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仮面ライダー剣 前半合評1 ~ベテラン脚本家・今井詔二作品として!

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仮面ライダー剣ブレイド)』前半合評1 ~ベテラン脚本家・今井詔二作品として!


仮面ライダー剣』前半合評1 今井ヒーローよ、自らを語れ!

(文・内山和正)
(2004年7月執筆)


 特殊団体に雇われた戦士としての仮面ライダー。その中でライダーのひとりがその組織に対して疑惑を持ち……


 というマニア向け雑誌などで事前情報で流れてきた設定に対して、固定観念を捨てきれないオールドファンとしては「仮面ライダーらしくないな」と抵抗を感じもした。それと同時に、新しい道を切り開いてきた「イケメンライダーシリーズ」なのだから、独自の境地を開いてくれる可能性に期待もしてみた。


 しかし、第1話でアッサリとその組織(人類基盤史研究所=BOARD(ボード))は壊滅する。主人公と女性所員・広瀬栞(ひろせ・しおり)のみが生き延びて、くわしい事情を知らぬままに仲間たちとともに私的に戦う、通常の『仮面ライダー』のような在野のヒーローものになってしまった(……と思ったら、一応いまでも給料をもらって戦っているらしいことがのちの回に判明する。誰が払っているのだろうか? 生存していたとはいえ、いまの烏丸(からすま)所長に払えるとはとても思えぬのだが……)。



 『ハイパーホビー』誌(徳間書店刊)2004年2月号の表紙を飾った仮面ライダーブレイド仮面ライダーギャレンの握手の図から、本作『仮面ライダー剣ブレイド)』(04年)とは、これまでの数作との差別化として「友情を持って共闘をするライダーたちの物語」なのだろうと思っていた。


 しかし、ブレイドを見捨てるギャレン、すべてが敵だと口にして一方的に攻撃を仕掛けてくる仮面ライダーカリス……と、本作の序盤は『仮面ライダーアギト』以来の今までどおりの「互いに争い合う仮面ライダー」の図式で拍子抜けしてしまった。



 見始めて思ったことは、これまでの平成仮面ライダーシリーズの寄せ集め的な印象が強いことだ。


●アンデッド(本作の各話に登場するゲスト敵怪人)たちの「いにしえのバトルロワイアル」は、『仮面ライダークウガ』(2000・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090907/p1)と『仮面ライダー龍騎』(2002・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080113/p1)。
●本作の2人目のライダーに相当する仮面ライダーギャレンの「変身の後遺症による肉体崩壊」は、『仮面ライダーアギト』(2001・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080106/p1)の仮面ライダーギルスや、『仮面ライダー555ファイズ)』のオルフェノク怪人たち。
●ヒロイン・栞の父親がその妻の命を救うためにアンデッドの封印を解いたらしいことは、『龍騎』の副主人公・仮面ライダーナイト秋山蓮(あきやま・れん)が戦う理由。
●主人公より副主人公のほうが先に戦っていた先輩ライダー(仮面ライダーギャレン)であったことも、『仮面ライダー龍騎』。
●出自の違うライダーの共存は、『仮面ライダーアギト』。
●主人公・剣崎一真(けんざき・かずま)に対する栞と虎太郎(こたろう)の人物配置は、『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080120/p1)主人公の巧(たくみ)・真理・啓太郎。
●少女・天音(あまね)の意味ありげなネーミングは、『仮面ライダーアギト』の少女ヒロイン・真魚(まな)を思わせる。


 主人公・一真の住んでいたアパート・氷川キャッスルは、『仮面ライダーアギト』で仮面ライダーG3に装着変身する警視庁の刑事・氷川誠(ひかわ・まこと)から名付けたお遊びなのだろうし、仮面ライダーギャレンの「ギャレン」って、『仮面ライダー龍騎』の相方ライダー・仮面ライダーナイトに変身する秋山 蓮(あきやま・れん)から採って「ギャ蓮」!?(笑)


 近年のテレビ特撮作品では珍しく、圧倒的な人気を誇っているこの仮面ライダーシリーズを引き継いだ新スタッフにのしかかる重圧を思えば仕方のないことでもあろうが、こんなにも似た要素が多いのでは、白倉伸一郎プロデューサーが慢心を避けるためにも勇退された意味がないのではないか?



 メインライターには、今井詔二(いまい・しょうじ)氏が抜擢。


 かなりベテランの方だが、近年でも『はみだし刑事 情熱系(はみだしけいじ・じょうねつけい。略称:はみデカ)』(1996〜2004・テレビ朝日)(第5シリーズ序盤までで降板するも、第6シリーズと最終章となった第8シリーズのそれぞれ最終エピソードを執筆)、『こちら第三社会部』(2001・TBS)、テレビ時代劇『天罰屋くれない 闇の始末帖』(2003・テレビ朝日)のメインライターを務めており、二時間ドラマでは数多くのシリーズを持つなど、大人枠のドラマで旺盛な活躍を示している氏がどのようないきさつで登板されることになったのかは全くの不明であり、テレビドラマのマニアでもある筆者としてはかなりの衝撃を受けた。


 大人枠の作品が多いライターが子供向けの『仮面ライダー』シリーズのメインライターを担当されるのは、『仮面ライダーBLACK RX』(1988・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001016/p1)時代の江連卓(えづれ・たかし)氏以来である。しかし、江連氏の場合、子供番組に比重がかかっていキャリアの前半のころには、『(新)仮面ライダー』(1979・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)の終盤と『仮面ライダースーパー1(ワン)』(1980・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210822/p1)のメインライターを経験済みであり、復帰そのものは驚きではあっても、不安ではなく期待の気持ちの方が高かった。


