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2016-07-25

自立の精神を取り戻す 石徹白の小水力発電

| 08:16

ウェッジインフィニティに6月11日にアップされた原稿です。→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6318

Wedge (ウェッジ) 2016年 3月号 [雑誌]

Wedge (ウェッジ) 2016年 3月号 [雑誌]

 仕事を作り、身の回りの必要なものを用意するという自立の精神。そんな思いを持った人たちが「エネルギー地産地消」に取り組み、仕事の少ない田舎でも自活する術を見出している。


 集落のほぼ全戸、約100世帯が出資する水力発電所が今年6月1日に稼働する。岐阜県中央部の郡上八幡からさらに車で1時間ほど。福井県側に峠を越えた山奥にある石徹白(いとしろ)という集落での話だ。

 石徹白は、霊峰白山への登山口に当たり、景行天皇12年(西暦82年)に創建されたと伝わる白山中居神社が鎮座する。上古から続く長い歴史を持つ集落だが、いま消滅の危機に直面している。1960年ごろに1000人を超えていた人口は減少を続け、現在270人あまり。何とかこれに歯止めをかけようと始めたのが、豊富な農業用水を活用した小水力発電だった。

 発電した電力はすべて北陸電力に売電。集落で使う電力を上回る総発電量になる。計算上の自給率は100%を超え、売電収入が入ってくることになる。その収入を集落の活性化に役立てようというわけだ。

 集落の高台を流れる1号用水の水を谷間の朝日添(わさびそ)川に導水管で落とし、途中に設置した発電機の水車を回す。落差110メートルを利用し、最大116キロワット時の発電を行う計画だ。

 もちろん小規模とはいえ、発電所の設置には資金がかかる。工事費は2億4000万円。発電が始まれば、売電収入で維持管理費などは捻出できるとしても、そのためには事業主体が要る。そこで、住民が参加する農業協同組合「石徹白農業用水農業協同組合」を新たに設立したのだ。2014年のことだ。

 2億4000万円のうち岐阜県郡上市からの補助金で75%を確保。残りの6000万円を農協への出資と借入金で賄うことにした。地区の自治会長だった上村源悟さん(65)が新設した農協の組合長に就任。地区の代表たちと手分けして住民への説得を行った。

 「地域にどんどん元気がなくなっていく。集落の全員が力を合わせて何かに取り組むことが必要だ」

 住民の説得に当たった上村さんの危機感は強かった。11年に退職するまで、郵便局長として集落の衰退を見つめ続けてきたからだ。かつては各家庭で行っていた「おとりこし」という秋の収穫後の集まりが少子高齢化と共に衰退。お寺に集まる形で細々と続いていたが、それも2年前に中断した。

 説得に自治会が乗り出したことで、集落はひとつになり、発電所のための農協新設に漕ぎ着けた。

 実は、今回稼働する小水力発電には前段がある。石徹白が地域おこしの手段として「小水力発電」に乗り出したのは07年のこと。NPOで再生可能エネルギーなどに取り組んでいた平野彰秀さん(40)が、岐阜県内の小水力の適地を探し歩く過程で、石徹白にやってきたのだ。平野さんは大学に入学した18歳から32歳まで東京で生活、外資系経営コンサルティング会社などに勤めたが、08年に32歳で岐阜市にUターンしていた。もともと地域づくりの活動をしたいという狙いがあった。

 石徹白を訪れた平野さんと出会ったのが、石徹白で電子機器を扱う会社を営む久保田政則さん(68)。今は地域おこしを担うNPO法人「やすらぎの里いと しろ」の理事長も務める。「豊富な農業用水を目に見える形で活用すれば、地域おこしの起爆剤のひとつのツールになるのではないか」と考えた。

 久保田さんは様々な形の小水力発電の実証実験を平野さんたちと共に始める。タテ軸型、らせん型、上掛け水車型。手作りできるものは手作りし、コストを下げた。始めは失敗を繰り返したが、徐々にコツをつかんだ。

 改良した「らせん型水車2号機」はパイプの中のらせん状のプロペラが水流で回ることで発電する。設置から7年たった今も動き続け、最大800ワットの電気を起こしている。これは売電せず、NPOの事務所などで使っている。

