京橋・竹橋・銀座・町屋

昨夜も4時前まで起きていたが、9時半に起きる。山手線で東京駅へ。〈八重洲ブックセンター〉で、ナンシー関『小耳にはさもう ファイナル・カット』(朝日新聞社)を買う。『週刊朝日』の連載で、生前の単行本に収録されなかった部分(単行本でカットしたものと、亡くなる直前のもの)をまとめて一冊にしている。去年は、山口瞳池波正太郎も、こういう「お蔵だし」的な単行本が出た。同じ本を何度も再刊するよりは、まだ本になってない文章をうまく編集した新しい本のほうが、読者にとってはアリガタイ。他の作家でもドンドンやってくれ。


京橋のフィルムセンターまで歩く。「逝ける映画人を偲んで」特集。今日は、《与太郎戦記》(1969)を観る。春風亭柳昇の軍隊体験を綴った本が原作(この柳昇が亡くなったので、今回の特集に入った)。タイトルで、フランキー堺の名前が大きく出ただけで、あとは全員脇役扱いだった(フツー、押さえに誰か大物を客演させるものなのに)。しかも、落語家の名前ばっかり(顔を知っている落語家は金語楼ぐらいだから、誰が誰だか判らなかったけど)。こんなんで大丈夫かと思ったが、意外とオモシロイ。軍隊生活の描写が細かくて、こんなところに自分が入れられたら3日と持たないと思わされた。あと、フランキーが落語(というか小話)をやるのだが、なかなか所作がイイ。


終って、京橋から日本橋で乗り換え、竹橋へ。東京国立近代美術館に行くのだ。別件とはいえ、一日で同じ美術館の本館と分館(フィルムセンターのこと)に行くとは思わなかった。昨日ネットで見ていて、「河野鷹思のグラフィック・デザイン」展がすでにはじまっているコトに気づいたためだ。常設展の一スペースでの展示だから、量的には不満があるが、戦前・戦後の活動を一覧できるものではある。松竹時代のポスターは何度見てもイイし、西條八十主宰の雑誌『蝋人形』の表紙では、「ふふーん、ココに展示されてない号を持ってるもんねー」とひそかに悦に入る。今回、いちばんの収穫は、東京美術大学(現在の東京芸大)の課題として制作された、テーブルクロスの図案だ。奇抜な構図、とぼけたユーモア。そして何よりも、この時点でもう河野鷹思のイラストレーションのスタイルがかなりカタチになっていることに驚く。


2階の離れに、「アートライブラリ」があるのを知り、行ってみた。名前を書けば、誰でも入れる。ここ数年、全国で開かれた美術館の図録や、美術事典、書誌、美術雑誌などが開架されていた。閲覧席は数席しかないが、使いやすそうな図書室だ。いずれ使うコトにしよう。ギャラリーショップで、河野展の図録(1300円)と、東京国立近代美術館のニュース『現代の眼』(350円)を買う。後者には、臼田捷治・田中眞澄が河野鷹思について寄稿している。この二冊はセットで読みたい。また、竹橋から東西線に乗り、大手町で乗り換え、銀座へ。ハラが減ったので、いつもの〈泰明庵〉へ。空いている時間だ。かしわとじそばを食べる。あったまるねえ。


旭屋書店〉に寄ってから、〈紙百科〉まで歩く。ギャラリーの奥にある部屋で、開催中の「装幀研究者の個展 臼田捷治の魅せられたブックデザイン」に関連して、臼田さんと藤田三男さんのトークを聞く。なんかやたら若い女性が多かったけど、臼田さんの教え子? 藤田さんは河出書房の編集者で、「榛地和」という名前で装幀も多く手がけている。「私の装幀はパクリですから」と謙遜しつつ、編集者が一冊の本をまるごとディレクションすることの大切さを話されていた。ウッスー(愛称です)は、いつもの調子で、ほぼ聞き手に徹し、ときどき訥々と話していた。二人の座る場所を離したために、後ろからはほとんど顔が見えず、本を示しても何の本かさえ判らない(ああいうときは、ギャラリーの人がヨコに立ってサポートすべきだろう)。終ってすぐ、臼田さんがこっちにやって来て、藤田さんを紹介してくれる。藤田さんは、数年前から、ぼくの古巣であるゆまに書房の顧問をやられているのだ。「弟(ゆまにの営業部にいる)がいつもお世話になってます」と挨拶。お会いできてよかった。


まだ日が落ちてないので、西日暮里で千代田線へ乗り換えて、町屋へ。ガード脇の路上古本屋を覗く。筑摩書房の『現代日本文学全集』の「文学的回想集」と「現代文芸評論集」1〜3の巻が、一冊200円。重いけど、両方とも持ってると便利な資料なので、買う。あと、小林信彦『悪魔の下回り』(文藝春秋)が100円。まあ買わざるを得ない。〈ひげ一〉という店に入り、チューハイを飲む。創作料理っぽいメニューが多いが、まあまあウマイ。〈ブックセンター町屋〉(数だけは多い新古書店)で、『江戸川乱歩全短篇2』(ちくま文庫)、岩上安身『あらかじめ裏切られた革命』(講談社文庫)などを買う。ほかにマンガも買ったので、大荷物になってしまった。


ウチに帰り、さっき買った、小林まこと『1・2の三四郎2』第2〜6巻(講談社)を読む。2回目だな。そのあと、CD聴きながら、あれこれやってると、たちまち12時過ぎてしまう。一人でいると、夜が早いぜ。


【今日の郵便物】
★「彷書月刊」2月号
特集「お玉のイーゼル」 お玉とはラグーザ玉のコトなり。
★古書目録 みはる書房