 今井氏の場合、この仮面ライダーシリーズ自体に初登板であり、子供番組自体が26年ぶり(『コメットさん』大場久美子版・1978)ということなので、どうなることか予測できない状況なのだ。


――余談だが、江連卓氏は筆者(内山)の私淑する脚本家である。メインライターを務めた子供番組にはほかに、『おもいっきり探偵団 覇悪怒組(はあどくみ)』(1987)、『宇宙鉄人キョーダイン』(1976)後半などがある。『仮面ライダースーパー1』のヒロイン・草波ハルミ、浅野温子主演『アヒルから白鳥になった女』(1987)、山田邦子主演『空港で待つ女』(1989)などの命や人生を投げ出しても愛をつらぬくヒロインたち。『不良少女とよばれて』(1984)の哲也、『ヤヌスの鏡』(1985)の堤邦彦、『プロゴルファー祈子(れいこ)』(1986)の信也といった恋した少女を非行や二重人格の闇から救いだし光の差す場所に連れだすことに命をかける騎士たち。悪女にだまされて利用されそのことに気づいてからも破滅していく道を選ぼうとする前科者。傷つけるかたちでしか女性を愛せず、警察と自分の属していた裏社会の双方に追われる道を選んでまで女を奪った男を地獄へ落とそうと執念を燃やすヤクザなど、愛に殉じる人々の姿を描くことが多かったものだ。好きになった人のために生きるのではなく、好きになれる人を探す輩のドラマが世の中心を占めるようになってから、時代遅れとされたのかテレビ界を去っていかれた――



 しかし実のところ、番組開始当初の『仮面ライダー剣』は面白いとはとても言えなかった。どこからどこまでが誰の責任かわからないが、いろいろと問題が積み重なっていたのだろう。


 まず、メインの3人の仮面ライダーたちの皆が肩に髪の先が着く程度の髪型であったことからして、ビジュアル的にも個性を主張できていなかった。


 仮面ライダーカリス=相川始(あいかわ・はじめ)役の森本亮治氏は、その正体が人間に化けた人間ではない存在であるという設定であったことからも無理のないことではあるのだが、ヒーローとしては表情が暗くて視聴者にあこがれられる存在といった感じではない。個人的には、同時期に放送されていた昼の帯ドラマ『桜咲くまで』(2004・MBS・TBS系)におけるヒロインの娘(というか実質的にはもうひとりのヒロイン)であった沢尻エリカさんの恋人役で、カラオケで働きながらミュージシャンをめざしている青年役のほうが格好良かったので、本作の始のほうは見劣りがしたのだ。


 仮面ライダーブレイド=剣崎一真役の椿隆之氏は、役柄自体が単純に「正義の味方」という素直で正義感があるだけの青年といったものであったのに対して(戦士としては未熟という要素はあるにしても)、役者さんご本人のルックスはもう少し色々なものを背負い込んでおられる方のようにも見えるので、役柄とは似合っていないように感じられた。人を信じて何度も裏切られた。それでも信じてしまうという、2話で語られた「人のよい性格」には個人的には見えず、この設定それ自体がそのあとにそれほど生かされてもいない(のちに井上敏樹氏担当回で、万引き犯の汚名を着せられてしまったあたりで復活してはいるものの)。放送前に、虎太郎役の竹財輝之助(たけざい・てるのすけ)氏と椿氏が2人で写ったテレビ情報誌のグラビアを見たときに、さわやか系の竹財氏のほうがライダーかと思ってしまったくらいだ。


 「子供のころに両親を助けられずに死なせてしまった過去から、人を助けたいと思うようになった」という設定も型どおりなだけに感じられた。しかし、それでも両親の幻影を見るシーンなどよりも、言葉でそのことを語ってみせるシーンのほうが輝いてみえるのは、剣崎一真が「今井ヒーロー」であるからだろうと思う。



●犯人や事件関係者などにボロボロの涙顔になりながらも、思いを語り訴えかける『はみだし刑事情熱系』の高見兵吾(柴田恭平
●助けたい姉の命を危険にさらしてまで、犯人逮捕を優先せざるを得ない自分の無器用な生き方を口にする『月曜ミステリー劇場 外科医零子PART3 〜ハートの時効〜』(2004・TBS)のヒロイン(財前直見)の恋人・有光千太郎(石黒賢
●性暴力の被害にあった女性が男性刑事の心ない取調べで二次的に傷つくことを防ぐべく、女性捜査班を結成した『土曜ワイド劇場 警視庁女性捜査班』(1999〜・テレビ朝日)の坂本絵里子(萬田久子



 今井詔二氏のヒーローは、自分の思いを口にしてこそ映える。その点、本作『仮面ライダー剣ブレイド)』(2004)のキャラクターたちは言葉が少なかったように思うのだ。


 また、今井作品では「親子」がテーマになる作品が多い。


 『天罰屋くれない 闇の始末帖』のヒロイン・松坂紅(片平なぎさ 子供時代は斎藤みやび)の亡父は、いったんはやめようとした裏稼業・天罰人(悪人のみを獲物とした殺し屋)を、紅が大人になる時代が少しでも良くなるようになることを願って続けることにしていた。
 そして紅も、最終回において息子・達之介が大人になった時代を良くするために、天罰人をずっと続ける決心をする。東映による松竹作品『必殺シリーズ』(1972〜87・91)のパクリであったこの作品において、この部分はわずかなオリジナリティであったのではないか?