 集落の中心近くに設置したのは上掛け水車型。水車が勢いよく回ることで発電する。この電気は隣接の農産物加工場に供給。使われていなかった減圧乾燥機を復活させ、とうもろこし粉や乾燥フルーツなどを製造する。寒暖差の大きい石徹白のとうもろこしは糖度が高く名産品。形が悪く出荷できないものをパウダー状に加工し、パンやケーキ用として販売している。

 初めは奇異な目で見ていた住民たちの意識が変わったのは、こうした取り組みに全国からの視察が相次いだのがきっかけだった。今でも年間500人以上が水車を見にやってくる。09年には石徹白にやってくる人たち向けにカフェをオープン。4月から10月の土日に営業を始めた。何せ300人に満たない集落なので、飲食店も土産物店もなかったのだ。

 住民の変化を目にして平野氏も本気になる。いつまでも「よそ者」としてかかわっていたのでは、本物の地域おこしはできない。11年に石徹白への移住を決めたのだ。移住を前に奥さんの馨生里さんは洋裁学校に通い、集落で「石徹白洋品店」を始めた。集落の伝統的なものに惹かれ、石徹白に伝わる野良着「たつけ」を復活させた。そうした地道な取り組みが、小水力発電への住民の理解を深めていったのだ。

売電収入を地域振興に

 住民出資の水力発電所が稼働すれば、売電の利益だけで2000万円前後になる。減価償却分の積立金や利払いなどを除いても数百万円が残る。これを地域振興に活かしていくことになる。

 平野さんの移住をきっかけに、都会の若者が石徹白に移って来るケースが増えた。この7年で12世帯にのぼる。実は09年に地域で「石徹白ビジョン」を策定したが、その際に「30年後も石徹白小学校を残す」という目標を掲げた。それを実現するためには移住者は必須なのだ。「石徹白人」という集落の公式ホームページを立ち上げ、「子育て移住してみませんか?」と呼びかけている。

 そんな取り組みの結果、移り住んだひとりが廣中健太さん(34)。東日本大震災を機に、震災直前に生まれた子どもと奥さんを連れて神奈川から移住した。平野さんの講演を聞いたのがきっかけで石徹白を初めて訪れたが、白山中居神社を詣でた際に魂を揺さぶられる思いがしたのだという。移住に当たっての問題は「仕事がない」こと。今は、移住前に取得したヘルパーの資格を活かし、介護施設で働く。そのかたわら、農作業や釣り、狩猟など自然を満喫した犹纏瓩鬚垢襦

「昔は仕事を作っていたんです。自分で身の回りの必要なものを用意した。自立の精神です」と平野さんは言う。もともと石徹白には「自立の精神」が宿っているという。江戸時代の石徹白の村人は全員、白山中居神社の社人、社家という扱いで、名字帯刀を許され、年貢は免除されていた。住民たちで物事を決める伝統が根付いているのだ。大正13年には村人が皆で出資して発電所を作った歴史もある。石徹白が小水力発電で自立しようとしているのは、実は90年前の再現だったのである。

 都会から遠く離れて隔絶された土地で、自然に囲まれて自活する。自立心旺盛な若者たちを引き寄せる空気が石徹白には満ちている。

2016-07-22

今こそ、「住宅政策」の発想転換が必要 注目される政府の経済対策、20兆円でも波及効果には疑問

| 12:52

日経ビジネスオンラインに7月22日にアップされた原稿です→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/072100028/

政府が新たにまとめる「経済対策」の内容とは

 参議院議員選挙自民党など与党が勝利し、「アベノミクスを一層加速せよと国民から力強い信任を得た」として、政府は近く大規模な経済対策をまとめる。民間からは8兆円規模の対策が必要という声が上がり、安倍晋三首相周辺でも10兆円規模との声が出ていたが、ここへ来て20兆円超で調整しているという報道まで飛び出した。

