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2017-12-15

「声の大きさ」で決まる診療報酬 医師会の主張を受け入れ「本体」部分引き上げ

| 17:55

日経ビジネスオンラインに12月15日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/121400066/

 増え続ける医療費の削減がまたしても遠のくこととなった。

 政府与党は、2018年度の診療報酬改定で、薬や医療材料の公定価格である「薬価」部分は1.3%程度引き下げるものの、医師の技術料や人件費に当たる「本体」部分については0.55%引き上げる方針を固めた。財務省審議会などは医療費の増加を抑えるには「本体」部分のマイナス改定が必要だとしていたが、自民党は有力な支持母体のひとつである日本医師会の主張を受け入れた。診療報酬は2年に1度、見直されているが、「本体」部分の引き上げは6回連続。前回2016年度の引き上げ率だった0.49%を上回ることで、医師会側の「完全勝利」となった。

 診療報酬全体ではマイナス改定になる見通し。もっとも、「薬価」は実勢価格がすでに従来の公定価格を大幅に下回っており、新「薬価」はそれに合わせる意味合いが強い。政府は、2018年度の医療費の自然増加分が6300億円に達すると試算、2015年6月に閣議決定した「2016〜18年度の自然増を計1兆5000億円に抑える」という目安を達成するためには1300億円の「圧縮」が必要だとしてきた。実際には、薬価を実勢に合わせるだけで1500億円の圧縮が実現、薬価の引き下げで「財源」が生まれたとして「本体」部分の引き上げに突き進んだ。

 政府が試算する「自然増」自体が正確かどうか不透明なうえ、実勢から乖離した薬価を引き下げることで、「目安」が達成できたとする姿勢からは、増え続けている医療費を抜本的に圧縮しようという意欲はうかがえない。

 国民医療費は2015年度には42兆3644億円と3.8%、1兆5573億円も増え、過去最高を記録した。国民所得の10.91%が医療費に回っており、日本は世界有数の「医療費大国」になっている。

 国民1人当たりに直すと、33万3300円を使ったことになり、前の年度に比べて1万2200円も増えた。

 にもかかわらず、医療費負担が増えている実感が乏しいのは、国や地方による「公費」負担が大きいことや、健康保険によって、病気にかかっていない健康な人たちも「広く薄く」負担しているためだ。「患者負担」分は国民医療費の財源の11.6%に過ぎない。実際に窓口で医療費を支払っている患者の負担感はそれほど大きくなっていない。これが医療費に対する感覚を鈍らせている、とも言える。

医療費増加を問題視する声が高まらない理由

 公費負担は全体の38.9%に達している。医療費の増加は財政赤字の大きな要因の一つになっている。財政赤字の国は国債発行などに財源を依存しており、ここでも国民が直接「負担増」を感じない仕組みになっている。

 もう一つが保険料による負担。国民医療費全体の48.8%が保険料によって賄われている。うち20.6%が事業主の負担、28.2%が保険をかけている加入者の負担だ。給与明細を見ると、引かれている「健康保険料」の高さにびっくりするが、それでも国民医療費の28%分しか賄えていない計算だ。

 財源の構成を見ると、「国民皆保険が日本の質の高い医療を支えている」という主張はもはや成り立っていないことが分かる。保険では5割しか賄えていないのだ。自己負担を加えても6割である。その一方で、加入者に「薄く広く」負担を求めていることから「負担感」が実際よりも低い。国民皆保険制度は、恒常的に医療費を増やし続けるための制度、と言っても過言ではない。

 今回決まる来年度の診療報酬改定でも「自然増」の5000億円を賄うために、当然、ほぼこの割合で負担が増えることになる。保険料の引き上げで2500億円近くを賄うことになるが、そのうち1000億円は事業主負担、つまり企業が負担する。残りの1500億円は保険者の負担、つまり保険料が引き上げられることになる。

 広く薄く負担する保険料の値上げは月にすればわずかだから、今回の診療報酬改定に国民の怒りは向かない。かくして、医療費の増加にも歯止めがかからないことになるわけだ。もちろん、公費負担も、いずれ増税の形で国民の負担に回ってくるが、すぐに負担が増えるわけではないので、医療費増加を問題視する声は高まらない。

 一方で、医師の人件費引き上げは当然だ、という声も根強くある。特に勤務医の労働環境は劣悪で、不眠不休で働いている、というのだ。人件費を増やさなければ医師が確保できない、という悲鳴も聞こえる。「働き方改革を言うなら、医師の働き方も考えて欲しい」と医師会の幹部は言う。確かに一理あるようにも聞こえる。