 2時間ドラマでロングランをつづける『土曜ワイド劇場 法医学教室の事件ファイル』(1994〜)が週一回放送のレギュラー番組(1992)だった時代の第2シリーズ(1993)では、妊娠したヒロイン・二宮早紀(名取裕子)が出産と責任の重い仕事のはざまで悩んで、悲劇をむかえた末に長男・愛助を得るまでがインサイドストーリーとして感動的に描かれていた。



●幼いころに別れた娘と再会し、年の離れた友だちとして接する初期シリーズの『はみだし刑事情熱系
●娘のために刑事なのに人を疑うことをやめようとして傷つく『土曜ワイド劇場 警視庁女性捜査班』
●仕事柄、姉に娘を預けて強く育つことをねがう、長嶋一茂主演『月曜ミステリー劇場 ざこ検事 潮貞志の事件簿』(2002〜)
●折り合いの悪い息子に自分の信じる人間のあるべき姿をムリやりに教え込もうとする、船越英一郎主演『土曜ワイド劇場 火災調査官・紅蓮次郎』(2003〜)



 この『ブレイド』にもいくつかの親子が登場してくるが、いまのところ大きな物語には発展していない。栞の父の問題の核心や、天音の父の死因が判明する際などには、どのような展開がなされるのだろうか?



仮面ライダーブレイド一真には落ち込む彼を叱りつけて仮面ライダーとしての使命に向かわせる栞と、生活と活動を援助して生き方を認めてくれた虎太郎
仮面ライダーギャレン=橘朔也(たちばな・さくや)には暖かく見守ってくれる同級生の女医・小夜子(さよこ)
仮面ライダーカリス=始には深い事情を訊こうともせず、同居人として受け入れてくれる未亡人・栗原遥香、その娘で彼を慕う天音


 それそれに心の寄りどころを与えたのが、本作序盤の独自性であり良さだった。


――余談だが、本作の日笠淳プロデューサーが担当した『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031112/p1)では、敵の姫リジェ役の鈴木かすみちゃんが人気であった。同作に登場する戦隊ヒーローことアバレッド・伯亜凌駕の姪・伯亜舞(はくあ・まい)役の坂野真弥ちゃんはその前年にはレギュラードラマを2本も持っていた女の子だった。今年(2004)は映画『茶の味』(2003)でカンヌ映画祭にも出かけている。これら2人の人気を、イケメン人気に継ぐ第2の鉱脈と考えたのか、本作『仮面ライダー剣』でも重要な役どころの少女ヒロインとして、天音ちゃんが登場している。
 一般のテレビドラマ界ではここ数年は一部を除いて子役が下火で、テレビドラマにおいては2時間ドラマが主な活動場所となっていたのだが、昨03年には反町隆史主演『ホットマン』(TBS)で山内菜奈ちゃんが注目されてから、ふたたび子役を重要なポジションに置いた番組が作られるようになっている。
 森迫永依(もりさこ・えい)ちゃん(後日付記:06年に実写版『ちびまる子ちゃん』主演!)や山田夏海ちゃんらを輩出して、さらに今年04年にはSMAP(スマップ)の草彅剛(くさなぎ・つよし)主演の『僕と彼女と彼女の生きる道』(関西テレビ・フジテレビ系)の凛ちゃん役・美山加恋(みやま・かれん)ちゃんの人気が大爆発しており、昼ドラでは『牡丹と薔薇(ぼたんとばら)』(東海テレビ・フジテレビ系)の小池彩夢(こいけ・あやめ)ちゃんの活躍が目立っていた。
 これらの子役たちの大半は、割りと早く次のレギュラーを与えられており、単発やゲスト出演も多い。それらを受けて4月期の連ドラは深夜枠を除いて、大半が子役をレギュラーに加える事態となっている。7月期もどちらかというと脇役が増えたものの、子役がレギュラーに登場する作品は多い。


 しかし、なんというか、リジェ人気は「がんばってネ」とキスをして、送りだしてほしい人たちが支えているのだろうと思うし、凛ちゃん人気は子供に横柄な口の利き方をされてイヤな思いをしている親たちが「ハイ」とていねいな返事をされたくて酔っていたのだろうし(凛ちゃんの「ハイ」はわがままを言えない家庭環境ゆえの悲しい状況の現われだったのに!)、情けない想いがしないでもない。おじの虎太郎をけなしたりする天音ちゃんは、その等身大さが人気を呼ばないのか今のところ話題になっていないようだ。美人タイプではないことも原因かもしれないが、そんな子ゆえのかわいさが出ているとは思うのだが――



 そして、橘が組織や烏丸所長に疑いを抱くきっかけとなった変身システムの副作用による人体崩壊を、暗い運命に持っていかず克服できる心の問題として可能性を持たせたことや、烏丸を疑惑のままの人物としなかったことも(この点はまださらなる逆転の可能性がないわけでもないが)、白倉プロデューサー路線を利用して暗い気持ちに落としこんだのちに、安心させる方向に持っていく変化が心地よかった。


 ただ、この時点ではまだ全体的には、「暗さ」も「停滞したムード」もぬぐいきれなかった。


 その弱い心を上級アンデッド・伊坂(正体はピーコックアンデッド・クジャク怪人)に利用された橘が、麻薬状の薬草の効果によって闘争心にめざめて暴走! 力強い戦士となる。
 しかし、その使用が続けば、副作用により廃人になることを知った小夜子が止めようとしたところで、伊坂に殺害されて、橘はようやくライダーとしてめざめて、以前ならばとても勝てる相手ではなかった伊坂を倒す! ドラマとバトルが一体となって効果を上げているのだ。