 規模を大きく見せることで景気回復ムードを盛り上げようという心理作戦ともいえるが、問題は景気対策として本当に効果が上がるかどうか。官邸周辺からは「具体的なタマがなくて困っている」という声も漏れて来る。デフレからの本格的な脱却につながる実効性のある対策は打ち出されるのだろうか。

 「勝利の余韻に浸っている暇はありません。直ちに、明日、石原大臣に対して、経済対策の準備に入るよう、指示いたします」

 7月11日、参院選の結果を受けて自民党総裁として会見した安倍首相は、こう述べた。そのうえで、キーワードは「未来への投資」だとした。

キーワードは「IoT」「ビッグデータ」「人工知能」…

 政府が6月2日に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略2016」では、「戦後最大の名目GDP国内総生産)600兆円」を目標に掲げ、第4次産業革命に突き進むとした。そのうえで、キーワードはIoTインターネット・オブ・シングス=様々なモノがインターネットにつながる)やビッグデータ人工知能AI)、ロボット・センサーなどを上げた。こうした分野に思い切って投資するというのだ。それによって2020年までに30兆円の関連市場を生み出すとしている。

 実際、経済対策でもIoTAIに予算が付くことになる。秋の臨時国会で補正予算として編成され、年度内に執行される。

 だが、こうした新分野に投資される「規模」はそれほど大きくならない。国が主導するとしても、最終的にIoTなどに投資するのは民間企業だ。しょせん呼び水としての投資で、それだけで兆円単位になる話ではない。

結局、「リニア中央新幹線」などお得意の建設投資へ

 結局、「将来への投資」と言って具体的に安倍首相が触れたのは、リニア中央新幹線の全線開業を最大8年間前倒しする事。さらに、整備新幹線の建設も加速するとした。また、「熊本地震の被災地に『未来』をつくる」とし、復興支援も未来投資だと位置付けた。「自然災害に強い、強靭な国づくりを進め、安心を確保するための防災対策も、『未来への投資』であります」としている。

 7月13日に開いた経済財政諮問会議で民間議員の高橋進・日本総合研究所理事長は、GDPギャップは5兆〜6兆円あるとの試算を示した。GDPギャップとは、国の全体の総需要と供給力の差のことで、需要よりも供給力が多い状態を示す。このギャップを埋めるということは、財政出動によって需要を増やすということである。その伝統的な手法が「公共工事」である。

 安倍首相の発言を聞いていると、結局のところ、自民党お得意の建設投資に資金を回す以外、経済対策の規模を大きくする手はないということのようなのだ。

 だが、新幹線や道路、堤防といった建設投資ではなかなか波及効果が大きくならない、というのがここ十年来の問題だ。また、震災復興に建設作業員の人手が取られ、予算を付けても実際には建設工事が進まないという事態に直面している。日本のGDPは6割が「消費」によって支えられているが、公共工事が消費の増加に結びつかないのである。

景気を左右する重要な指標は「新設住宅着工」の戸数

 では、打つ手はないかというとそうではない。

 欧米などで景気を左右する重要な指標とされているのが「新設住宅着工」である。住宅着工が増えれば、それに付随して住宅設備機器や家具、家電などが売れる。自動車やインテリアの買い替えにもつながる。経済的な波及効果が大きいのだ。

 日本の新設住宅着工戸数は1990年代後半のバブル期に年間166万〜167万戸が続いたが、その後、大幅に減少してきた。阪神淡路大震災の復興需要が加わった1996年度の163万戸からリーマンショック後の2009年度の78万戸まで実に半数以下になった。その後緩やかに回復、消費増税前の駆け込み需要があった2013年度には99万戸まで回復したが、その後、2014年度88万戸、2015度年92万戸と推移している。

 ここへ来て、この新設住宅着工に明るさが見えている。国土交通省が6月30日に発表した5月の新設住宅着工戸数は7万8728戸。1年前の5月に比べて9.8%増えた。前年同月を上回るのは今年1月以降5カ月連続。しかも、2月7.8%増→3月8.4%増→4月9.0%増→5月9.8%増と月を追うごとに増加率が大きくなっている。

