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2013-06-17 アベノミクス本を読む5 『日本の景気は賃金が決める』

吉本佳生『日本の景気は賃金が決める』


 また、アベノミクス本の紹介です。

 たらたらと書いているうちに、アベノミクス自体がどうなっちゃうかわからないんですが、つづけます。


日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書) 今回は、吉本佳生『日本の景気は賃金が決める』(講談社新書)です。

 以前、小幡績リフレはヤバい』をいちばんわかりやすい本だと紹介しましたが、そのときに1つ留保をつけました。

 実は、ぼくとしてはこの吉本のほうがわかりやすいと思いました。

 ただし、それはきちんと本を読んでいけるというタイプの初心者の場合です。

 小幡のは、ざっくりとリフレ、とくにインフレとはどういうことかを語り口調で書いていて、経済を勉強すること自体になれていないという人は、たぶん小幡の方が入門しやすいと思いました。

 吉本のは、定義や概念をきっちりとおさえて、積み重ね、すすんでいく、という作業をしっかりやっています。だから、これは勉強しようと思って読むと勉強になると思います。だけど、その分、読書体験が本当にないという人だとちょっと歯ごたえがあるかもしれないのです。いや、読めないというほどじゃないですけどね。*1


 吉本は、「アベノミクス修正派」とでもいえるでしょうか。

 原因分析は、ぼくらサヨクにとても近い。

 タイトルから察せられるように、賃金デフレ、なかでも中小零細、女性、若者、非正規などの賃金格差が日本の長期不況の「根本原因のひとつ」(吉本p.12)だというんですから。

 だけど、最低賃金引き上げや、非正規の正規化などの政策には反対するのです。

 政策的解決は、“アベノミクスってよくない点が多いんだけど、まあとりあえずその枠組みは承認するとして、それをもうちょっと修正すればこんなことができますよ”っていうフレームになっています。


第1章にみるていねいな解説

 最初に、この吉本の本が、いかにていねいな解説をしているか、ということを1章を使ってみていきましょうか。


 1章は「日本経済の現状」というタイトルです。いわばデフレ・不況論です。

 アベノミクス金融政策の解説は3章なんですが、1点だけ一番大事な点を1章でふれます。それは他のアベノミクス本にもあるとおり、アベノミクスは、インフレ期待をつくることが焦点であると核心部分を簡潔にふれます。


 まず、景気や経済政策について考えるために、一番最初にわかっていただきたいことがあります。心理的な要因がとても大きな影響を及ぼすという点です。そして安倍政権経済政策は、この心理面をとても重視しています。(吉本p.30)

日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書) 逆にいえば日本経済デフレ予想(期待)がまん延しているというわけですが、この期待とか予想が大事なんだということを、けっこうくわしく書いています。インフレ期待の形成はどの本でも核心問題としてふれていますけど、それをシロウトむけにけっこう分量を割いて書いてるんですね。

 こうして、デフレ予想をくつがえすことが経済の焦点であるいう感じにして、日本経済デフレ的現状がどうなっているのかについて書いていきます。


 吉本は、いつからデフレデフレ不況が始まったのかを説明します。そこで、名目GDPが下がり続けはじめたところはどこかをこの問題のキモにしています。


この名目GDPは、経済の調子がよほど悪くないかぎり、どの国でも右肩上がりで増えるものです。(吉本p.34)

 これを基準にすると、吉本は1998年からが日本のデフレデフレ不況の始まりだとしています。岩田規久男なんかは、賃金問題とデフレを切り離したがりますから、98年がデフレ不況のはじまりだとすると都合が悪くなるのでこの起点を認めないでしょうね。ちなみに、日銀は1999年を最初のデフレの起点にしています。


[補足・追記]2013.6.18

デフレの定義はコメント欄やブコメ欄で指摘があった通り。吉本はデフレと不況を分けて考えていて、本書でも「物価下落+経済成長率の鈍化=デフレ不況」だと述べて「デフレ」ではなく「デフレ不況」だとしている。ぼくの間違い。申し訳ない。