 ここあたりから、『ブレイド』は急激に盛り上がり始める。


 「小夜子は死ぬ」と予想していたマニアも少なくなかったらしいが、いまどきのドラマにはなかなかいないくらいの小夜子の不自然なまでのなごみ系キャラがこのドラマには必要なものだと信じ、橘を支え続けるものと思っていた筆者には衝撃の展開だった。また、小夜子のこのあたりのセリフがあまりにクサいながらも生きていて、今井キャラは自分の思いを口にするべきだと改めて感じさせてもくれた。


 人間ではないために他人を巻き込むことを恐れずにレストランなどでドラゴンフライアンデッド怪人と戦ってしまう仮面ライダーカリス。人々の危機を防ごうとする仮面ライダーブレイド。両者の対比と迫力の戦いが、ヒーローものとしても映像的に見せ場をつくって番組が活気づく。


 そして、本作における第4の仮面ライダー仮面ライダーレンゲルの登場!


 変身ベルトを造った、厳密には科学者を精神コントロールして造らせていた伊坂自身はすでに死んではいたものの、スパイダーアンデッド怪人の魔力が潜んでいる変身ベルトは自ら適合者のもとへと移動する。前作『555』における、適合できる人間ならば仮面ライダーに変身できるのは特定の個人だけではないとの設定がここでも流用されているのだ。


 変身ベルトに操つられて暴走してしまう高校生・上城睦月(かみじょう・むつき)。本来は仮面ライダーギャレンの変身者になるはずが、事故でライダーへの夢を絶たれて、ゆがんだ正義感におぼれた元BOARD職員・桐生豪(きりゅう・ごう)。これらの敵対するライダーたちが圧倒的な強さで正義の仮面ライダーたちに襲いかかってくる!


 仮面ライダーレンゲルにはブレイドたちがこれまでにカードに封印してきたアンデッド怪人を解放して操ったりする能力があるとされた。それまでは「物足りなさ」にもなっていた、アンデッド怪人は殺すことができない(カードに封印するのみ)という設定が、ここで報われた気もしたものだ。


 ライダーを引退することにしたものの、小夜子をなくした傷からは割りと早く立ち直った橘は、レンゲルの変身ベルトをひろった睦月を目にしたことで、ふたたびライダーの抱える問題に介入して、桐生との因縁からも仮面ライダーギャレンの変身者に復帰することになる。


 井上氏らしい「暗い世界観」だが、桐生の死などには同じようなムゴい死に方を迎えた、『仮面ライダー龍騎』や『仮面ライダー555』のキャラクターたちとはちがって、幾分かの救いがあるようでもあった。


 さらに、今井氏の担当回に戻ってみると、「コインロッカーベイビーなのか?」と思われた睦月の暗い記憶は、誘拐犯によって一時的にコインロッカーに閉じ込められていたものにすぎず、暖かい家庭があることが判明。井上氏の作品は魅力的だが個性的に過ぎて、他の脚本家の主導作品ではそういったことをやってほしくはない筆者としては、井上世界を振り切ってくれたことに感激。


 ライダーとして戦うことを望む睦月を、スパイダーアンデッドの影響に負けぬように鍛えはじめる橘。


 つづく、見る前は不安であったが、會川昇氏担当回では睦月がトラウマを克服! 人々のために戦うことの喜びさえ見出して、番組の精神に本格的なスーパーヒーロー性まで付与されて、ますます期待の番組になってきた。


 ライダーたちの共闘がうれしい。仮面ライダーカリス=始も、周囲の人間たちを守るようになっていく。


 次々と現れる、人間への変身能力を持っており、通常は人間体で行動する上級のアンデッドたち。主要な数人を除いて単に粗暴なだけの人物が多かった『555』のオルフェノク(敵怪人)に比べて、戦いを避けたいという平和主義者の実力者がいたり、若者たちをたぶらかしたり、悪計をめぐらす若い女性アンデッドがいたりと個性的で、これからの展開も楽しみだ。


 一真がニューマシーン開発に立ち会うシーンで見せる無邪気な表情など、一真にも演じる椿氏にも、深み・奥行きが出てきた。


 『龍騎』や『555』と同じように変身にアイテムを使う仮面ライダーではあっても(本作ではカードを変身ベルトのバックル部分に挿入!)、変身ベルト部分がCG映像によって自動的に形成されてから変身ポーズを取る方式の本作。それゆえに変身ポーズを強調できる利点があるのだが、番組も途中からそれらを生かす演出になってきて、ヒーロー性が高まってきたこともうれしい!(ただ、ポーズの細部が毎回いろいろ違うあたりは、不整合に思えてしまって気になるが)。


 スパイダーアンデッドの逆襲や、橘に薬草の後遺症が現れないのか? という、番組の作風が暗転しかねない要素による不安は残されているが、今のところは前向きの世界観が心地良い。今井氏が降板されることなく、このまま會川氏と2人体制で突っ走ってほしいというのが、今の筆者の本心である――(24話に登場し、画期的な兵器でアンデッドたちを倒したものの、あっけなく大半が殺されてしまったアンデッドハンターの面々。特撮マニア出身の會川氏であるだけに、『仮面ライダーV3』(1973)29〜36話に登場したインターポールのデストロンハンター・佐久間へのオマージュか?――


 やっぱり、「仮面ライダー」はイイ!