 5月の分譲マンションの着工は微減(0.8%減)だったが、持ち家、貸家、分譲住宅ともに増えている。中でも分譲の一戸建て住宅は18%増と高い伸びを示し、7カ月連続での増加となった。

 今後の焦点は、消費増税前の駆け込み需要が膨らんだ2013年の水準を上回れるかどうか。今年1月までは2013年を大きく下回っていたものの、2月、3月、4月と3カ月連続で上回った。5月は1000戸余り下回ったが、6月以降の数値が注目される。2013年度の年間99万戸にどこまで迫れるかが注目される。

 なぜ、住宅着工が増えているのか。

マイナス金利」効果で現在、新設住宅着工は好調

 日本銀行が今年2月に導入した「マイナス金利」の効果がジワジワと効き始めているとみて良さそうだ。住宅ローン金利が史上最低水準に下がったことで、住宅を買う動きが広がり始めた模様だ。また、都市部を中心にマンション価格が上昇していることから、買い替えを誘発しているようだ。

 これまでなかなか増加しなかった福島県など東日本大震災の被災地域でも住宅着工が増えている。震災から5年を経て、ようやく本格的な住宅再建が始まったとみることもできそうだ。

 野村総合研究所は6月、2030年度の住宅市場に関する予測を発表した。それによると今年度以降、住宅着工は右肩下がりで減り続け、2030年度には54万戸にまで減るとしている。人口減少が大きく影を落とすという見方である。

 現在820万戸ある空き家は今後急増。2033年には2167万戸になるとしている。総住宅数を7126万戸(現在は6063万戸)とみており、空き家の比率は現在の13.5%から30.4%に高まるとしている。

 仮に予測通りの住宅着工が減り続けると、経済へマイナスのインパクトは大きい。逆に言えば、名目GDP600兆円を目指すには、住宅着工の減少に歯止めをかけ、増やすための政策が不可欠になる。

人口減少を見据えて、住宅政策は発想の大転換が必要

 人口が減少する中で、住宅政策は発想の大転換が必要だ。これまでは持ち家比率を上げることに重点が置かれ、小規模の住宅を大量に供給する視点で政策が組み立てられてきた。空き家や空き地が増える中で、今後は、既存の住宅を建て直して大きくさせる政策が不可欠だ。

 従来、一定規模以下の住宅の固定資産税を軽減するなどの措置が取られてきたが、逆に一定規模以上部分に対する固定資産税の税率を低くするなど、大規模化を促進することが必要だ。また、隣接する空き地を取得した場合に税金を優遇するなど、積極的に規模を拡大していくことである。

 安倍内閣の閣僚のひとりは、「それではカネ持ち優遇政策だと批判されてしまう」と危惧する。誰の目にも「大豪邸」と映るような家に住む人を優遇する必要はないが、「ウサギ小屋」と世界から卑下されてきた住宅事情から今こそ脱出して、国民が豊かさを感じるべきではないか。政府は「住宅面積倍増計画」を堂々と打ち出すべきだろう。

住宅ローンの「ノンリコース化」を実現すべきだ

 さらに、週末住宅を保有した場合の税率軽減など、二軒目、三軒目の住宅取得を促進する政策を打つべきだ。

 また、住宅を取得する際のリスクを大幅に軽減するには、かねてから検討されてきた住宅ローンの「ノンリコース化」を実現すべきだ。ノンリコースは住宅ローンが返せなくなった場合、担保になっている住宅を引き渡すだけで借金全額と相殺されるというもの。日本の現状の住宅ローンの場合、担保不動産を売却してローンが残れば、その返済が必要になる。

 不動産の下落リスクを銀行が負うことになるため、銀行業界は大反対だった。だが、デフレからの脱却で、不動産価格の下落リスクが小さくなっていくと考えれば、今こそノンリコースローンを本格的に導入するタイミングと言えるだろう。住宅取得に関わる経済的なリスクが小さくなれば、より高額の不動産などを買う消費者が増えることになる。つまり、住宅の大規模化にも寄与することになるわけだ。

 現在、日本の住宅の築年数は上昇を続け、老朽化が進展している。これは逆に言えば、建て替えの潜在的な需要があるということである。日銀マイナス金利政策を本格化させるのと同時に、政府が住宅政策の発想の転換をすることが最大の景気対策になる。