 そして、景気のいい悪いを何で判断するかという話にうつり、実質GDPの話をはじめます。吉本はここで名目GDPと実質GDPのちがいをざっくりと説明します。



 名目GDPは、金額でみた経済活動規模を示すものです。そして、「金額=価格×数量」です。だから、名目GDPが増えたときには、(1)価格の上昇か、(2)数量の増加が原因のはずです。

 日本の経済活動で生産されたモノやサービスが増えて、私たちがより豊かになったとか、私たちの経済活動が成長(拡大)したというためには、(2)数量の増加が起きていないとダメで、(1)価格の上昇は、実質的には経済活動の成長ではない。これが、GDP統計での考え方です。

 そこで、「名目GDPの成長率」から「物価上昇による部分」を取り除き、「数量の増減率」を計算します。これを「実質GDPの成長率」と呼びます。単に「経済成長率」とか「GDP成長率」というときには、この実質GDPの成長率を指すことがふつうです。

 毎年の規模をみるときは、名目GDPをみるのがふつうで、他方、成長率をみるときには実質GDPをみるのがふつうだという話で、慣れないと読むのがややこしいデータです。(吉本p.35-36、強調は原文で、原文は傍点)


 どうですか。

 こうしてぼくらは名目GDPと実質GDPのちがいをざっくりと理解できました。文章としては面倒くさい気がしますけど、ちゃんと読めばちゃんとわかるように書かれています。

 こういう経済の知識の基礎を、「わかっているもの」にせず、ちゃんと書いてくれているアベノミクス本はそんなにありません。っていうか、ほとんどありません。っていうか全然ありません。


 しかも実はこの一文のあとに、名目GDPと実質GDPの話は、専門家でもどっちを使ってどう経済を読むのかは複雑な論争があるんですよ、と一言書いています。ざっくりした定義では、必ずよせられるであろう反論や疑問をかわして、「そういうことは今は気にしなくていいよ」と言ってくれているのです。なかなかいい配慮ですね。この本にはそういう「まあ今はこの程度わかっておけばいいよ」という配慮が随所にあります。初心者は深追いせずにどこまで知っておけばいいかをきっちりと示してくれているのです。

 これはなかなかすごいことだと思います。

 だって、それって、かなりデキる教育者の目線ですよ。

 学者的視点しかない人は、そこで調子にのって深々と説明しちゃったりするんです。ピタッと止めるのがすばらしい。


 ところで、さっき、“名目GDPはよほどのことがないかぎり上がる”と吉本は説明していましたが、そういう統計・数字のざっくりした掴み方を書いているのも、本書のすぐれた特長です。

 だって、シロウトには経済数字なんてどう読んでいいかわからないですもん。

 新聞に経済成長が年1%って出たら、それって多いのか少ないのか、よくわからないですよね。吉本の本によれば、1997年から2011年までに年平均で0.5%の経済成長率になっていますが、それって多いのか少ないのか。

 吉本はアメリカ中国を例にとって、経済成長率がどれくらいならいいのかを示します。そのうえで、日本の現状をこう書きます。


筆者は、日本経済がクリアすべきハードルは、アメリカ経済のハードル(年三〜四%)より高くてもおかしくないと考えます。……だからこそ、年平均〇・五%でしか成長できなかった一九九八年以降の不況は、本当に深刻なものであったと感じています。(吉本p.38)


 このあと、デフレはなぜ悪いのか、という疑問につきあっています。

 物価が下がるなら快適な消費生活をおくれるのではないか、という素朴な疑問があります。あるいはその変種ですけども、アベノミクスデフレを脱却し物価を上げることだとするなら、物価が上がったら喜ぶ報道をすべきなのに、そうなっていないのはなぜか、というこれまた素朴な疑問につきあいます。