 だが、医師が忙しいのは診療報酬が安いからではない。懸命に働いている医師に報いるべきだという「情」に訴える主張も分かるが、診療報酬を増やしたからといって、それで医師の働き方が改善されるわけではない。

 もし医師が足らないのならば、もっと医学部を増やして医師を養成するのが筋だが、医学部新設には医師会は反対だ。医師の人数を増やすことにも基本的に反対するのは医師の側である。医療費総額が変わらないのなら、医師の人数が増えると1人当たりの取り分は減る。競争は「質の低下」につながるからと反対である。

 市場原理が働くならば、医師の数が足らなければ、価格が上がる、というのが経済学の原則だ。だが診療報酬という「公定価格」と、「国民皆保険」という誰でも同一に医療が受けられる建前の仕組みによって、どんどん総額だけが膨らんでいく。もはや国民医療費の増加は止められなくなっている。

政治献金に姿を変える国民医療費

 今の仕組みの中で、医療費の増加を止められるとすれば、それは「政治力」しかないだろう。財務省審議会が打ち出した「本体部分のマイナス改定」を政府与党が本気で取り上げれば、マイナス改定が実施できたはずだ。しかも安倍晋三内閣はかつてない「強力な」リーダーシップを握っている。

 ところが、安倍内閣は、医療費の削減に本腰を入れることはなかった。それどころか本体部分を大きく増やすという逆の政策をとった。

 なぜか。それは、診療報酬改定を巡る「声の大きさ」の違いだろう。

 「医療費、政界へ8億円 日医連が最多4.9億円提供」――。12月1日付けの東京新聞にはこんな見出しが躍った。医療や医薬品業界の主な10の政治団体による、2016年の寄付やパーティー券購入などが、計8億2000万円に上ったというのだ。政治資金収支報告書に記載された国会議員政党への「政治資金」で日本医師会の政治団体である日本医師連盟(日医連)が約4億9000万円と最多だった、としていた。

 「医療費が政界へ」というのは、医療費として公費や健康保険から医師に支払われているおカネが、回りまわって政治献金となり、政治家や政党に渡っているという意味だ。

 日本医師会自民党の有力な支持母体のひとつである。自民党の政治家個人や党支部の支援でも「医師」による高額寄付が少なくない。自民党への医師会の影響力は間違いなく強い。診療報酬の「本体部分」の引き上げは、彼らの利益に直結する。それだけに、医師会や医師からの引き上げを求める声は強い。

 一方で、前述の通り、引き上げた場合に負担が増える「国民」の声は小さい。もちろん有権者選挙時には生殺与奪を握る人たちだが、総選挙も終わっており、しばらく選挙はない。それよりも、診療報酬の引き上げを実際の「負担増」と感じる人たちが少ない仕組みの中で、自民党政治家に「診療報酬引き上げはけしからん」と迫る有権者はほとんどいない。

 この医師と国民の「声の大きさ」の違いが、医療費の増加に歯止めがかからない根本的な原因とみることができそうだ。

2017-12-13

コンビニでネパール人のバイトが急増しているのはなぜか そろそろ日本が本気で議論すべきこと

| 07:29

現代ビジネスに12月13日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53819

急激な人手不足

コンビニエンスストア各社が加盟する業界団体「日本フランチャイズチェーン協会」が、外国人技能実習制度の対象として「コンビニの運営業務」を加えるよう、国に申し入れを行うという。

日本で経験を積んだ実習生に母国に帰ってコンビニ展開を担ってもらうというのが「建前」だが、深刻化するコンビニでの人手不足を解消しようというのが「本音」であることは誰でも想像がつく話だ。

最近、都市部のコンビニに外国人店員がどんどん増えているなと感じている読者も多いだろう。彼らの多くは「留学生」という資格で日本にやってきて、勉学の「余暇」に働いている「建前」になっている。

セブン・イレブン、ローソン、ファミリーマートの大手3社だけでも4万人を超える外国人が働いているとされ、すでに全店員の約5%に上っているという。

留学生が働くのは「資格外」という扱いで、週に28時間までなら働くことができる。コンビニや居酒屋は、彼らにとって最も簡単に見つかるアルバイト先だったが、最近はなかなかコンビニで働きたがる留学生が減っている。人手不足が深刻化する中で、もっと割のよい仕事がいくらでも見つかるようになったからだ。