(付記)映画版(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041107/p1)は3年後(またパラレルワールド?)のストーリーで、後輩のライダーたちが登場するとか……。脚本が誰かなどくわしい内容などは知らないが、90年代の往年の大人気子役・黒田勇樹氏が後輩ライダー役だとのことで、子役時代のドラマも見ている者としても感慨深い。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2005年準備号』(04年8月14日発行)〜『仮面特攻隊2005年号』(04年12月30日発行)『仮面ライダー剣』合評5より抜粋)


『假面特攻隊2005年号』「仮面ライダー剣」関係記事の縮小コピー収録一覧
・読売新聞 2004年2月20日(金) 日曜朝 戦うイケメンヒーロー テレ朝系で新シリーズ 特捜戦隊デカレンジャー 仮面ライダー剣ブレイド) 若手俳優「毎日が修業」♥「お母さんたちも見てね」 〜大枠記事
・読売新聞 2004年2月27日(金) POPカルチャー「直言兄弟」 特撮ヒーローよ 志を持て! 〜特撮番組編。文化部オタク記者2名の対談コラムにゲスト参加したおなじみ政治部の鈴木美潮女史が「ヒーローよ、子供に帰れ、リアリティー追求より、志を持て!」(原文ママ)と主張。


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仮面ライダー剣』前半合評2

(文・久保達也)
(2004年4月執筆)


 前作『仮面ライダー555(ファイズ)』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031102/p1)までの平成『ライダー』作品を担当してきたプロデューサー・脚本・監督等のスタッフがかなり入れ替わったために、さぞかし作風が変わるかと思いきや…… 多少バトル面が充実したくらいで、相変わらず日曜の朝にはふさわしくない作風だ。


 芸術だかオブジェだかを作っているかのような、リアル志向でデザインの美しさばかりが先行して漫画的なキャラクター性が欠如している敵怪人たちについても、個人的には好みではない(笑)。それはともかく、筆者個人の好みは別として、これまでの平成『ライダー』人気を支えてきた魅力さえも乏しくなってしまっている点はちょっと痛い。


 まず、なんといっても平成『ライダー』といえばイケメンだが、本作でももちろん何人ものイケメンが登場する。しかし、ルックス的にはみんなが似たような髪型や髪の長さなので、筆者はいまだに主役の顔が覚えられない(汗)。もう誰が仮面ライダーブレイドで誰が仮面ライダーギャレンで誰が仮面ライダーカリスに変身するヤツなのか、観ていて判らなくなる御仁はマニア間でもよく聞くし、筆者も同感なのだ。


 『仮面ライダーアギト』(01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080106/p1)、『仮面ライダー龍騎』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080113/p1)、そして前作『仮面ライダー555』では、各人に異常なまでの強い個性が与えられ、癒し系もいれば妙にとんがったヤツもいたり、ナルシストやら凶悪なヤツやエキセントリックなヤツもいるわで、それぞれが熱狂的なファンを獲得して大いに盛り上がったものだった。しかし、今回ばかりはイケメン大好きなミーハー主婦たちも誰のファンになったらよいのか判らないのではないか?(笑)


 次に、平成『ライダー』といえば活動する都会が舞台となって展開され、都内のトレンディなスポットのロケ使用が話題を集めたものだ。しかし、本作は人っ子ひとりいないような山奥ばかりで物語が展開され、毎週が同じような場所ばかりが登場するのも観ていてツラい。毎週、火山島で物語が描かれた往年の『怪獣王子』(67年)や、似たような惑星ばかりが舞台となった『キャプテンウルトラ』(67年)が視聴率的に苦戦した歴史的事実に学ぶべきではないのか?


 そして最も痛いのが、本作は怪人を必殺技で倒して爆発四散させるのではなく、カードに封印するというのが、変身ヒーロー作品としては絶対的なカタルシス不足だという点である。
 同情の余地のある怪獣たちの命を救っていた『ウルトラマンコスモス』(01年)であればともかく、何を主張する訳でもなく単に殺人を繰り返すだけの対話も不可能な本作の怪人なんぞ殺っちまってもよいのでは?(暴言?) このあたり、『コスモス』を徹底的に非難していた人々による本作『仮面ライダー剣』に対する見解もぜひ伺いたいものである。


 なにか悪い点ばかりをあげつらってしまった。しかし、本作の相川七瀬の主題歌『Round Zero ~ Blade BraVe』(ASIN:B0007MCI38)はノリもよくてカッコいい。TBS系土曜深夜の『COUNT DOWN TV』をたまたま観たときに、同曲が第11位にランクインしていた。これは相当のヒットと見てよいだろう――前作『555』のISSA(イッサ)が歌った主題歌『Justiφ's(ジャスティファイズ)』(ASIN:B000087EQ4)の方も、オリコン初登場で第9位だったらしいが――。マニア層のみがCDを購入するのならば、これだけの上位にはならない気がする。いや、若者層によるCDの購入が減ったことで、アニメや特撮のオタク層による購買結果が相対的に目立って、ランキングでも上位に来るようになったという説もあるが…… 相対的な偏差値でしかないランキングではなく、絶対的な売り上げ枚数でなければ、時代を超えた絶対的な人気の比較はできないといったところだろう。


 先頃、『週刊文春』において、グラビアアイドルの井上和香(いのうえ・わか)が「女が嫌いな女性芸能人」なる調査の第2位であることが紹介されていた――ちなみに、この調査の第1位は『超力(ちょうりき)戦隊オーレンジャー』(95年)でデビューしたオーピンク・さとう珠緒であった(笑)――。その理由としては、


「一般的な女性はオタク的男性が嫌いであり、オタクが好むモノも嫌いである。まるでアニメのヒロインであるかのような容姿の彼女はオタク的男性が最も好むタイプであり、一般的な女性から見ると耐え難いのではないか」


などとなんとも笑えない分析がなされていた。それを考えると、ミーハー主婦層も平気で楽しんでいる平成『ライダー』作品はもはやオタクだけの楽しみではなくなっているのであろう。これだけの一般的な地位も名声も獲得することのできた平成『ライダー』作品に対して、我々のようなオタクやマニアの旧弊な好みだけをブツけてみせても、無意味ではないだろうが万全でもないだろうし、作品評価のモノサシを変えていく必要もあるのだろう。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2005年準備号』(04年8月14日発行)〜『仮面特攻隊2005年号』(04年12月30日発行)『仮面ライダー剣』合評①より抜粋)


仮面ライダー剣』前半合評3 ~シリーズ序盤の混迷を整理・脱却!