 ここから、吉本はデフレと不況を切り分けるべきだ、デフレ脱却景気回復は別、という話にすすみます。その問題は1章ではなく4章で対応されるのですが、いずれにせよ、素朴な疑問から入り、それを単に「かわす」とか反射的に回答するのではなく、より深いラジカルな議論へと導いています。非常にすばらしい。


 金融政策のところも、日銀のそもそもの役割や貨幣とはなにかからきちんと論じてます。

 どうでしょう。とてもわかりやすく書かれた本だということがご理解いただけたでしょうか。


賃金論――やはり2000年代の好景気の分析をしている

 さて、「アベノミクス賃金をどう上げてくれるのか?」という話を、本書はどう書いているでしょうか。


 吉本は、この問いへのマスコミ的解説を批判します。


 アベノミクスの柱としてインフレ目標政策が注目されたとき、テレビのいくつかのニュースでは「インフレ目標を掲げて金融緩和を強めると、円安の効果もあって、企業の利益が増えて、やがて賃金も上がる」と解説されていました。しかし、そんなに簡単な話ではありません。(吉本p.151、強調は引用者)



 吉本がこの反証としてもちだすのは、やはり2000年代の「景気回復」期の賃金抑制です。やっぱりここに行き着くわけです。


f:id:kamiyakenkyujo:20130617023005j:image:w360:right 吉本は、政府の『平成二四年版労働経済白書』を引いて、たしかに1990年代前半までは企業利益の増加が賃金上昇に結びついたとします。しかし、同じ白書で1998年以降は何回かあった景気回復期には企業利益が増えても賃金が上昇せず、むしろ下落したと指摘されていることをあげ、2000年代半ばの事例を典型例としてとりあげます。(右上図、吉本p.153)


 そして、このデータにさらに詳しい分析を加えています。

 右下図(吉本p.159)についてこう書いています。


 すべての「一般労働者の年収」の推移をみてみます。二〇〇二年の全産業での一般労働者の年収を一〇〇としてグラフ化しています。中央の薄いグレーの折れ線グラフは、「全産業」での平均です。企業利益が大幅に増えたという意味では景気回復期だったにもかかわらず、全産業での賃金は下落傾向だったことがわかります。

 その上側に位置する「製造業」の賃金は、もともと全産業の平均よりも高く、景気回復期の前半ではじわじわと下がりましたが、円安景気を反映して、二〇〇五年から〇六年にかけて跳ね上がりました。日本銀行金融緩和アメリカの住宅バブルにつながったことが、アメリカの輸出で稼ぎやすい製造業賃金にとってはプラスに働いたのです。

 製造業とは対照的に、「卸・小売業(図中では、卸売業、小売業)」の賃金は、〔…中略…〕〇五年から〇六年にかけて、製造業賃金とは反対に、大きく下落しています。

 円安景気によって製造業では企業利益が増え、それが賃金にも好影響を与えましたが、同時に金融緩和と円安の副作用が、資源価格高騰を価格に転嫁できない卸・小売業を襲い、そちらの賃金を大きく下げたのでした。(吉本p.158-160)



f:id:kamiyakenkyujo:20130617023114j:image:w360:right このデータを信じるなら、たしかに製造業では、アベノミクス的な論理が働いたことになります。しかし、卸・小売ではそれは働かなかったことになります(というか逆に働いた)。

 


 また日本では、輸出によって利益を伸ばしやすい大企業製造業で働く人よりも、中小零細の企業やお店で働く人のほうが圧倒的に多数派です。だからこそ、企業全体で利益が大幅に増え、製造業労働者賃金が上がった時期だったにもかかわらず、日本全体での賃金は少し下がりました。(吉本p.160)


 吉本は、次のように結論づけます。



 賃金上昇と賃金格差縮小は、いまの日本の景気回復にはどうしても必要な条件です。そもそも、賃金が伸びないなら、安定的な物価上昇も続きにくい。筆者はそう考えます。〔…中略…〕そして、金融緩和によって誘導した円安で企業利益が増加しても、賃金が上がるとはかぎりません。一九九八年以降、そんな現象は起きていないからです。