ひと頃多かった中国人の大学留学生などはコンビニや居酒屋を敬遠し、留学生と言いながら、本音では「出稼ぎ」に来ているベトナム人やネパール人の留学生が増えている。

コンビニでバイトする日本人学生も急速に減っており、コンビニは人手を確保するのに四苦八苦している。

本来ならば、きちんと外国人労働者を雇いたいところだが、安倍晋三首相は「いわゆる移民政策は取らない」というのが基本方針で、政府も「単純労働」とみなされる分野には、外国人は受け入れない姿勢を崩さずにいる。

技能実習生という「奴隷労働」

そこで「活用」されているのが「技能実習生」制度。建設や縫製、農業など77の職種について、一定期間、日本国内で働くことを認めている。

ただし、建設技術者の実習生として日本に来た場合、他の業種などに移ることは許されない。しかも、実習なので、寮費や食費などが引かれ、最低賃金以下で働いているのが実態。

技能実習生の集団脱走などが相次いだのは、逃げて、より稼げるところへ移るのが目的だ。何せ、斡旋業者などに渡航資金を前借りしてきているケースも少なくなく、いわば「奴隷状態」で働いている実習生も少なくない。

そんな世界的にも評判がよくない技能実習制度にコンビニ業界が手を挙げるのは、他に外国人を安定的に雇う方法がないからだ。

「単純労働」とされるサービス産業の現場には、もはや日本人の若者は就職したがらず、慢性的な人手不足が続いている。

にもかかわらず、外国人は「高度人材」しか受け入れない建前になっているため、正規に雇うことができない。さらに留学生もなかなか雇えないとなると、安定的に外国人を雇えるのは「技能実習」しかない、というのが今の日本の現状なのだ。

学生アルバイトの時給は毎年最低賃金が引き上げられていることもあり、年々人件費が上がっている。東京都の最低賃金は2017年の10月から時給で958円に引き上げられた。留学生といえども、最低賃金以下で雇うのはもちろん違法だ。

一方で、技能実習生となれば、労働時間も長くできるうえ、場合によっては実質的に最低賃金以下で働かせることもできる。

コンビニの場合、コストよりも人手の確保が喫緊の課題になっているが、農業や工場の現場では「低コスト」の働き手として使われているケースが少なくない。

自らの首を絞める結果に

現在、「単純作業」と言われてきた現場を抱える様々な業種から、外国人労働者を受け入れたいという声が挙がっている。ところが政府の方針は一向に変わらない。ここへきて打ち出されている方針は、あくまで「技能実習」という便法を拡大することだ。

政府は2017年11月1日から、「介護」職を技能実習の対象に加えた。介護業界は慢性的な人手不足に悩んでおり、外国人を正規の労働者として受け入れる必要性などが叫ばれてきたが、結局、「技能実習」の対象とすることでお茶を濁した。

介護職は団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、需要が253万人に達するとする試算もある一方で、供給は215万人と見込まれており、38万人が不足するとされている。

技能実習制度でやってくる外国人は、3年の満期が来れば本国に帰るのが建前だ。深刻な人手不足で更新も可能な制度が導入されたが、働く側からみれば、将来にわたってずっと日本に住めるわけではない。短期的な労働力不足を賄うための便利な存在としてしか扱われないわけだ。

だが、母国であるアジア諸国も急速に経済発展する中で、いつまでも日本に働きにやってくる外国人を確保し続けられる保証はない。技能実習の対象職種を広げれば問題が解決出来る、という話ではなくなっている。

長期にわたって日本に住むことができず、短期的な「出稼ぎ」となれば、優秀な外国人人材がやって来なくなる、という問題もある。質の高くない外国人が増えれば、それこそ犯罪が増えたり、様々な社会問題が発生することにつながりかねないのだ。

そろそろ本気で外国人労働者の受け入れ体制を真正面から議論すべき時だろう。

政府の腰が重いのは、外国人受け入れに強く反対する勢力に、過度に反応しているためだが、実習生などを便法として使うことで、なし崩し的に質の高くない外国人がどんどん国内に入って来れば、むしろ問題を引き起こすことになりかねない。

正規で労働者として受け入れる一方で、その資格をきちんと決め、質の悪い外国人は排除することこそ、国の治安を守ることになるのではないか。

2017-12-12

「増税」「年金」「保険」で景気循環にブレーキを踏むアベノミクスの「矛盾」

| 17:52

12月12日にフォーサイトにアップされた原稿です。

 安倍晋三首相は「経済の好循環」を掲げて、円安などで潤った企業収益を「賃上げ」の形で家計に回すよう経済界に要請している。来年の春闘では5年連続のベースアップを実現するよう求め、定期昇給と合わせて「3%の賃上げ」を求めている。家計を潤わせて低迷している消費に火を付け、再び企業収益を底上げする「好循環」の起爆剤にしようとしているわけだ。