2016-07-21

【高論卓説】東芝元社長、刑事責任問われず?

| 12:50

産経新聞社が発行する日刊紙フジサンケイビジネスアイ」のコラムに7月21日に掲載された原稿です。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/business/news/160721/bsg1607210500001-n1.htm

■市場の信頼崩壊、回避へ上場廃止を

 東芝が巨額の粉飾決算をしていた問題で、田中久雄・元社長ら歴代3社長の刑事責任が問われない可能性が強まっているという。

 明らかな粉飾決算だとする証券取引等監視委員会と、立件へのハードルが高いとみて起訴に慎重な検察当局の見解が対立しているらしい。

 東芝が昨年9月に公表しただけでも2008年度から13年度までの6年間に税引き前利益が2781億円もかさ上げされていた。優良企業とみられていた日本を代表する企業の巨額粉飾である。

 既に金融庁は昨年12月、東芝が「重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出した」として、73億円余りの課徴金を課した。金融庁が認定したのは2年分だけだが、それでも最終利益が1308億円過大に記載されていたとした。法律上は「有価証券虚偽記載罪」である。

 ところが、粉飾の事実はあるのに罪を問うべき「犯人」がいない、という不思議なことになっているというわけだ。

 歴代3社長は「チャレンジ」など営業の尻をたたいたが、粉飾を直接指示したことはないと主張しているもようだ。実際に粉飾を指示したことが分かる確定的な証拠も検察は手に入れていないようだ。当事者に否定されては到底、裁判が維持できない。

 では、誰が巨額の粉飾を行ったのか。社長の意向を忖度(そんたく)して「会社ぐるみ」で数字を作ったというのなら、逃げようがない。東芝という会社を上場廃止にするほかないだろう。

 東京証券取引所は昨年9月の段階で東芝を「特設注意市場銘柄」に指定している。東証は「(虚偽記載を行った場合であって、)直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」に上場廃止にすると定めている。その「秩序維持」が困難かどうかを見極める「執行猶予」の期間として定められているのが「特設注意市場銘柄」だ。

 金融庁など霞が関は、日本を代表する企業である東芝上場廃止にすることだけは避けたいと考えてきたフシがある。東芝の事業には防衛関連も原子力もある。上場廃止で信用不安が起きれば破綻しかねない。

 だからこそ、トップが指示をして虚偽記載させたという「個人の責任」にしたかったのだろう。オリンパスの巨額損失隠しでは、経営者が逮捕され、責任を認めて執行猶予付き有罪となった。ところが、東芝のトップは頑として責任を認めていないようなのだ。

 個人の犯罪なら、逮捕起訴が当然。会社ぐるみということになれば、上場廃止が避けられない。起訴もされず、上場廃止にもならなければ、東芝東芝の元経営者にとっては願ってもない話かもしれない。

 だが、そうなれば、世界の投資家は日本の株式市場のいい加減さに心の底からあきれることになるだろう。金融庁東芝を守ることで、日本の資本市場の信頼をぶち壊すことになるということを真剣に考えるべきだろう。

2016-07-20

「1億円以上の報酬をもらった社長・役員」の数が過去最高を更新!一位はやっぱりアノ人でした

| 12:35

現代ビジネスに7月20日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49225

最高額はやっぱりこの人

3月期決算企業の株主総会が終わったが、今年も多額の報酬をもらった企業経営者が大きな話題になった。

役員報酬額の最高はソフトバンクグループのニケシュ・アローラ元副社長。64億7,800万円という金額は、1億円以上の報酬開示が始まった2010年3月期以降の最高額となった。

有価証券報告書によるとソフトバンク本体から得た基本報酬は9900万円だったが、米国子会社で基本報酬8億4500万円と賞与36億3600万円、株式報酬18億7100万円を得た。さらに買収したスプリントでも1100万円の基本報酬と1600万円の株式報酬を得ている。