 こうして具体的に検討してみると、大胆な金融緩和景気回復につながるかどうかは、インフレ目標が達成できるかどうかとは、じつは、あまり関係ないとわかります。(吉本p.167)



焦点はサービス業の中小・女性・非正規・若年の賃金底上げ

 吉本はここから、小売業などのサービス関連で働く、中小零細の・女性の・非正規の・若者の賃金の底上げをどうすべきかという検討に入っていきます。すでに最低賃金引き上げと非正規の正規化を否定しているので、その回答はなかなかアクロバティックな奇策という印象を受けました。その具体策は、本書を読んで確かめてもらうほうがいいでしょう。


 ただ、ぼくは、2000年代の「好景気」分析によって、サービス業(とりわけ宿泊や飲食関係)の賃金上昇にターゲットをしぼり、そこで働く中小零細の・女性の・非正規の・若者の賃金の底上げを導き出していることに、感動をおぼえました。

 ぼくたちサヨクが、街頭で労働アンケートなんかをやったりするんです。

 そういうところで答えてくれる人っていうのは、まさにサービス業で働く中小零細の・女性の・非正規の・若者の労働者がほとんどなんです。


 まさにその人たちの賃金をどうするのか。

 そういうふうにイメージして、はじめて相手の顔がわかる対策になるような気がします。


 吉本の本では、年収の高い人たちがためこんでしまうのに比べて、低所得者は消費にまわす。使ってしまうということを「平均消費性向」「限界消費性向」のデータを用いて証明しています。この点からも、こうした人たちの賃金底上げこそが大事だとわかります。

 一般の労働者の賃上げも大事なんですけど、ぼくは吉本のいうように、どちらかといえば、急がれるのはこうした「サービス業で働く中小零細の・女性の・非正規の・若者の労働者」のような人たちの賃金の底上げなんじゃないかなと思います。いや、ことさら対立させる必要はないですけどね。

*1:概念をきっちりおさえて進んでいくという点では、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』(光文社新書)もそうなっていますが、片岡のは難しい。初心者は絶対途中で放り出します。

なまえななまえな 2013/06/17 23:29 小幡本のエントリのコメント欄では、「わかりやすさ」を重視する心理は「トンデモ」に惹かれる心理と紙一重だなどと下らない揶揄を投じたわけですが、今回のエントリを読むと割りと当を得ていたことがわかってちょっと嬉しいです。

> これを基準にすると、吉本は1998年からが日本のデフレの始まりだと
> しています。岩田規久男なんかは、賃金問題とデフレを切り離したがります
> から、98年がデフレのはじまりだとすると都合が悪くなるのでこの起点を
> 認めないでしょうね。ちなみに、日銀は1999年を最初のデフレの起点に
> しています。

「これ(名目GDP)を基準にすると」とありますが、少なくとも日銀はこのような定義を採用していません。わが国の物価の番人である日銀も、国際的な通貨管理を司るIMFも、デフレの定義には名目GDPでなく物価を用いています。

日銀の調査統計局は10年以上前に「物価の全般的かつ持続的な下落」をデフレの定義としています。IMFの定義も"Deflation defined as at least two consecutive years of price decreases."となっているようです。消費者物価指数の継続的下落は1999年から2000年代後半まで続いたので、たとえば日銀が1999年をデフレの開始とするのも、デフレーションの定義に物価を用いるオーソドックスな立場からは当然ですね。

さて岩田本エントリのコメント欄でも指摘したように、物価には消費者物価指数だけでなく、企業物価指数(旧・卸売物価指数)やGDPデフレーターなどがあり、国内卸売物価指数は92年から、GDPデフレーターは95年から継続した下落を記録(下落自体はもっと前に記録していることも過去コメントで述べました)しており、消費増税によって一時的に中断(間接税の増税は他の条件一定なら物価や名目GDPを引き上げます)したものの、日本のデフレ傾向、あるいはインフレ率の低下を意味するディスインフレ傾向が、かなり早い段階から生じていたことがわかります。