(文・T.SATO)
(2004年7月執筆)


 平成『仮面ライダー』シリーズ(00年〜)を支えたメインスタッフが、前作『仮面ライダー555(ファイズ)』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080120/p1)の中盤にて、実写版『美少女戦士セーラームーン』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041105/p1)に移籍。プロデューサー&脚本家といった作品の中核が刷新された体制での、平成『仮面ライダー』シリーズ第5弾として『仮面ライダー剣ブレイド)』(04年)の戦いの幕は切って落とされた。


 正直に云って、初期編といわず1クール目は迷走といった印象だ。


 原因を主役陣の演技や滑舌に求める記事なども目にした。しかし、ヒーロー番組の主役がほとんどド新人であるという歴史は、今にはじまったことではない。


 そもそも、筆者自身も幼少時の記憶を丹念にたどってみせれば、物心ついた3歳児のころには、作品の「大スジ」や「絵で見せるシチュエーション」などは理解ができていても、劇中人物のセリフの内容の細部や言葉の意味などを理解して視聴していたワケでは決してなかった。自身の成長過程をふりかえってみても、『ウルトラマン』シリーズの防衛隊員の名前の末尾にある“たいいん”“たいちょう”“ふくたいちょう”などといった意味を、誰に教わるでもなく前後の文脈での類推から、4歳児だったある日突然に一知半解にしても翻然として悟った記憶が残っている。つまり、それ以前などは、「セリフの理解」としての「作品理解」ではなくて、「映像体験〜体感」――怪事件・防衛隊VS怪獣・ウルトラマンVS怪獣のビジュアル!――といった次元でのジャンル作品の理解だったのであろう。そしてそれで、不足はなくて充分でもあったのだ。


 そのイミで、本作『仮面ライダー剣』の初期編におけるセリフ(滑舌)のわかりにくさそれ自体には、子供向け番組としてはさほどに重大な懸念はいだいていなかったのだけど……。


 3体も登場する仮面ライダーに変身できる3人の若者たちの、映像それ自体で見せていくような――今いる物理的な居場所のちがいなり、映像で見せる3人の立場や性格のちがいなりの――「描き分け」ができているようにはとても思えないことに、やはりコレでは子供たちにもわかりづらかろうとの不満は覚えていたのだ。


 まぁ要は、大多数の特撮マニアや一般視聴者と結局は同じで、「わかりにくい」という不満を覚えたワケである(笑)。しかし、その「わかりにくさ」の内実を腑分け・解剖してみせて、より正確を期して把握をしてみたかった次第なのだ。


 仮に、あくまでも仮そめに、本作初期編を主役の仮面ライダーブレイドこと剣崎一真(けんざき・かずま)&副主人公の仮面ライダーギャレンこと橘朔也(たちばな・さくや)のダブルヒーロー制だと捉えるのならば、どうしても主役の添え物になりかねない副主役のギャレンを、本作では主役のブレイドの先輩であって、しかも強い! という位置づけにしたこと自体には好印象を持っていた。


 しかし、そーいった意図での、仮面ライダーブレイド仮面ライダーギャレンのパワーバランスやキャラクターシフトではそもそもがなかったようだ(笑)。副主役のギャレンは#1ラストにして、ワル者っぽくなってブレイドと袂(たもと)を分かってしまうのだ!


 ならば以降は、ギャレンは“強者”としての“敵”として、ブレイドの前にカッコよく立ちはだかるかのかと思いきや……。ギャレン仮面ライダーに変身することによって派生する、自身の身の破滅のビジョンにウナされて悩んでしまうのであった!――ホントにボロボロに崩れていくイメージ映像を見せてくれて、コレについては判りやすいといえば判りやすかったのだけど(笑)―― それによって、だんだんと弱くなっていき、つまりは強くてカッコよくて頼れるような、あるいは、敵として恐れるに足りるような、子供たちがあこがれる存在には見えなくなってしまったのだ(汗)。


 とはいえ、作品世界の舞台設定が「わかりにくい」ということは、多少は気になりはしたものの、個人的には二次的な要素ではあった。しかし、ストーリー展開での「意外性」をねらったものだったのだろうとはいえ、メインの登場人物自体が「善」であるにせよ「悪」であるにせよ、「弱い!」ということによって、魅力的ではなくなってしまいかねないこの作劇やキャラ造形は、やはりヤリすぎの本末転倒ではなかったか?