孫正義氏が会社から受け取ったのは基本報酬の1億800万円と賞与の2200万円で、アローラ氏はこれをはるかに上回る金額を得ていた。しかも、2015年6月に代表取締役副社長に就任する前の半年あまりで165億円にのぼる報酬を得ていたことも明らかになった。さらに、孫氏の後継者という触れ込みだったアローラ氏だが、6月22日の株主総会で突如退任するというオマケまで付き、世間を驚かせた。

アローラ氏の巨額の年間報酬の記録は、しばらく更新されないに違いない。

トヨタ自動車で昨年、外国人としては初めて副社長になったディディエ・ルロワ氏の報酬も話題になった。トヨタ本体から基本報酬として1億2800万円、賞与として4億1500万円を得たほか、欧州子会社からも基本報酬として3400万円、賞与1億1800万円を得た。

ルロワ氏はフランスのナンシー工科大学を卒業後、仏自動車大手のルノーに勤務していたが、1998年にトヨタに移り、欧州子会社の社長などを務めてきた。

日本企業でも経営層のグローバル化が進んでいるが、報酬も欧米並みの水準を支払うケースが増えているわけだ。

検討した日本人社長は誰?

もっとも、トヨタの場合、話題を呼んだのは、ルロワ氏の報酬が、社長の豊田章男氏の3億5100万円(基本報酬1億200万円、賞与2億4800万円)を大きく上回っていたからだ。トヨタの役員には1億円以上の報酬を得ている人が8人いるが、ルロワ氏が圧倒的なトップだった。

2010年3月期に報酬1億円以上の役員の個別開示が始まった際、トヨタで対象になったのは張富士夫会長ら4人で、金額も1億800万円から1億3200万円だった。この6年の間に対象人数も倍増し、金額も大きく増えた。取締役の報酬で見る限り、日本企業も欧米に近づきつつあると言えるだろう。

東京商工リサーチが6月30日時点で有価証券報告書が出ていた2442社を対象に調べたところ、報酬が1億円以上だった役員は414人。1億円以上の報酬を得た役員がいた会社は211社だった。昨年は413人だったので、1人上回って、かろうじて過去最多になった。会社数は212社だったのでむしろ1社減っている。

ここで鮮明になったのは、開示が始まって以降、急増していた1億円以上の報酬が横ばいになったことだ。2015年3月期はアベノミクスによる円安効果で一気に企業業績が改善するなど、高額報酬が支払われる素地があった。今年は、株価の上昇が一服し、企業業績の改善ペースも鈍化したことから、高額報酬を得る人の増加が止まったとみていいだろう。

実際、東京商工リサーチの調べによると、414人のうち、昨年から連続で1億円以上だったのは307人。107人が新たに開示対象になった。逆に言えば、昨年1億円以上を得ていた人100人以上が「陥落」しているわけである。資源価格の大幅な下落で減損を余儀なくされた総合商社などで、高額報酬の役員が激減している。

同じ調査によると、高額報酬のベスト10のうち、2位はソフトバンクグループのロナルド・フィッシャー氏(20億9600万円)、3位はアオイ電子の大西通義・元会長(11億6800万円)だった。上位常連のカルロス・ゴーン日産自動車社長は4位で10億7100万円だった。

大幅なリストラによって業績が回復してきたソニー平井一夫社長は昨年の3億2600万円から倍以上に増加、7億9400万円と8位にランクインした。日本企業でも外国人経営者だけでなく、多額の報酬を得るようになってきているわけだ。

高額化はますます進む

報酬の個別開示は、リーマンショック後に欧州で金融機関の高額報酬が批判にさらされたのをきっかけに強化された。グローバル規制に平仄を合わせる中で日本でも金融庁が導入に踏み切った。

2009年に制度導入を決めた際には、1億円ならば開示対象になる企業はほとんどない、という判断だったとされるが、実際には都市銀行などにも1億円の報酬を得ている役員がいた。

当初は開示制度に対する批判もあったが、結果的に、開示をしたうえで高額報酬をもらうことを躊躇する企業経営者が減少。結果的に高額報酬が広がってきたとみることもできる。2013年3月期には175社301人だったものが、2014年3月期には191社361人に拡大。2015年3月期以降は200社、400人を超えた。