 ところがここへ来て、にわかに2018年度税制改正での所得税増税が固まった。給与所得850万円以上の人が増税されることになる見通しだ。いったん800万円で固まりかけたが、公明党内の反対意見に自民党が配慮した結果である。ともあれ、本来なら賃上げで手取りが増え、消費に回るかと思いきや、増税となれば、財布のひもを再び締めることになりかねない。これでは、アクセルを踏みながらブレーキをかけるようなものだ。

・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)→http://www.fsight.jp/articles/-/43099

2017-12-08

パイロット不足が経済成長のネックに? 影を落とす「ギルド型」人材育成

| 09:30

日経ビジネスオンラインに12月8日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/120700057/

パイロット不足が顕在化

 パイロット不足が経済の先行きに影を落とし始めた。増加を続ける訪日外国人客が日本国内で落とすおカネが、今や日本経済の下支え要因になっている。東京オリンピックパラリンピックが開かれる2020年には4000万人を受け入れる計画だが、大きなネックになり始めているのがパイロット不足。羽田空港の着陸回数を増やすなど大幅な増便を見込むが、飛行機を飛ばそうにもパイロットがいない、ではお話にならない事態だ。

 国土交通省は4年以上前から将来のパイロット不足を懸念してきた。2013年時点では国内のパイロットは5686人だったが、2022年には6700人から7300人が必要になる、という試算を出していた。当時、年齢分布で見ると44歳から48歳だった層にパイロット数の「ヤマ」が存在しており、彼からが退職する15年から20年後にパイロット不足が顕在化する、というのが国交省の「危機感」だった。

 ところが、このところの日本旅行ブームや景気の底入れで旅客機需要が大幅に増加。早くもパイロット不足が顕在化している。

 10月31日のこと。北海道地盤とする地域航空会社のエア・ドゥ(AIRDO)は11月の羽田札幌線など34便を運休すると発表した。理由は機長不足。8月と10月に機長2人が自己都合退社した結果、乗員の人繰りができなくなったためだった。

 辞めた2人はボーイング737の機長で、1人は別の航空会社に転職したことが分かった。エア・ドゥの737の機長は現在37人いるが、本来ならば40人程度必要だといい、2月も人繰りがつかずに26便を運休することを決めた。ギリギリの人繰りで運行便をこなしており、機長が病欠したことで2016年にも運休便を出した。高級機の機長は機種ごとにライセンスが決まっているため、他機種への異動は簡単にはできないことも背景にある。

 日本航空機開発協会の資料によると、2016年の世界全体の航空旅客数は37億9300万人。2011年は28億400万人だったので、5年で10億人分の需要が増えた。当然、これに伴って旅客機数も急速に増えており、深刻なパイロット不足の要因になっている。

 特に、日本の航空旅客は、東日本大震災で落ち込んだ2011年を底に急回復している。特に日本にやってくる訪日外国人客が2013年ごろから急増している。アベノミクスによる円安や、入国ビザ要件の緩和、免税品の対象拡大などが起爆剤になった。

羽田成田の両空港はすでにフル稼働

 日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2017年1月から10月までの訪日外国人数は2379万人。昨年1年間の2403万人と10カ月でほぼ肩を並べた。今年は2800万人前後になる見通しだ。東日本大震災前のピークは2010年の861万人だったので、何と2000万人も増えたことになる。

 東京オリンピックパラリンピックが開かれる2020年は、オリンピック目当ての旅行者が上乗せされることもあり、政府が掲げる4000万人という目標も決して夢ではない。問題は、それだけの人数を日本に運んでくるインフラが整うかだ。

 羽田成田を合わせた年間の発着枠は2010年の52万3000回から2014年度には74万7000回に増えたが、すでにフル稼働の状態になっている。2020年にどこまでこれを増やせるかが焦点で、羽田の離着陸ルートの見直しなどが進められている。また、地方の空港の活用拡大なども動き出している。