 ただし、それも初期数話のみで終わってしまう。身の破滅を予知夢のように見せつけてくるビジョンが、本質的で宿命的なものではなかった! 幻覚のようなものだとされたのだ! それは仮面ライダーに変身するための科学技術(?)でもある「ライダーシステム」の副作用による、装着者自身の心の弱さが単なる幻覚を見せていただけだとのタネ明かしがなされていく……。


 オオッ! コレはこの作劇の欠点に気付いた製作スタッフの、早くものテコ入れによる路線変更か!? であれば、大カンゲイ! ……かと思いきや、コレも、そーいった作品がやや陰気になってしまうことを回避するための意図から来る処置では、さらさらなかったらしいのだ(汗)。


 仮面ライダーギャレンこと橘は、本作の敵である古代からの怪人集団(?)のアンデッドのひとりがあやつっている組織に接触していく(拉致されたのか?)。そして、古代の薬草の麻薬効果で強化はされたものの、その効力が切れるとやはり「弱く」なってしまうという存在に成り下がってしまうのだ。……ウ~ム。いかに明朗な娯楽活劇の王道の定型に対するパターン破りねらいなのだろうとはいえ(?)、そんなに一応は子供向けの変身ヒーローを「弱い」存在として描いてしまうような作劇でイイのか!?(汗)


 ……なぜにこんな作劇になってしまうのだろう? あのようになるからには、なるからの理由もあったハズである。よって、何の根拠もない、下世話な想像もつい働かせてしまうのだ。


 ベテラン脚本家・今井詔二(いまい・しょうじ)が、本作のメインライターとして召喚されて、本作の企画会議に関わる前には、何だかんだといっても世間的にはやはり「単なる子供番組」に過ぎない平成『仮面ライダー』シリーズを視聴していたとはとても思えない(笑)。やはり東映の日笠淳プロデューサーあたりに声を掛けられて口説き落とされて、大急ぎで平成『仮面ライダー』シリーズの資料なりビデオなりをテキトーに数本だか数十本だかランダムに視聴して、世間サマなり主婦層なりマニア層での受容のされ方のイメージを大雑把に捉えてみせれば、


「平成『仮面ライダー』シリーズとは、あのような耽美的なイケメンキャラが多数登場して、ハイブロウで難解でナゾ解きで、人間描写や人間カンケイがドロドロで、善悪も明瞭ではなく、マンネリや様式美はなくて、意外性重視であって、各話ごとにキッチリと終わらず次回へとつづく……」


というようなものが今ウケているらしいから、こーしようというイメージになったのではなかろうか? それで、本作はあのようになってしまったのだともいう……。


(後日付記:本作終了後の特撮雑誌『宇宙船』での東映側の武部直美サブプロデューサーのインタビューなども読むと、「難解で仲間割れでナゾ解きな初期編」は、本作序盤では文芸的な主導権をにぎっていたようである武部センセによる今井センセイへの指示であったように見受けられます・汗)



 そして、本作序盤のこの迷走を打破するためにか、2クール目からはいよいよ本腰の「テコ入れ」がはじまっていく。そのための仕切り直しのための準備もあったのであろう。今までメインライターひとりによる単独脚本だけで継続してきた、メインライターの気分一新&充電のための周囲の配慮もあったのであろうか、今井氏は筆を中断している。


 その序盤戦たる第1クール終盤の#11~12においては、本作のメインライターの予定だったとのウワサも特撮マニア間では流れていた――真偽のほどは知らないですョ(汗)――、東映特撮においては『仮面ライダーBLACK』(87年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001015/p2)から登板しており、東映メタルヒーロー特捜エクシードラフト』(92年)~『ビーファイターカブト』(96年)や『忍風(にんぷう)戦隊ハリケンジャー』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021110/p1)のメインライターなどを務めてきた宮下隼一(みやした・じゅんいち)氏が登板するのだ!


 第1クール終盤における、「カテゴリーエース」という、要はフツーよりも強い怪人である「蜘蛛(クモ)のアンデッド怪人」をめぐっての話と並行して、本作の3人目のライダーこと仮面ライダーカリスにして、人間としての姿を持ってはいるもののその正体はアンデッド怪人の一種であるらしくて、人間の感情それ自体もあまり理解ができないでいるらしい、本作のもうひとりの主要キャラクター・相川始(あいかわ・はじめ)なる青年による、ゲストキャラであるストリートミュージシャンの青年――といっても冴えないメガネの帽子で首に手拭い(笑)のフォーク系――との奇妙な交流のドラマが描かれていくのだ。


 このゲスト青年自身にも、敏腕音楽プロデューサーである父の存在を設定。単なる自由人に見えていた青年クンの、父親の手のひらの上で動いているのにすぎないコンプレックスを抱えた父子相克を描きつつ、父子いずれにも理と非を与えることで深みも与えて、同時にその正体は人間ではない仮面ライダーカリスこと相川始にとっては、その光景や人間関係自体の理解すらもがやや困難な事象ともなっているディスコミュニケーション・ドラマを描きつつも、あくまでも『仮面ライダー剣』の中のワンエピソードとしてのドラマであることも忘れないような仕上りを見せてくれていたのだ。



 実質、2クール目の路線変更後の第1話であったともいえる#13において、今井メインライターが再登板する。


 その正体は上級アンデッドだという、旧来の『仮面ライダー』であれば「敵の中堅幹部」に相当するような存在だろうとも思われる、ダンディーなグラサン男・伊坂による、強力な蜘蛛のアンデッド怪人の力も利用して、本作中においては4人目の仮面ライダーを作らんとする陰謀を改めて再確認してみせている。


 そして、あくまでもその正体は人間ではない仮面ライダーカリスこと相川始を中軸にして、多彩なレギュラーキャラたちの、各自ごとの立場、趣味嗜好、目的意識などの再確認に、設定の深化や念押しまでもが図られていたのだ。


