は、『「理」と「情」の狭間』の一部を再編集しました)

2016-05-20

多様な働き方を認めれば、社員の意欲は高まる サイボウズ社長 青野慶久氏に聞く

14:01

日経ビジネスオンラインに5月20日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/051900014/

 20年後の働き方はどう変わるのか。「100人いれば100通りの働き方ができる会社」を標榜し、斬新な職場づくりに挑んでいる会社がある。グループウエア大手のサイボウズ。ライフスタイルに合わせて「働き方」を選べる人事の仕組みを導入、オフィスのスタイルも大きく変えた。社長自ら「育休」を取得するなどメディアにも注目されている。サイボウズは日本の会社の未来像なのか。青野慶久社長に聞いた。

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青野慶久(あおの・よしひさ)氏

サイボウズ社長

「日本企業=長時間労働」という負のブランドを打破すべし

サイボウズでは「働き方」に関してユニークな取り組みを続けています。「働き方」の未来はどうあるべきだと考えますか。

青野:人は人らしく生きるために働くのではないでしょうか。ところが今の社会では、会社という「法人」が生身の人間に様々な命令を出してくるわけです。「何時から何時まで働け」とか、「転勤せよ」とか、「副業はするな」とか。なぜ、「法人」がそんな権限を持つのか、注目して考えるべきだと思っています。

 日本人は働き過ぎだと言われながら、まったく変わっていません。悪しき風習が染みついている。長時間労働だけでなく、マタハラやパワハラと呼ばれるものがなくならない。こうした悪しき風習を断ち切るためには、行政がもっと介入するべきかもしれない。日本企業イコール長時間労働といった負のブランドを打破して、働くなら日本企業だよね、と言われるように変えて行くべきです。人口減少が続く中で、外国人人材の活用などが言われていますが、まずは、人々が「働きたくなる国」に日本が変わっていく必要があります。

サイボウズは「100人いれば100通りの働き方ができる」会社を目指しているそうですが。

青野:もともとサイボウズも典型的な日本のソフトウエア開発会社の働き方を社員にさせていました。長時間労働や残業は当たり前で、どちらかというとブラック企業に近かった。人を雇ってもどんどん辞めていく。2005年には年間の離職率が28%に達していました。

 社員に多様な働き方を認めるというのは大変面倒です。それぞれの事情に合わせた制度が必要になるわけですから。一方で、多様な働き方を認めれば社員のモチベーションは上がります。また、採用コストや入社した社員の教育コストを考えれば、社員が定着してくれることは膨大なコスト削減につながります。発想を大転換し、社員が働きたいように働いてもらう仕組みに変えました。その結果、離職率は4%を切るまでになっています。

基本的に働き方は自由なのですか?

青野:私たちの会社が目指すのは「グループウエアで世界一の会社になる」という一点です。この目標に合致していないものは認めません。逆にいえば、会社の目的にかなっていれば、どんな働き方をしてもよい、ということです。

ウソは絶対にアウト!

出社時間も自由、どこで働いていても構わないとなると、本当に働いているのか、管理できないのでは。

青野:サイボウズではウソは絶対にアウトです。「公明正大」であることが多様性のある会社には不可欠です。ウソを言われ始めると、どんどん管理を強化しなければならなくなる。ちょっとしたウソが、どんどん大きな不正へとつながっていきます。ですから、サイボウズではどんなウソでも発覚すると徹底的に糾弾します。

 会議に遅刻をした時に「寝坊しました」と言えば、「たまにはあるよね」といった反応になりますが、「電車が遅れた」と言って、それがウソだったことがバレた時には糾弾されます。かつて「オフィス・グリコ」というのがあって、お菓子が置いてあり、食べた場合にはおカネを入れることになっていました。ところがおカネの計算が合わないわけです。1円たりともズレたら撤去するという約束で設置したので、すぐに撤去しました。

目的を共有して、それに合致すれば良いと仰いました。

青野:社員の提案で様々な制度を入れていますが、「コーヒー代補助」という制度を導入しました。営業の担当者がお客さんとの約束の合間にスターバックスに入ってパソコンで仕事をしているのに、コーヒー代が自腹なのはおかしい」というのが提案理由でした。確かに一理あるので、補助を出すことにしたのです。本当に働いているのか、休憩しているだけではないのか、と言い出したらきりがありません。みんなが公明正大にしていれば、非常に気持ちが良いのです。

日本社会には「ウソも方便」という感覚が色濃くあります。

青野:多様性の高いチームを前提にすると、もはや「あうんの呼吸で理解する」といったことは無理です。マネジメントするにも「本音と建て前」があってはやりにくいのです。そういう意味では、多様性を受け入れるには価値観の転換が必要だということです。

給与の増減にあまり関心を持たない人もいる

ライフステージに合わせて、子育て中なので今は残業はしないとか、短時間の勤務しかしない、という選択が可能だそうですが、評価は難しいのではないでしょうか。給与は年俸制ですか。