 だが、空港の発着回数や航空機を増やせたとしても、それを飛ばすパイロットがいなければ、どうしようもない。

 国交省はパイロットを養成する航空大学校の入学定員を2018年度から108人程度と、それまでの1.5倍に増やした。また、東海大学がANAホールディングスと連携して、私立大学初のパイロット養成コースを開設している。これまで「あこがれの職業」として狭き門だったパイロットへの門戸を大きく開こうとしているわけだ。それでも年間300人程度のパイロットを生み出すのが限界だと言われる。

 問題は、いくら養成機関を整えても、パイロットになりたいという若者が増えなければ意味がないことだ。圧倒的な人手不足の中で、時間とお金をかけ、厳しい訓練の末にようやく機長になれるパイロットに挑戦しようという若者が減っているというのだ。他業種との人材の取り合いに直面しているわけだ。

 そのうち資金面でのネックを解消しようという取り組みも始まった。パイロット養成課程をもつ私立大学や専門学校など6機関が、パイロットを目指す学生に1人500万円を無利子で貸し出す奨学金制度を2018年度から始めると発表したのだ。6機関合わせ1学年25人の学生が対象になるという。果たしてこれで若者を引き付けることができるかどうか。

「人手不足倒産」が現実味を帯びる

 航空会社からすればパイロット不足は死活問題だ。特に安さが売り物のLCC格安航空会社)はパイロット確保に今後も四苦八苦することになりそうだ。LCCの間ではパイロット争奪戦が始まっており、より良い条件を提示して機長などパイロットを引き抜く動きが出始めている。需要があるのに飛行機を飛ばすことができなければ、みすみす収益機会を失うわけで、「人手不足倒産」が現実味を帯びる。価格勝負のLCCでは人件費の増加を吸収できるだけの体力がなく、欧州ではLCCの破綻が相次いでいる。

 パイロットのような専門資格が必要な職業では、しばしば人材育成政策の失敗が起きる。日本ではまだまだ「資格を取得すれば、間違いなく就職でき、将来も安定」という前提で資格制度が運用されている。門戸を閉ざして既得権者を守る職業別組合を彷彿とさせる「ギルド型」と言っていいだろう。

 資格を持っているのに失業する事態を防ぐために、「需要を賄うだけの人数を供給する」仕組みに固執するわけだ。パイロットはまさしくその典型で、航空大学校や各航空会社の自主養成など「狭き門」を維持し続けてきた。航空会社同士の本格的な競争がないから成り立ってきた仕組みとも言える。

 ところがLCCの新規参入で状況は一変する。新たにパイロットを必要とする「需要」が生まれたのだ。そこに世界的な景気の底入れによる航空機需要が重なった。圧倒的にパイロットが不足し、それまでの予定調和型の人材育成では間に合わなくなったのだ。

 かと言って、パイロット育成を完全に自由化する方向には行かない。東京オリンピックパラリンピックが終わり、仮に景気後退が始まれば、再びパイロット余剰が起きないとも限らないからだ。余剰が起きれば、リストラなどで既存のパイロットが不利益を被ることになる。また、競争が厳しくなれば、今は増え続けている給与が、反転することにもなりかねない。

 欧米の航空会社の場合、自国のパイロットだけでなく、外国人パイロットを積極的に受け入れ、人数不足を補っている。ところが日本の航空会社で働く外国人機長はまだまだ少ない。パイロットは本来、国際的に通用する職業で、企業間の移動もスムーズなはずだが、日本はその埒外になっている。航空会社の経営層や管理職層が日本人が中心で、なかなかグローバルな経営ができていないことも一因だ。

 日本の航空会社が飛行機を飛ばせなくても、海外の航空会社に発着枠を開放すれば旅客増は賄える、という声もある。だが、はっきりしている2020年に向けた旅客需要の増加を、日本の航空会社として取り込むことができなければ経営としては失敗だろう。せっかく日本で開く大イベントの経済効果を享受できなければ、開催する意味が半減する。

 少子化が進む中で、今後もますます採用難は続くことになる。公認会計士や弁護士など、似たような「ギルド型」の職業でも、試験突破を目指す若者の減少が顕著で、危機感を募らせている。資格取得までの時間と費用、そして労力を嫌う若者が増えたからなのか、その資格職業に魅力が薄れているのか。2020年以降をどう見据えて、パイロットの育成体制を整えるかも、早急に考えなければならない課題だろう。

2017-12-06

自民党はなぜこんなにも医者に甘いのか 医療費、またしても増えそうです

| 08:54

現代ビジネスに12月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53732

薬価下げ分を医者に回す

またしても医療費は増え続けることになりそうだ。

自民党の「医療問題に関する議員連盟」は12月5日に国会内で総会を開き、2018年度の診療報酬改定で、医師の人件費などにあたる「本体」部分を引き上げるよう求める決議を採択した。自民党の衆参両院の国会議員など240人余りが出席しており、圧倒的多数の議席を握る自民党の政治力で引き上げが決まる見通しだ。