 自身は変身しないものの、仮面ライダーブレイドをサポートするレギュラーキャラ・虎太郎(こたろう)。そして、その姉でもある母とその娘である天音(あまね)といった未亡人母子家族。
 この未亡人家族と偶然にも関わりを持ってしまって、お互いに静かな愛着もいだきだしていた、しかし彼がホントウは人間でないことを知らない彼女らと、相川始との相思関係。


 相川の人間ではない正体を知るがゆえに、そしてライダーに変身できるワケではない非力な身ゆえに、独力では母子を救えない焦りも混じってか、相川始に改めて敵意をいだくも何もすることができない虎太郎クンの焦燥。


 ライダーブレイドこと主人公の剣崎も、当初は相川始を懐疑していた。しかし、母子を守らんとしてアンデッド怪人と戦っている彼の姿を目撃! そして、虎太郎の立場ともまた異なった、彼と比べれば軟化して様子見、場合によっては半信半疑ながらも彼を信じてもイイかもしれないといった、ビミョーな立場も採るようななっていく……。


 この相川始もまた、ブレイド=剣崎とは共闘せずとも、問われれば蜘蛛のアンデッド怪人の秘密と目的とを教授・警告するようにもなっていく。


 独自に戦う「はぐれアンデッド」らしい相川始=ライダーカリスは、蜘蛛のアンデッド怪人をめぐって、敵のアンデッド集団の配下となっていた橘ことライダーギャレンとも対決! しかし、強化したギャレンにはかなわずに敗北して吊り橋から転落してしまう!


 のちに現場へと駆けつけてきた主人公・剣崎は、橋下に倒れていた相川始を発見して、仲間にもヒミツで介抱してしまう……(!)。


 他にもイロイロとあって、ついに剣崎の「(母子の)そばにいて守れよ!」との言葉によって、相川始の「行動原理」もまた確固とした迷い&曇りのないものになっていき、作品世界の一角の「腰」も確固として座ったのであった!


 ウ〜ム。けっこうな人数がいる主要な登場人物たちに対しての、ワリと見事なまでの仕切り直し&采配のやり直しなのではなかろうか!?


 一方、敵の配下に成り下がったかと思われたライダーギャレン=橘にも、変転の時がおとずれる! 蜘蛛のアンデッド怪人を封印してあるカードを敵集団の首魁に対して渡すこを拒むのだ! そして、上級アンデッド・伊坂に反逆してみせる! そう、彼は「悪」に「魂」まで売ったワケではない! 彼なりの正義と計算があっての偽計であったと描くのだ!


 そして、よもやの橘の恋人こと女医の小夜子(さよこ)さんの死!


 この悲しみをバネにして、小夜子を毒牙にかけた上級アンデッド・伊坂をついに打倒! 小夜子の死が達観させたのか、破滅幻覚の病からも脱することができた橘=ギャレン


 焦りからも開放されて、小夜子の死には沈んでしまうも、橘さんは「いいヒト度」が高くなっていく……。


 小夜子の死を知って、ヒロイン・栞(しおり)は気を引き締める。虎太郎も住居の敵怪人・アンデッドの探索用の衛星パラボラアンテナを少しでも高い場所に設置せんとし、せめて分に応じた自分のできることを健気に尽くさんとする。


 ……何だか、面白いかもしれない……。いや、面白くなってきた!!


 急転直下の意表外な展開で、作品世界それ自体を大整理! ストーリー自体も、4人目の仮面ライダー用の変身ベルトの出現と、それをめぐっての攻防とナゾを探る物語へと再整理! 2クール目の出だしのテコ入れは、個人的には成功したと見た!!



 2クール目以降は、『仮面ライダーアギト』(01年)と『仮面ライダー555(ファイズ)』(03年)のメインライターはもちろん、『仮面ライダークウガ』(00年・https://katoku99.hatenablog.com/archive/2000/11)以降の平成『ライダー』全作に関わってきた脚本家・井上敏樹が再登板!


 さらには、『仮面ライダー』史上において、雑誌編集者時代であった80年代中盤の昭和の『仮面ライダー』(71年)の「旧1号至上主義」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140501/p1)の時代に、特撮雑誌『宇宙船』誌上において、『仮面ライダーX』(74年)とそのメインライター長坂秀佳(ながさか・しゅうけい)をはじめて評価した脚本家・會川昇(あいかわ・しょう)も初登板!
――ちなみに、第1期ウルトラシリーズ至上主義の時代の同時期に、『ウルトラマンエース』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070430/p1)と市川森一(いちかわ・しんいち)にはじめてスポットを当ててみせたのも會川であった――


 ともに今では、あまたのテレビアニメでも常に途切れず、シリーズ構成(メインライター)職を務めつづけているベテランの大家といってもよいふたりである。アニメ界の通例・常識にて冷静に考えてみれば、メインライター級が2人も存在しているともいえる豪華な布陣といえるだろう――今井センセイを含めればメインライター級が3人体制かも!?――。


 特に會川はアニメとの両刀使いとはいえ、出自的には特撮ジャンル寄りである。1990年の日豪合作の『ウルトラマングレート』につづいて、ついにめぐりめぐって、昨2003年の『爆竜戦隊アバレンジャー』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031112/p1)のサブメインライターを経て、『仮面ライダー』までをも執筆する幸運・栄誉にもめぐまれたワケである。その心境はいかばかりか!?(……ってイイ歳こいて、お仕事ですから冷静ですかネ?・笑)


 彼らの活躍の詳細については、他の寄稿者たちの筆に任せたい。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2005年準備号』(04年8月14日発行)〜『仮面特攻隊2005年号』(04年12月30日発行)『仮面ライダー剣』合評③より抜粋)


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