グローバル化が進む中で、欧米の経営者が日本企業の取締役会に加わるケースは今後も進むとみられる。少なくともグローバル経営を標ぼうする会社では、取締役報酬は高額化が進んでいくだろう。

一方で、欧米では、経営者の高額報酬に対する批判も強まっている。株主総会で個別報酬について賛否を聞く「セイ・オン・ペイ」が制度として普及。反対票が賛成票を上回るケースが相次いでいる。反対票が上回っても支払いを拒否する権限はないものの、翌年以降の報酬を決める際に経営陣への圧力になることは確かだ。

日本では、こうした「セイ・オン・ペイ」の制度がないほか、欧米企業に比べて業績連動の報酬になっていないケースが少なくない。業績が悪化しているにもかかわらず、固定で報酬を得ていることが多く、今後問題になりそうだ。

また、業績悪化や不祥事などによって会社に損害を与えても、過去支払った報酬を返還させるルールなども導入されていない。報酬額が欧米並みになってくるに合わせて、欧米並みの厳しい制度も導入を検討していく必要がありそうだ。

2016-07-19

技術革新などの“外圧”で働き方は変わっていく 女性活用ジャーナリスト 中野円佳さんに聞く

| 11:50

日経ビジネスオンラインに7月15日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページhttp://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/071300018/

 就任以来、「女性活躍の促進」を掲げる安倍晋三首相。昨年には女性活躍推進法を成立させるなど、様々な施策を打っている。一方で、保育所の待機児童問題が世間の批判を浴び、対応を迫られている。企業が人手不足に喘ぐ中で、女性の働き方は今後どう変わっていくのか。働きながら大学院に通い、2児を育てる女性活用ジャーナリスト、中野円佳さんに聞いた。

女性の側も強気に要望できるように

安倍晋三首相は2012年末の政権奪還以降、「女性活躍促進」を政策の柱のひとつとして掲げてきました。企業での女性の働き方などに変化は出ているのでしょうか。

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中野:もちろん企業によって取り組みの差は大きいのですが、女性が活躍できるような職場にしなければいけないという世の中の機運は高まったように思います。昨年夏に女性活躍推進法が成立し、様々なシンポジウムが開かれるなど、ムードは変わってきたと思います。

 もうひとつ、アベノミクスの成果というよりも団塊世代の退職が大きいと思うのですが、職場が急速に人手不足になったことで、女性の働き手を取り巻く環境が変わってきました。企業も優秀な女性には残って欲しいので、制度整備に前向きに取り組むようになっています。また、働く女性の側も企業に対して強気に要望できるようになってきたのではないでしょうか。

 もっとも、本質的にダイバーシティ(多様性)を求めて女性に活躍の場を与えようとしているのか、というとやや疑問なところはあります。新卒の採用では、もはや女性を積極的に採らないと、数がそろわないという事態に直面している企業が多いようです。

「マミートラック」へ変更されてしまう問題

女性の場合、出産と共に退職するケースが非常に多かったわけですが、そうした中で、出産しても働き続けることができるようになりつつあるのでしょうか。

中野:私が著書の『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』を書くための調査をしていた2012年ごろは、大企業でバリバリ働いていた女性が子どもを生むこと自体がまだまだ珍しいケースだったと思います。職場の中でパイオニアにならなければいけない。一方で上司もどう対応したらよいか分からない。通常のキャリアではなく責任の軽い仕事に回す、いわゆる「マミートラック」に振り替えるといったことが起きていました。

 女性の側も将来を描けずに、「もうこんな会社辞めてやる」と言って会社を去っていたように思います。それが2014年くらいから、徐々に変わってきたように感じますね。女性の側も出産第一号ではなくなり、もう少しこの職場で頑張ってみようかと思うようになっているのではないでしょうか。

保育園の質が低下しても、預けるしかない

女性が働くためのインフラとして保育園の整備問題が大きく取り上げられています。

中野:待機児童問題は、保育園を増やすという量の問題もありますが、質の問題も大きい。保育園の設置基準が行政によって緩和されることで、質が下がっている部分も確実にあります。ただ、一方で、量が絶対的に足らないから選択肢がなく、質の良い保育園を選べないという問題もあります。