ちなみに消費者物価指数には特有の上方バイアス(実際のインフレ率よりも統計上のインフレ率が高く出てしまう)があり、日銀自身の推計でも90年代にこれが最大1%近くあったとされているようですから、消費増税による一時的な物価(と名目FGDP)の上昇を除外すれば、実は消費者物価ベースで見ても(インフレ率が1%を切った)94年あたりをデフレの起点としても問題はないかもしれません。

そしてこうした90年代前半以降のデフレ、さらにそれ以前から続くディスインフレ傾向にも拘らず、日本の労働者の賃金は上昇し続けました。その結果生じたのが、97年以降の景気崩落を引き起こした不良債権問題や、労働分配率の急上昇に伴う失業率の上昇(97年までに約100万人賃金ゼロの人が増えています)ですね。「賃金や名目GDPが下がり始めてからがデフレなんだ」という議論は、単に結果を見るだけで原因について何の視点も考察も提供してくれません。

ほぼ誰も採用しないトンデモな基準から「あいつが俺の立場を取らないのは都合が悪いからだ!」などと(物価ベースの基準でも99年以降をデフレとできるんですが)トンデモな妄想に浸るのは、サヨクならいざ知らず科学性を重視する(はずの)コミュニストを自称する人には、似つかわしくない態度じゃないのかなと感じました。

残りのツッコミはまた後日。

piccadpiccad 2013/06/18 00:28 この本も、同じ路線の吉川洋の本でも致命的な誤解をしているのが、賃金と所得・年収を混同しているという点。同じ誤解は小幡本にも使われている。所得は賃金と労働時間の大きな2つの要因によって決まり、賃金が(生産性から考えて)高くなると企業は生産活動を縮小して時間外労働を減らさせる。これが酷くなると失業→非正規社員化という形で格差拡大が促される。

実際、実質賃金の推移を見るとほぼ一貫して上がっており、これが労働時間の削減を通じた年収の減少や、非正規化を通じた一部の人たちへの皺寄せの集中による格差問題へとつながっている。
http://2.bp.blogspot.com/-UUH6ySuqWBI/UQVfl_5ftjI/AAAAAAAAJ30/xJ7CWjnb7YM/s1600/%25E6%2599%2582%25E7%25B5%25A6%25E6%258F%259B%25E7%25AE%2597%25E8%25B3%2583%25E9%2587%2591%25E3%2581%25AE%25E5%25A4%2589%25E5%258C%2596%25E3%2581%25A8%25E5%25AE%258C%25E5%2585%25A8%25E5%25A4%25B1%25E6%25A5%25AD%25E7%258E%2587.png

賃金が実質的には上がり続けているのは、正社員中心で非正規社員(や当然ながら失業者)については考慮しない労働組合が、アジア危機などによる生産性の落ち込みの中でも名目賃金の引き下げに反対したり、あるいは企業側としても名目賃金を引き下げてしまうと社員のやる気に影響するのを恐れたり、といった理由で名目賃金を引き下げるのは困難なので物価が下がっても名目賃金はそれと比べて下がりにくいからである。結局、それが残業時間削減といった数量調整を招いて年収を低下させ、それがまたデフレを継続させて実質賃金を押し上げて・・・という循環を引き起こしてしまっている。

この循環を断ち切るには、名目賃金の下落による調整が困難であったという現実を踏まえれば、物価の上昇による実質賃金の調整しかなく、それによって正社員に痛み(実質賃金の低下と労働時間の増加)を分かち合ってもらうことによる年収増・正規社員(と同一賃金)化を図るのが最も現実的である。そして、それを行うがリフレの大きな目的の一つである。(もう一つはゼロより下がらない名目金利にともなう実質金利の高どまりの解消。)

piccadpiccad 2013/06/18 00:32 消費の量を決めるのは名目賃金でも実質賃金でもなく、実質所得である。名目と実質、賃金と所得(年収・手取り)の区別は常に意識する必要がある。