すでに3日付けの朝日新聞は「診療・入院料引き上げへ 報酬改定、薬価下げ財源」と見出しに取った記事で、政府が「本体」部分を引き上げる方針を固めたと報じた。

薬価下げを財源とするという意味は、政府は来年度予算で社会保障費の自然増が6300億円と見込まれるものを、5000億円に抑える目標を掲げてきたが、薬価の引き下げで1千数百億円が捻出できるので、本体を引き上げても数字は達成できる、という理屈だ。

薬価を下げた分を医者に回せ、と言っているわけで、結局は来年度以降も医療費は増え続けることが確実になった。

議員連盟の会長を務める高村正彦副総裁は、総会で「いつでもどこでも良質な医療を受けられる『国民皆保険制度』を守るため、しっかり勝ち抜いていかなければならない」と述べたと報じられたが、医師の給与を引き上げることが国民皆保険制度を守ることになるのだろうか。

診療報酬が上がれば、会社員や企業が支払う健康保険の掛け金が上がる。病気になった人だけでなく、保険加入者全体が負担することになるのだ。また、国費として投入される分も、いずれは国民の負担となって戻って来る。

止まらない医療費負担増

そうでなくても健康保険料は高い。中小企業が加入する「協会けんぽ」の保険料率は労使合わせて10%を超す道府県が少なくない。

健康な時に支払う保険料負担がどんどん大きくなれば、加入を忌避する人たちが増え、かえって国民皆保険制度に穴が開く。実際、国民健康保険の無保険者問題はなかなか解決しない。

国民医療費は増え続けている。2015年度42兆3644億円と3.8%、1兆5000億円も増えた。保険料の負担は4.0%増加、国庫と地方を合わせた公費負担も3.9%ふえている。患者の自己負担も2.9%の増加だった。

2016年度の概算医療費は前の年度に比べて0.4%減ったが、これは前年度の伸びが極端に大きかった反動に過ぎない。

2015年度に9.4%も増えた調剤費が2016年度は4.8%減となった。高額の医薬品が大きく増えて調剤費が増大したのに対して、緊急で薬価を引き下げた結果だった。

来年度は2年に1度の薬価改定の年に当たっており、実勢価格に対して高過ぎる薬価の引き下げは当然に行われる。本来ならば、それを医療費全体の削減につなげるべきなのだが、「本体」の引き上げに回されるわけだ。

医師のための自民党

これでは「国民」よりも「医者」を向いていると言われかねないが、なぜ、自民党は、医者に甘いのか。

「医療費、政界へ8億円 日医連が最多4.9億円提供」という記事が東京新聞の12月1日付けに載った。

「医療や医薬品業界の主な10の政治団体が2016年、寄付・パーティー券購入などで計8億2000万円を国会議員政党に提供していたことが、30日に総務省が公開した16年分政治資金収支報告書で分かった」としている。日本医師会の政治団体である日本医師連盟(日医連)が約4億9000万円と最多だった、という。

「医療費が政界へ」というのは、医療費として公費や健康保険から医師に支払われているおカネが、回りまわって政治献金になっているという意味である。

政治家や政党に寄付することで、診療報酬「本体」の引き上げを実現しようとしているようにも見えるわけだ。カネの力がモノを言っているということだろうか。

もともと、財務省審議会は11月に診療報酬を「マイナス改定」するよう求めていた。しかも求めた診療報酬の改定幅は「2%台半ば以上のマイナス改定」だった。薬価が大幅に引き下げれても、本体が引き上げられてしまえば、2%台半ばには到底達しない。

国の財政を考える財務省の意向や、保険料を引き上げたくない健康保険組合連合会などの引き下げ意見などをすべて無視する形で、本体部分を引き上げることになりそうだ。

人の命を預かる医師の職場が過酷であることは間違いない。本体を引き上げることで、待遇改善したいという気持ちも分からないではない。だが、猛烈な勢いで増え続ける医療費と、それに伴う国民負担の増加を、医師たちは「当然の事」だと思っているのだろうか。

このまま医療費が増え続ければいずれ、国家財政も家計も、企業の健保組合も破たんしてしまう。それこそ、国民皆保険制度や日本が誇る医療制度の崩壊につながりかねないのではないだろうか。