2018年11月号掲載 毎日新聞夕刊報道グループ記者(当時)/藤原章生 記憶の中でも特によく覚えている光景がある。何度も思い出すたびに残像はより強くなり、元の型は多少変わるだろうが、忘れがたい記憶となっていく。 そんな中の一つにこんなものがある。 中米のグアテマラシティーの路上を歩いている自分の後ろ姿だ。幅3mほどの石畳の道の両脇で赤っぽい民族衣装を着た先住民の女性たちが花や陶器、腕輪などの工芸品を売っている。道はひどく混んでいて、その中を、青い薄手のジャンパーを着た自分がやや肩をいからせて歩いている。 ただ、それだけのなんの変哲もない記憶だ。25歳の夏のことで、安宿で寝入り端、その日の自分の…