BVDBVD 2013/06/18 01:05 米欄のツッコミが的確過ぎて寝るわ

aa 2013/06/18 02:50 >物価の上昇による実質賃金の調整しかなく、それによって正社員に痛み(実質賃金の低下と労働時間の増加)を分かち合ってもらうことによる年収増・正規社員(と同一賃金)化を図るのが最も現実的である。そして、それを行うがリフレの大きな目的の一つである

リフレ派にいつも疑問を感じることがあります。リフレ政策は経済のパイを大きくする政策だから望ましいといった言説がよくなされます。

しかし実際には上記の説明にあるように、損をする人(正社員)がでてきます。また、最低賃金で働いている人や生活保護受給者も損をします。
また、公務員賃金も引き下げられたりしているので、公務員も損をします。
安倍政権では、最低賃金の据え置き、公務員数の削減、生活保護水準の引き下げがなされているので、インフレ政策の痛みは主として弱者にかかるのであって、決して無視できるものではありません。
また一方では、株価上昇で数千億の含み益を得ているなども指摘されています。(ユニクロなど)

リフレ政策が経済のパイを大きくする政策ならば、それとともに再分配政策をセットにすれば誰も損をしない状態にすることができるはず(カルドア・ヒックス補償原理)ですが、
なぜそれを主張なされないのでしょうか?少なくともスティグリッツは再分配政策の重要性も指摘していますが、日本でリフレ政策を推進する政治勢力はそうでないようで残念です。

それと根本的な疑問がもう一つ。実質賃金の引き下げは、リフレ政策にとって理論上、必須のルートではありません。賃金も含めて、全ての財の価格が一律に同時に継続的に2%上がったとしても、
実質利子率が低下するので総需要は拡大します。必須でないルートをなぜそんなに強調するのでしょうか?

aa 2013/06/18 04:00 それとpiccadさんが挙げたグラフですが、これは正社員のみから作られた実質賃金のデータでしょうか?
物価との連動をみる場合には、非正社員やパートも含めた実質賃金のデータを使うべきでは。

ブログ主にしろ、おそらく吉本氏にしろ吉川洋氏にしろ、デフレより実質賃金の低下が先行していると言っている場合の実質賃金のデータでは、
下がっているグラフを載せているので、正社員の実質賃金は上がっていると言われても、それが事実としても反論になっていないのでは。

aa 2013/06/18 04:25 訂正 賃金か所得か下がっているデータは載せているようですが、実質賃金だったかどうかまでは確認していません。今度吉川氏の本を確認してみます。
ただ、実質賃金が下がっているグラフもよく見かけるのですが、一方でpiccadさんのグラフは上がっているのでどうなっているのやら。

piccadpiccad 2013/06/18 22:52 再分配について言わないのは第一にそれはリフレ政策の必要条件でも十分条件でもなく要求するにしても別枠でやらないとリフレ政策がどのようなものか混乱するから、第二に一番の弱者である失業の改善は正社員に痛みが行っても成すべきことだと考えているから。正社員からだけ作られていないことはグラフに書いてあるので読むべきである。実質賃金が下がっているように見えるデータは、時間あたりの労働単価である賃金ではなく労働時間の変化も含めたデータを不適切にも賃金と呼んでいるか、以前に尤もリフレ的な政策が取られて実質賃金の減少が失業率改善とともに起きた2000年代中頃だけの短いデータではないか。毎月勤労統計の給与と労働時間の数字で自分で確認すればいい。

なまえななまえな 2013/06/18 23:27 >aさん

横レスすると、民主党には馬淵議員や金子議員、それに(維新へ移籍した)小沢鋭仁議員など、所得再分配政策に好意的なリフレ派議員が存在しました(ちなみに金子議員は旧民社党系で思想的に右寄りですが、経済政策はリベラル派です)。ただ党内主流派である仙谷枝野といった改革派系のデフレ論者、そして菅野田といった財務省系の増税論者がいて、リフレ政策の実施が困難になったという流れですね。