青野:その人がどれぐらいの市場性があるか、平均的な市場価格の給与をお互いの納得のうえで決めています。他のソフトウエア会社の平均給与と比べても決して高くはないのですが、給与の増減にあまり関心を持たない人も少なくありません。

 チームに所属して働く時に報酬というのは1つの要素に過ぎません。給与が少しぐらい高くても、上司との折り合いが悪くて猛烈にストレスがたまるなど、その他の条件がある。また、家族との生活を楽しむ時間が作れるとか、自分の好きな仕事ができるなど、金銭以外の報酬もあります。

 労働は苦役だとされてきましたが、自分が働く楽しさを知って自立する、そんな時代になっているのではないでしょうか。

多様な働き方を社員がすると、情報共有が大事になるのではないでしょうか。

青野:もちろんです。グループウエアを使うことで、基本的に情報はオープンに共有されています。誰が今、どんな仕事をしているかがチーム内で相互に分かるわけです。プライバシー情報とインサイダー情報以外はオープンにすることになっています。

上司と部下の風通しは良いのですか。

青野:上司に匿名でダメ出しする仕組みもあります。部下が部長以上の上司を評価します。上司は自分に対する評価をパソコンで見ることができます。例えば私に対する社員の評価を見ると、青野さんは公明正大かどうかという質問に92%がYESと答えていますね。

社員が集える「バー」を作ることを最初に決めた

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サイボウズはユニークなオフィス作りでも有名ですが、日本橋に本社を移転されたのですね。

青野:本当にリアルなオフィスがいるのか、いるとしたら何が必要なのかを考えました。日本橋地下鉄駅の上にできた新築ビルに移ったのは、便利な場所だからです。お客様にとっても社員にとってもリアルに会うなら便利な場所がいい。2フロアの下の階は交流するためのスペースで、お客様がいらした時の応接スペースや会議室があります。外部からいらした方がちょっとした作業をするスペースもあります。

 まっ先に作ることを決めたのが、バーです。夕方になると社員が集まってきて宅配ピザか何かをとって一杯やる。リアルな情報交換の場になります。

 その横には「リビング」があります。急に子どもが熱を出して保育園に預けられない場合、子どもを見ながらお母さんが仕事を片付けられる。そんな使い方もあります。

 上のフロアはパーテーションのない大部屋スタイルで、誰が何をしているかが見える形になっています。本当にワークスペースが必要なのか悩んだのですが、今のところ、やはり会社に来て仕事をしたいという人が多いですね。

青野さんが最近出版された『チームのことだけ、考えた』(ダイヤモンド社)を拝読しました。サイボウズ創業以来の盛衰や、青野さんの思考の軌跡をたどることができ、なかなかの経営書だと思いました。

青野:私は理科系なので、論理的に考え、結論を導いていく癖があります。多様な働き方を目指していくうえで、社員が理想に共感して、同じ目的を目指すことが大事だということに気づきました。私たちが目指すのは「グループウエアで世界一の会社になること」です。売り上げや利益だけを追うことではありません。株主も、配当や株価の上昇だけを求める人ばかりではありません。最近は株主総会サイボウズファンの集いのようになってきました。株主も私たちのチームの一員なのです。理想やビジョンを実現するためのチーム、株主株式会社の関係も、そんな形が原点だったのではないでしょうか。

2016-05-19

国の「原発無策」が塞ぐ「東芝」再生の道筋

| 18:01

5月19日にフォーサイトに書いた原稿です。

 巨額の粉飾決算の末、事実上の“解体”に追い込まれている東芝が5月12日、2016年3月期の連結決算を発表した。営業損益は7191億円の赤字、最終損益でも4832億円の赤字となったが、これはあくまで今後存続する「継続事業」の決算数字。売却したヘルスケア事業や株式譲渡契約を結んだ家電部門の損益は含まれていない。また、将来戻ってくると見込んでいた税金資産の取り崩しによる損失や、売却した東芝メディカルシステムズの売却益、投資資産の評価損計上などもあり、実態が見えにくい決算になっている。

断末魔のやり繰り

 日本の事業会社での過去最大の赤字は、2009年3月期に日立製作所が計上した7873億円の最終赤字。東芝は一見、そこまでの赤字ではなかったように見えるが、実際に処理を迫られた損失額は日立以上の規模で、事実上、日本の事業会社として過去最大級の赤字決算だったと見ていい。3月末の連結純資産(資本)は6569億円で、1年前の1兆5653億円に比べて9084億円減少している。東芝メディカルの売却益がなければ純資産がマイナスとなり、債務超過に陥っていたであろうことが容易に想像される。実際、東芝単独の決算では963億円の資本欠損に転落、今後、減資などを行う方針だ。つまり、断末魔で何とかやり繰りした末の決算だったと言えるのだ。

・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)→http://www.fsight.jp/articles/-/41198