 お母さんたちと話していると、本来は入れたくない保育園なんだけど、そこに入れないと働けないから仕方がない、という声をしばしば聞きます。本来なら子どもにとっての環境などを第一に考えるべきなのでしょうが、目をつぶって預けるしかないわけです。

解決方法はありますか。

中野:両親が判断するための、情報公開をもう少しきちんとすべきではないでしょうか。例えば、親からのクレームを受けた件数や内容、それにどう改善策を打ったかといったネガティブ情報はほとんど手に入りません。ケガなどの事故の件数もほとんどわかりません。もちろんすべてが保育園側に責任があるわけではありませんが、情報自体が出てきません。口コミで真偽不明の情報が広まっているのが実情です。

情報プラットホームの整備が必要というわけですね。

中野:はい。あるいは第三者による評価の仕組みなどがあっても良いのではないでしょうか。

ベビーシッター代を経費として認めよ

ベビーシッターの費用を経費として認めるべきだ、という主張もされていました。

中野:フリーランスとして働く場合、自分が働くために子どもをベビーシッターに預けるので、それは当然経費として認められるべきだろう、と感じます。納税申告も自分でしているわけで、経費として所得控除されるのは分かりやすいですね。一方で、会社に所属している場合、例えば土日に出社せざるを得なかった場合などは、会社が全額もしくは半額を補助すべきなのではなかと思います。会社員の場合、一般的には確定申告をしていないので、経費控除と言ってもピンと来ないのではないでしょうか。

日本の場合、女性が働く場合に、様々な文化的な摩擦があるようにも思います。

中野:女性が活躍できるように、女性の働き方を変えるというのは、本当はおかしいのではないでしょうか。日本社会全体での働き方が変わることで、女性も男性も働きやすくなり、子育てや生活を楽しむ余裕ができるようになるべきです。女性が働きやすいように会社の一部の仕事だけが変わり、他は従来通りということになると、マミートラックの拡大版でしかありません。大半の女性は限定正社員として働いて、一部の総合職がバリバリ働くというのでは、今までと何も変わりません。会社全体、社会全体の働き方を変える必要があるのです。

「長時間働くのは止めてみろ」と経営者が言うべきだ

残業を規制し、働く時間を短くすることが問題解決につながる、という主張もあります。

中野:働く時間を規制すればよいというものではないとは思いますが、企業の中に、長時間フルコミットしないと成果が上がらない、という固定観念がこびりついているのも事実です。とくに現場の管理職層は、働く時間を短くすれば、それで売り上げが落ちるのではないか、と恐れるわけです。いや、仮に売り上げが落ちても良いから長時間働くのは止めてみろ、と経営者が言う必要があります。現場の管理職に任せていたら、絶対に長時間働く方が良い、ということになってしまいます。

今年は、デパートの伊勢丹が1月2日を休みにして話題になりました。

中野:そうですね。SCSKもインセンティブを与えて残業削減に取り組んだ会社ですが、結果、業績は下がらなかった。実は長時間労働が会社のためになっているか分からないわけです。企業は経営者のリーダーシップで思い切って働く時間を削減する実験してみることが重要です。経営者がやらないのならば、国が規制を加えるというのもありだと思います。

厚生労働省の「働き方の未来2035〜一人ひとりが輝くために」懇談会のメンバーとして議論に参加されています。20年後の働き方はどう変わっているのでしょうか。

中野:ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の発達によって、仕事のやり方が大きく変わるだろうと痛感します。遠隔地を結んだリモートワークが当たり前になったり、移動がすごく簡単になって、「いつでも、どこでも」という働き方が当たり前になるかもしれません。そうなると、東京への一極集中が緩和され、より豊かな生活環境や子育て環境がある地域に移住する人が増える。そうなれば、待機児童の問題も解決されているのではないでしょうか。

 企業や日本社会が内から変わることにも期待したいのですが、懇談会で議論をしていると、どうやら技術革新など外からの圧力によって働き方が変わっていくのではないか。そう感じています。