それと賃金に関して、piccadさんのコメントをもう少し丁寧に読むべきだと思います。高校政経で習う感じの図式で示すと、個人所得は以下のように分解できます。

 個人所得= 勤労所得 + 財産所得 + 事業所得 (+所得再分配)

 勤労所得= 仕事量(or労働時間) x 仕事量あたりの賃金(or時給)

いま勤労所得を二つの項に分解しましたが、これはリフレ政策によって引き下げを図る「仕事量あたりの賃金(piccadさんが示したグラフ)」と、最終的な手取りである「勤労所得」(吉川・吉本らの言う「賃金」)を分けて考えるためです。仕事量あたりの賃金が下がれば、企業にとっては儲けが増えますから、もっと儲けようとして「仕事量」を増やそうという機運が生じます。

この時増える仕事量は、残業に厳しい欧米では新たな雇用ということになるんでしょうが、歴史的に残業時間の調整で景気の波に対応してきた日本では、新たな雇用創出だけでなく、既存社員の仕事時間を増やすケースも多いんですね。

その結果、「仕事量あたりの賃金」が低下しても、「仕事量」が増加することで、それらを互いに乗じた「勤労所得」は、かえって増える可能性があるんです。

逆に言うと吉川・吉本らは、デフレを原因とする実質賃金の高止まりとその結果としての残業の減少と勤労所得の低下を、勤労所得の低下に伴う結果としてのデフレと(リフレ派の立場からすると)勘違いしているとも言えるでしょう。

われわれの日常の感覚では、労働とは一つに連なっていて分解不可能なように思えるんですが、労働力が商品化される資本主義社会では、やはり労働すらも他の商品と変わらず、「みかん1個=50円」のように「1時間あたりの労働=賃金1000円」といった感じで、単位あたりの価格付けがなされていると考えなければいけないわけです。

吉本の賃金に関する議論は他にも変な部分があって、たとえばエントリに引用された図表28では為替レートが実質値なのに賃金は名目値とチグハグになっていたり(そもそも90年代後半からの仕事量あたり賃金・労働分配率の高止まりを無視している)、図表31では下ろし・小売業の賃金を以って大企業と中小企業の格差としたり(実際には大企業と中小企業の賃金格差は2000年代むしろ縮まり、リーマンショック以降の円高局面で拡大しています。ネット上で公開されている「連合賃金レポート2012」の序文をご覧下さい)、その他ネット上の他の書評で紹介される部分も含めると、とても信頼に値するデキとは思えません。

『日本の景気は賃金が決める』と同時期に出版された『高校生からの経済データ入門』のアマゾン書評を見ても、経済データの取り扱いが必ずしも専門的とは言えない水準にある様子が伺えます。「わかりやすさ」と議論の「正しさ」は全く別個のものだと考えないと、自分の思い込み・『既得観念』に対する補強を「わかりやすさ」として歓迎し、より一層怪しい議論にはまってしまう恐れが強いわけです(まあこれは党派的に振舞いがちなリフレ派にも思いっきり言えちゃうことですが)。

theohtheoh 2013/06/19 01:54 >「わかりやすさ」と議論の「正しさ」は全く別個のものだと考えないと、自分の思い込み・『既得観念』に対する補強を「わかりやすさ」として歓迎し、より一層怪しい議論にはまってしまう

これに尽きますが、どんな形でもシンパを増やせさえ出来ればいいと考える場合、つまり自分にとっての正しい意見は別のところから所与に決まっている人の場合には怪しい議論にはまってしまうことは問題ではないのでしょう。

piccadpiccad 2013/06/19 03:55 吉本氏にしろ吉川洋氏にしろ、デフレより実質賃金の低下が先行していると言っている場合の実質賃金のデータでは下がっているグラフを載せている、ということ自体が一番問題であるという主張ですので反論となります。取ってきているデータ元が違うために実質賃金のデータには上がっているのも下がっているのもある、という話ではない。この問題点については、なまえなさんの説明の方が分かり易い。

myumyu 2013/06/19 17:21 正しいことを分かりやすく書くのは難しいが、間違ったことを分かりやすく書くのは簡単ですからね。子ども向けの絵本は現実の重要だけど難しいことを無視することで分かりやすくなっているのと同じこと。重要で難しい部分を隠して間違ったことを分かりやすく伝えるという手法は小幡本の方が顕著ですが。

piccadpiccad 2013/06/21 03:23 正社員の賃上げよりも、ハケン・バイト・パートの時給アップをというのが吉本氏の主張ですが、毎月勤労統計からパートの所定内労働の時給を計算してみると、1993年年度を100として
1993年度 100.0
1994年度 101.1
1995年度 101.4
1996年度 102.4
1997年度 104.6
1998年度 105.5
1999年度 105.8
2000年度 106.2
2001年度 107.1
2002年度 106.9
2003年度 107.2
2004年度 107.9
2005年度 108.7
2006年度 110.0
2007年度 111.8
2008年度 114.7
2009年度 115.3
2010年度 115.3
2011年度 115.7
2012年度 116.3
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000018792976
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000018792992

である。なお、デフレで実質賃金はこれ以上に上昇している。安定して(実質)時給が高まっていく一方で、労働時間は減少傾向、概して失業も増えるなど、企業側が割高になったパート労働力の使用を抑制する形が表れている。

パートの時給アップはそれをさらに押し進め、働ける時間が減って手取りが少なくなったり、働く場所さえ見つけられなくなる人が増える可能性が高い。それは日本の景気を回復するために役立つものには到底なりえない。

piccadpiccad 2013/06/22 05:02 2012年において、1997年から見て生み出された付加価値の価格(GDPデフレータ)は約15%も落ち込んでいる中で、その付加価値を生み出すために必要な労働力であるパートの時給は10%を超えて上昇している。この負担に企業が耐えられなくなり労働力の使用が抑制されて、手取り所得が減っている。処方箋はこの現実を踏まえたものであるべきであって、パートの時給アップのような、がめつい企業からもっと分捕れという方向では、さらなる労働時間の減少による手取りの所得の低下と失業改善の困難化を招く。特に、働き口を無くすような一部の人に皺寄せは集中するだろう。

aa 2013/06/23 14:42 最低賃金を段階的に引き上げていくことでインフレ期待を醸成するという議論もありますよ。
少なくとも、最低賃金がそのままなのに、インフレになると普通の人は思わないのでは。賃金が将来あがると確約すれば、インフレになるんだと確信を得やすいでしょう。

最低賃金引き上げは悪くない : hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_7d29.html

最低賃金を上げよ@クルーグマン: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-ef27.html

『脱貧困の経済学』と最低賃金問題と置塩モデル
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay_90922.html

そもそも最低賃金を引き上げると失業率が上がるというのは自明でない。しかも、日本の最低賃金はヨーロッパと比べて別に高くない。
最低賃金を支払えないような生産性の低い企業は市場から退出してもらいたい。

katabiragawakatabiragawa 2013/07/14 09:40 id:piccad 人のブログで長々書かんと自分のブログなり増田なり何なりで書いてポインタ示せや、どあほ。読みにくいし、伝わりにくいし、第一うざい。俺は人のコメント欄で長講釈する奴は信用せえへん。

piccadpiccad 2013/08/12 05:23 id:katabiragawa 紙屋氏が取り上げた吉本氏の書にある問題点を、紙屋氏および紙屋氏のサイトを見に来た人に対して指摘することで、安易に問題含みの意見を信じてしまう人が増えないようにしたいと思って書いているのだから、コメント欄に書くのが一番適していると考える。問題があると思えば紙屋氏が削除すれば済むこと。